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神様は嘘をつかない

作者:神森真昼
 今、この世界は『愛』に満ち溢れている―。
ステージ上で歌う真昼マヒルを見ながら、玲哉レイヤは強くそう思った。




 玲哉が真昼に出会ったのは半年前。この時、彼は30歳という節目を迎えると共に、人生最大というべき大災難に遭遇していた。

 離・婚・で・あ・る。

 思ってもみなかった永遠の愛のブレに、玲哉はすっかり女性不信なってしまっていた。後悔しても仕方ないのだが、曲がり角を曲がるように割り切れるほど、物分かりのいい人間でもない。玲哉は、前妻に未練がありつつも、忙しい毎日に身を投じて、時間が解決してくれるのを待っていた。そんなある日だった。朝のテレビニュースで、とんでもないスーパーが、玲哉の視線を釘づけにする。

『的中率は100%!どんなことでも言い当てられるキュートな占い師が登場!』

 的中率100%!?なわけあるかよ!と、玲哉は朝食のトーストを頬張りながら呆れた。しかし、そうは言いながらも気になってしまうのは、人間の性。アナウンサーが威勢のいい掛け声で、真昼を紹介され、ついついテレビに見入ってしまう。

「おはようございまーす♪本日はよろしくお願いしまーす♪」

 容姿、スタイル・・・どれをとっても、そこらへんのアイドルに負けず劣らずの美少女だ。玲哉も『キュートな占い師』というスーパーに偽りなしと、無意識に相槌を打つ。テレビでは、アナウンサーが真昼の実力を検証しようと、占いの依頼をはじめる。

「真昼さん、よろしければ僕の今後を見てもらえませんか?」
「いいですよ♪何がいいですか?お仕事系?恋愛系?」
「では、ええっと・・・お仕事系で!」
「はーい♪いいですよ♪・・・じゃあ、私の目をじーっと見て、一緒に唱えてもらえますか?」
「は、はい・・・!」

 真昼と向かい合うのに照れながらも、アナウンサーはじっと彼女を見つめる。真昼も、アナウンサーの目をじっと見つめながら、にわかに信じがたい呪文を唱え出す。

「では、いきますよ?・・・マヒルン、マヒルン、ルルルンパー♪」
「マヒルン、マヒルン、ルルルンパー??」

 ぶふっ!!思わず飲んでいたコーヒーを吹きそうになった。いや、ちょっと噴いたか。手で口元を拭いながらも、玲哉はテレビの続きを見る。

「はーい、見えましたよ♪」
「本当ですか!?」
「はーい!・・・生放送でお時間ないんで、単刀直入に申し上げますね。あなたは・・・近いうちに・・・。」

 真昼の溜めにアナウンサーが息を飲む。

「アナウンサーをクビになっちゃいまーす♪」
「ええええ!!?」

 衝撃の占い結果に、玲哉も一緒になって叫んだ。アナウンサーは、顔を引きつらせながら、動揺を隠せない。なぜなら、真昼の占いは今まで100%的中していると、局側で検証済み。真昼も、人気を左右する地上波でデタラメ占い師の汚名を着せられることは望んでないだろう。アナウンサーが青ざめるのは、もはや必然的だ。

「や、やめてくださいよ!クビって・・・!!」

 アナウンサーの焦り様に、真昼は自分が責められたと思い、涙ぐむ。

「うぅ・・・ごめんなさい・・・。真昼、本当のことを言っただけなんですけど・・・。」
「ああ!!泣かないで、真昼ちゃん!!・・・僕、クビにならないよう頑張っちゃおうかな!」

 慌ててフォローするアナウンサーだが、真昼はケロッと笑って、強気に言い返す。

「頑張っても無駄ですよ?絶対にクビになります。真昼の占いは100%当たるんです♪」

 とんでもない奴が現れた!!この占いが本当に当たったらすごいことになるぞ!!玲哉が興奮して、かじりつくようにテレビを見ていたが、画面の左端の時刻に気づく。時間は7時50分。玲哉がいつも家を出る時間だ。玲哉は、頭の中でテレビと出勤時間を天秤にかけながらも、思い切ってテレビを消し、家を出た。



 いつもの電車に飛び乗ると、玲哉はSNSアプリを立ち上げ、さっきの放送について検索した。やはり現在のトレンドは、『真昼』『占い師』『クビ』と・・・さっきの放送を彷彿させるキーワードが並び、ネットの民たちも大騒ぎだ。

『真昼、やっべええええええwww』
『的中100%で、あの予想はねえwww』
『でも、当たったらすごくないか!?』
『\(^o^)/\(^o^)/真昼神降臨か!?\(^o^)/\(^o^)/』

 確かに、当たったらやばいなあ・・・。神曲、神アプリ、神ゲームを差し押さえて、断トツの神に違いない。



 そして、ニュースの占い騒動から3か月後。真昼の予想はデマだったんじゃないか?近いうちっていつなんだ?とネットの民が騒ぎ出す頃、事態は起こった。真昼にクビ宣告されたアナウンサーが、不正献金騒動で懲戒解雇処分を食らったのだ。これには、ネットの民も敏感に反応し、真昼を讃えた。

『真昼ちゃん、すっげええええええwww』
『俺も占ってほしい!!つか、いくら!?』
『バカww お前みたいな自宅警備員占うかよww』
『マヒルン、マヒルン、ルルルンパー♪』
『\(^o^)/\(^o^)/【やはり】真昼神降臨【神だった】\(^o^)/\(^o^)/』

 真昼、やべー・・・真昼、やべーよ!!占いが当たったのをキッカケに、玲哉はすっかり真昼に夢中になった。



 その後、真昼は瞬く間に売れていき、様々なメディアで引っ張りだこ。もちろん、占ったものは的中率100%。さらに、抜群の容姿とスタイルでドラマにも出演し、「マヒルン、マヒルン、ルルルンパー♪」は流行語大賞にノミネートされた。また、バラエティや報道番組に出演すれば、大人顔負けの論述を展開するため、シニア層にもファンを拡大している。最近では、政界進出の噂もあるとか、ないとか・・・まさに飛ぶ鳥を落とす勢いである。





 そして、半年経った今、玲哉はすっかり真昼に心酔し、こうしてライブ会場まで足を運んでしまっているというわけだ。歌が終わると真昼はMCとなって、観客に問いかける。お約束のやり取りだ。

「マヒルン、マヒルン?」
「ルルルンパー!!!」

 玲哉は、真昼のライブ会場で彼女の名言である『ルルルンパー!』を叫んだ。今までのアイドルとは違う・・・彼女は神なのだ!この世が生んだ奇跡なのだ!!玲哉、そして同じライブ会場にいる観客たちが皆そう思っていた。

「ありがとー♪私も、みんなのことが大好きだよー♪」
「うわああああああああ、真昼ちゃーーーーん!!!」
「そんな大好きな皆さんに、今日はご報告がありまーす♪」
「いっ、せーの・・・なんですかー!?」
「実は・・・真昼、こんなもの作っちゃいました!!!」

そう言って、真昼が手を掲げ見せたのは、ピンクのハート型のお守りだった。

「マジカルグッズ!今日は、皆さん全員にこれをプレゼントしちゃいまーす♪真昼の愛が、いーっぱい詰まってるからね♪」
「sれdtりゅぎうひじょksれtdryつyほいjぽk!!!!!」
「ふふっ!もう、興奮しすぎて何言ってるか聞こえないぞ♪」
「rdytfygぅひじょkrtふykぐhぃじょけうyふお!!!!」
「このマジカルグッズはね、大好きな人に渡してほしいの!」
「真昼ちゃんに渡すー!!!」
「ふふっ!ありがと♪でも、だめー!真昼以外の大好きな人に渡してね♪・・・で、その好きな人は絶対にあなたのことを好きになってくれまーす♪大事なことなんでもう一度言いますね♪絶対に好きになってくれまーーす♪」
「ええええええええええええええ!?」
「え、なんでそんなに驚くの?もしかして、真昼の言うこと、信じてくれないの??」
「信じるーーーー!!!!」
「そうだよね♪ありがとー♪真昼、みんなのこと、だーーーいすき♪」
「うわああああああああああああぁぁ、真昼ちゃーーーん!!」

 観客に混じり、玲哉も一緒になって叫んでいた。普通に聞いたら、渡しただけで相手が好きになるグッズなんて誰も信じないだろう。でも、玲哉たち観客は真昼を信じてやまない。なぜなら、真昼の言葉は今まで100%的中している。その真昼が『マジカルグッズを渡せば、好きな人が絶対に落ちる』と言えば・・・絶対なのだ。

 玲哉には、その言葉がまるで救いの手を差し伸べられているかのようであった。妻に逃げられ、女性不信になっていたが、マジカルグッズさえあれば絶対にフラれはしないのだ。

 裏切られなくていい、傷つかなくていい・・・こんなに穏やかな世界が、他のどこにあるというのだろう・・・。



 数か月後。玲哉は、マジカルグッズを渡して意中の女性と付き合いはじめた。俺の辞書に失敗はない。なぜなら、俺には真昼神様がついているからな!・・・この頃にはもう玲哉は、すっかり真昼の信者と化していた。

 失敗がないと信じている玲哉は、結婚に迷うこともないわけで・・・ある日、玲哉が結婚式場のパンフレットを自宅のソファで眺めていると、玲哉の友人の清彦キヨヒコが訪ねてきた。玲哉と清彦は、高校時代からの固い絆で結ばれた親友同士でもある。


「玲哉!俺、結婚するー!!」
「ファ!?」

 清彦のいきなりの結婚宣言に、玲哉は声が裏返った。

「ほら見てよー。俺には勿体ないぐらいの美人だろー?」
「・・・・。」

 玲哉が、清彦のスマホを見ると、モデル並みの美人が移っていた。!!・・・清彦、マジか!!

「すっげーな!!どうやって付き合ったんだよ!?」
「ふふん!ここだけの話、真昼のマジカルグッズ50個渡したんだよー」
「!!?・・・」

 マジカルグッズを50個も!?玲哉は、驚きを隠せなかった。なぜなら、マジカルグッズは初回こそは無料でくれたものの、2個目からは有料で買えば買うほど高くなっていくのだ。玲哉は1つ課金したら歯止めがきかなくなりそうで、あえて2個目以降に手を付けないようにしていた。・・・ということは、清彦はけっこうな額のお金をマジカルグッズに投資したことになる。

「200万で美人の奥さんを永遠に手に入れられるなら安いもんよー」
「!?・・・あ、ああ・・・そうだな・・・」

 玲哉は、必死で笑顔を作っていたが、内心ボロボロだった。親友が200万を結婚資金に注ぎ込んだからではない。なぜ自分は競争率の低い女性にマジカルグッズを渡してしまったのだろうという後悔を拭えないのだ。清彦の言う通りかもしれない。浮かれている清彦を無視して、玲哉は一人考え込む。200万で競争率が高い且つ自分を愛してくれる女性が存在するなら、それに越したことはないのだ。



 清彦が帰った後も、ベッドで横になりながら玲哉は考え事に耽った。今の彼女と付き合い続けるか、別れるか・・・だ。結婚してない今、振ったとしても彼女の精神的な傷は浅い。結婚した後で、好きな人に逃げられたとなれば、傷が深い・・・そのことは玲哉自身が身をもって証明している。振るなら早い方がいい、一刻も早く・・・。玲哉が答えを出すのに、さほど時間は要しなかった。



 3日後。玲哉は、彼女と別れ話をするためにカフェへ呼び出した。すると、意外なことに彼女も話があると言ってきた。彼女は俯きながら、申し訳なさそうに告げる。

「玲哉さん・・・ごめんなさい・・・」
「ん?」
「実は、玲哉さんとお別れしなければならなくなってしまったの・・・」
「なにっ!?」

 こっちから振る気満々の玲哉だったが、彼女から切り出され狼狽える。

「えっとね・・・一緒の会社に勤めている和志ワシさんからマジカルグッズを2個もらっちゃって・・・」
「!!?・・・」

 それは、玲哉にとって思わぬ誤算だった。マジカルグッズは、渡す人が被った場合、より多くのマジカルグッズを提示した人を好きになることも玲哉は熟知していた。ただ・・・自分の選んだ相手にまさかマジカルグッズを渡す相手が出てくるとは、夢にも思ってなかったのだ。

「だから、一緒にはいられない・・・今までありがとう、玲哉さん」

 彼女はそう言って、玲哉のあげたマジカルグッズを置いて、カフェを出て行った。昨日まで、美人の女と結婚したいと思っていた自分が愚かすぎて泣ける。競争率の低いと思っていた女さえ、フラれるご時世なのだ・・・清彦の連れていた競争率の高い女性は、それだけ失うリスクも多いのと考えるべきだったのだ。

 玲哉は、裏切られることのない、失敗することのない、穏やかな世界が手に入ったのだと思っていたが、それは大きな誤解だったのだと気づく。皆が皆、好きな人と付き合えるということは、皆が皆、略奪愛ができるという仕組みになぜ気づかなかったのだろう・・・。

 ふと、彼の頭の中に聞きなれた言葉がよぎる。

『マヒルン、マヒルン、ルルルンパ~♪』

 真昼――――――!!!!玲哉は、彼女を失った衝動で思わず机を叩いた。元をたどれば、あの女のせいだ!!あの女が、マジカルグッズなどとほざかなければ!!

 玲哉は憤りながらも、同じような境遇をした人はいないかと、久しぶりにSNSアプリを起動した。

『マジカルグッズ求む!1個5万から受付します!』
『この前、マジカルグッズで美女5人寝取ったったwww』
『真昼様真昼様仏様真昼様真昼様神様真昼様真昼様真昼様真昼様!!!』
『マジカルグッズがクソとか言ってる奴出て来いよ!俺が処刑してやるw』
『アンチを滅ぼせ!!マヒルン、マヒルン、ルルルンパー♪』
『\(^o^)/\(^o^)/【神様】真昼神万歳【アイドル】\(^o^)/\(^o^)/』
『昨夜未明、○○区の路上で殺傷事件が発生しました。現行犯逮捕された男によると「真昼様を冒涜する発言をしていた。これは殺人ではない。神の審判だ」と述べ、未だ容疑を否認しております』

 ネットの民も玲哉と同じように信者化しており、批判的な発言をすればタダじゃ済まされなさそうだ。俺だけなのか?この世界が狂ってると思うのは、俺だけなのか!!?玲哉は藁にも縋る思いで、裏サイトにアクセスし、同じように真昼に反感を抱いた奴らがいないか探す。すると・・・表社会の信者に比べれば極わずかだが、やはり反感を抱く者は存在していた。

『真昼のせいで社会が狂った。俺の人生も狂った。あの魔女を始末せねばならない』
『マジカルグッズ被害者です。長年連れ添った妻が、突然見知らぬ男からマジカルグッズをもらったので、離婚しますと言って出て行きました。真昼のやっていることは、社会全体を脅かす大規模なテロ行為です。私は、絶対に真昼を許さない!!』

 探せばいるものだな。玲哉は早速、裏サイトの運営者に連絡し、メンバーに入れてもらうことにした。



 数ヵ月後。玲哉は、裏サイトで知り合ったメンバーたちと真昼暗殺を企て、実行することになった。まず、裏サイトのメンバーの一人が、真昼が出演するTV局のスタッフを装い、送迎車と偽って真昼を誘拐する。その後、車を走らせ、深夜の人気のない港で殺害し、海に沈めるという作戦だ。
 玲哉は、その作戦で車の運転を引き受けることに、また、TV局のスタッフに扮する役を殿仁トノヒトという裏サイトメンバーが担当することになった。



 作戦開始後。作戦は上手くことを運び、真昼はまんまと送迎車に乗った。この女、100%言い当てられるくせに、自分の死を予知できなかったのか?所詮は、神でもなんでもなく、セルフプロデュースに特化しすぎた女なのかもしれん。玲哉は、バッグミラー越しに観察しながら、若くして死んでしまう彼女にやや同情していた。俯いて、憂いさえ感じる真昼の表情。元信者の玲哉としては、今から振るおうとしている無慈悲な仕返しに気持ちが揺らぐ。いや、これは俺だけのためではない・・・世界のために彼女を始末しなければいけないんだ!!玲哉は強い決意と共に、バックミラー越しに強く真昼を睨みつけると、彼女はそれを察したのか、顔を上げて不吉に微笑みながら言う。

「真昼の作った世界は、気に入らなかったですかあ~?」
「!!!?・・・」

 動揺しすぎて、玲哉のハンドルさばきがブレた。まさか・・・真昼は俺たちの行動を予知できていながら、車に乗り込んだというのか!?ハンドルを持つ玲哉の手が震える。また、殿仁もすっかり動揺してしまい、聞き返すも声が震えていた。

「な、な、な、なんのことでしょう?」

 いくらなんでも動揺しすぎだ、殿仁!!落ち着け、落ち着けよ!!相手は神様じゃない、ただの女の子だ!!そう言い聞かせて落ち着こうとしている自分が、一番落ち着いていないことを玲哉は気づていない。

「とぼけても無駄ですよ?私には、見えるんです♪あなたたちがしようとしていることが、何もかもすべて・・・」
「!!?・・・」

 背後に真昼がいて、しかもその真昼が自分たちの計画を見抜いている。玲哉は、真昼の威圧で気が気じゃない。こんなんじゃ、すぐに悟られてしまう・・・!!落ち着くんだ!!玲哉は信号待ちの時間を使って、ダッシュボードに置いてあったタバコを取り、震える手で火をつけた。

「ふっ、ふっ、ふーー・・・!!」

 どこの妊婦だと突っ込みたくなるぐらいに、玲哉は、タバコの煙を吹きだすさえも動揺を隠せていなかった。そして、タバコの灰が落ちているのにも気づかず、玲哉の着ていたポロシャツのヘソ部分が焼け焦げる。しかし、それさえも気づかないほど、玲哉は真昼に怯えていた。

 とにかく前だけを見るようにしよう・・・後ろのことを気にしたら、それこそ真昼の思うツボだ!青信号になり、玲哉はバックミラーを絶対に見ないと心に決め、車を走らせる。だが、さすがに耳を塞ぐことは叶わない。後ろの会話を気になってしまう心が、自然と玲哉の聴覚を研ぎ澄ませる。

「本当のこと・・・話してくださらないのですね・・・。分かりました。・・・なら、これ受け取ってくれますか?」
「え?」
「マジカルグッズGです♪ネーミングも、見た目もそのまんまなんですけど、マジカルグッズのグレート版です♪このマジカルグッズGは、マジカルグッズの5倍の効力を秘めています♪これを見たあなたは、真昼を絶対に好きになるんです♪」
「なっ!!?」

 玲哉は、殿仁に訴えかけるように、そして、自分の精神を落ち着かすために叫ぶ。

「う、う、嘘だーーー!!!」

 玲哉の渾身の叫びも、真昼の間延びしたしゃべり方に打ち消される。

「もー!嘘じゃないですよー!真昼は、100%嘘をつかないんですー!」

 殿仁は、怯えながら一心不乱に首を振る。信じたくはない、けど今までことを考えれば信じずにはいられないのだ。

「そんなこと・・・ぼ、僕は・・・信じない!!」

 すると、真昼は呆れたように息を吐き、マジカルグッズGを顔の横に並べ、ニコッと笑いながら続ける。

「そうおっしゃるなら、マジカルグッズGをよく見てください。そして、あなた自身で証明してください。私が嘘つきで、マジカルグッズに効果がないということを!」

 真昼のマジカルグッズGの封を破る音が、玲哉にも聞こえた。マジカルグッズは、封を切って相手に見せないと効果がないのだ。ここから数分、玲哉にも生きた心地のしない沈黙が続く。真昼と殿仁の攻防が続いていると、玲哉は耳だけで察し、このまま沈黙を保ち、港についてくれと願った。

 しかし、そんな願いを跳ね除けるように、赤信号で止まった先で、車内がガタッと揺れた。玲哉は、反射的にバックミラーを見そうになったが、思いとどまり、またもや聴覚だけが異様に研ぎ澄まされていく。

「んんっ・・・殿仁さん・・・」

 色っぽい真昼の声だ。玲哉の頭は混乱した。彼の想像のつく限り、この音は・・・キス?真昼は、殿仁にキスしてるのか・・・!?心の中がざわざわしていると、真昼が話し出す。

「殿仁さんのことが大好きなんです。殿仁さんも、私のこと大好きでいてくれますか?」

 しかし、殿仁からの返事は一向にない。なぜ否定しない!玲哉は、殿仁の迷いを振り切ろうと叫ぶ。

「殿仁!!!!騙されるな!!!!」

 しかし、彼の声は届かない。真昼は、玲哉の叫び声に気を留めることなく、殿仁の目を見てつぶやく。

「マヒルン、マヒルン?」
「・・・・・・・・。・・・ルルルンパー♪」

 洗・脳・さ・れ・や・が・っ・た!!!!!玲哉の口が引きつり、無意識にタバコが落ちる。

「わーい♪わーい♪ありがとう♪真昼、殿仁さんのこと、ずっとずーっと大好きだよ♡」
「ふふっ・・・僕もだよ、真昼ちゃん」

 こんなはずじゃなかったのに・・・!!玲哉は、かろうじて車を運転させながらも、殿仁の正気を取り戻そうと尽力する。

「正気か、殿仁!?騙されたフリだよな、そうだよな!!?」
「ごめん、玲哉さん・・・裏切ってごめん。」
「なっ!!?」

 嘘だ!!!お、俺は信じないぞ!!殿仁が、裏切ったフリをしているほうに賭ける!!玲哉の自己防衛本能が、殿仁の寝返りを許さない。

「大丈夫です♪玲哉さんも、必ずあなたの味方になってくれますから。・・・ほら、玲哉さんも、マヒルン、マヒルン?」
「!!?・・・」

 姿を見なくても、声だけで戦慄が走った。衝動的に信者の性で、「ルルルンパー!!」と叫びそうになったが、玲哉はグッと堪える。返事をしたら終わりだ。終わりなんだ!!!!
 その後、玲哉は終始、頭の中で『無視無視無視無視』と唱え、真昼の付けこむ隙を与えないように努め、真昼はそんな彼をニコニコして見ていた。まるで、観劇を楽しむかのように・・・。



 港に着いたのは深夜。玲哉たちの作戦通りだった。ただ、殺される側が真昼ではなく、玲哉になっていること以外を除いては・・・。
 玲哉は、ここに至るまで殿仁が騙されたフリをしているのだと信じ込もうとしていたが、殿仁に拳銃を突き付けられ、自分を騙せないことに気づく。彼はフリではなく、本当に洗脳されているという事実だ。もう逃げられないし、逆らえない。改めて、彼女が神なんだと思い知らされる。

「玲哉さん・・・私、危ないことは嫌いなんです」

 なら、拳銃を突きつけている信者を止めろ!!玲哉は憤りそうになったが、それも真昼の策略なのだと思い、堪えた。

「なので、玲哉さんにはマジカルグッズGよりもさらに強力なマジカルグッズHをお渡しします」
「!!?・・・」

 G(グレート)の次は、Hハイパーだと!?ふざけやがって・・・!!そう言い聞かせるが、玲哉の身体は震えている。

「マジカルグッズHは、Gよりもさらに強力です」

 どうせ、Gの5倍だろ?分かってる!!今まで、『無視無視無視』と心の中で唱え続けていた玲哉だったが、そのことをすっかり忘れ、真昼の問答に答えてる自身に気づいていない。それほどまでに、真昼の能力は絶大なのだ。

「マジカルグッズHは、渡すだけで絶対に対象者を好きにさせます。また、その後からの対象者に、マジカルグッズをいくら積み上げて渡したとしても、対象者の心は変わりません」
「じゃあ、マジカルグッズHを積み上げて渡したら?」
「それはできません。マジカルグッズHは、この世に一つしか存在しませんから」
「!!?・・・」

 つまり、マジカルグッズHがあれば、絶対的な愛が手に入るということか・・・。!!・・・。いや、これも真昼の口車だ。玲哉の心は、かき乱されていく。

「このマジカルグッズHを玲哉さん、あなたに差し上げます。どうかこれで、次は永遠の愛を手に入れてください」
「!!?・・・」

 真昼はそう言って、満面の笑みを浮かべた。俺がバツイチだということも知った上で、この取引を・・・!!そう・・・玲哉のすべては、真昼に見抜かれているのだ。そして、彼女の言っていることは100%的中する・・・そんな彼女が「マジカルグッズHで、永遠の愛が手に入る」と言えば、絶対なのだ!!

 欲しい・・・欲しい欲しい欲しい欲しい!!!! これさえあれば、俺は幸せになれるんだ!!絶対に!!

 醜い欲望が溢れ出し、玲哉は、真昼の持っているマジカルグッズHに手を伸ばす。すると、玲哉の危険察知感覚が刺激され、突然昔のことを思い出す。それは玲哉が、かつて結婚式を挙げた時の控室で、前妻に言われた言葉だ。

『玲哉君、結婚してくれてありがとう。愛されるってこういうことを言うのかな?・・・ふふっ、なんだか照れくさいね』

 そもそも、愛ってなんなんだ・・・。愛が分からないのに、永遠の愛を手に入れようとしている俺って一体何なんだ!?玲哉は、愛について深く考えすぎて、ゲシュタルト崩壊に陥ってしまった。人を洗脳させてまで、自分に好意を向けさせ、つなぎとめるのが愛だと言えるのか?離婚という形もまた・・・相手がそうしたいという気持ちを尊重した愛とは言えないのか?何してるんだ、俺・・・どうしたいんだ、俺!!

「うわあああああああああああぁぁ!!!」
「!!?」

 玲哉は、真昼の手からマジカルグッズHを奪い取り、その瞬間地面に投げ捨て、自身の右足で何度も何度も踏みつぶした。そして、彼は言う。

「永遠の愛なんかいらない!!俺はこんなものに頼らなくても、永遠の愛を持っている!!マジカルグッズGだかHだか知らないが、こんなモノに魂を売ってまで、手に入る永遠の愛こそ、永遠の愛ではないんだ!!!」

 マジカルグッズHを粉々に破壊し、どうだ!、と言わんばかりに玲哉が前を向くと、そこに真昼の姿はなかった。



 それからというもの、真昼がメディアに出てくることはなかった。いなくなった直後は、メディアも『神様アイドル、謎の失踪』と題し、度々取り上げていたが、次第に収束の一途をたどる。そして、かつては真昼の信者と化していたネットの民たちも、思わぬ真昼ロストに、二分化していた。

『真昼様、カムバーーーック!!!(ノД`)・゜・。』
『マジカルグッズの利益持って、逃亡したんだろwwwアンチどんどん過激になってたしなw』
『真昼様は、統治を終えてあるべき場所へ帰られたのです』
『俺の気のせいか?マジカルグッズの効果がないような・・・』
『真昼様が死んじゃったから、マジカルグッズの効能も消えたんだよ!!』
『(;O;) (;O;) (;O;) 【悲報】さらば真昼神【また会う日まで】(;O;) (;O;) (;O;)』

 この真昼事件を評論家たちは『世界規模のマインドコントロール』だと語る。真昼は、自分の占いが100%あたるというセルフプロデュースを行い、人々にその絶対さを知らしめてきた。特に占いには、コールドリーディングという外観を観察したり何気ない会話を交わしたりするだけで相手のことを言い当て、相手に「わたしはあなたよりもあなたのことをよく知っている」と信じさせる話術が存在する。評論家たちは、このコールドリーディングの使い方に特化していたのが真昼だったと分析する。

 また、マジカルグッズと呼ばれる媚薬的要素を担った商品については、真昼が自分の言うことが絶対だと世間に信じ込ませた上で、販売している点から、マジカルグッズ自体には特別な効果はなく、世間が真昼に洗脳され、あたかも『マジカルグッズをもらったらその人を好きにならなければならない』という一種の脅迫概念によって効果がもたらされたのではないかと結論づけた。

・・・とはいえ、真昼事件は後世に語り継がれる歴史となりそうだ。




 そして、世間では真昼事件から、新しい考え方が生まれようとしていた。

『ネガティブな出来事を一掃してはいけない。ネガティブな出来事があるからこそ、人は強く、美しくなれる』

 情報化社会は、人と人との関わりなく生きられる世界。それ故に、傷つくことを知らずに育った人たちは、大人になってからも傷つきたくない、裏切られたくないと怯え、また、傷つくことを知らない者は、痛みを想像できないため、他人の痛みに思いやりがない。自尊心ばかりが強くなり、人を許せなくなっていく・・・

 そんな社会につけ込んだのが真昼だったとしたなら、つけ入れられてしまうこの社会の在り方にも問題があったのではないだろうか。そう分析するは、『マジカルグッズは、僕たちの弱い心を具現化したもの』の著者、玲哉だ。

 この日、玲哉は街の大型書店でサイン会を行っていた。玲哉は、おそらく真昼に最後に会ったであろう男・・・その男の体験談が綴られた書籍だということでたちまち話題になっていた。

「玲哉さん、お会いできて光栄です!これからも頑張ってください!」
「ありがとうございます。でも、俺は本を書くのは苦手なんで、これが最初で最後になりそうです」

 まさか自分が本を出す機会に恵まれ、サインをする立場にあろうとは・・・。玲哉は幸せを噛みしめながら、本の背表紙にサインする。しかし、誰もが好意的ともいうわけでもない。

「自分が最後に真昼様に会ったなんて、よくそんなおこがましいことが言えますね!印税目当てですか!?目立ちたいんですか!?」

 警備員に捕まれながらも、玲哉に必死に食らいつく。真昼の信者だった。でも、玲哉には彼の気持ちも分かる。なぜなら、玲哉自身も元信者なのだ。

「君みたいな方に是非読んでほしい一冊です。並んでくれてありがとう」

 玲哉は、真昼の信者に笑って応え、見送った。ネガティブなことを一掃してはいけない・・・マジカルグッズではなく、人の心で感情を動かしたい・・・彼の誠意あふれる対応だった。
 また、こんな質問を投げかける人もいた。

「玲哉先生は、真昼が生きてると思いますか?」

思わぬ書籍購入者からの質問に、玲哉は驚く。しかし、彼は笑って応える。

「生きてると思いますね。それで、俺たちの心が弱くなったら、またつけ込みに出てくると思います」
「そう思う根拠は?」
「いやはや・・・ここから話すことは俺の妄想なんですがね・・・彼女の名前は真昼。これだけ社会を混乱させておいてもなお、太陽のような存在に思えてならないんですよね」

 元信者らしい・・・そして、彼らしい言葉だった。真昼が、『真昼』と名乗っていたのは、この世に強い光を当て、逃げ隠れする闇を浮き彫りにしたかったのかもしれない。しかし、質問した人は玲哉の回答に憤り、本を叩きつけた。

「ガチの妄想ですね!びっくりしました!本いらないです!」
「!!?・・・」

 ネガティブなことを一掃してはならない。そう本にも書いた玲哉だったが、時には一掃したいという気持ちに駆られるときもある。それが心の弱さであり、また、それを乗り越えていくのが心の強さなのだろう。

 人間誰しも生きてれば、不安があり、迷いがある。

 だからこそ、愛して、愛して、愛し抜こうじゃないか。

 矛盾だらけの欲深い自分と、愛と欲にまみれて醜い・・・こんな素晴らしき世界を♪

(終)
内輪で盛り上がるためのネタ小説として書いたのですが、内容が気に入ったので、こちらに投稿させていただきました。楽しんでもらえたなら幸いです。

ここまで読んでいただきありがとうございました♪

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