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雪の季節 作者:因幡雄介
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 雪江が行方不明になって、三年たった冬。
 小学校高学年となった小春が、元気よく石の階段を上っている。ダッフルコートに、ジーンズ、ブーツと、かわいらしい格好をしていた。十代らしいエネルギッシュさを遺憾なく発揮し、階段をかけ上がり、
「お父さん! 早く早く!」
 上がり終えると、クルリと振り向き、父親を呼んだ。
 三歳になった小雪を肩車し、ゆっくり階段を上がっていると、
「おとーしゃん、はやくぅー」
「はいはい。わかったわかった」
 舌足らずの口調がかわいくて、ヘラヘラ笑ってしまった。
 小雪は冬物のキッズ服に、ニット帽をかぶっている。
 到着すると、巨大なブナの木が待っていた。
「…………」
 太い枝を見上げる。三メートルほどある高さの枝に、雪江が座っていた。つい涙が出そうになる。
「お供えして帰るか。雪が降るようだからな」
 悲しさをごまかすため、ポケットからお供え用のまんじゅうを取り出す。
 黒のダウンジャケットの肩に雪が降ってきた。フワリとした、柔らかな雪だ。
「お父さん。雪をながめてから帰ろうよ」
 手のひらで雪を受けとめ、遠くの景色を見つめる小春。
「そうだな」
 小春に言われ、小雪を抱くと、神木の太い枝に座った。太ももの上に、小雪を乗せる。体重は十キログラム増えたが、重いとは思わなかった。
「おとーしゃん。おかーしゃんって、どんなひと?」
 小雪は雪を見るたびに、母親のことを聞いてきた。
「そうだなぁ」
 雪をながめた。
 小春が寂しそうに、手のなかで溶けていく雪を見つめている。
 小雪は小さな手を動かし、一つ、雪をつかむことができた。目の近くまで持っていき、凝視する。美しい六花の結晶は、いつまでも見られていたいのか、なかなか溶けなかった。
「雪のように――きれいな人だったよ」
 小雪のちっこい手を、そっとにぎった。
 小春が突然歌い出した。童謡『雪やこんこ』だった。小雪も舌足らずながら、お姉ちゃんのまねをして歌い出す。
 春永も一緒に歌った。歌い終えると、どこからか、暖かい風がふいてきた。
「お父さん下手。ふふっ」
 小春がクスクスと、大人びた笑顔を向ける。
「おとーしゃん。へたー」
 小雪も両手を上げて笑った。
 ふたりの娘は妻の笑顔にそっくりだった。一瞬、顔をゆがめたが、無理やり笑ってみせる。
 ――雪江。私たち家族は、この季節になると、必ず君のことを思い出すよ。
 白い雪が降り積もるなか、ブナの木の枝がミシリと鳴った。驚いて見上げるが誰もいない。なぜかわからないけど、心から笑えていた。



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