Sense9
俺は、非戦闘エリアで必死に石を研磨していた。拾った石の半分はただの石だったが。残りの半分は、価値のあるものだった事が判明。
ただ拾った石の中に鉄鉱石が二十個あったが、それは炉が無いとインゴット化できない。さらにアクセサリーを作るにはインゴットからでなくては作れないようだ。
だから今は、細工のレベル上げのために、研磨セットで石を磨いている。
ガリガリガリ……と静かな森に響く。うっすらと削れば、表面から綺麗な宝石が見える。そのまま削ると拳大だった石が三センチ程度の宝石になった。その名も、ペリドットの原石(中)。
この近辺は、ペリドットしか採取できないようだ。どれを削ってもペリドットしかでない。
他の地域も探せば、宝石の原石があるかもしれない。いや、町で石を売っている人を探して買い取った方が良いかな? いや、そもそも石売る人っているのかな? いないよな。
てか、金欠だから無理だ。金策巡らすにも金が必要なんて世知辛い。
「つまり、俺は地道に削るしかないってことか」
まあ、細工センスのスキル≪研磨≫を使えば一瞬で加工できるが、ペリドットの原石(小)になってしまう。普通は、小さくなれば価値も下がる。そしてスキルで研磨をすると研磨失敗で割れる可能性も高くなる。
センスレベルが低ければなおのこと。
だから、俺は十数個の原石を一つ一つ丁寧に研磨している。まあ研磨しても、割れるものはある。そういう場合、それは石ころ以下の石クズとなってしまう。ちなみに、生産失敗扱いだ。
そうして研磨すること三時間。全部の石を研磨し終えた結果は、ペリドットの原石(中)三個、(小)七個。残りは全てご臨終しました。
これ以上の研磨をして宝石として整えるには、よりグレードの高い研磨セットを買わなければいけない。
だが研磨のお陰で、細工センスは5、生産の心得も5になっていた。
センスは、どれも低いが俺はマイペースで進んでいくつもりだし、全然焦っていない。
今日からは、夜の森でも採取や狩りをしよう。夜なら鷹の目の成長は早いし、この森のMOBに今まで出会ったことが無いからそのMOBからの素材も欲しい。
その前に合成と錬金で検証したい事がある。
手元にある鉄鉱石。これを炉を介さずにインゴットに出来るかもしれない。
錬金による上位物質変換を利用して鉄鉱石をインゴットに変える方法。
炉はないためにインゴットを持つ意味はないのだが、インゴットに出来る可能性は無視できない。それに足りなければまた石を拾えばいいだけだ。
そうして俺は、手元にある鉄鉱石を全て、錬金によって変化をさせる。
「鉄鉱石×20に【錬金】!」
一瞬の白い光を発したあと出来上がったのは予想外のものだった。
上質な鉄鉱石。
読んで字のごとく、鉄鉱石だろう。上質の。それが二つ。アイテム変換率は変わっていないようだが、どうして上質になったのか。やはりインゴット化は、鍛冶や細工などの金属を扱う人の専売特許なのかもしれない。この鉄鉱石はマギさんに見せて相談しよう。
続いての実験は、手元のただの石ころだ。
これを合成に使えないだろうか? 今ある使えそうなアイテムは、木の矢、毛皮、宝石、骨、枝、鳥の羽根など。
イメージでしかないが、矢のレベルを木の矢から石の矢へとグレードを上げる事が出来るかもしれない。
矢一本と石一個で合成を試す。
光が立ち込めて、出来上がるのは、確かに石の矢じりの付いた矢だ。この理論が正しければ、石を鉄や銀に変えれば、それだけ矢のグレードを上げる事が出来る。使い捨てでコストは掛かりそうだが、石の矢程度なら、コストと攻撃力の兼ね合いから妥協ができるかもしれない。そもそも最初からある鉄の矢よりも下のグレードが存在している時点で、弓は不遇だと分かる。最初から他の消耗品よりもグレードが高いのだから。
「さて、量産、量産っと」
俺は気を良くして、≪レシピ≫から石の矢を作ろうとしたが、出来なかった。合成すらできない。
レシピには、木の枝、鳥の羽根、そして石の三つ。しかし、現在そのレシピは使えないようだ。
「何で使えないんだよ。三つ……あっ、初心者キットって二つまでしか合成できないのか」
確か、シートの上の魔法陣とアイテムを設置する箇所は二か所。つまり、より上位のキットを購入しないと≪レシピ≫からの合成ができないのだ。
「うわぁぁぁ、また出費が! ええい、面倒だが、木の矢経由でもアイテムが作れることが分かったんだ。ジャンジャン、合成するぞ!」
木の矢は、石の矢一セットに変わった。木の矢の増産をしたので、木の矢二セットと石の矢一セット。十分な量確保できた。
「しかし、矢が使い捨てって本当にもったいないよな。弓使いがそのうちミスリル製の矢とか使い捨てるのって忍びないだろ。これって強度が足りないんだよな。合成する木の枝を木材にすればいいのか? でも、木材って高かったんだよな。弓とか杖つくるから」
一人ごちる。どうしても納得できない。
「もしかして、さっきの鉄鉱石みたく、素材は変わらずに矢が上質化するかも」
物は試しだ、木の矢を一セット丸々錬金する。
矢の束は光に包まれ、三本の矢になった時は、俺の労力がなんだ! と叫びたくなったのを我慢して、アイテムを確認する。
木の矢+10
この表記は何だ? 攻撃力が上昇しているなら使い捨てでも嬉しいが、試しに矢を射ってみる。基本的な動作を意識しながら、弓を引き絞り、放つ。いつもと変わらない矢。
的にした木に刺さったのを確認した。別に攻撃力が上がって無さそう。
近づいてしげしげと確認している間に、弓矢が消えた。
「はぁ~。また使い捨てか。弓って本当に使い辛いな」
そうぼやきながら、手持ちの矢が三本になっている。あれ? 一本消えて二本のはず。そして、その中の一本の表記が+9になっている。
まさかと思いつつ、一本手に取り、同じように射る。そして消えた矢は、戻ってくる。そして減る数字。
「弓使いキタァァァァ!」
これは大発見だ。弓使いのコスパの悪さ! そして詰め替えの手間が減らせる! うおおおっ、これは勝てる。と思ったが鉄の矢に換算しよう。
鉄の矢+10を一セット用意するのに、必要な本数は、300本。Gに換算したら300G。初心者には辛い上に、錬金センスがなきゃ作れない! 仮に別のセンスで作れても、わざわざ使い捨ての矢を強化する人は殆どいないだろう。
いたとしても供給は少量。
つまり――
「相変わらず、弓使いって不遇かよ。周囲の生産職の人のサポート無しじゃまともに戦えないだろ」
まあ、俺は自作できるから良いし、自分のセンス上げになるから良いけど。それに、一つ弓センスの隠れた能力が判明した。
矢の帰還能力だ。わざわざ回収しなくて良いし、これは魔法の追尾効果や剣士のモーションアシストとかの部類だと思う。これがあるだけでもありがたい。
まさに、ファンタジーだ。
「うん。これが分かれば、長期戦で詰め替えとかしなくていいな。弓使い極めてみるのも面白いかもしれんな」
森の中、一人。にやりとほくそ笑んでいた。
最後にセンスのステータスを見て、俺はログアウトした。
所持SP1
【弓Lv7】【鷹の目Lv13】【魔法才能Lv9】【魔力Lv10】【錬金Lv4】【付加Lv8】【合成Lv6】【調合Lv6】【細工LV5】【生産の心得Lv5】
控え
【調教Lv1】
改稿・完了