Sense88
番外編その2
「そうだ。今日は、少し遠出するけど、一緒に行くか?」
「はぁ?」
学校のお昼。俺が弁当を食べながら巧と話していると、突然そんな事を言われた。
巧が遠出なんてよっぽどの事だ。そして、出かける前後は必ず事前準備に予断のない巧が思い立ったように言うってことは、OSOのことだろう。
「どうして俺なんだよ」
「いや、今日は他のメンバーが居ないし、たまにはお前を連れ出さないといけない気がしたんだ。お前、最近町の外に出てないんじゃないか?」
「そんな事は――」
巧に指摘され、反論しようとして思い返すが、最近は店に篭りっ放しだ。最後にどこか遠出をしたのも、細工のExスキルである【デザイン】と【採掘】そして、採掘道具の三種類のピッケルを入手するためだった。
あの一度挫折した【デザイン】のスキル入手の条件。それは【細工】のレベルを25まで上げることだった。その条件を満たしている俺は、再度挑戦したら、今度は事前説明無しに単身高山に放り込まれ、与えられたピッケルで『鉱石を百個入手』という課題をやらされた。
非常に面倒で、鉱山から抜け出した後は、第二の町まで行き、クエスト専用NPCから【デザイン】という金属以外の素材を指輪の外見変化に使えるようになるスキルを入手した。
例えば、金属製の腕輪に毛皮を纏わせたり、羽を編み込んだり、と能力面での変化は見込めないが、見栄え的な変化は望める。
「やっぱりか。なんか、色々な人の話を聞いた限り、不健康な活動してそうで怖いんだが」
「そもそも、ベッドの上で寝て引きこもってVRって時点で不健康な気がするぞ」
「精神的な意味の不健康だよ。まぁ、VRは、本来、睡眠学習や先進医療、軍事訓練の応用が払い下げられたからな。そう考えると、健全な優等生なのかも知れんな」
気持ちの良い笑みを浮かべながら、自販機で買った紙パックのジュースを飲みながら巧は、自分の昼飯である惣菜パンを口に含む。
俺も、自分の最近の活動を思い返すと、本当に生産に次ぐ生産活動の連続だ。必要なアイテムは、ミュウに頼んでおくと、場所が一致すれば二つ返事で取りに行ってくれるので、俺としては、あまり外の活動には興味はないのだが……
「うーん。まぁ、健康不健康の話は良いとして、確かに最近は弓のレベル上げを疎かにしてたからな」
「ちなみに聞くが弓のレベル、今いくつだ?」
「ジャスト30で、派生の【長弓】も一緒に付けてる」
「30だと、新しいアーツを覚えたか。それにしても夏休みが終わる時に比べて殆ど成長してないだろ」
正確には、夏休み後に切りの良い数字である30まで早々にレベルを上げて、生産活動とその他のセンスの強化に時間を割いていたのが本音だ。
「で、俺と出かけるか?」
俺は、箸でつまんだ薄切り豚ロースの野菜巻きを口に入れ、咀嚼のため、少し間が空く。
「良いんじゃないか? 学校ではいつも二人だけど、ゲームで二人っきり。ってなかなか無かったし」
「サンキュー。実は、一人だとやっぱり冒険はキツイんだよ」
苦笑いを浮かべる巧だが、どうも胡散臭さが抜けない。
「お前がキツイなんて信じられないな」
「まぁ、事実だ。剣一本で戦うのは、正直しんどい。純粋な物理プレイヤーは多いけど、まぁ、やっぱり一長一短なんだよ」
「まぁ、俺みたいな器用貧乏は少ないよな」
自虐でそう言ってみるが、巧からは、それは器用貧乏ではなく、ただの物好きとさえ言われた。
「話を戻すと、俺みたいな物理プレイヤーのセンス構成って、まず武器センスが一つか、二つ、そして防具が一つ。MPのために魔力センスで一つ。残りは、三つか四つ身体能力系で。残りは、状況に応じて変化させる枠だ。まぁ、これがベースでそこに魔法やら、なにやらを組み込んだ魔法剣士型も多い。美羽ちゃんなんかは、魔法剣士型だな」
そこまで言われて、俺の構成と比較するとある事実が分かる。
「なぁ、それってステータス結構高くないか?」
「むしろ、ステータスを高めにして、アーツやスキルは補助。って考え方だ」
飲み終わったジュースのストローを噛みながら、自身の考えを話し始める巧。
「俺は、ハードとソフトって言ってるんだ。ハードは、キャラクターのステータスだな。基礎能力とか色んな言い方がある。そんで、ソフトは、キャラの持つアーツやスキル、耐性なんかが上げられる。お前のキャラは、ハード面が低くて、ソフトが充実。逆に、俺のキャラはハード面が強くて、ソフトは非常に少ない。まぁ、ソフト面が少なくても、実力で戦闘のソフト面をカバーできるし、ハードを補佐するソフトもある。他にも、アイテムや装備品で底上げ、耐性を持たせられる。そこは一概には言えないし、VRゲーム特有の小手先技術だってあるが、まぁ、いいだろう」
一度話を区切って、俺の目を見詰めてくる。
「ここで一度質問だ。ハードが強くて、ソフトが弱い。俺が困る状況って何だと思う?」
「そりゃ、相性の問題じゃないか? まぁ、具体的に何が、とは分からないけど」
「正解。まぁ、とは言ってもアイテムの効率の問題だな。物理耐性が高い敵はどうも狩りの相手に向かない。いくら適正レベルでも、しんどい。だから仲間が居ないときは近寄りたくないし、苦手」
「へぇ~、巧にも勝てない相手が居るんだな」
「勝てないんじゃない。効率の問題だ。俺が属性武器持って戦えば、時間は掛かるが、レベル上げも出来るぞ! でも、アイテム効率が悪くて、出費が嵩むだけだ。武器や防具に金を掛けたり、強化を繰り返すと、すぐに資産が飛んで行く」
「つまり、俺を誘って、二人で資金稼ぎか?」
「裏読みすぎだ。まぁ、その思惑がないとは言わないが、お前のレベル上げがメインだ」
「悪い。つい、疑った」
つい巧の善意を悪く捉えてしまった。疑った後ろめたさもあって、俺はすぐに今日の狩を了承する。
「それで場所はどこだ?」
「第一の町から北側の山沿いエリアだ。あの辺の敵はそれなりに強いし、アイテムのドロップも割りと良い。それでお前に頼みたいのは空の敵なんだ」
「空? まぁ、遠距離攻撃が俺だから分かるが、どうして……」
「一番は、お前の経験値的に美味しい。二番目にドロップアイテムが美味しいんだよ。それに百匹に一匹クイーンって呼ばれる特殊固体が居て、そいつのドロップが強化素材にもなるんだ。だから、お前が倒せば、ドロップは二人に配分される。効率は一番だ」
「で、地面の敵はお前か。じゃあ、ちゃんと俺を守れよ。ついでに、俺が空を狙っている間にアイテムの採取頼む。主に石とか」
「了解。じゃあ、今日帰ったら、メールするわ」
はいはい。と互いにいくつかの調整やどうでも良い話題を繰り返す。
学校が終わり、家へと帰った俺たちは、OSOへログインした。