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Only Sense Online  作者: アロハ座長
閑話【幼女と山男と生産者】
86/359

Sense86

「こちら、ユン。これよりクロードの店舗に突入する」

(こちら、ミュウ。そちらの様子が見える位置に隠れている。随時指示を出すので、回線はそのままに、以上)


 何が回線か、ただのフレンド通信だろうに。と思いながらも、目の前のオープンテラスの様相の皮と布の防具店は、現在カフェとしても運営していた。

 俺は、意を決し、店舗へと脚を踏み入れると――


「「いらっしゃいませ、コムネスティー喫茶洋服店へ!!」」


 店員の元気な挨拶に足が止まる。以前よりもより喫茶店らしさを増して改装された店舗は、時間的な要因か、それとも料理センスがまだ浸透していないためなのか、客は少ない。


(じゃあ、まずはカウンター席にでも座ったら?)

(了解)


 聞こえない程度に返事をし、店内のカウンター席に座る。


「いらっしゃいませ、初めてのお客様ですか?」


 俺は、少し悩んだが、素直に首を縦に振る。


「では、メニューをどうぞ」


 そう言って、メニューを渡してくる店員は、二人。どちらも本物のプレイヤーだ。

 優しそうな青年がウェイターの衣服を着て、お店のカウンター内側から声を掛け、続けて、落ち着いた色合いのシックなデザインのウェイトレスの女性と打ち合わせをしている。

 男性の方は、ラテムさん。女性の方は、カリアンさん。クロードが何処からか喫茶店をやってみたい。でも場所がない。という稀有な人間を捜し当て、場所を提供。兼ねてよりコスプレ喫茶のような店は完成してしまった。

 カフェ部分では、普通の喫茶店と同じで、衣服関連で用がある人間は、奥の方で試着したり、細部の注文を待つ間にカフェを利用したりするよう考えられている。

 カフェ担当は、プレイヤーが運営しており、このカフェ営業をするためだけの【料理】系の生産者なのだ。あとは、裏方に、ケーキ作り担当のフィオルさんという方も居るはずだが、現在不在のようだ。

 俺は、メニューを掲げて真剣に選ぶ振りをして周囲を観察する。


(クロードは店の奥にいるようだ。どうやって呼び出す)

(こちらミュウ。それは、リレイの通信で呼びつける。以上)


 それなら問題ないか。今回の作戦は、俺がこの姿で潜入し、ミュウたちの指示に従って、クロードを弄ることが目的だ。その際の制約として、俺は、なるべくしゃべらない。しゃべる場合も対象のクロードに声を聞かせない。と言う物だ。

 つまり、視線や動作だけで、クロードを弄るという難易度の高い挑戦なのだ。

 だが、それよりも……


(店員とお客さんからの視線に俺が負けそう。もう帰っても良いかな?)

(何を今更! とヒノちゃんが面白そうに言っている)


 そうなのだ。客や店員からの視線が俺に集まる。外見が目立つために店員二人が俺をじっと見ているのだ。そしてひそひそと話している。珍しい子とか、だいぶ幼いですね。とか……まぁ、それは良い。


「すみません。メニューを」


 俺は手を上げて、飲み物を一つ選ぶ。


「この、コー(ちょっと、待った!)……」


 俺が言葉を途中で止めたために、メニューを聞いていたカリアンさんが首を傾げる。おいおい、このタイミングで何故、待ったの声を掛けるミュウよ。


(子供らしく、ここは、ココアで。それもお店の名物の甘さ三倍ココアで……と、リレイからの指示が。それと、語尾を消えるように、と私からの指示)

「コー?」

「コ、ココア。三倍甘さの奴……お願いしましゅ」

「はい、かしこまりました」


 ううっ、語尾の部分が恥ずかしい。恥ずかしさで語尾が消えるようなのではなく、狙ったために恥ずかしいなど。


(なんだ。最後の指示は……俺も弄られる対象か?)

(違うよ。印象操作だよ~。第一印象で、コーヒーを頼む女の子よりも、ココアを恥ずかしそうに頼む女の子の方が親しみやすくて、和むんだよ。私たちが……と、リレイが、ってちょ、リレイ! 何、あっ、ごめ、ごめん、勝手に言って。あっ、そこに手は、ひゃっ!?)


 何をやっておりますか。お前ら。楽しそうだな。と思いつつ、ココアを待つ。

 程なくしてやってくるココアは、小さめのカップでモコモコの白いホイップがちょこんと乗っている。

 俺は、それを両手で抱えるように持ち、一息吐く。さっきまでドタバタしていた所為で、やっと小休止できた気分だ。


(そろそろ、クロードさんが出てくるみたい。興味がない振りをして、ってルカちゃんが)


 そう言われて、俺は、カップを置き、インベントリから本を取り出し、開く。喫茶店で、お茶をしながら本を読む。それだけ絵になる光景なのか、お客さんの中からの声が漏れるのが聞こえる。


 そして、ターゲットのクロードがクツシタを肩に乗せてカウンター席に座った。


「全く、出て来い。とは乱暴だな。まぁ、少し休憩が必要だと思っていたところだ」

「まーた、そうやって煮詰まってたんですか? 今度はどんなヘンタイ装備作ってたんですか?」

「失敬な。今は九月だが、あと一ヶ月もすればハロウィンシーズンだ。それを見越したネタ装備を作っていただけだ」


 ほうほう、こんなことでそんな裏話があったとは。俺は聞き耳を立てながら、チラリと視線をクロードの方へと向けると、クロードもこちらに気がついたのか見てきた。慌てて視線を本に戻したとき、次の指示が来た。


(次の指示は、店員さんに頼んで『あの素敵な猫さんに、ホットミルクを』と……トビちゃんが)

 なに、夜のバーで。みたいなノリだよ。それに対象がクツシタか……。

 俺は、そっと手を上げて、ラテムさんを呼び耳打ちする。


「あの、素敵な猫さんに、ホットミルクを……」


 聴いた瞬間、きょとんとした顔をしたが、すぐに、素晴らしい笑顔で畏まりました、と一礼して、ホットミルクを用意し出す。

 雪平鍋でミルクをことことと温め出す。クロードとカリアンさんは、未だにおしゃべり中だ。

 ラテムさんの姿は、年を重ねればきっと味と深みを増し、ナイスミドルになるだろう。あっ、四十代でちょび髭、白髪交じりのラテムさん。って似合いそう。自分の顔が嫌いって訳じゃないけど、タクに比べて線が細かったり、女っぽかったりと色々言われているから考える所はある。

 しばらく、その音を聞きながら本を掲げていると、用意ができたようだ。


「こちら、ホットミルクになります」

「俺は、頼んでないぞ」

「あちらの可愛らしいお嬢さんが、素敵な猫さんにホットミルクを……と仰いましたので」

(お姉ちゃん、可能な限り、無関心を装って……)


 耳元の指示に従い、クロードとカリアンさんの視線を耐え、本の文字に集中する。たぶん、緊張で顔が無表情になっているだろう。


 しばらく耐えていたが、行動は向こう側から起された。目の前に、ラテムさんが立っているので、本から顔を上げる。


「お嬢さん。あちらの猫さん代理の方から、当店自慢のチーズケーキとココアのお代わりを」

「……あ、ありがとうございます?」


 お返しが来たために、素直に受け取ったチーズケーキとお代わりのココア。耳元で、いいな~。とケーキへの関心が聞こえるが取り合えず無視して、一口食べてみる。


 しっとりとして甘い。チーズケーキの独特の癖があって美味しい。それでいて沢山食べても、太らないのだから女性の理想だよな。まぁ、食べ過ぎてリアルに影響はなく、きちんと現実でも腹は減るし……。その間にも、耳元から食べ物への執着の声が聞こえる。いや、後で食べれば良いでしょ?


(ターゲット側で動きあり。注意すべし)


 その一報を受けたとき、ちょうどケーキを食べ終えた時だった。カウンター席では、ミルクを飲み終わったクツシタがこちらへと歩いてくる。


 なぁ~、と気の抜ける声を上げて、こちらを見つめてくる。


(どうやら、クツシタがお姉ちゃんに興味を持った模様。じゃあ、次の指示は、クツシタと遊び、クロードさんの興味を引いて、とリレイが……)


 遊ぶ。何をして遊ぶのだ。猫じゃらしとかないし……。人差し指を鼻先にぐーるぐーるやってみると、たしっ! と両手で捕まえられた。

 その時、あまりの事に小さく、おおっ!? と声を上げてしまった。クツシタは捕まえた指をそのまま、口に運び、むきゅむきゅと甘噛みしてくる。


(癒される。癒されるけど……なぜか、俺にも同種の視線が集まるのは何故?)


 内心、既に計画が崩壊している気がしなくもないが、指示に続行と言われてしまった。しばらく、クツシタの甘噛みを堪能していると、飽きたのか、口を離し、俺の肩を蹴って頭の上に乗ってくる。前足を器用に頭に乗せて、後ろ足は、長い黒髪と一緒にブラーンと垂れている。

 その姿を店内に置かれた姿見で確認すると、随分間抜けな姿だと自分でも思う。


(ちょ、リレイ! 何、興奮しているの!? まだ出ちゃ駄目だよ! えっ、我慢できないって!? あっ、クロードさんの方でも行動あり!)


 なんだか、向こう側でもゴタゴタしているようだな。俺は頭に猫乗せたまま、のんびりココアを一口。姿見で自分の姿を見るために視線に死角に入ったクロードだったが、確かに行動があった。

 あまりに、突拍子もない行動に視線が今度は俺ではなく、クロードに集まっていた。


「にゃ~ん」


 クロードの声ではない。機械的な声を発する何かだ。

 クロードの首から上が別の物に置き換わっている。エジプトの黄金のマスクをモチーフにした物だろう。顔は、人の形をしているのだが、細部は猫の三角耳が象られたりと体とのバランスの悪さと、シュールな見た目に俺は言葉を失う。


(な、なんて趣味の悪い被り物なんや……ってコハクちゃんが、確かに、アレはないよ)

 同感だ、どう見てもネタでしかない。


「う~、うにゃ~ん」


(頭が爆発した!?)


 例の機械的な声と連動し、黄金猫耳マスクが四つに分かれて床に落ち、その中から白い煙が溢れ出す。爆発よりも、拘束具の開放と言った感じの演出だが、びっくりし過ぎて、カウンター席からずり落ちてしまう。


「ぶぅぁぁぁっ!」


 声を潰したような呻き声を上げて、煙の中から現れた頭部は、真っ白の布の巻かれた頭。その目がギラリとこちらを見下ろしてくる。

 これは……ミイラ男? と呆然と思った矢先に耳元で声が響く指示(――気絶!)と。なので、咄嗟に尻餅を着いた体勢からふらっと倒れてみた。


「お客さんに何やってるか!」


 倒れて目を瞑っている俺は、状況はわからないが、ミュウ経由での実況でわかった。

 カリアンさんからのトレーのフルスイングを受け、クロードが壁際まで飛ぶ。お客さんから非難を浴びている。俺は今、床に倒れているが、頬っぺたにぴちゃぴちゃと舐められる感触があり、クツシタが舐めているらしい。しばらく倒れた演技を続けると、誰かに抱き起こされるので、そこで目を開けて周囲を見ると、カリアンさんに抱き起こされた。


「お客様、大丈夫ですか? すみません、うちのヘンタイ馬鹿が……」

「あ、いえ。大丈夫です」


 クロードは、ミイラ男の姿で店の端で正座させられ、ラテムさんから説教を受けていた。というよりも、店員と家主の立場逆転してないか? ヘンタイ馬鹿って酷い言われようだし。まぁ、自業自得だが。

 そして、クツシタから何やってるんだ、というようなネコパンチを膝に連打。その姿に場の雰囲気は再び、癒しの方向に流れる。


「すまなかったな。ハロウィン用の衣装を一度試してみたくなった」

「そ、そうですか」


 話しかけられたので普通に返したが、少し疲れたな。と、言うよりもミイラ男の演出派手過ぎだ。もう少し落ち着いた装備にして欲しかった。


「ここまで驚くとは思わなかった。すまない、ユン」

「良いんですよ。そんなに……」


 今、こいつ何言った? まさか、ミュウたちの二重リークか。とも思ったがすぐに強い否定の言葉が聞こえる。

 俺は、声を顰めて尋ねる。


「……いつから気がついていた」

「その服が俺の作った奴だとわかってからずっとだが。また新しい物でも発見したと思ってて、張り合うために新作ハロウィン衣装を見せたんだが」


 俺は、額に手を当てる。最初からコイツを分かってやがったのか!

 はぁ、と溜息一つ。作戦は失敗した。



 更なる盛り上がりに名スレッドとなる予感のある掲示板。

『おい、黒髪が一人喫茶店に入ったぞ』『店内を見れる位置を陣取るぞ』『駄目だ。先に幼女六人に抑えられた』『落ち着け、もう一箇所ベストスポットがある!』『よくやった! 何故、幼女六人が陣取っているのかも調べるぞ』『なん、だと』『猫と戯れているだと』『にゃーん』『にゃおーん』『うにゃーん』『猫好きなのは分かったから落ち着け』『今までより一番自然な顔が素敵だな』『おっと、鼻血が出そう。ロリが猫と戯れる。最高だな』『黒髪の美幼女が、黒猫にその白魚のような指をペロペロ』『ペロペロ』『ペロペロ』『お前らの汚れた目が何を見れているのか分かったよ』『奴らは俺を何度驚かせたら気が済むんだ』『猫が頭に乗る!? だと』『幻の組み合わせが拝めるとは』『俺、これを見るために生まれてきたんだ』『おいおい、何だあの不気味な物体は』『店主も猫だと』『なんて、なんてオゾマシイ猫耳なんだ』『あんなの猫じゃない!』『そこからの?』『弾けた!?』『割れた!?』『中身が包帯だと!』


 まだまだ荒れる様子のどこかのスレッドより――







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