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Only Sense Online  作者: アロハ座長
閑話【幼女と山男と生産者】
82/359

Sense82

番外編その1になります。

注意、ネタと作者のノリ満載です。

 ぼふんっ――そんな気の抜ける音が響いたアトリエールの工房部では、俺は首を捻って悩んでいる。眉間に皺を寄せて、右手に持った試験管の赤黒いデロドロンとした液のサンプル。

 直前まで複数製作していた新しいポーションの一つ。その製造過程で生まれた物だったのだが……


「いや……本からレシピを書き写したけど……うっかり放置しすぎたか。これはどう見ても失敗か?」


 俺の右手にある液体は、本来は鮮やかな橙色になるはずだ。それがどうしてこうなったのか。

 それは、うっかり目を離していたのが原因だ。



 事の始まりは、メイキングボックスでのアイテム納品に始まる。薬草系がランダムで一種類納品される予定なのだが、そのとき納品されたのは【ミュレルの草】という薬草だった。用途不明で種子化できたので、畑である程度数を増やして数日が経ったある日。


「ぷっ、くくくっ」


 俺は、店のカウンターで本を手に持ち、笑いを堪えていた。その様子に、キョウコさんやリゥイたちが怪訝そうな目で見てくるのだが、俺は、笑いのツボに嵌ったためにすぐには復帰できなかった。


「馬鹿だ。この本作ったやつ馬鹿だ」


 キャンプイベントで手に入れたとある本。これは、ある魔道師の往年の日記を本にした物らしいのだが、書かれている内容があまりに馬鹿馬鹿しい。


「いや……魔法を極めた次は、禿げ治療……くくくっ。だめ、死ぬ」


 その魔道師は、火の系統の魔法を極め、往年になり自分の人生を振り返った。そして、火の魔道を極めるために犠牲になった頭のお友達についての悲嘆を書き連ねているのだが、あまりのギャップは笑いを誘う。

 きっと爆炎によって消えた髪の毛を嘆いているのだが、俺の脳内には、爆破とともにアフロヘアーになる魔法使いのイメージが固定されていた。


「で……薬への知識もあったために増毛薬の着手か……うん? この材料は?」


 材料の項目に俺の中の笑いがすっと息を顰める。薬の材料は、少しレベルが高いが半分以上は俺の手元にあるアイテムだ。ハイポーションの原料の薬霊草とMPポーションの原料の魔霊草、それから魔法薬の触媒となる特定の二種類のモンスターの体の一部。活力樹の実、そして先日メイキングボックスにあったミュレルの草だった。

 ポーションの製作レベルも高そうで、作るのにも時間が掛かりそうな代物は経験値的にもおいしそうだった。


「あー、モンスターの一部は、ミュウにでも頼むか。俺のレベルじゃ」


 出現する場所は、第三の町傍のダンジョン最深部のモンスター。ソロでその地域を探索など今の俺のレベルでは不可能だ。

 さらに、本を読み進めると。


「ミュレルの草とそれぞれのモンスターの一部で二種類のベース作り、その配合を変えるだけで、増毛薬と縮毛薬になるのか。で、作り方が……むぅ」


 内容をノートに書き出し、手順を整理する。配合の比率など、今までのポーション類よりも高度であり、目測で一時間強は掛かるだろう事が予想できた。

 それから、本の解読とミュウへの材料の調達を依頼して、纏まった時間の取れた週末。



「すり潰し、液を煮詰め。二種類のモンスター部位を粉末化……それから」


 こうして、出来上がった二種類のベースとなる半液状物体を熱しながら、混ぜ、その上澄み液が増毛薬となる。材料の量に比べて、出来上がるのが微々たる物でほとんど趣味といえよう。だが、趣味でもさすがに疲れる作業はやりたくないものだ。


「さすが、上級の調合設備。人力でやる作業も肩代わりしてくれるとは」


 小さな釜の中では、ぐつぐつと自動で焦げ付かないように混ぜてくれている。

 上級の調合設備。薬の生産成功率を上げる生産設備だが、実際に手作業でやる場合、多くの人力作業を肩代わりしてくれる。とは言っても、重労働の混ぜる。という作業だけだ。

 前までは、比率が一対一でただ混ぜる、煮詰めるという作業が多かったが、薬の難易度が上がるにつれて、細かな比率調整や重量計算に取って代わってきた。

 全体的な作業量は分からないが、従来の重労働が減り、細かな計算や比率による試行錯誤が増えたために、作業量は増えている気がする。

 俺は、その間に並列作業として、安価で手に入るモンスターの部位を使った身体強化薬の改良に努める。

 身体強化薬は、以前からあるモンスターの部位を利用したステータス強化アイテムだが、モンスターによって、様々なマイナス効果があり、マイナス効果の無いモンスターの部位は、レアドロップやレベルの高いモンスターであることからあまり普及していない。

 そこで状態異常を誘発するモンスターの毒性を取り除くことで、安価で、大量供給できるアイテムを作り、更なる主力商品にしようと考えていた。


「むっ……ゴブリンの角やスライムのドロップは煎じても効果なし、弱いモンスターは毒性を取り除くと上昇効果が無くなる。ストーンアルマジロとロッククラブ、それからブルビートルが今は妥当かな? アルマジロと蟹はDEF。ビートルはSPEEDの一点の強化しかできないが……」


 前回までの改良結果を口に出して復唱し、今日の作業。

 西側の鈍足モンスターたちは、アルマジロが眠り、蟹が混乱、第二の町付近のビートルは毒の状態異常を引き起こした。それを打ち消すために相反する薬草で毒性を消す試みをするが、ポーションでは、効力が薄まる。そこで、固形薬の形に変えて試みた。


 胆石や薬石などの丸薬のベース素材、対応する状態異常回復素材、そしてモンスターの一部。これを、どう加工するべきか。を上澄み液が出来るまでのつもりだった。


「これも駄目か。じゃあ、今度は一度粘土状にしたものを乾燥させて作るか……」


 首を捻るが、今まで出来上がった未完成品は、毒性を完全に消しきれていない。だが状態異常の発生率を三割に抑えた――強化丸薬(ブースト・タブレット)【未完成】はできた。

 三割の確率で状態異常が発生する。一種のギャンブルだ。だが、付加と併用できる点では、既存のエンチャントストーンと被らないために商品に影響は無いが、エンチャントストーンを作るのは、正直、ポーションより手間になりつつあり、強化丸薬が出来れば、棚からフェードアウトさせることも視野に入れた作業だ。


 と、まぁ、改良を加えて、レシピの確立を目指していたのだが、そのとき、すっかり頭から重要なことが抜けていた。


「薬草の乾燥か、そのまま生での調合か……」


 予定時間を大幅に過ぎても混ぜ、加熱した液体は、激しい沸騰と異臭を放ちながら――爆発する。


 とてもコミカルな爆破の直撃を受けた俺だが、どこか他人事のように感じる。体に受ける衝撃で尻餅を着き、釜から噴出し、飛び散る液と赤と桃色の煙を全身に浴びて無事なのは、身代わり宝玉の指輪のお陰だ。

 今の衝撃で指輪の宝石が砕けた、と言うことは何らかのダメージのある爆発なのだろう事は予想がつく。


「けほ、けほ……うげっ、忘れてた。くそ……夢中になったやり直しだな」


 俺は、呟いて、尻餅を着いた床に座ったまま、頭を掻く。左右の視界端で揺れるものを手に取る。いつもの少し顎に掛かるか、掛からないかくらいの髪は、明らかに量を増し、手で長さを確認すると、胸の前ほどまで伸びていた。重たくなった頭と伸びた毛先を摘み、まじまじと眺める。


「うわっ、半分成功か。これは増毛薬としては成功だけど、爆発の原因は……はぁぁぁ!?」


 よし、と立ち上がったとき、自分の目線が大分低い。いや、目線どころか、体全体が縮んだ。と言って良いだろう。

 その事実に気がついて、俺は血の気が引く思いをした。


「な、なんじゃ、こりゃぁぁっ!?」


 使い古した台詞を大音響で口にした俺の体は縮んでいた。

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