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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第2部【夏のキャンプと幼獣の森】
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Sense78

 太い後ろ足が地面を踏み貫き、半ばまで埋まり、前足の肉が解け、触手が植物の様に地面に根を張る。

 野獣の姿を模っていたが、一度も開かれる事の無かった顎が外れんばかりに開き、咆哮をあげる。


「グルルルルッ――ギャァァァァッ!!」


 空気を震わす爆音と衝撃波に、皆動きを止める。

 その中で開かれた口の中に一際大きな瞳が、ぬるりと垂れる。

 生物であれば、舌の位置する場所に瞳が生えたそれは、視点を定め、青白い発光を始める。

 これは、白熱光線の予兆にも似た光り方。体に僅かに残る瞳も同様の光を放ちながら、光が、放たれる。

 短いレーザー。そう言うのがしっくり来るような光線だ。

 ダメージと射程自体は、特殊攻撃に大きく劣るものの連射性と命中率の高さ、そして近づくプレイヤー、魔法問わずの迎撃重視の攻撃は、プレイヤーの接近を困難にする。

 強い拒絶のように絶えず打ち込まれる正確無比なレーザーの嵐。一瞬で到達するレーザーは、的確に急所を狙い、一定の速さで駆け抜ければ当たらない。


「こりゃ、どうしたものか」


 余りに予想外な攻撃方法とも言えない防御体勢に、あからさまな時間稼ぎを感じ、俺は後ろ頭を掻いて考える。

 残る弱点は、五か所と新たに現れた口内の瞳の一か所。

 右に三つ。左に一つ。手の届きにくい高めの位置に一つ。そして中央に一つだ。

 じっと、観察していると分かるが、各瞳は、視認後に狙いを定めて照射する。体格の大きな人の影や魔法の後ろに隠れていた人が良い位置まで近づく事が出来たのは、偶然だが、その習性を狙えば良い。と考えてしまう。


 とは言え、俺の素人意見だ。実際、タワーシールドを掲げて、重量級装備を身に付けた人が全力で駆け抜け、その後ろに隠れるように走る者は、瞳に接触する事が出来なかった。


 地面に解けて潜り込んだ触手は、潜り込んだ範囲の地面を踏むと同時に、槍の様に飛び出し、容赦なくその身を貫く。正面からのレーザーを受け止めても、中に入れば、足元からの攻撃。触手が一本だけならまだしも、周囲の触手が一斉に飛び出すために、迂闊に踏み込めば、蜂の巣だ。


 遠距離攻撃の要である魔法も、レーザーの弾幕に威力を減衰され、肉体に辿り着く前に掻き消える。確実にダメージを与えるには、レーザーの余波を受ける位置まで接近しないといけなくなる。


 魔法使いたちを全員投入した物量戦なら何とかいけると思うが、ダメージ受けてまでの特攻など防御力の低い魔法使いに推奨できない。

 代わりに――


「よっしゃー! タマ取るぞ!」

「おおおっ! ラスト・アタックの名誉は俺が貰う」

「「「うをおおおおっ!!」」」

「ドロップあれば、嬉しいな!」

「「「最後の目ん玉は、早い物勝ちだっ!!」」」



 ここに、レーザーの弾幕や飛び出す触手すらも恐れない廃人たちの熱意が存在した。

 ゲームによっては、戦い方によって様々なボーナスが付く。最後に攻撃を与えた人が経験値を多く貰ったり、ドロップアイテムが良くなったり。若しくは、もっとも多くのダメージを与えた者だったりする。

 現状、誰も倒していないので予測の域を出ないが、最低でもイベント終了時の成績には加味されるだろう。という打算的な考えがこの場に広がっていた。


 

「まぁ、俺は終わるまでゆっくり傍観するか」

「もう良いのか? まだまだ参加する余地は有るぞ」

「うん? タクか。ああ、弾切れで攻撃手段の乏しい後衛職としては、衛生兵になり下がるしかない」


 肩を竦めて大仰に言えば、嘘付け。と笑い飛ばされる。


「見てたぞ。突然前線に飛び出したかと思えば、壁を作って……攻撃なんてしないから余計に奇妙に見えたぞ」

「お前だって無茶する。最低四人で挑めっていう取り巻きを一人で正面から抑えて……前に、六人目がどうとか言ってただろ? あれは嘘か?」

「馬鹿言え。嘘じゃない、と言うよりもゲームはあくまでゲームだ。リアルとの兼ね合いで同じメンバーがフルに組むなんて稀なんだぞ。それに、夏休みが終われば、四六時中ログインはできなくなるだろ?」

「まぁ……そうだな」


 そう言えば、今回のイベントも夏休み最後を銘打って始まったものだ。とは言え、ゲームに長く浸かり過ぎて、現実との境が分からなくなったら怖いな。と思ってしまう。


「で、休みが終われば、ログイン出来ても夕方から夜までだろ? そこで、なるべく多くの人に声かけてネットワークを広げているんだ」


 ネットワーク? と俺が声を出して、首を傾げれば、幻獣大喰らいへと突撃している集団を一つずつ指差して行く。


「昼夜逆転しているから、夜間から朝までがログイン時間の【夜半の旅団】さんたちに、みんな釣り好きで休日は釣りに出かけるから平日の夜にログインする【OSO漁業組合】さんたち、それと、大剣ばかりの学生集団【ヘビィブレイド愛好会】さんと――他にも三組ほどのグループがネットワークに加入しているんだ」

「うーん。つまり、タクたちの普段のパーティーが組めない時は、そこに入れてもらう? ってことか?」

「そうそう。逆に、俺らの所にも枠空けて、必要ならレベリングのための出向だって受け入れる予定だぞ。で、前に言った六人目繋がりで愛好会さんと知り合って、ネットワークって話になったんだ。だからその大剣使いは暫定の六人目。まぁ、ユンも暫定メンバーだけどな」

「勝手にメンバーに入れてるな」

「まぁ、効率的な狩りと楽しいゲームのための互助ネットワークだ。それぞれの性格やセンス構成上の相性の良し悪しがある場合は、各自で調整して貰うけどな」


 そう言いながら、生き生きと自慢げに語るタクは、やっぱりゲームを楽しんでいるのがわかる。


「全く、やる気になるベクトルが違う方に向けば俺の苦労も減るのにな」


 溜息を吐きながらも、笑い返せるのは、俺もOSOというゲームにどっぷりとのめり込んでいる所為だろう。


「ふぅ、それにしても攻めあぐねているな。ユン」

「そうだな」


 確かに、タイミングを見計らって飛び出す者たちは、皆確かな攻撃を与える事が出来ずに、戻ってくる。そろそろ、決着をつけないといけないが、俺の前でそれを言うか? それに鞘に納まっていた剣を引き抜き、握りを確かめているし。


「一緒に行くか?」

「何、さらっとコンビニ行くノリで、危険地帯に誘うな。行かねえよ」

「と、言うよりも、もう遅い。強制参加だ」


 ああっ……遠くでは見知った者たちが俺に、力強い視線を送ってきているよ。我が姉妹たちに、ミカズチ、それに、ミュウやタクのパーティーメンバー達と。


「覚悟を決めろ」

「無理。俺はこのまま帰りたいんだが……」

「すでに作戦にお前が組み込まれているんだが」


 タクとの会話は、俺を引き留めるためのものだ。きっと、自然に会話をしつつ、一方では、フレンド通信で一方的に指示を受けながら、引き留めていたのだろう。

 俺が頭を抱えている間に、タクの口からは作戦が垂れ流されている。


「先ず、セイさんが氷魔法で足場を作る」

「必要か? それ」

「足元の触手回避のための上空だ。そして、囮役が、足場からジャンプして、ボスの頭上まで行って、全ての瞳の注目を集めて貰う。出来れば、目眩ましも」

「その間に、地上部で攻撃を仕掛けて、仕留める。と」

 うん。それで俺の立場は――


「だから、囮役よろしく」

「ですよねー」


 こういう時は、絶対にこういう損な役回りが巡ってくる。


「むしろ、聞くが――普通にジャンプしてボスの頭上まで届くのか?」

「まぁ、普通なら無理だな。だが、お前ならできる! いや、お前しかできない!」


 何か、物凄く俺を持ち上げているけど、裏の意味を訳すと、お前が囮役やらないと予想より被害が大きくなるぞー。と脅しているようなものだ。


「ちなみに、方法を聞くが――」

「魔法の爆風を利用した空中大ジャンプ」

「はぃ!?」

「だから、空中大ジャンプ。移動中に自分に魔法の余波をぶつけて、勢いで加速するんだ」


 いや、無理だろ。普通に無理だ。


「ノックバックを利用した移動方法は、小ネタの技としては結構普通だぞ。魔法の余波でのノーダメージ加速移動や、対人戦用のダメージ判定の無い手足を利用したスタイルなんかも」

「……それを、小ネタとか知らない俺にやらせるな。そう言うのは、お前やミュウの領分だろ」

「鎧装備に動けは無理だ。それに、あの単一魔法の複数発動はアイテムだろ? それの使い方が俺達には分かんないし、現状はお前しかまともに扱えないと考えている」

「アイテムは有るが、使い方教えてやるから誰かにやらせろよ。嫌だぞ」

「問題は使えるか、じゃないんだ。囮役も安全に遂行するためには、お前が必要なんだ。お前なら成功させる。って確信が有るんだ! 頼む!」


 そう言うと、頼む、と更にもう一度言って頭を下げる。周りでは、俺達のやり取りを遠巻きに眺めている人も多く、その視線が気になる。


「わ、分かったから頭上げろ。周りの視線が……」

「サンキュー。恩に着る」

「全く、頼まれるとほとほと弱いな、俺」


 ぼやきながら、周囲に耳を向けると、ツンデレだ。デレた。見事なツンデレ。という小声が聞こえた。おい、言った奴出てこい。俺と一緒に囮役やろうぜ。

 俺は、周囲に恨めしい視線を向ければ、皆が背ける。


「油売ってないで全員準備するぞ!」


 そわそわとし出す皆をその一言だけで、落ち着きを取り戻させるミカズチ。見れば、すでに幻獣大喰らいの正面には、セイ姉ぇの氷のスロープが、幻獣大喰らいとの境界ギリギリに出来上がっていた。


「ユンちゃん、何時でも出られるよ。目的は視線を集める事と、目眩まし。よろしく」

「わかった。少し、準備をさせてくれ」


 自身の状態を確認する。ボムのマジックジェムの数は十分ある。直接、瞳を狙いに行くわけじゃないために両手が空いている状態にする。対応するセンスが無いために実質、武器無しだ。

 精神統一し、頭の中でシミュレーションする。何時のタイミングにボムを爆発させるか、そしてそれを逆算して、どのタイミングでキーワードを唱えるか。


「【付加】――ディフェンス、マインド、スピード」


 最後に、自身の能力を底上げするしか、俺自身が出来る小細工がない。

 俺は、近くに寄ってきたパートナー達を一撫でして、行ってくる事を伝えた。


「それじゃ、大人しく待ってるんだぞ」


 指先を舐めて返す二匹に、やっぱり囮は嫌だな。危ないし……と妙に打算的な考えが浮かんだが、すぐに振り払い、覚悟を決め直す。


 俺が、スロープへと向き直り、両手に二つずつのマジックジェムを握る。


「うおおおおおおおっ!」


 声を上げ、全力で氷の坂を掛け上がる。滑らず、地面の様に踏み締める氷の道を加速し続け、幻獣大喰らいより僅かに高い位置まで駆けあがった。


「――【ボム】っ!」


 俺は、踏み込み直前に、キーワードを唱え、手の中にある宝石をその場に置き去りにする。魔法の起動まで五秒。頭の中で実際に起こるだろう現象を想像する。

 踏み切り、飛び出した俺は、空中で緩やかな浮遊感と慣性による前進を感じる。

 目の前には、ぎょろりとした瞳が俺へと一斉に向き、青白い光を発するのを目にする。

 瞳より光が放たれる前に、背後より魔法の爆風が俺の背中に襲いかかり、一気に空中で加速する。

 加速前に居た位置を通り過ぎるレーザーに冷や汗を流しつつ、効果エフェクトとダメージ範囲の差からダメージが無い事に安心し、慣れた動作で両手一杯にマジックジェムを取り出す。


 今いる位置は、幻獣大喰らいの頭の上。この場所からなら俺が弓矢で潰した場所が良く見えるな、と場違いな事を考えてしまう。

 眼下では、空中の俺を捉えようと、触手がその身を可能な限り伸ばすが、届かずに、乱立。押し寄せるプレイヤー達によって刈り取られ、本体への道が作られる。


「これでも喰らって昇天しやがれ、悪食。――【ボム】」


 キーワードと共に、六つの瞳の上にばら撒かれた黒色の宝石が、光を放つ。俺は、空中での勢いのまま、幻獣大喰らいの背中に飛び乗り、自身の結果を目にする。

 降り注ぐ宝石が同時に爆発し、複数の爆発が重なり連鎖チェーンして威力を増して行く。

 黄色掛かった爆発は、視界を塞ぐどころか、そのまま、瞳へと殺到する。

 迎撃するレーザーが爆風に穴を開けようとも、圧倒的な威力でそのまま、押し寄せる。


「ちっ……俺まで影響が来るのかよ! 早く逃げるか」


 連鎖攻撃による威力上昇は、爆風の威力と範囲すら押し上げたようだ。ダメージは無いものの自分自身に叩きつけるように来る風に驚く。

 爆風が残り、黄色掛かった煙幕が垂れこめる中、押し寄せる者たちがやっと瞳の手の届く範囲に来た事を声で判断し、後は任せようと、立ちあがった時――


「えっ……」


 背後から胸に掛けて、青白い光が貫いていた。貫かれた衝撃で、体が宙を浮く。

 パリンッと割れるような音を耳にしながら、体が爆風に飛ばされ、制御できないまま後ろへと流れていく。

 流れる視界の中で、高い位置に有った瞳が俺を捉えているのが見えたが、直後に風の魔法だろうか、半透明な攻撃によって潰されるのを確認して、俺は流されるまま、湖に落ちる。



(……死んだ。訳でもないか、ダメージが入っていない)



 不意に湖に落とされ、背中から打ちつけられるように落ち、今も少しずつ沈んでいる中で、視界に映る自分の指が疑問を解決してくれた。


 ――身代わり宝玉の指輪から、宝石が無い?


 つまりは、一回。ダメージを肩代わりしてくれた。と言う事だ。

 疑問が解決すれば、後は湖の中に沈んでいく必要はなかった。すぐさま、【泳ぎ】のセンスに交代し、水面へと浮上する。


「ふはっ!」


 俺が水面から顔を出すと同時に、目の前の黒山の様な生物が砂に還り、同時に全プレイヤーへとメッセージが届く。


 ――【幻獣大喰らい 一体目 を撃破確認。 残り 五体】


 大きな歓声がその場に響き、そして、僅かな時間差で二体目の撃破が報じられ、皆が湧き立つ。


「おーい、ユン。大丈夫?」

「もう駄目。徹夜明けで戦闘して眠い。疲れた」

「帰るまでが遠足だ。それまで我慢しろよ!」


 そう声を掛けてくるタク。その他、ミュウやセイ姉ぇを始め、見知ったプレイヤーが湖に落ちた俺を心配する。


「ただいま。疲れた」


 戦闘中の興奮も、水に入り熱が覚めたのか、一気に精神的な疲労が襲ってくる。

 湖から上がった俺の目の前には、パートナーの二匹の幼獣。ずぶ濡れの俺の目の前に立ち、スモッグで周囲の視界を隔絶するリゥイとザクロの焚火の火の球が俺の周りを漂い、服を乾かす。遠くでは、何故か残念そうな声が漏れるが、どっと疲れた俺の耳には、届かなかった。


 その後は、色々な人に心配され、声を掛けられながら、ベースキャンプへと戻った。

 心配して待っていたマギさんや、俺達とは別グループで戦いに出ていたクロードとリーリーとの会話の途中で強い眠気に襲われる。


「ごめん。寝かせてくれ」


 そう呟いて、背中をリゥイに預けて、腕の中でザクロを抱えた。

 炎を持つ幼獣だからか、人の体温より暖かい獣は余計に眠気を誘い、外で有る事も気にせずに眠りに付く。

 次に目覚めたのは、意外にも全てが終わった後だった。


これにて戦闘は終了。あとは、イベントの結果発表

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