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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第2部【夏のキャンプと幼獣の森】
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Sense77

 湖への行軍中には、パーティー戦や集団戦を意識した配置、持ち場の切り替え、声掛けなどの注意を受けた。この辺は、基本ソロなために理解が追いつかず、どうすればいいかの不安が有るが、明確な目的と慣れだそうだ。

 だから目的だけはきっちり定めて、それに沿う行動をすることを決めた。

 パーティーで設定した目標もなく、ソロで状況を見て判断するしかないので、臨機応変と言えば簡単だが、対処のタイミングを間違えば、何もしない役立たずと同じだ。

 そして時間きっかりに辿り着いた場所を見て、俺は呻き声を上げる。


「実際に近くで見ると、色々と迫力があるな」

「うん、大きいよね。表面の照りとか質感とがちょっとね。でも、そうも言ってられないよ」


 セイ姉ぇは、私も苦手。と言った感じで苦笑を浮かべる。

 幻獣大喰らいは、緩慢な動作で湖の岸に体の半分を預け、岸から這い上がってきている。

 まともに戦える陸上戦。

 地理的な意味で湖上に存在する敵は、殲滅しきれなかったようだ。目に見えたダメージも無く、取り巻きもそれほど多くはないものの確りと周囲を囲んでいる。

 そして厄介なことに――


「上陸と同時に、取り巻き生成って、最悪のタイミングだよ! もう!」


 ずるりと体の肉を削ぎ落とし、地面に落ちた瞳が形を作る。湖に静かに落ちた瞳が、水を滴らせて這いずる様に迫る姿は、赤黒い体色と相まって、スプラッタ・ホラーを演出する。

 プレイヤーたちは、皆、得物を手にし、敵を前に一歩も引かない。

 俺も弓を手にするが、俺の役割はそれほど大きくない。

 パーティー戦や集団戦を体験した事が無く、敵の行動パターンを読んで、すぐさま攻撃範囲外に逃げるなんて器用な真似はできない。

 出来る事は、自分の手の届く範囲の人間の回復と補助、そして、遠距離射撃。それが俺自身に割り振った仕事だ。


「さて、俺は手の届き難い場所を狙うとするか。リゥイは回復宜しく、ザクロは近付いた敵の対処を宜しく」


 俺は、矢を構え、弓を引いた状態で狙いを定める。距離にして七十メートル程だろうか。人やモンスターの壁が層になり、ボスの足元の瞳は狙えないが問題ない。

 元々、俺が狙うのは、手の届きにくい場所の瞳だ。

 角度を六十度ほどに設定した山形射撃は、大きな弧を描きながら、狙いの背後――湖の中に落ちる。

 これでは駄目だ。周囲の声、状況を察しつつ、二射目に入る。


「――よしっ!」


 力加減と微調整で、手から離れた矢は、狙いすましたように、奴の背中に刺さる。しかし、瞳と瞳の隙間。黒肉に刺さる。やはりこういう場合、点攻撃の矢はやり辛いと思い溜息をつきながら、頭を切り替える。


「これで良い。下手な鉄砲数撃てば……次!」


 三、四と皆の頭上を先行して矢が飛ぶ中――地上では最初の衝突が始まる。


 両者がぶつかる最前線は、当初の予定通り四人から六人のパーティー単位で一匹を囲み、確殺していく。

 一体に付き、一つパーティーが受け持つ。居並ぶ二十組前後のパーティーは、効率良く、時間差で流れてくる敵を屠る事で、戦線を最低限押しこんでいる。


「ルカちゃん、抑えて! 私がやるから!」

「分かりました! ヒノさん、トビさん、そっちは抑えてください! 私は、正面。ミュウさんは背後から。コハクさん、リレイさんはサポート!」

「はいはい……そらっ!」


 ……まぁ、一つのパーティーが二体同時に相手をしている所もあるけど、流石に他の人にあそこの働きを期待するのは酷だろう。

 しかし単純な話で数が足りない。

 僅かな時間差で押し寄せる取り巻きのバラバラな動きと連携の取れたパーティー動作では、プレイヤー側が数以上の戦果を上げるだろう。

 各パーティーは、倒されない事を最重要に動くために、今のところ目だった穴はない。


 それでも全てを抑え込むことは無理で、必ず取りこぼしが後方に流れてくる。それを抑えるのが、後衛部に位置する遠距離魔法使いたちの役目だ。

 選抜された防御重視の壁役タンカーがこの場より先を押し留め、魔法でじわじわとダメージを加える。

 後背部の瞳を直接狙えないが、炎に包まれ、風に刻まれ、闇に全身を蝕まれれば、じわじわだが確実にダメージが通る。

 壁も大切、魔法も大切。そして、ここでも俺は役割を果たす。


「【付加】――ディフェンス! 全体、MP残りどれくらいだ!」

「残り一割。MP回復に入る!」

「了解! サポートよろ!」

「はいはい! ヒール!」


 数が多いが非力な魔法使いたちは、二組に分かれる。攻撃側と回復側。攻撃側が集中砲火し、ダメージディーラーを担う。MPが切れたら、壁役が押し留め、受けたダメージはヒーラーが回復する。


「リゥイ! 大丈夫か?」


 一度、弓を射る手を止めて、パートナーに確認を取る。問題ないように首を縦に振る。また、その背に居るもう一匹のパートナーは、体を硬直させやる気と緊張でガチガチの姿に、俺は場違いながらも癒され、苦笑が漏れる。

 すぐに、その緩んだ心と表情を引き締めて、前を見る。


「くっ、防御がっ!」

「抜かせるなよ! 【付加】――ディフェンス! リゥイ、回復!」


 見知った鉛色の騎士に補助と回復を掛ける。


「すまない! ユン」

「ケイ、喋る前に手を動かせ!」


 防御の高いケイはタクのパーティーから引き抜かれた。それと一緒に後衛へと流れたマミさん。タクのパーティーは五人で組んでいるからそこから二人抜けたら大丈夫なのか? と疑問に思った時もあるが。


「ははははっ! ぬるい、砂糖と蜂蜜とメープルシロップを混ぜてコトコト二時間煮込んだ液よりも甘いわっ! ふはははっ! 良い幻獣喰らいは、死んだ幻獣喰らいだけだ!」

「おいおい、テンション下げろよ。周りがドン引きだろ。あっ、ミニッツ。回復よろ~」

「はいよー」


 三人でも十分に抑え込んでいる。と言うよりも、実質タク一人が正面に立って攻撃全てを剣一本で受け流しているのが凄すぎる。

 それに、撥ねる、駆ける、宙を舞うアクロバティックな格闘家のガンツが奇声を上げながら弱点の瞳へとラッシュを掛けている。この三人、人数が少ないのに他と同等以上の殲滅ペースで心配した俺が馬鹿に思える。


「ったく……タクの奴ら、元気だな。心配いらねえな」

「ユンちゃん、タクくん心配してたんだ。ふふふっ……」

「マミさん? なんですか? その含みのある笑みは」

「何でもないよ」


 全く、訳の分からない。

 俺は、雑念を振り払い再び戦場を見まわし、再び弓を構え直し、一つの補助スキルを発動させて、矢を機械的に射続ける。

 何本、何十本と剣山のように突き刺さる矢。その中には、消えた赤い光とまだ煌々と光る赤がある。

 スキル【食材の心得】の効果だ。

 料理センスの戦闘補助スキルで敵の弱点が分かるセンスだが、こう使ってみると非常に使い勝手が良い。体にはいくつも光が残り、背中の一部分からは光が消え失せている。

 また矢を射る。また一つ消えた。背中の一番難しい部分は十個ほど潰し、背中は残り半分って所だろう。

 そして、前線で取り巻きの壁が薄れ、強引に進めば、幻獣大喰らいへと殺到することができる時、新たな動きが見られた。


「退避っ! 光線来るぞ!」


 後衛で総指揮に当たっているプレイヤーが声を張り上げる。これは事前に決めていた合図で、それと共に、皆オブジェクトの影に隠れるなりの対処法を取る算段になっている。


 一気に引く前衛に対して、前に進む一部の魔法使い。彼らは、俺と同じ土属性を選んだ魔法使いで今回の防御を担ってくれている。


「「「「「クレイシールド!!!」」」」」


 皆が唱えると共に、剃り立つ土壁。皆がその陰に隠れ、迫りくる白熱光線に備える。

 俺も例外ではなく、用意したマジックジェムを地面に叩きつけ、キーワードを唱えて、発動する。


「こっちに逃げろ!」

「助かる!」


 作り上げた土壁から覗けば、全身の瞳をぐるぐると激しく動かし、標的を探しているボス。また前線がじわじわと引き、流れ込むように押し寄せる取り巻きたち。

 特殊攻撃を凌いでも、その後再び戦線を維持するのは面倒だろう。湖を背にした幻獣大喰らいを中心に半円状に築かれた土壁。

 壁を避けるように押し寄せる取り巻きを隠れた者たちが潰して行く。その後続が有る状態で所々で危ない戦況だ。


 だから俺は俺の出来る目的――『戦況維持のサポート役』を自ら買って出ようと思う。


「俺、ちょっと出てくる! リゥイとザクロ頼むわ」

「えっ!? クレイシールドは大丈夫なの!?」

「大丈夫だ。じゃっ! 【付加】――スピード」


 そう言って俺は、前衛の退避する壁へと駆け出す。手に持つ武器を弓から包丁に切り替え、片手には、マジックジェムを用意する。

 やる事は別に敵の殲滅じゃない。土魔法やオブジェクトの影に隠れるのが遅れそうな場所に事前にクレイシールドを設置していく。

 撤退の遅れた場所は左翼側にやや多い。また魔法使いが少ない代わりに寝台馬車を壁に使っているようだが、数が足りていない。

 白熱光線の攻撃が始まった。俺は、慌てて滑り込むように馬車の影に入り込む。

 人が逃げ込むのは想定していたが、俺を知っている人達は、皆一様に驚愕の表情をしている。その中から話の分かる奴を見つけて、話しかける。


「よっ、ミカズチ。ちょっと壁足りなさそうだけど、作るか?」

「お前……なんでこんなところに居る。後衛に居ただろ」

「手貸しに来た。壁はどの辺に配置が必要だ?」

「えっと、あっちに一つ」

「じゃあ、適当に配置してくるぞ」


 俺は頃合いを見計らって、再び馬車を飛び出す。

 指定された位置に飛び出し、宝石を一つ起動させる。出来上がった壁に隠れ、再び指示を貰うために、壁の影から飛び出す。


 飛び交う光線だが、【発見】が視界に入る予備動作を見つけてくれる。視界いっぱいに広がる攻撃の中から、直接こちらを狙ってくる物とそれ以外に分ける事が出来れば、それほど対処は困難ではない。

 まぁ、それでもエンチャントの速度上昇による能力任せの逃げ方をしているので、恰好が悪いし、余裕を持ったつもりでも、ギリギリ回避した一撃もある。


「ただいま」

「ただいまじゃない! 危ないだろ! と言うより、お前……クレイシールドを複数作れるのか?」

「話が早くて助かる。で、あとどこに必要だ?」


 流石はギルドを束ねるだけのカリスマがある。すぐに状況を把握して、何が必要かを導きだしてくれる。


「左に、四つ。それと、右に三つだ。今からじゃこっちも動けないから、足止め目的で頼む」

「了解」

「後で話を聞かせろよ。叩けば、面白そうな話が幾らでも出てきそうだ」

「叩けばって、ホコリかよ」


 俺は軽口を叩きながらも、再び馬車の影から飛び出す。


 取り巻きも大分迫っているし、今あるオブジェクトの影も一杯で迎撃や連携など期待はできないだろう。だからこその足止めだ。

 俺はフィールドを横に、ジグザグに走り、マジックジェムを可能な限り撒く。撒かれた宝石の間隔を予想しながら撒く。

 そして全てのクレイシールドの宝石を撒き終わり、俺はキーワードを唱える。


「これで品切れだ! クレイシールド!」


 十幾つという土壁が競り上がり、広い範囲で敵の進撃を防ぐ。

 それもただ横に並ぶ配置ではなく、ジグザグに走った後をなぞるような配置。取り巻きが通れる場所は、狭く開けられ、押し寄せる取り巻きを分散させる鈍い角度の土壁。

 後ろから押されるように迫る取り巻きは、完全に壁で止めてしまえば、壁を壊して流れてくるだろう。しかし、僅かな『道』を作ってやることでそこに流れる。

 そう……それが狭く、細く、後ろが止まろうとも流れる。


「一先ず、成功ってことで良いのか?」

「ああっ、上出来だ。後は私ら前衛の仕事だな」

「その前に、呆気に取られている奴らに活を入れないとな」


 戻ってきた俺に労いの言葉を掛けてくれるミカズチ。

 俺一人で謎の大立ち回りを演じている間に、幻獣大喰らいの白熱光線が止まり、反撃を始めようと言うのに、未だ目の前の光景に茫然としている。


「じゃあ、俺戻るからミカズチは、後よろしく」

「任せろ。今が反撃の時だ! 分散して対処!」


 自身の得物である朱の掛かった棒状の武器を掲げ、声を張り上げる。

 その後ろ姿を見ながら、素早く退避し、リゥイたちの位置まで戻ってくる。

 右翼側は優勢、中央は拮抗。左翼側は壁を利用して再度戦線構築。と攻撃の切り返しが上手い。このまま、戦線を押し上げるなり、次の特殊攻撃前に取り巻きを殲滅出来れば、本体への道が開ける。

 ここまで来るのに開始四十分ほど。


 この時点で俺の役目は終わったと言っても良いだろう。

 手持ちのクレイシールドのマジックジェムは尽き、ボムのマジックジェムはある程度接近しないと使えず、範囲も味方を巻きこむ可能性があるために、今は使い道が無い。

 ハイポーションやMPポーションは、余裕を持ったまま戦いを終える事ができそうだ。

 ひとつ問題が有るとすれば――


「……矢が終わった」


 再び、後ろへと戻って来た俺は、再び機械的に弓を射続け、ついに背中に広がる瞳を全て潰すことができた。全て潰すのに手持ちの矢を全て使ったのは、ペースを考えていなかったことに反省する。

 幾ら、回収機能があり、多めに持ち歩いていると言っても、弓自体の攻撃力は接近攻撃より低い。何十射と撃ってやっと一つ潰せたのだ。中には命中せずに、ダメージ判定の無い場所に当たり無駄になる矢も多い。

 そして、俺が潰した瞳の数は、最終的に十五となった。


「これで俺の役目は終わりだな」


 開始の時刻から一時間二十分の事。取り巻きも殆ど掃討され、皆が、ボスを取り囲んでタコ殴りしている。ここまでくれば、必勝パターンと言っても良いだろう。


「速報――北のボス。それと、北東、西のボスは、もうじき討伐間近! 未知の攻撃パターン発見! 百一番目の瞳を発見!」


 他のグループとの連絡役の声に、俺達も早く倒すぞ。と更に士気が上がる中、殆どの瞳が潰れ、満身創痍な幻獣大喰らいは、最後の攻勢にきた。


戦闘シーン。少し切りが悪いと思うけど、投稿。

戦闘はまだ続きます。

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