Sense7
夕飯の席、無言でソーメンをすする美羽。視線は鋭く、雰囲気が悪い。
「ど、どうした?」
「別に」
普段は元気な妹だが、時折不機嫌になる時がある。まあ、思春期真っただ中の中三なのだし。と思う時があるが、今日のこの時は、思い当たる節がある。俺のセンス構成だ。
「その、済まなかった」
「何で謝るの?」
「その、ゲームの事で、お手数掛けました」
なんか知らないが、兎に角謝っておけ、それが問題を回避する方法だ。
美羽は、大きく息を吸い、盛大に溜息をつく。
「なんか、ごめんね。お兄ちゃん」
「おお、今は兄と呼んでくれるんだな」
「いや、そういう所に反応しないで」
むう、妹にお姉ちゃんと呼ばれた心の傷は意外と深かったようだ。
「違うの。ゲームでβ版の時からやっていた人が新しい人連れてきたんだけど、その人と折り合いが悪くて……気分悪くしたらごめんね」
「そうだったのか。まあ、愚痴くらいは聞くぞ」
「うん。まあ、兎に角目立ちたがり屋で、私たちが回復している最中なのに、ずんずん進んで、一人死に戻り。戻ってきたら、私たちのサポートが悪いだのって酷いこと言われたから。ちょっとね」
「あー、それで、死ぬとどうなるんだ?」
「デスペナルティーで一時間のステータスの減少だよ」
「それは痛いな。けど、俺は生産職だし、死んだ時間はアイテムでも作れば無駄が無いな」
あっ、もう方向性決めたんだ。と言われた。
「戦闘できないからな。今は、生産系のセンスを上げている最中。早く、調教外して、別のセンスを取りたいって」
「でも残念だな。ユンお姉ちゃん、美人だから戦闘に連れてって自慢したかったのに」
「勘弁してくれ。まあ戦闘に関しては、アイテム収集のためにMOB狩りは一人でするし、弓センスも多少は上げておきたいからな」
「ふーん。ユンはソロで進めるんだ」
まあ、当分は採取とMOB狩りを地道に専念しよう。こんな遠回りな行動に他人を連れ回せない。
「美羽の今のセンスってどんな感じなんだ?」
「うーん、【剣Lv12】【鎧Lv11】【攻撃力上昇Lv6】【防御力上昇Lv6】【気合いLv4】【魔法才能Lv10】【魔力Lv14】【魔力回復Lv7】【光属性Lv5】【回復魔法Lv7】かな?」
「結構成長してるな。もうセンスポイントが四つも溜まってる」
「お姉ちゃんも大体こんな感じだね。あとは、お兄ちゃんも攻撃力上昇とかのセンス付ければ、弓矢の消費が抑えられるんじゃないかな?」
「それはおいおいだ。今は、西の林で自給自足してる」
「うん、それが良いんじゃないかな。ゲームの楽しみ方は人それぞれだからね」
昼間の狩りの時とは違い、大らかな意見だ。
うーん。普段は出来る兄のはずの俺だが、ゲームになるとたじたじだ。
夕食の後は、美羽が風呂に入り、俺はその間食器の片づけや帰ってきた両親の食事の用意、俺も風呂に入って、再び、OSOにログインした。
ログアウトした時は、林の非戦闘エリアだったので、そこからのスタートだった。
ゲームの中も夜で真っ暗。このエリアは、焚火がされているので仄かな明るさがあるが周囲三百六十度眺めても真っ暗、時折飛び立つコウモリらしき影が見える。
うーん、夜の空って綺麗だな。おっ、天の川良く見えるな。と茫然と空を眺めていた。意識すれば、鷹の目のセンスで天体望遠鏡のように視界がズームアップする。
何やら、鷹の目がどんどん成長してそうな雰囲気だが、今はこのゲームの中の自然を楽しんでいる。
ぼけっと三十分程してセンスを確認した。鷹の目がLV10になっていた。やったと喜ぶ思いと、魔力が最初にLV10になるという予想を裏切り、まさか、鷹の目が最初に10レベルになるとは。
それに心なしか、周囲を見回すと暗闇の中をさっきより遠くを見通せる気がした。
俺は、さっさと新しいセンスを取得する事にした。
初期のセンスと言っても数は豊富だ。もう方向性は生産職寄りになっているので生産職でも良いかもしれないと考えながら生産職を探す。
鍛冶、裁縫、木工と続いて、最後に見つけたのは、細工だ。
これも不人気センスだった。どちらかと言うと鍛冶のついでに取得するオマケ扱い。効果は、アクセサリーの作成センスなのだ。武器や防具などの戦闘を彩る鍛冶、皮鎧や魔法職の防具作成の裁縫、杖や弓の木工じゃなくて、サポートのアクセサリー。これはもう、初期の方針――サポートに徹する隙間産業的ではないか。と即決。良い物を選んだ。という気分だ。
それにしても、センスとは奥が深いと思いながら、鷹の目を発動する。
鷹の目は、ただの遠視センスと思っていたが、暗視センスでもあるのかもしれない。一レベルにつき一メートル程度視界が広くなる。弓センスのレベル補正だけだと、今は射程五メートルほどだ。
そういえば、矢があるし、敵もいないことだし、弓の練習をして寝ようと考えた。
木の矢を取り出し、弓を引き絞る。ひっと放つ矢は、見える範囲の闇の中に消える。使い捨ての矢をどんどんと闇の中に放り込んでいく。弓のセンスは弓を射る事で成長し、敵を射る事で成長率が若干上昇するのかもしれない。
一本一本丁寧に弓を射る。弓の練習など今まで受けたことのない俺は、こうやって反復してプレイヤー自身の命中率を上げるしかない。鷹の目は遠視、暗視センスなので狙った木に当たったのかよくわかる。
今のところ、命中率は、十本中二本とまだまだだ。
弓のセンスも鷹の目のセンスも十分にレベルが上がった。気になって、弓のスキルを見てみたら確かに【アーツ】があった。『遠距離射撃』という安直な名前だ。
試しに遠距離射撃をしてみた。
弓を溜める時間が長くなる代わりに、今までよりも力強い音が響き、鷹の目でも見通せないほど遠くに一瞬で行ってしまった。
「これは、昼間に確認しないと駄目だな。さて、もう良い時間だし、寝るか」
俺は、ログアウトした。明日も同じ生産系を成長させよう。
改稿・完了