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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第2部【夏のキャンプと幼獣の森】
63/359

Sense63

 俺とリゥイは、火柱から放たれる炎を避けながら冷静に観察する。


「【付加】――スピード!」


 エンチャントによって更に速度を上げる。

 リゥイは、得意とする幻影を駆使し、炎の中を掻い潜り、俺は、我武者羅に、恰好悪くても避け続ける。


「【呪加カースド】――インテリジェンス!」


 炎の中の幼獣に向けて放ったカースドを受け、炎の勢いが弱まる。

 この炎は、魔法。もしくは、INTのステータスに依存することは予想の一つだ。駄目だったら、ATKを下げればいい。

 俺たちは、時間差でエンチャントを自身に施す。選択する種類は、魔法防御のエンチャント。時間差でエンチャントをかける理由は、一度にMPを消費しないためと同時に効果切れを起こした時の大きな隙をなくすため。

 小さなテクニックだが、これにより生存率は僅かに上がる。


「【付加】――マインド!」


 俺たちの体から黄色の他に新たに緑の光が零れ出る。これで防御面は補強できたが、まだ余裕を持てる訳ではない。

 約二分、まさしく業火のような攻撃を掻い潜り、火柱からの炎が途切れる。

 俺は、再び、開始されるまでの時間を計測しながら、頭の中をフルに回す。


 1、2、3、4……


 目の前の火柱に集中しているためにミュウたちからの声が遠くに聞こえる。今のうちに、完全戦闘用のセンス構成に変更、その中に、細工センスを含める。


 11、12、13、14……


 自分の心音をベースにして、秒数を刻む。再び動き出す初動を見逃さないように集中する。


 21、22、23、24……


 轟炎と陽炎の向こうに居る幼獣の今の状態を見通すことができない。まずは炎を取り払わないと、直接観察をすることもできない。


 31、32……動き出した。


 俺は、地面を舐めるように噴き出す炎を掻い潜り、再び二分間の我慢比べが始まる。

 汗の出ない仮初の体だが、緊張からか口元から漏れる空気が掠れて聞こえる。


「ははっ、今日は長期戦が多いな、マグロといい、火柱といい。とんだ厄日だな!」


 自嘲と共に、回避を続ける。

 打ち込む間隔が単調であるために、回避のタイミングが取りやすい。

 二度目の二分の耐久。視界の端には、ミュウたちが土壁から飛び出してきそうなのを見るが、鋭い視線で押し込める。

 今出てこられたら、逆に邪魔だ、と目だけで伝える。

 俺には、全部を守るような能力も恰好良く助ける実力もない。ただ自分の事だけで精一杯だ。


 そう考えながら、二分が経過し、炎が止まる。その瞬間を見計らい、俺はインベントリから、宝石マジックジェムを取り出す。


「ボムっ!」


 サイドスローで投げられた左右一個ずつのマジックジェムを炎壁にぶち当て、爆風で炎を散らす。火と土の魔法の衝撃が、爆心地を中心に、空白地帯を生み出す。

 火柱から露出した幼獣は、炎の衣を纏い、たった今起こった反撃に対して、怒りを見せている。

 だが俺は、その視線に答えず、炎の衣から露出する手足にある目的のモノを鑑定する。

 アクセサリー関係のセンスである細工センス。更に、鷹の目のターゲット能力と併用し、装備中の装備のステータスを見る。



 死兵の腕輪【腕輪】重量5


 ATK+50 INT+50 DEF-50 MIND-50 【追加効果】HP・MP超回復、死の解放、暴走、解呪への抵抗、呪い3


 

 完全に壊れ性能なアクセサリーに俺は、唖然とする。

 上昇効果と減少効果が極端であり、追加効果自体が異常である。

 防御を捨てた超攻撃特化アクセサリー。それでいて、制御不可能な効果と装備の解除が困難な呪いのアイテムだ。

 HP・MP超回復。ってことは、この攻撃の止む三十秒間が回復期間だろう。

 死の解放は、装備者が死亡した瞬間に装備が外れる。とかそんなアイテムだろう。でなければ、永遠にこの暴走状態だ。

 そうして暴走と呪い3。そのままの意味と捉えよう。

 最後に、解呪への抵抗――名前だけなら、解呪の成功率低下とかだろうが……


「まあ、予想はしていたが、実際見ると最悪だよ。運営の殺しに掛かりっぷり」


 そうこうしている間に、纏った炎が増大し、火柱が復元される。

 その間隔は約、五秒。

 作戦は、決まった。二分の回避、停止の三十秒間にボムのマジックジェムで炎を引きはがし、その五秒間の間に、手持ちの解呪薬で解除可能にする。


「ボムのマジックジェムは、残り8個。チャンスは、そう多くは無いな」


 再び、逃げに徹する。リゥイのスタミナも問題ない様子だ。

 


 第三ラウンドの我慢比べもリゥイの方が、危なげなく避けていく。俺は、時折、服の端を炎が舐めるように触れ、HPにダメージを負うが、致命傷というレベルではない。

 エンチャントの掛けなおし、減少したHP、MPに対して惜しげもなく、ポーションを使っていく事で第三ラウンドもなんとか耐えた。

 炎が止み、反撃の瞬間、俺は、手持ちの宝石を投げると同時に、火柱に駆け出す。


「ボムっ!」


 近づきすぎて、ボムの爆風に晒され僅かにダメージを受けるが、超至近距離での多重暴発に比べれば、どうってことは無い。

 一気に幼獣に接近できた俺は、素早く解呪ポーションを取り出し、その腕に当てる。

 割れるビンと零れるポーション。俺は、それを確認する間もなく、体を反転させ、火柱の領域から脱出する。


 背後から迫る轟々という炎。一瞬、逃げ遅れたと感じた俺の背に熱と痛みを感じ、呻き声を上げる暇なく、逃げる。


「これは……背中に直撃か」


 首だけで振り返ると黒こげた外装の端が見える。背中を引き攣るような痛みが走り、顔を顰める。背中の広い範囲を直火であぶられ、リアルならば直接見るのも憚られる状態だろう。

 俺は、インターバルのこの瞬間、ポーションを取り出して、回復を試みるが、完全には治らない。火傷の状態異常でポーションで痛みの治まった場所も再び、痛みが走る。


「痛っ……まさか、ここで状態異常のチキンレースかよ。ポーション足りねぇ」


 俺のぼやきに、すぐさま駆け寄ってくるリゥイは、体から水を生み出し、生まれた水球が俺の背中を優しく包み込む。

 引き攣る痛みは、水に溶かされるように、ふっと消え、水の消えた後に残るのは、傷のない綺麗な背中だけだ。


「幻術の他に、治癒術か。サンキュ! 助かった」


 インターバルの残り二十秒。リゥイと並び、火柱を眺める。

 炎の中には、黒炎の髑髏が生まれ、カウントを『2』と表示する。つまり、あれが、零になった時、あの装備は外れるのだろう。

 最初の火柱の煌めく赤は、その温度を上げて、青へと変化を遂げる。


「全く、状態異常もあるし、解呪への抵抗……なるほど、解呪が成功する度に能力が上昇する追加効果か。厄介だな」


 奴の炎は、後一段階強くなる。これは、もうミュウたちには逃げてもらった方がいい、余波がどれほどになるか分からない。


「お前ら! 今のうちに逃げろ! これからどうなるかわからん!」

「何言ってるんですか! ユンさんを置いていけません!」


 声が上がった時には、すでに、幼獣からの攻撃が再開される。俺は、威力の増した炎を避け続けながらも、ルカート達の説得を続ける。


「魔法使いが四人もいるんだ! MPのある内に、すぐに逃げろ! ここで守りに固まってたら! ジリ貧だ!」

「ユンさん一人で戦えるなら、私たちだって戦えます!」

「じゃあ聞くが! 奴の装備品に【解呪】を掛けられるか! できないんなら下がってろ!」


 ルカートの悔しそうな顔が見える。だが、スマンな。ただ倒すだけなら圧倒的な魔法の連続や炎の裂け目から連続攻撃をすれば終わるんだろう。今回の戦い方は、完全に俺たちの我儘だ。


「私使える! 回復魔法の中に【ディスペル】の魔法がある!」


 声を上げるのはミュウだ。他にも、守りや炎を引き付けることはできると、ルカートたち全員があらわれた。


「全く……お前ら、俺はあれを倒すんじゃなくて、装備を解呪するんだぞ。めんどくさいぞ」

「良いんですよ。私たちがユンさんを手伝いたいと思ったんですから」


 良い笑顔で返してくれるルカート。周りに目を向ければ、トウトビは、炎の中、移動系のセンスだろうか、残像や瞬間移動を駆使して翻弄している。

 また、ルカートやヒノは、コハクとリレイの魔法使いとペアで、防御と翻弄に参加している。

 要のミュウには、リゥイが着き、リゥイの生み出した水の盾が、炎と相殺し、ミュウを守る。


 炎の勢いが増し、引き付け役が増えて、一人ひとりの負担が確実に減った。

 ここからラストスパートをかけるとしよう。




 

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