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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第2部【夏のキャンプと幼獣の森】
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Sense62

 ミュウたちのベースキャンプは、まさに地獄絵図と言っても過言ではない。

 中央に立ち上る火柱、その火柱から逃げるプレイヤーたち、逃げるプレイヤーを炎が飲み込みその内で崩れていく人型。

 どうしてこんなことになっているのか、俺もミュウたちも分からず、ただ呆気にとられていた。


「いや……いくらキャンプファイヤーやりたいからってちょっと日が高すぎるんじゃないのかな?」

「冗談言っている場合か! 明らかな異常事態だぞ。……ルカートたちと合流しよう。まずは連絡してくれ」


 ミュウの言葉は、冗談だとはわかる。だが普段の冗談とは違い、完全に顔が引き攣ってた。それだけミュウにも衝撃的だったのだろう。

 普段、妹の動揺など殆ど見ないために、逆に俺の心が冷えていき、周囲の観察を始める。

 周囲のテントや置きっぱなしの道具類に炎が燃え移り、キャンプ場としての機能は壊滅的だ。不幸中の幸いか、きちんと距離感を持って置かれていたために、今燃え盛る炎は、俺たちの行く手を遮ることがないのは安心だ。

 最悪、逃げる時に、これらが炎の迷宮と化してしまう。


「ルカちゃんと連絡取れた! 今、人の誘導しているって!」

「分かった! 俺たちから動いて合流しよう。パーティーでマップを共有しているから場所は分かるよな。トウトビたちはナビゲート頼む」


 二人は、表情硬く頷いてくれた。本当は、彼女たちだけを逃がすことだけを考えれば、全滅は免れるのだが、仲間の危機に駆けつけたいと言う強い意志がひしひしと伝わってきて、それは言えなくなる。

 俺は、付け焼刃だがないよりマシと考えて、全員にDEFとMINDのエンチャントを施して人の流れを逆行する。


「こうなる予兆とかあったか?」

「……ありません! これほどの魔法か攻撃をするMOBは確認されていませんし! 第一、セーフティーエリアには通常のMOBは侵入できません!」


 普段、落ち着いた口調のトウトビでさえ動揺している。


「僕は、ユニークアイテムが原因だと思うな。誰かがチート武器持って暴れているとか」

「ヒノちゃん、ネット小説の読みすぎ! リアルのオンラインゲームでチートなんてあったら、プレイヤー離れしちゃうからあり得ない!」


 リアルチートのお前が言うな、と他三人の心の声が一致する瞬間。だが次の時には、そんな余裕すらなくなる。


「炎襲来! 防御!」


 俺は、声を張り上げ、固まるように指示。インベントリから取り出したクレイシールドのマジックジェムを地面に叩き付ける。


「クレイシールド!」


 競り上がる土壁と後からぶつかる炎。散らばる炎が土壁を這い、俺たちの顔を熱気にさらす。

 壁の端からわずかに頭を出して、炎の向こう側を見るが、未だに炎を振り撒き、落ち着いていない。


「……これじゃあ、進めないね」


 目的の距離まではそれほど離れていないが、この炎を掻い潜り進むのは難しい。


「お姉ちゃん、ルカちゃんたちがこっちに来れないって。今、取り残されているプレイヤーを守るために防御に徹している。って!」

「いよいよ、救出が必要になってきたね。原因は分からないし……僕らだけでできるかな?」


 三人が不安そうにしている。防御に徹するといってもこの波状攻撃のような炎をいつまでも耐えられるとは思えない。そして、耐えられなかった先にある最悪の事態を想定している。

 くそっ、と悪態を付きそうになる中、右手に触れるものがある。


「……リゥイ……すまん、お前も不安にさせたな」


 右手にすり寄るリゥイ。じっと、見詰めてくる。


「炎も少し弱まってきたな。もう少ししたら行くか」

「……ユンさん、炎の方から誰か来ますよ」


 逃げるのが遅れたプレイヤーだろう。簡素なベストにちょび髭蓄えたおっちゃん。頭にちょこんと乗る帽子が愛嬌を誘う。

 俺たちは、こっちへ来るように手招きして、避難を誘導する。


「ひっ、ひぃ、ひぃ……助かった……ゲームでもここまで走るのは久しぶりだ」


 緊張か、それとも全力疾走が原因なのか、息を切らして、土壁の裏側に逃げ込んでくるおっちゃん。


「大丈夫か、おっちゃん」

「ああ、君たちも逃げ遅れたのかい? あそこは、近づけない。止めたほうがいい」

「ルカちゃんは! ルカちゃんたちはいる!」


 息を大分整い始めたおじさんに、ミュウは凄い剣幕で迫る。


「……ミュウ、それだと伝わらない。すみませんが、私たちの仲間が避難誘導をしているはずなんです。それで、中心地近くで取り残されているようなのですが、ご存じないでしょうか?」


 トウトビの要点を得た丁寧な質問に、おっちゃんは、思案気な表情をして答える。


「分からない。私は、発生直後にあの側に居て逃げ遅れたんだ」

「そっか……でも、まだフレンドが繋がってるから無事だよね。きっと」


 絞り出したような笑みを浮かべるヒノ。だが、楽観視できない。


「おっちゃん、ことの真相ってわかるか? 発生直後を見たなら」

「ああ、それと私は、おっちゃんではなくトトルだ。原因は、幼獣だよ」


 俺たち全員が俺の隣に居るリゥイを見る。

 トトルさんも、リゥイを見て、幼獣を持っているのか、凄いね。と言ってくれる。


「なんで幼獣が原因なんだ?」

「全身金鎧や悪趣味な服装のパーティーが一匹の幼獣を連れてきた。いや、拉致してきたんだ」


 拉致とは、穏やかじゃないな。つまり、強引に連れてきた。ということか。


「とてもうるさく騒ぐんで迷惑だな。と思いながらも、彼らは初日から人に突っかかったりしていたから遠巻きに見ていたんだ。それで、ぴたりと静かになった途端に、その幼獣から炎が噴き上がり始めたんだよ」

「……原因は? なんでそうなったの?」

「さぁ? 遠巻きだったから分からないけど、何か光るものを持っていたよ。腕輪みたいなものだったと思う」


 先ほどのトウトビとヒノの予想は微妙にニアピンのようだ。

 幼獣のような特殊MOBは、このセーフティーエリアであるベースキャンプに侵入できた。

 そして元凶は、腕輪型のアクセサリーの可能性が高い。と言うことだ。


「全く、その馬鹿どもは、こんな問題起こしやがって! 残っていたらとっちめてやる!」

「はははっ……無理だと思うよ。真っ先に炎に喰われたのが彼らだからね」


 乾いた笑みを浮かべるトトルさん。話を聞いていたら炎が弱まり始めた。


「よし、俺たちは、また奥に向かう」

「私は逃げるよ。まだまだこのイベントを楽しみたいからね」

「賢明だ」


 俺は、大仰に肩を竦めて、その場で分かれる。炎が弱まっているこの瞬間、駆け出し、事態の中心地へと向かう。

 中心に進めば進むほど、顔を焙る熱気で皮膚がひりひりする。

 中心地へは、それほどの距離は無い筈なのだが、熱風と時折襲う炎弾で行く手を遮られ、視界は蜃気楼が立ち込め、【鷹の目】を持ってしても、奥まで見通せない。

 こんな所で欠点を見つけるなんてな。と苦笑した瞬間、視界の端に何かが反応した。


「ルカちゃん!」

「無事みたいだね! 僕らも行こう!」


 近づいて確認したルカートたちは、その攻撃を一身に受けて耐えていた。

 火柱の中に存在する小さな影は、炎の中からでもはっきりとわかる視線を彼女たちに向け、強烈な火炎放射や炎を打ち出す。それらを魔法使いであるコハクやリレイ、そして保護されているプレイヤーの内、魔法使い二人が代わる代わる防御魔法を行使して耐える。

 だが、俺たちが今まで避けていた攻撃とは密度が違う。二人掛かりでやっと抑えることができる。という感じだ。


「あかん! MP切れるで!」

「そんなことを言われましても、MPポーションありませんよ……あっ」


 今抑えていたコハクとリレイが、そんなことを言っている間にリレイの方の防御魔法が消滅した。

 残されたコハクの防御魔法に負担が一気に掛かり、ガラスのように罅割れが始まり、崩壊が秒読みになる。


「間に合えよ!――クレイシールド」


 インベントリの中から片手一杯に取り出したクレイシールドを幼獣とルカートたちの間に投げる。

 途中で出現した四枚の土壁に炎がぶつかり、その後、コハクの防御魔法がMP切れで消滅した。


「何があったんですか?」

「助けにきたよ! ルカちゃん、みんな」


 ルカート、コハク、リレイの三人に、誘導しているだろうパーティーが五人。俺たち合わせて計十二人がここで防御を始める。

 魔法が使える奴は、MP切れや寸前で自然回復では間に合いそうにないので、MPポーションを無言で振りかける。


「ありがとうございます、ユンさん」

「礼は後で良い。それより、すぐに逃げられるか?」


 ルカートに最低限の言葉で確認を取るが、困惑顔でどうにもよろしくない。

 その間にも、断続的に攻撃の加えられる土壁がいつまで保つかが分からない。


「無理なのか?」

「ええ、私たちがターゲットにされていますので、背中を見せたらすぐに狙われます。逃げるのでしたら、誰かが囮……いえ、言葉を濁してもいけませんね。誰かが時間稼ぎして犠牲になってもらうしかありません」


 その言葉に、思った感想は、厄介事に首突っ込んだな、ということだ。今晩の晩飯作らずにリタイアなんて許されないだろう。いや、絶対に死ねない。


「もう一つの方法は、あの幼獣を倒すしかありません」


 まあ、妥当だな。成体化していないMOBだ。総合的なステータスは、低いだろうし、この場に居る十二人でうまく立ち回れば勝算はあるだろう。


「全員、幼獣を討伐する方向で異存は無いか?」


 その言葉に、みな静かに頷く。よし、じゃあ、作戦を考えないとな。と思った矢先、俺の後ろから衝撃を受ける。

 よろめきながら振り返ると、リゥイが頭突きをしてくる。それも何度も、何度も。


「おい、今は遊んでいるときじゃない。分かるだろ」


 それでも何度も何度も続けるために、怪訝に思い、しゃがんで目線を合わせる。


「どうした」

「……」


 言葉が無くては全ては伝わらない。だが、正面から見つめる瞳に籠る感情。それは――懇願だ。

 出会って間もないパートナーが、このような表情をする理由を考える。


 リゥイが懇願する理由。この浮遊大陸の基本設定、そして、石碑の一文。

『――獣の楽園。魔獣が、幻獣が、互いに認め、互いに守り合う場所――』

 つまり、リゥイは、目の前の同胞を見殺しにしたくない、助けたいと言うことなのだろう。


 全く、憶測でしかない。だが、そのように思い込んでしまったら、何としてもその願いを叶えてやりたいと思ってしまう。

 それに自分自身が更に困難に立ち向かうことになっても、だ。パートナーの願いを聞いてやるのが、男の度量ってもんだろ。


「悪い、時間を取らせて」

「いえ、どうしたんですか?」


 ルカートが心配そうに聞いてきたので、俺は努めて明るく答える。


「悪い! 俺は討伐反対だわ!」


 全員のぎょっとした顔と共に、俺は、リゥイと共に土壁の裏から飛び出す。


「さぁ、俺たちでやれることやるか? 相棒!」


 一人と一頭がでっかい炎に立ち向かう。俺は別にトッププレイヤーじゃないが、勝算は、あるつもりだ。


ゴールデンウィーク中、体調を崩し、更新が途絶えてしまったこと誠に申し訳ありません。

まだ、本調子ではなく、これを書き上げるのにも時間が掛かりました。少しの養生の後に必ず復活します。

どうか暖かな目で見守ってください。

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