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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第2部【夏のキャンプと幼獣の森】
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Sense59

 少し目を離した隙に、俺の昼飯は、綺麗さっぱり消えていた。そして目の前には美しい毛並みの真っ白な子馬。きっと撫でたら、たてがみがサラサラで気持ち良いんだろうな。と思う程だ。

 状況証拠から考えると、この美しい白馬が俺の昼飯泥棒だと思われるのだが……


「お前、何時から居たんだよ」


 気がつかないほど掲示板に集中していたのか……と俺は思ったが、どうやら違うようだ。

 白馬が視線をこちらにちらりと向けた瞬間、馬の周囲の景色が歪んで消えた。


「……っ!?」


 だが、俺が消えた場所に視線を集中させると、ぼんやりとだが姿が見えだした。白馬は一歩も動いていないことが分かった。

 俺の表情を読みとったのか、どうだ、満足か。とでも言いたそうな不遜な態度の白馬は、姿を消した時と逆に行動をとる。

 

「……お前、ステルス機能搭載とは……恐ろしいな」


 驚きに賞賛を混ぜた感想が自然と口から零れる。


「発見のレベルが高くなかったら見つけられないぞ」


 続いて出る言葉は、理不尽とも思える発見難易度を設定する運営への不平だ。

 こんなのは、一日二日のレベル上げでも見つけられないだろう。

 俺の言葉に、特に大きな感情の機微もなく、尻尾を一度振るだけの返答。白馬に取っては、俺の感想はどうでも良い物だったのだろう。

 この白馬のステルス機能は、子犬のリクールの氷と同じように個々の幼獣の特性の一つなのだろうと当たりを付ける。

 それにしてもあまり好意的な印象を受けない。こちらへの敵意もなければ、関心もなさそうだ。


「それにしても、俺だって腹減ってるんだし、まあ、俺は作れるから良いか」


 作るだけなら簡単だ。食材も豊富、料理キットを取り出し、食材を適当に切って炒める。

 出来上がったのは野菜炒め。

 じっとこちらを見つめていた子馬は、静かに立ち上がり、野菜炒めを凝視する。


「……お前、食ったばかりなのに食べたいのか?」


 こくん、と頷くので、俺は子馬の前にお皿を差し出す。

 もりもりと食べ始める姿を見て、今なら触れるんじゃないか? という好奇心に突き動かされ、横に周り、身体に触れる。

 手全体が触れても全く動じない。


 なでなで……さらさら。

 ふわもこの幼獣ではないが、この触り心地は、癖になる。

 特に長いたてがみを指の間に通すと、光を乱反射して、綺麗に映る。


「……お前、俺と一緒に行動するか?」


 白馬は、こちらに頭を向けると、その澄んだ目でじっと見てくる。十秒、二十秒と長い沈黙。駄目か。と半ば諦めかけた時、その頭が、俺の腹にぐいぐい押しこまれた。


「お前っ! ちょっと、押すな!?」


 いきなりの出来事に、そのまま尻もちを付く。予期せぬ転倒で足をハの字に崩した格好――つまるところ女の子座りになり、白馬は、その膝の上に頭を乗せてくる。


「おい……これはどういうことだ?」


 尻尾だけ振って、完全に目を瞑っている。

 昼寝の準備はできているようだ。

 俺まだ昼飯食べてないんだけど、これじゃあ料理できないじゃん。と思いながらも、白馬の気持ち良さそうな雰囲気で何となく邪魔してはいけないと感じた。

 仕方なくインベントリの果物を食べて空腹を紛らわす。


 俺は、片手で白馬のたてがみや首を撫でながら起きるまでの時間を掲示板に当てる。


 半分も見ていなかったが、興味のある内容だけピックアップして流し読みしていく。

 このフィールドで確認されたユニークMOBとそのドロップまとめ。


【テント・ムシ】――大型テントウ虫。背中の星の数でドロップするテントが何人分か分かる。

【スパイス・スパイダー】――クモ型MOB。混乱作用のある息を吹きかけてくる。魔法の調味料をドロップ。

【スイーツ・ツリー】――人面樹MOB。木には、色取り取りのお菓子がある。スイーツ・ファクトリーというお菓子作り用調理道具をドロップ。

【ストーブ・ブル】――暴れ牛MOB。身体がストーブの牛の突進力は驚異。オーブン・ストーブをドロップ。

【ヒマツブ・シザース】――大型エビ。身体は本で出来ている。書物をドロップ。内容はランダム。

【キャンピング・ゴブリン】――キャンプに必要と思われる道具をランダムに一つ落とすゴブリン。強さは、フィールドのユニークの中で一番強い。


 だいたい、こんな感じだ。ネーミングが駄洒落なのは、もはや運営の茶目っ気だと思おう。

 昨日倒したのは、スパイス・スパイダー。

 今日一日回る予定である南側方面には、スイーツ・ツリー。湖周辺には、ヒマツブ・シザースが存在する。キャンピング・ゴブリンは、個体数が少なく徘徊しているので、出会えれば幸運だが、戦おうとは思わない。

 狙いは、スイーツ・ツリーとヒマツブ・シザースだな。


 他に【てくてく旅行記・浮遊大陸編】の掲示板には、遺跡の壁画や哀愁漂う崩れかけた石碑などが見つかり、そのスクリーンショットが掲載されている。

 多くの人は、読めずに憶測を交えていた。

 これは、古代語か、とか意味の無い羅列、模様だ。など。勇気のある人は、このセンス習得に制限のあるこの期間に言語学を取得して解読を試みたが、駄目だったようだ。

 それはそうだろう。これはレベル1の言語学じゃ読めない。

 俺も【調教】から【言語学】に変えて読んでみたが、半分も読めない。


「……『ここは、獣の楽園。魔獣が、幻獣が、互いに認め、互いに守り合う場所。種は違えど、同じ獣。女神の願いは、この地を満たす』……あとは、読めないな」


 石碑の一文だ。それ以降の説は、掠れている箇所とレベル不足のため読めない。

 俺は、このスクリーンショットを自身のファイルに保存し、空を仰ぎ見る。


「女神の願いね。絵本の通りなら、獣を守る存在は幻獣だけだろ? それに絵本には最初は魔獣って存在しなかった。うーん、このフィールド限定で魔獣と幻獣は敵対していない。ってことか? むしろ協調関係? わからん」


 前読んだ絵本が抽象的ならこの内容も抽象的だ。言語学のレベルを上げれば他の石碑や壁画を読み解けると思うんだけどな。今晩あたりクロードと論議でもするか。


「あっ、なるほど。だからヒマツブ・シザースがいるのか。本読んで出直せ。ってことだな」


 無駄に凝ってるな。それに石碑の見つかった場所は、ヒマツブ・シザース出現付近。これは狙っているとしか思えない。


「午後は、湖に直行だな。実際行って、何か見つかるかもしれないし。ほら、お前もいつまでも昼寝してないで午後の狩りに行くぞ」


 白馬がのっそりと起き上がり、気だるそうな目を向けてくる。もう少し昼寝を楽しませろ、と言いたげな恨みがましい視線に苦笑を浮かべる。


「夕飯のためだ。我慢我慢、それに膝枕ならまたやってやるから」


 なら、仕方が無い。と俺の隣を並んで歩く。子馬と言っても、頭は、俺のわき腹程の高さで、この段階では大型犬ほどの大きさだ。毛玉で抱き抱えられるリクールたちとは違う赴きがある。


「……お前の名前、どうする?」

「……」

「無口だな。しゃべらないから……クチナシとか。って、うわっ!? 気に入らなかった!? ごめんごめんって」


 俺を後から頭突きして、不満を表す白馬。名前って難しい。


「うんじゃあ、リゥイ。リゥイはどうだ?」


 そう言うと、頭突きをすることを止め、つんとした態度を取るものの決して俺から離れず歩調を合わせてくれる。気に入ってくれたかは分からないが、これは認めてくれたと思っていいだろう。

 俺達は、てくてく歩いて南東の人工水路を下り、湖へと流れる水門橋を渡った先は、広い範囲で干潟が伸びた湖のほとりだった。


「これなら干潟で食糧確保すれば、泳ぎ装備は必要ないか」


 俺が一歩干潟に踏み出すが、足元が不安定で少し手間取る。リゥイは、その不安定な足場には決して入ってこない。


「リゥイは、干潟が駄目か。そこで待ってろ。今晩の食材取りに行ってくるから」


 そう言うと、首肯して膝を折って昼寝を始める。例の如く、あのステルス状態だ。これなら殆どの人が発見できないし、安全だろう。


 俺は、意識を干潟に戻す。少し深みに進めば、大ぶりのエビや貝などが見てとれる。

 腰を屈めて取ろうとすると、大きな鋏や貝殻で手を鋏もうとする。


「あぶねぇ……ってこれMOB扱い?」


 試しに包丁を取り出してその場で斬りつけるが、ダメージが入らない。改めてセンス装備を整えると攻撃に判定が発生した。と言っても殻に弾かれるだけだ。


「動きも遅かったり、動かない。それで、MOB……こう、エビは、後に回って、甲殻の隙間に包丁を当てて……」


 包丁の先端を隙間に押し当てて、ふぅー、と息を吐き集中。一気に、包丁に力を込めて、隙間から両断する。

 最初は、強い抵抗感を感じるエビを力押しで押し込めば、ゴリッという最後の抵抗の後、姿が消え、インベントリにエビが入っていた。


「MOB狩りで包丁って使えるんだな。短剣使いならぬ、包丁使いってネタにしかならない」


 だが、短剣は、そこそこの厚さがある。こうまで綺麗に隙間を攻めることが出来るのは、包丁の薄さと鋭さがあるからだろう。まあ、中華包丁は、処刑人の処刑道具。巨大魚解体用の包丁は、刀かのこぎりと言った印象を受けるのは俺だけではないはずだ。


 その後も、殻に籠った貝の隙間から包丁を指し込み、中で貝柱を切り落とすと貝を手に入れることが出来た。

 どれも一体ずつ隙間を狙っているので余り効率が良いとは言えない。時間ばかりが掛ってしまう。

 だが、弱い敵もちょうど百匹倒した所でシステムメッセージを受け取った。


『料理センスがレベル10以上に、そして包丁による百体討伐によりスキルが発生します』

「レベルとイベント以外でスキルが発生するって聞いたことが無いんだけど」


 【料理】スキルの基礎三つ【調理】【加工】【調味料作成】に新たに一つが加わった。

 それにしても包丁でMOBに攻撃するとレベルが上がる。って何?


「【食材の心得】――十分間の間、敵に赤いマーカーが発生する。その場所を攻撃するとダメージ増」


 つまり、弱点発見のスキルなのだろうか。試しに使ってみると、周囲のエビの甲殻の隙間に赤いマーカーの線が走る。

 エンチャントとは違い、両者のステータスに補正を掛けないので、武器センスのダメージ補正に近い感じだ。

 限定的な攻撃範囲によるダメージ補正……完全に下位互換と言えるだろう。


「はぁ~。ヒマツブ・シザースも会えないし、一度湖の中を確認して、帰るか」


 装備の【調薬】センスを外し、【泳ぎ】センスに切り替える。レベル的に高い調薬を外すのは少し不安が大きいが、そこはエンチャントの補正で何とかカバーする。


 水中は、澱みなく水の流れで水草がゆらゆらと揺れ動いていた。

 川の急流に比べれば抵抗の少ない水の中を自由に泳ぎまわり、湖底に建物の端っこのようなものを見つけた時、視界の端を猛スピードで駆け抜ける黒い魚影を見つけ、咄嗟に避ける。


(あぶなっ!? なんだあれは)


 振り向き様に見る魚影は、黒々とした体長一メートル五十センチはありそうな巨大魚。名前は、ヨウショク・クロマグロ、という。

 今まで相手にしたエビや貝とは比較にならない強さの魚介類に俺は確信する。


(こいつはこの湖のユニークMOBだ)


 どうする、目の前の建物を調べたいが、奴が絶対に邪魔をする。ならば、退けるしかない。

 俺は、一度水面に浮上する。途中まで俺を追ってきたクロマグロだが、ある一定の深度からは抜け出せない様子で、途中で戻って行く。


「さて、戦略でも練って、奴を討伐するか」


 最悪、水面へと逃げれば奴は追ってこない。出来るだけ挑戦するか。

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