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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第2部【夏のキャンプと幼獣の森】
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Sense54

『よく参加してくれた、プレイヤーの諸君。私は、【OSO】開発部部長の吉野和人だ』


 そのアナウンスで、全てのプレイヤーのざわめきが止まり、アナウンスに耳を傾ける。


『このイベントは、新規プレイヤーにも楽しめる仕様にしてある。今回のイベントは――【森林キャンプゲーム】だ。夏と言えば、アウトドア。君たちには、この森の中で六泊七日のキャンプをして貰う』


 どこからか、ふざけるな! これはデスゲームなのか!? ログアウトさせろ。などと言う声が上がるが、話はまだ終わっていない。


『君たちは、何か勘違いしているようだね。これは、危険でも無いし、時間も拘束していない。このフィールドは特別サーバーによって時間の流れが普段のフィールドの約八十倍の速さで流れている。つまり、この場での一週間は、リアルでは二時間程度だ。それだけ濃密なレベル上げが出来る、という事だ。さぁ、言いたいことは分かるね』


 つまり、これに参加した人は、二時間で一週間分のレベル上げができる。と言うことだ。ってどこの修行部屋だよ。


『もちろん、通常のゲーム進行をしたい人は、モンスターと戦って死に戻りしてくれて構わない。この場合、デスペナルティーは発生しない』


 ここまで話して一区切りつける。他のパーティーは、既にやる気になっているようだ。ここは未知の森なのだ。そこでレベル上げなど、楽しまなければ。という気分のようだ。


『では、これからルールを説明する。六泊七日のキャンプイベント。皆が居る場所は、セーフティーエリアだ。この森の中には、複数セーフティーエリアを設けてある。今いる場所以外に移動しても構わない。

 そしてこの森は、浮遊大陸の森であり、遺跡や湖、山などが存在する。むろん、イベントなので各場所にユニークモンスターやアイテムなどが配置されている。己のセンスを信じて、それを探すのも楽しみ方だ』


 遠くの場所で盛り上がるような声が上がる。


『更に森には、非アクティブなモンスターの幼獣たちが徘徊している。彼らは君らと非常に友好的な存在だ。もしもこの一週間で友好的な関係を築くことが出来れば、召喚石となり、君だけのペットになってくれる。また調教センスを持っていれば、従魔として共に戦うこともできる』


 更に、別の場所で声が上がる。


『最後に、この一週間を生き残った人たちは、その行動を数値化し、そのポイントが高いパーティー五組を入賞者として、記念品の贈呈をする。また、このエリアで取れる全てのアイテムは、持ち帰ることも出来るので、入賞を狙わずにレアな素材を探すのも楽しみ方だ』


 この瞬間、興奮は最高潮のようだ。皆が入賞を狙うために、やる気を漲らせる中で、俺は一人別の事を考えていた。

 なるほど、キャンプをやらせるためにアイテム制限掛けたのか。とか、このエリアのレア素材持って帰って栽培出来れば良いな。など一般のプレイヤーとは全くお門違いな考えだ。

 この高まる興奮の中で、吉野和人は、興奮したプレイヤーたちに冷や水を浴びせる。


『ただし、制限もちゃんとある。全てのプレイヤーは、この期間中のセンスの習得は一回までとする』


 まあ、妥当な部分だろう。この一週間、新しいセンスを取ってはレベル上げ、よりも一つのセンスを選んで、レベル上げして貰うのが意図なのが良く分かる。


『そして、センス【サバイバル】を事前に取得していないプレイヤーが取得した場合、最終日のポイント換算に大幅なマイナス修正を掛けること。目算では、入賞は狙えないな。そして、この期間だけSP20以上を取得していないプレイヤーでも【サバイバル】の習得が可能になる。

 最後に、この森で手に入るアイテムの多くは、取得直後は未鑑定である。一度効果を体感するか、それに対応するセンスを持つことで鑑定することができる。その鑑定情報は、パーティー内で共有することができる。

 フィールドのマップもパーティー内で共有することが出来るために迷わないだろう。以上の制限の元、皆には、励んで貰いたい。

 第一陣の諸君は、あまり急ぎ過ぎると足元を掬われるよ。第二陣の諸君は、焦らずしっかりと進むことを勧めるよ』


 アナウンスが止み、皆がしばし呆然としている中で、俺は、このフィールドのマップを開いた。今いる場所は、浮遊大陸の中心部のようだ。俺の鷹の目が視認できるセーフティーエリアから半径百メートルの範囲が、マッピングされ、残りは灰色に塗りつぶされている。

 周囲の人たちは、皆我先にと森の中へと入って行くのを尻目に、俺達はこの場で腰を下ろす。


「さて、ベースキャンプでも作るか? 空腹度システムの導入で食糧確保は先決だ。みんなは、どういう持ち物を持ってきているんだ?」


 クロードのその言葉に、俺達は、それぞれ自分の持ち物を開示する。

 マギさんは、高級携帯炉という携帯炉よりも扱える金属のランクが高い持ち運びできる炉、採掘用のツルハシ。あとは、鋼のインゴットが二十個と武器の槌と斧。って武器使えたんだ。そして防具とアクセサリーが十点。残りは、食品アイテムが五点と回復薬。

 クロードは、裁縫キットと布と皮、綿の生産素材アイテムが合計五十点、武器の杖と防具、アクセサリー合わせての15点、食品五点、回復薬が残り。

 リーリーは、木工道具。そして、木材の元となる原木が三十本。これは木材九十本分に相当する。そして、武器の短剣と防具、アクセサリーの十五点、食品五点、残りは回復薬。


「……なぁ、皆は、何しに来たんだ?」

「あはははっ……ユンっちの言いたいことは分かるよ。公式イベントになんで戦闘に関係の無い物持ってきてるの? でしょ? でも僕ら生産職だよ。ユンっちだってそうじゃん」


 そう言われると反論できない。って元々俺は薬師だからポーション持ってるのは当たり前。って生産道具が他の三人より多いのは確かだ。

 この中で錬金、合成、調薬、細工、そして料理。何したいんだろうな。俺は。


「それよりユンは、薬師なのにポーション類の原料を持っていないとは……生産職として嘆かわしい」

「こんなキャンプイベントだとは思わなかったんだよ! すぐに使える物じゃなきゃと思ったんだから!」


 俺が声を上げて抗議すると、クロードは罰の悪そうな顔をして、冗談だ。と言ってきた、紛らわしいし。この人そう言えば、女性に対してヘタレだった。


「まあまあ、クロードもユンくん弄るのそれくらいで。さあ、幾つか実験だよ」


 マギさんは、少し離れた場所に歩いて行き戻ってくる。その手の中には、草が何種類か握られていた。


「クロードとリーリーはこれを見て、なんの種類か分かる?」

「いや、分からんな」

「ごめんね、マギっち。分かんないや」

「じゃあ、次、ユンくん」


 そう言って見せてくる草だが、三種類――薬草、毒草、そしてハーブだ。今回のイベントでは、多くのアイテムが未鑑定で存在し、対応するセンスが無ければ、見ることが出来ない。現にクロードとリーリーは確認することはできなかった。


「えっと、薬草に毒草。それとハーブ」

「あっ、僕も今分かった。つまり、ユンっちが植物鑑定に対応するセンスを持っているってこと?」

「だとすると、【調薬】センスだろうな。あれは薬草を使うから」


 自分の推論が正しかったと胸を張るマギさん。つまり、サバイバルは、複数の知識も得るが、ピンポイントで役立つセンスもある。と言うことか。


「さて、推論の一つが分かった事だし、ここで別れて行動しよう。二班に分かれて食糧調達とベースキャンプ作り。私とユンくんが周囲の食糧集め。クロードとリーリーはベースキャンプ作りね」

「分かった。最高の寝床を用意してやる」

「楽しみだね! 夜のお泊まり会ってなんかワクワクしてきたよ」

「はぁ~。今晩の献立は、何が良いかな?」


 俺は、そう呟きながら、空を仰ぎ見る。おっ、太陽の位置がほぼ真上ってことは、あと六時間程度で日が落ちるわけだ。最低限、水と食料の確保は必要そうだな。


「じゃあ、注意事項を発表するね。無暗に採取したアイテムは食べない。まずは、ユンくんの調薬センスで植物を鑑定して貰ってから食べる事。それから足りない素材とかあったら、チャットで教えてくれれば外回りの私達が採取してくるよ」

「はっ、しまった!」


 突然、声を上げるクロードに、皆がぎょっと視線を向ける。


「染色アイテムを持ってきていない。これでは、ボーイスカウトコスチュームを作れないじゃないか!?」

「……はぁ~、相変わらずだね。クロっち」


 こんな場所でもブレない神経はある意味尊敬できる。まぁ、あっても着たくない。


「じゃあ、俺達は、この周辺のマップを埋めながら周囲を探索するよ。日暮れ前には戻るから」

「うん、マギっちにユンっち。気をつけてね」


 リーリーに明るく送り出された俺達は、まずは東側から時計回りで周囲のマップを埋める事にした。

 俺の鷹の目と発見で道中、植物アイテムの群生している場所を見つけて、マップに場所をマッピングしていく。


「おおっ、ユンくんが居ると助かるね。ほら、またアイテム」

「マギさん!? それは痺れ草! あと、ここら辺は錯乱草とかの群生地だから、下手に採取して食べたら状態異常喰らいますよ」

「うわっ!? 危ない危ない。見た目ホウレンソウとか小松菜っぽいけど、そうなんだ」

「こっちの見た目の悪い草は、お浸しにしての食べ方があるそうですよ」


 俺達は着実に、食べられるアイテムと薬草類を鑑定していく。薬草類は、ハイポやMPポーションの原料である霊薬草と魔霊草を確認できたことは大きい。

 そして意外と思うが、見つけたアイテムの半数以上は食べられない植物だ。見た目は、美味しそうな樹の実――リユネジュバルの実は、食べると【毒4】と【混乱4】の状態異常を食らう超危険果実。錬金で種子を精製することが出来なかった俺としては、可能な限り持って帰って毒成分と混乱成分を抽出したい。

 後は、普通にフルーツとか見つけることが出来た、リンゴとかバナナとか。

 しかし、採取できるアイテムが、植物や野菜っぽいものばかりでは、少しヘルシーな食事になってしまう。ゲームの中で栄養バランスなど考えても仕方が無いが、やはり動物性のタンパク質が欲しい。


「植物も大分集まりましたし、別の食材でも探しますか?」

「その辺はユンくんに任せるよ。マップも良い感じで埋まっているし」


 午後三時くらいの日の陰りの今は、マップの制圧率は、二割程度。中心から放射状に少し表示される程度だ。

 北には山があることは遠くから目視で分かるがマップにはまだ表示されていない。弧を描くように南に掛けて東西に二本の川が流れ、川の下流には、湖がある。

 俺達のベースキャンプがこの二本の川に挟まれているために、川のどちらかで魚を探しに行くのが良いだろう。

 マップを埋めている間に、他のセーフティーエリアやプレイヤーたちとすれ違ったが、俺達のように、食糧集めよりもユニークモンスター探しに奔走して、キャンプ地が手付かずだった。


「じゃあ、川で魚でも取りに行きますか」

「そうだ……あっ、ちょっと待って。お腹減ってきたみたい。すこし休憩してから行こう」


 マギさんの提案に、俺は同意する。俺の空腹度も少し減っているようだ。ここいらでサンドイッチを食べて回復を図りたい。

 切り株に腰を掛けた俺達は、周囲にモンスターが居ないか確認してから休憩を取る。


「マギさんは、食品あるんですよね」

「うん。ほら、コッペパン」

「味はどうですか?」

「美味しいとは言えないね」

「じゃあ、俺のサンドイッチ要りますか?」


 苦笑しながら答えるマギさんに、そう尋ねる。ここで食材アイテムを取りだすのも面倒なので、料理スキルの【調理】を発動させて、食材四点をサンドイッチ十個に作り変える。

 それを取り出して、マギさんに差し出す。


「わぁっ、美味しそうなサンドイッチだね。それに評価5。やっぱり料理センスは違うね」

「ただ切って挟んだだけですよ。誰でも作れますって」


 差し出されたサンドイッチを食い入るように見つめるマギさんを微笑ましく思いながら、俺もサンドイッチを取りだす。

 その瞬間、俺は複数の視線を感じる。すぐに動けるように切り株から腰を上げ、辺りを見回す。樹の多い場所で【鷹の目】を発動させても、死角が多く全てを網羅できない。だが【発見】との組合せで、目に見えない位置でもその視線の発生源がどこから発せられるのかが分かる。


「どうしたの?」

「何か居ます」


 俺は緊張した面持ちのまま、視線の発生源である草むらをじっと見つめ、やがて飛び出してきたのは――三匹の幼獣だった。

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