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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第2部【夏のキャンプと幼獣の森】
53/359

Sense53

 公式イベント告知から一日が経ち、バージョンアップの空腹度導入による混乱が僅かに生じたが、すぐに対応することが出来たのは、NPC店舗の食品アイテムの充実していたからだろう。

 空腹度は、激しく動けば動くほど減りが激しく、動かなければ減りが少ないのも特徴らしい。

 俺は、公式イベントに向けて今は川で泳いでいる。


(宝石の原石が取り放題じゃないか!)


 流れの速い川を水底の岩を掴みながら、石や宝石の原石をインベントリに放り込んでいく。

 水の中での動きは大分慣れ、すっと水面に浮かび上がる。


「ぷっは! 腹が減ったみたいだな」


 俺は、水から上がり、近くの大岩に腰を掛けてインベントリから取り出したタオルで衣服を拭う。

 泳ぎセンスの特性は、着衣水泳が可能だった。そして、服の乾きの促進。など、概ねどうでも良いセンスだった。

 泳ぎセンスの最中に良い発見と悪い発見の二つがあった。

 良い発見は、水中では、鷹の目の効果で見通しが良く、更に発見のセンスで水底のアイテムや隠れた魚などを見つけることが出来た。この御蔭で水の中での活動は楽に行え、レベルも上昇していく。

 悪い発見は、水中活動は可能だがしゃべれないために、スキルが唱えられない。という戦闘では致命的な欠点を発見した。


「さて、身体も乾いたし、腹ごしらえでもするか」


 俺は、タオルで身体が完全に乾いたのを確認し、インベントリの中からサンドイッチを取り出す。

 このサンドイッチは、俺の料理センスで作り上げた物だ。料理に必要な料理キットを購入し、マーサからパンを一斤購入し、他、ベーコンやレタス、チーズなどを一塊で購入。それを自分で切り、挟むだけで出来るのだから楽かつ失敗が殆どない。



 ユンのサンドイッチ【食品】


 空腹度25%回復 評価5

 ユンが心をこめて作ったサンドイッチ



 とこう言う風になった。『製作者名』の『料理名』がこのアイテムの名前になる。そして説明も『製作者』が心をこめて作った『料理名』となる。

 なんとも、俺の女性モデルでは勘違いされそうだ。そしてアイテムの評価。これは美味しさの度合いを数値化した物だ。

 評価は1から10までの十段階。更に、評価が高ければ、効果も僅かながらに増加する。

 NPCの食品アイテムの評価が殆ど2か3なのに対し、5とは、中々に高いと言えよう。そして、この評価は、生産時のDEX補正が掛る。つまり、DEXが低い人は、料理が失敗しやすい。成功しても評価が低くなると思われる。

 また料理の難易度によっても効果や評価が変わってくる。モンスター肉を利用する場合、数時間ATK+10などの効果が付く場合がある。逆に、素材が悪いと、毒料理になったりする。

 そんな、俺謹製のサンドイッチを食べていると、背後から近づく人が居た。


「ほう、嬢ちゃん。美味そうなもん食っとるな」

「爺さん、今日は釣りか?」

「そうじゃよ。で、そのサンドイッチをわしにも分けてくれんかのう?」

「良いぞ。レベル上げのためにたくさん作ったから」


 パン一斤、ベーコン一塊、レタス一玉、チーズ一塊の四つだけで十個生産できる。お店の商品に加えるために二百個作って置いておいたりもした。

 公式イベント前に少しでも性能の良いアイテムを求めてか、空腹度システムに合わせてサンドイッチを売り始めたのも相まって、客足が僅かばかり増えた。

 プレイヤーもいくらNPCのアイテムで腹が脹れても、無味に近いなら美味しい方に向かうのが人情というものだろう。値段も普通のサンドイッチに色を付けた程度だ。原材料と僅かばかりの利益が確保できる程度でプレイヤーの懐は余り傷まない程度だ。


「爺さん。俺は、もう行くな」

「そうか。またのう」


 俺は、それを聞いて川を後にする。

 公式イベントに参加する時のアイテム制限は100個。俺が持ちこむ物は――


 錬金キット、合成キット、調合キット、研磨キット、携帯炉、料理キットの生産アイテム6個。

 武器が一個。防具が三点。そして鉄の矢+10が六セット。の武器アイテム10個

 サンドイッチを作るための材料四点の食材アイテム4個。

 そして、ハイポーション×20、MPポーション×20、解毒ポーション×10、解痺ポーション×10、そしてマジックジェム×20

 これでちょうど百個だ。

 なんで公式イベントに生産アイテムや食材アイテムと考えるだろうが、生産職が道具手放してどうする? そして食材アイテムは、俺の料理センスを使えば、増やせるんだ。食材アイテム四点でサンドイッチが十個作れるんだ。サンドイッチを持ち歩くより効率的だ。


「泳ぎと料理も二日掛けてどっちもレベル5か。成長率は中々だな」


 代わりに他は全く上昇しておらず、その二つと鷹の目と発見を重点的に上げたのは、もはや趣味としか言いようがない。

 周囲は、初の公式イベント!? 第一の町で開催だから町防衛イベントかもしれない! とか町中でのPvPイベントかもしれない。と憶測され、戦闘センスを急いで上げている人が居る。

 だが俺は、違う。俺は生産職なのだ。戦闘ばかりを急いで上げても周りが同じだけ上がるなら無意味と早々に見切りをつけて、生産センスのレベル上げをしている。

 森からの帰りの途中、マギさんからチャットが入った。


「はい、どうしました?」

『あー、ユンくん? 公式イベント参加する?』

「はい。と言っても一人で参加予定ですよ。知り合い皆六人パーティーなんで」

『そうか、そうか! ユンくん、一人みたいだよ!』


 マギさんの傍に誰かいるのだろうか?


『ユンくん。私達と一緒にパーティー組んで参加しない?』

「私達?って」

『他にクロードとリーリーも参加。どういう公式イベントかを見てみたいじゃない!』

「良いんですか? 俺で。他にもっと良さそうな人とかいるんじゃないですか?」

『あー、駄目駄目。皆、戦闘ヤッホーみたいなイベント狂で、私達みたいにまったりしてないから。私達は、観光目的だから。ほら、私達って纏ってるけど結構ソロ気質だし。集団行動って苦手なんだよね』

「はぁ、そうですね。俺も熱もって参加するつもりじゃないですし。お願いします」

『決まりだね! じゃあ、明日一緒に頑張ろうね!』


 そう言ってマギさんとの通信を切った。

 俺も明日の準備をするために、敵を全部無視して、アトリエールに直帰する。


 それからは、要らないアイテムの格納。マジックジェムの生産だ。

 時間が無いので、研磨スキルを利用し、ヒスイを生産していく。小さい小粒サイズのヒスイは、案の定技能付加で耐えられずに弾けるために、錬金の上位変換で中サイズにしていく。

 当初の予定数以上のヒスイ(中)を確保でき、技能付加を掛けていく。

 大体、十個施した所で、魔法のレベルが5になり、クレイシールドの魔法を覚えたりもした。

 クレイシールドも中サイズの宝石で付加出来たために、クレイシールドは、ランクの低い魔法だと予想できる。

 クレイシールドのマジックジェムを意外にも作ることが出来たので、持って行くマジックジェムの種類をボムとクレイシールドの二種類にすることにした。


 そして当日。お昼を済ませた俺は、マギさんたちとパーティーを組み、開始の時を待っていた。


「楽しみだね! 一か所に人が集まるとお祭りみたいで」

「俺は駄目だな。人ごみの中は」


 そう笑顔を振りまくリーリーに対して、疲れたような溜息を吐きだすクロード。じゃあ、なんで人の集まる店を作るんだよ。


「ユンくん、どう? 緊張している?」

「うーん。緊張はしてませんね。どうせゲームですし、慌てるほどのものでもありませんし」

「いやー、肝が据わっているね。私は、ちょっと緊張してきたよ」

「全然そんな風には見えませんよ」

「ほんとだよ」


 俺とマギさんもその時が来るのを待っていた。

 そして、時間になり、この場にアナウンスが響き始める。


『これより公式イベントを始めます。参加するパーティーは、この場に残ってください。参加されない方は、ただちにこの場所から離れて下さい』


 何人か、野次馬が一歩離れた場所から見守っている。鷹の目で周囲の人を見渡すが、自信に満ちた第一陣プレイヤーや不安な表情を浮かべる第二陣のプレイヤーが見てとれる。


『それでは、この場にいる皆さまには、これより特別サーバーへと転移していただきます。詳しい説明は、転移後に行います。僅かな衝撃を受けるでしょうが、影響はありません。10、9、……』


 カウントが始まり、皆の表情が緊張で強張り、転移の衝撃に備える。


『――2、1、0』


 視界がぐにゃりと歪み、眩暈を覚えた。気持ち悪さに膝を曲げて、身体をくの字に曲げるが、すぐに平衡感覚を取り戻し、大きく深呼吸する。


「すぅ~、はぁ~。……ここはどこだ?」

「さぁ? 森の中の広場、だよね。クロっち、どう思う?」

「セーフティーエリアか何かかもしれないな。それにしても他のプレイヤーはどこに?」


 周囲には、十組程のプレイヤーたちが居て、皆きょろきょろとあたりを見回していた。


「うーん。広場にバラバラ転移かぁ~。これは、集団戦イベントではないね」


 そうマギさんが呟いた時、再びアナウンスが流れる。


『よく参加してくれた、プレイヤーの諸君。私は、【OSO】開発部部長の吉野和人だ』


 またこいつかよ。と俺はそう思ってしまった。

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