Sense50
次の日は、アイテムの配達を終えて、朝から図書館に通い、昨日果たせなかったセンスの情報を調べに来た。
昨日、クロードに教えられた本棚には、分厚い辞書のようなシリーズの本が何冊も置かれていた。
『センス講座・初心者編~武器編~』に始まり、防具編、魔法編、身体能力編、動作補助編、生産編、生活編など多岐に渡る。
俺は、自分のセンスステータスとプレイスタイルを考えながら本を一冊手に取る。
武器編の本の目次を見て、弓の解説を開く。
「『弓と矢は、二つで一つで使わなければならない。』って当たり前じゃん」
その他の目ぼしい情報と言えば、矢の自動回収機能について明言されている。ということだ。
そして武器センスがレベル30を超えると総じて、派生センスと呼ばれるセンスが発生する。
例えば、剣だったら、片手剣、両手剣など数種類に派生する。しかし、この派生は、剣のセンスを消費して別のカテゴリーになるのではなく、剣のセンスを持ちながら、片手剣のセンスを取得できる。という物だ。
つまり、剣Lv30を控えにして、片手剣Lv1を装備する結果になる。
さあ、成長とは何が違うのか。付加術は、逆行できないのに対して、派生は逆行できるという利点がある。
付加カテゴリーの成長は、ただの強化であるが、派生センスの場合は、該当する武器を使用する場合に大幅なダメージ補正と特定武器専用アーツが発生する。
剣などの基本センスが、凡庸性が高く、複数のタイプの剣に攻撃判定を持たせるのに対して、ただ一種類のみを大幅に強化する。またSPの許す範囲で派生センスを複数習得できることも魅力的だ。
片手に小盾を持つことで、攻防のバランスに優れている片手剣。
防御力の高い敵に対して重量による一撃粉砕の大剣。
対人戦には、変則攻撃が可能な双剣。
こう言った使い分けも容易に想像できる。
また、平均センスレベルの適正が30を超すようなエリアの敵に派生前のセンス装備では、少々火力不足となることは、β版で実証済みらしいとミュウ談だ。
「派生先は、長弓、短弓それに……数が多いな。俺の武器は長弓だから長弓を取得してみるか。それにしても、公式で弓の命中率の悪さ認めてるよ」
本には、距離が長くなればなるほど、敵に命中させ辛い。素人は、短弓や連射弓で慣れることから始めることを勧める。と書かれているのだ。
「まあ、弓の方向性は、変わらないし、必要なら他の派生センスを取得すれば良いか。あとは、他に使えそうな情報はあるかな?」
目次を見ながら流し読みをするが、如何せんタイトルが初心者と入っているだけあって、読みとれる情報が、初期のセンスとその派生先くらいな物だ。
他の本を読み説いても、大体レベル30による成長もしくは派生だ。
だが、魔法の本に関しては、レベル30までの各種属性魔法のスキルが主な情報だ。
「俺の地属性のスキルは……ボム、クレイシールド、マッドプール、アースクエイク、ロックバースト、そして、エクスプローション」
ボムは、技能付加で込めた一番弱い攻撃魔法。ただの爆破だ。次に、レベル5で覚えるクレイシールドは、地面から土で出来た壁を生み出す魔法。
5レベル刻みという法則が魔法にあり、レベル30では何も明記されていないことからレベル30での成長が予想できる。
マッドプールは、指定した地面を爆破しその後に泥沼を作る魔法。アースクエイクは、指定した地面を隆起させる魔法。と中々面白そうな魔法だ。
範囲攻撃のロックバーストは、重さ一キロの岩が散弾のように爆破飛来する複数攻撃。
最後のエクスプローションは、ボムの強化版だ。爆破の威力が段違いらしい。
ここまで読めば、地属性は面白いと思うだろう。だが他の魔法と比較した時、不人気の理由が良く分かる。
「地属性って、仲間の動きを阻害する可能性があるな」
例えば、炎や風の防御魔法は、炎や風の壁を生み出し、効果が消えた後に霧散する。だがクレイシールドは、その場の残留時間が長い。無論破壊されれば、他の属性同様に消滅する。防御も他の属性と大差なく、残り続けるのは盾ではなく、オブジェクトとして無意味に残り続ける。
時間が経てば、ちゃんと消えるが、消えるまでが長い。戦闘が終わる程に。
地属性の魔法は、見通しが悪く、死角を作りやすい。狭いエリアでは、前衛と後衛を分断してしまうなど、パーティー戦闘では、他の属性の方が重宝される。
だが、地属性も他人の心配の要らないソロプレイヤーからしたら便利な魔法属性ではある。
「うーん。足の遅い魔法使いが、足止めや遅延で攻撃の時間を稼ぐのにはちょうどいいんだろうな」
ソロでの狩りで壁役が居ない魔法使いの工夫だろう。魔法に関する考察は、そんなところだろう。気になることと言えば、俺の魔法才能と魔力のレベルが30を超えたのに派生や成長先がまだ存在しない事。
本を探っても、大体レベル30帯の内容しか書かれていないようだ。
「この二つの才能だけが、変化先を明かされていない。いや、鷹の目もそうだな。うーん、別のセンスとの合成か、それとも既定レベルに至っていないか。だよな」
俺は、度々自分のセンスステータスを表示しながら、本と比較していた。言語学も先ほどからレベル10まで順調に上がっていたが、一向に上がる気配はない。
大体知りたいことは知ったし、もう用はない。これ以上このセンス図鑑を読んでも言語学は上がらないだろう。つまり、普通に本を読み言語学を鍛えろ。と言うことだ。
「うーん。最低限、本を読むだけのレベルに上がったら本を読め。ってことか。結構サクサクレベル上がったけど、クロードですら13だったからな。上昇率が下がってるかな?」
俺は、センス図鑑を本棚に戻し、館内の案内板を見る。今では、どのあたりにどんな本があるか分かる。本の種類毎に分けられてもいるために、探すのは楽そうだ。
俺が求めるのは調合、調薬などの本が詰め込まれている場所だ。場所はすぐに見つかったが……本が分厚い。それに、背表紙が読めない。
恐る恐る手に取るが、ひらがなと小学生低学年程度の漢字が虫喰い状態で読める程度のために言語学のレベルの足りなさが良く分かった。
「これは駄目だ。他に、本は……」
使えそうな本は、シリーズとなっている薬学調合の本だ。第一巻から十巻まで。簡単なポーションの作り方から始まって、様々な基本的な薬の調合が図と合わせて掲載されている。
「これは……薬草を原料に初級ポーションとポーション、丸薬まで……って調合でもポーション作れるのか?」
俺は、今まで合成スキルの方法で初級ポーションからポーションを作っていたが、別の方法があるようだ。
本を読み進めるとどうやら俺の新たに買った調合キットの成分抽出機で薬草の薬効を濃くしなければできないために、初心者は無理な方法ではある。ただ、薬草から一発ポーションだと合成がまた育たなくなる所が懸念事項だ。
ふむ、成分抽出機か。色々なアイテムの成分抽出でもして実験して見るのも良いかもしれないな。などと本を読み進める。
二巻と三巻が解毒、解痺ポーションの作り方とバッドステータスの説明だ。
今までバッドステータスを受けてこなかったが、毒や麻痺のバッドステータスにも段階があるらしい。バッドステータスの表記は【毒1】という形式で、毒は、十秒毎にHPの1%を削る効果。数字は、それの継続時間らしい。例えば、最低の1が三十秒を基準に、一段階上がるごとに三十秒加算。最高表記は、5らしい。
そして、バッドステータスの中には、累積するものも存在する。麻痺1の攻撃を連続で受ければ、麻痺の段階が一ずつ上がり、継続時間が延びる。と言うわけだ。
いかにバッドステータスが恐ろしいが分かる。ただし、遠距離の俺には、今まで縁が無さ過ぎた。
そして解毒、解痺ポーションは、状態異常を二段階下げるらしい。素材そのままを使用すると一段階下がるようだ。
あとは、毒や麻痺にも上位のバッドステータスが存在するとか、アイテムのランクによっては、緩和する限度が存在するらしい。
「奥が深いな。ポーションの調合とかを少し籠ってやってみるか」
アトリエールでやりたいし、この図書館に籠っていても仕方が無い。ほんの少し、お店を拡張した際、ほんの少しだけお金が残っているので、本を借りるだけの額は、十分にある。
俺は、四巻を手に持って、カウンターの司書に声を掛ける。
「すみません、本を借りたいんですけど」
「はい。初めての方は、一万Gをお願いします。あとは、貸出は三日。それを過ぎると自動でインベントリの中から図書館に転移されます」
「あっ、分かりました。じゃあ、これお願いします」
俺は、お金と本をカウンターに出す。
本のタイトルを書き写し、貸出者の名前を書き込んでいる。
「それじゃあ、こちらの本をどうぞ。それから初めての貸出利用者に対して、この万年筆をプレゼントしております」
「おっ、ありがと」
別になんの変哲もない万年筆だが、ちょっと得した気分、アイテムの表示もただのお遊びアイテムや飾りのようなアイテムだ。だが、実際に使ってみるとインクもちゃんと出る。
「そちらの万年筆のインクが出なくなりましたら、西区の文房具店へとお持ちいただければ、インクの補充をなさる事が出来ます」
「へぇー。凝ってるな。じゃあ、また来るよ」
「それでは、失礼します」
司書の人に見送られて、俺は図書館を出た。
アトリエールまで戻ってきた俺だが、お昼の時間だったので、一度ログアウトしてからの再開となる。
魔法、マッドネス→マッドプール
魔法、ロックバースト追加。