Sense44
俺と美羽は、互いに向き合い朝食を食べている。
今日は、夏休み中だが、登校日のために私立の制服を着ているのだ。
『続いてのニュースは、先月正式稼働を始めたオンラインゲーム【OSO】を利用できる最新型のVRギアの購入のために、朝早くからこちらに並んでいる人が……』
テレビのニュースでは、【OSO】をやりたいがために行列を作る人たち。夏の暑い時期に良く並ぶよな。とか思ってしまう。
「もう、第二陣の人が来るんだ。意外と速かったね」
「ああ、そうか。これを買った人が第二陣の人になるんだよな」
俺は、トーストを齧りながら、適当に相槌を打つ。
「追い付こうとして無理する奴ら多そうだな」
「そうだね。トッププレイヤーになりたいがために夏休みを消化する人が居そうだよね」
初日から消化している美羽は、既にそちら側の人間だけどな。
「それより宿題はやっているか?」
「うん。と、言うよりもルカちゃんたちも宿題やるから。って言うのに私一人ゲームでレベル上げってのも。ねぇ」
「そうか。で、終わったのか?」
「うーん。半分くらいかな?」
「まあ、休みも半分だし。もう少し余裕を持てよ」
「はーい」
美羽は、気の抜ける返事を返してくる。
周りに合わせて、宿題をやってくれるから。今年の夏の終わりは楽できそうだ。
『今日は、今話題のゲーム【OSO】の開発部部長・吉井和人さんからのビデオレターが届いています。ではVTRどうぞ』
『はじめまして、みなさま。【Only Sense Online】開発部部長の吉井和人です』
俺達は、テレビに突然現れた男を凝視する。甘いマスクの二十代後半の男性。どこぞのアイドルじゃないか? と思ってしまう。
『我々が作り上げたゲーム【OSO】は、初心者への敷居を低くするために、公式情報は殆ど掲載していません』
「そうなのか?」
「お兄ちゃん、公式サイトくらいチェックしてよ! 黙って聞く」
妹に叱られた。うーん。公式サイトより先に攻略サイトを見たもんな。俺。
『我々があえて情報を表にあげないのは、実際にゲームの中を歩き、自分の道、自分の調べた事がプレイヤー自身の世界観となり、ゲームの情報となり、オンリーな攻略になると信じているからです。
また新規のプレイヤーも楽しめるように、工夫しています。実際にやってみればわかります。
我々は、あなた方が【OSO】の世界に訪れることを待っております』
そうして、ビデオが終わり、ナレーターやら解説員やらが、適当に言葉を交わしている。
「お兄ちゃん、今の言葉ってどういう意味かな?」
「さぁ? 世界観よりもシステムを先行させ過ぎたから、その釈明?」
少し穿った考え方だが、そう取ることも出来る。
「でもさ。自分の調べた事。ってことは、何かしらの情報があるはずだよね。私はそう思うな」
「あー、ゲーム内のヒントとか? ダンジョンに壁画がある、とかみたいな? いかにも昔の人が残しました。って情報?」
「そうそう」
「あればいいな」
楽しそうだな。トレジャーハンターみたいで。謎解き、冒険ってわくわくする。
「あー、なんかやりたくなってきたよね。学校めんどくさい」
「どうせ半日だ。帰ったらすぐに食べられて遊べるような昼飯にしてやるから」
「お兄ちゃん、良いお嫁さんになるね」
「この妹は、兄になんていうことを言うか」
美羽に対して、はぁ、と溜息をつく。
俺達は、時間に余裕を持って登校する。学校までの道のりは、徒歩の登校。この蒸し暑いアスファルトの上を汗を流しながらの登校は精神的にキツイ。
やっとのことで辿り着いた校門。俺は高等部。美羽は中等部だからそこで一旦別れる。
廊下を歩けば、教室から人の声が零れてくる。俺は自分の教室に入る。
「おっす、峻。ひさしぶり」
「久しぶり、じゃねぇよ。ゲームでくらい顔見せろよ」
俺は文句を言いながら、力の籠っていないパンチを繰り出し、巧が受け止める。
「仕方がねぇだろ。鉱山の敵が強くて俺を惹きつけるんだから。レベルが上がって美味しいです」
「廃人め。で、どんな感じだ? なんか良いアイテムあったか?」
「そっちは駄目だな。鉱石系が殆どだけど、俺達使わない。生産職に持ち込んでる。あと、ボス強すぎ。限界までレベル上げして北の方向に攻略進めてみる」
「そうか。まあ、俺は、採取とか、生産とかちまちまやってるから。なんかあれば店に来いよ」
「そうさせて貰う」
うーん。鉱山か。一回行ってみたいんだけどね。まあ、細工のセンスが25になったら行ってみるとするか。
俺達は、それぞれの近況を話したり、今朝のニュースについて語り合った。
巧も俺と同じく今朝のニュースを見た感じ、壁画とかそう言った物に力を入れているのかもしれない。だと。
「まあ、行ってない所も多い。それと今朝情報掲示板を見に行ったら、新しいセンスが見つかったって」
「ふぅ~ん。どんなセンスだ?」
「【引き籠り】だって」
「……」
「いや、マジだって、なんでそんな懐疑的な視線を向けるんだよ」
「いや……だってね」
悪意あり過ぎるだろ。でも、そんなセンスは見たことが無い、何かの派生か成長させたセンスなのだろう。
「出現条件が、十日間の連続ログインするが町からでない、らしい。それで町の滞在でレベルが上がるんだって」
「……なるほど」
だから引き籠りなのか。でもそう言ったセンスは既にβ版で情報が出ていそうだが。
俺の疑問が顔に出たのか、巧は、語る。
「β版から正式版でのアップデートじゃないか? ゲームってバグの修正とかしながら、発展していくし。そもそも取得SPの合計数や成長、派生で解放されるセンスが基本過ぎるんだよ。もっと、何かあるかもしれない。って」
「何かって、なんだよ」
「ドラゴンのソロ討伐とか? あとは、特定種族の大量討伐とか?」
「無い話でもないが、可能性の話だな。まあゲームが始まって一か月も経ってないんだ。そうぽんぽんととは出ないんだし【引き籠り】って別にレアってわけじゃないだろう」
それもそうだなー。と巧も同意する。それにしても、行動に応じて解放されるセンスもあるんだな。そうなると、条件を解析したりと、ゲームの楽しみ方がそれぞれになってくる。
今朝、ニュースに出てた開発の人が言っていたように、新規でも楽しめるやり込み要素が詰め込まれているようだ。
登校日の今日は、教師の注意を受けて、校内の清掃。そして帰宅。という流れだ。
巧は帰ってすぐに、OSOを始めると言っていた、今朝の話で獲得可能なセンスがあるかもしれない。と言って走って帰って行った。
俺は、美羽と一緒に帰り、昼飯を取って、俺もOSOにログインする。