Sense40
ミュウとブレードリザード討伐の日。俺は、前に待ち合わせた東門のところでミュウを待っていた。
「私は、友達と合流してから向かうから待ち合わせの場所で待っていて」
と、今度は俺が待たされる番。まあ、良いんだけどね。
インベントリでも開いて、所持品の確認、鉄の弓矢+10が四セット。他は、各種回復薬やエンチャントストーン。解毒薬と解痺薬などを確認。
そうだ、いくつか面白い事が分かった。
畑を手伝ってくれるNPCの名前は、キョウコさんと言うらしい。
彼女と話して分かったんだが、作ったポーション類の配達やNPCから材料の買い付けをしてくれるらしい。
これからのマギさんへのポーション配達は頼んだし、お金が手に入ったら材料費を渡して、買い付けをお願いしようと思っている。畑の管理を超している行動じゃないか? 超過分の労働費を払わされるんじゃないか? とか言われそうだが、それも仕事のうちらしい。
あと、もう一つ。今朝、畑の収穫物で調合したら、調合センスのレベルが30になり、SPを二つ使って調薬センスへと進化した。これで、モンスター肉を薬の材料にする事が出来るはずだ。
そんな俺のセンスステータスは、大分成長していると言える。
所持SP12
【弓Lv18】【鷹の目Lv28】【速度上昇Lv11】【発見Lv8】【魔法才能Lv29】【魔力Lv27】【錬金Lv20】【付加術Lv6】【調薬Lv1】【生産の心得Lv19】
控え
【調教Lv1】【細工Lv21】【合成Lv21】【地属性才能Lv3】
これは戦闘用に調整したセンス構成だ。地属性才能のセンスよりも戦闘に関係ない調薬センスを持っている理由は、装備センスのレベルやその方向性だ。
同じ低レベルでも一段階上のセンスの方が性能が高く、生産職系のためにDEXの上昇が高い。本来魔法を主体としない俺は、INTとMINDが上がっても恩恵は少ない。
まあ、SPに若干の余裕があるし、合計取得SPが20を超えたので、新規追加センスを確認してみたいんだが、あんまり魅力的なのが無い。
せいぜい、ミュウの言っていた【蛇の目】。状態異常耐性系では、【毒耐性】とか【麻痺耐性】とか。
動作系センスでは、ミュウの獲得した動作関係の【行動制限解除】や【泳ぎ】【ステップ】【登山】。他にも、知識系センスとして【サバイバル】【言語学】とか。NPCの店員に対して【値切り】とか【買い取り上昇】とか。またピンポイントなセンスがあるし。
取得可能なセンスが増えたは良いが、初期センスの補助や限定場面毎に必要になるようなセンスである。
興味はあるが、どれも必要に駆られるようなものではない。SPには余裕が欲しい所だ。
「まぁ、あんまり考えなしにセンスは取得しないのが一番だな」
俺は、空をぼんやりと眺めながらミュウたちが来るのを待っている。時折、視線を感じるのだが、いざ周囲に視線を向ければ、皆こちらとは反対を向く。何度も同じような事があるが、やはり気のせいだな。また、何の気なしに空を見上げる。
しばらくして、カッ、カッ、カッと小刻みな足音が耳に届く。
「おねえぇぇぇぇぇちゃぁぁぁぁん!」
「うん? どわっ!?」
真横から抱きつかれる。人ひとり分の重さを何とか耐え、抱きついてきた相手に文句を言う。
「ミュウ、お前は。普通に来いよ。人前で恥ずかしいだろ」
「だって! こっちで久々に会ったら服装が変わってるんだもん! 何その装備、弓も新しい奴だし!」
「はいはい、お前の仲間たちが見ているぞ」
ミュウの後ろにいる女性たちが、呆気に取られたり、苦笑したり、もしくは、何故か恍惚とした表情を浮かべている。
「あっと、お姉ちゃんの装備が変わって、なんか嬉しくって」
「良いけどさ、その呼び方はやめろ」
(だって、女性タイプの体なのに、お兄ちゃんって呼べば変でしょ?)
ミュウが、ひそひそと俺に話しかけてくる。それに反論しようとするのだが……
(でもな……)
(それとも、妹の家族は、変な人。ってレッテル貼りたいの? 普通に、お姉ちゃんとして話を通してよ)
(じゃあ、紹介しなければいいだろ。友人として)
(お姉ちゃんを紹介したんだよ。自慢の姉です、って)
全く、こう言われるとなんか断り辛い。ミュウに好かれているし、自慢したいと言われるほどだ。仕方がない、男だってこと黙ってるか。
「あの……話は終わりましたか?」
「うん。ルカちゃん、終わったよ」
「それじゃあ今日は、ミュウの知り合いの生産職の方を町まで届ける。ってことだけど、その人が?」
「うん、私のリアル家族!」
「はじめまして、俺は、ユンって言います。その、妹が世話になっています」
なんか、みんな驚かれた。そうか、一人称が俺なのが原因か。
中心のチェインメイル装備の女性は、ワインレッドの髪を後ろで括り、腰に二本の剣を刺している。身長も男の俺と同じくらいなのだから女性としては高い方だ。
「はじめまして、ルカートです。仲間内では、ルカって愛称で呼ばれています」
ルカートとの挨拶を契機に、ミュウの仲間が俺に自己紹介をする。
麻呂眉毛に小さな丸メガネを鼻に掛ける魔法使いは、コハク。
二股に分かれた帽子を被るファンシーな魔法使いは、リレイ。
黒を基調とした軽装と金属の混成防具の紫髪は、トウトビ。
右が藍で左が紅のオッドアイ、八重歯が特徴の少女は、ヒノ。
ルカートとミュウの合わせて六人パーティーの様だ。
全員が、ミュウと近い年齢で同性のために、色々と安心している。
「それじゃあ、何時までもここにいると邪魔になりますので、話は移動しながらでも」
「ああ、そうだな」
俺達は、東門から外へと出る。なぜか、背後に名残惜しいような、羨望のような視線を感じたのは、またもや気のせいだと思いたい。
「話には聞いていましたけどミュウの家族がこのゲームをプレイされているとか」
「あはははっ、まあ、夏休みの暇な時ですし、上の姉に会うために始めたようなもんです」
「上の姉とは、セイさんですか?」
「ええ、って言ってもゲーム内で一度しか会ってないんですけどね。連絡自体取らないし」
自嘲気味な笑いが零れてしまう。考えてみれば、セイ姉ぇに会うために始めたのに、生産職やら弓に魅入られてしまった。
「セイさんは、別のパーティーで頑張っているようですよ。何度かすれ違った事があります」
「そうですか」
まあ、元気そうならそれで良いか。なんか用件があれば、フレンドからのチャットが出来るし。
「そろそろ、フレンドの交換とパーティー編成しましょう」
「ああ、そうだな。ボスには、七人全員で行くのか?」
「いいえ、共闘ペナルティーが発生するので、パーティーから外した人がユンさんの護衛。残り五人が、ボスを狩る。という手順です」
「了解。一応、雑魚くらいは手伝わせてくれよ」
肩を竦めておどけてみる。
ルカートには、言外に戦力外だから見ていろ。と言われたが俺だって弓のレベル上げはしたい。発言自体は、気にしない。
俺は、みんなとフレンド交換して、パーティーを組んだ。
後衛のリレイが俺の護衛としてパーティーより外された。
一応、俺を守ってくれるリレイに対して一言声を掛ける。
「よろしくな、リレイでいいか?」
「ええ、よろしくです。ふふふっ、出会い頭早々に良い物見せてくれてありがとうございます」
「えっと……」
リレイは、俺を熱っぽい目で見つめてくる。
それを見かねたのか、オッドアイの少女が、リレイの首根っこを掴み距離を取る。
「気にしないでください。彼女は、女の子同士で抱きついていたとしてもウェルカムなだけですから」
「それは……」
「いわゆる百合です」
「新しい素材を見つけたのよ。ふふふ、薄い本やにゃんにゃんで……」
「と、まあ、ちょっと自制心がないのが欠点ですが、基本良い子ですよ」
苦笑気味にフォローするは、八重歯が特徴的なヒノだ。
ちょっと良い笑顔ですね、リレイさん。さっき恍惚とした表情で俺を見つめていたが、ガンツやクロードとは別のベクトルのヤバイ人間だと直感が告げる。
「それじゃあ、行きましょう」
「あっと、ルカート。待ってくれ、みんなにこれを分配してくれないか?」
俺は、出発しそうなルカートを引きとめてトレード画面を開く。
「なに? お姉ちゃん、まさかお金のこと気にしてたの? みんなお姉ちゃんのこと詳しく説明したから納得してるよ」
「気にせんでええよ。うちらも身内の頼みやし。まあ、おんぶに抱っこは勘弁な」
ミュウの発言に援護射撃するは、コハク。関西弁かな? ちょっと独特な口調だ。まあ、俺も依存されるのもするのも気分的に嫌なものはある。
「まあ、兎に角受け取ってくれ。これだけあれば回復は足りるし、こっちのアイテムの使い心地とかの感想を教えてくれ」
トレードには、大量のブルポと各種エンチャントストーンを二十個づつ。俺が無理やり送りつけた。
「な、なんでこんなに持っているんですか!?」
「何、どうしたの?」
受け取ったアイテムを確認したのだろう、ルカートが若干困惑気味な声を上げ、心配そうにヒノが尋ねる。
「……高級ブルポが百個と未知のステータス上昇アイテム」
全員が驚く。いやいや、ミュウお前はブルポのこと知っているよな。そう言えば、エンチャントストーンのことは知らないか。
俺は、エンチャントストーンの使い方とキーワード、そして色ごとで発動するエンチャントの種類を簡単に説明する。
「こ、高級ブルポや貴重なアイテムをこんなに貰えません!」
「うん? そうか?」
そう言えば、ステータス上昇系のアイテムって、調薬センスのモンスター肉を使った薬だよな。それも効果が微妙。だからステータス上昇系のアイテムは、高価な印象なのだろう。
俺にとっては、安い素材や落ちてる物から作ったので、ぼったくりなのだが。
「このアイテムを使ってみた感想が欲しいんだよ。その内、店持つつもりでその商品の一つ。まあ、今日の護衛と感想、それとミュウとこれからもよろしく。ってことで」
「分かりました。と言われましても、ミュウは大切な仲間です。これからも仲良くします」
周りのみんなも同じつもりなのだろう。嬉しいな、こうやって良い子たちがミュウの周りに集まって。
「ふふふっ……姉妹の美しい愛……そのまま、禁断……」
「あんたは、自重せなあかんで」
なんか、片隅でボケと突っ込みをしているが、まあ放置な方向で、藪蛇になりかねない。
それから道中は、七人で適当に敵を狩りつつ、進む。
俺は、武器の性能が良いのか、エンチャント無しで、ゴブリンや、ミルバードの撃破が容易になった。相変わらず、スライムは、容易に倒せないが、ダメージらしいダメージは、与えているようだ。時間を掛ければ、倒せると思う。
それにしてもミュウやその仲間って凄いな。前レベル上げで戦ったビッグボアを物の数分、特に大きなダメージもなく狩っていくのだ。
「みんな凄いな。俺も一度ビッグボア狩りに行ったけど、ここまであっさりと倒せなかったぞ」
とは言っても大分前だしな。タクたちも同じくらいのこと出来るかもしれないな。
「いやいや、全然。うちら魔法職はソロじゃ狩れんって、ソロでビッグボアを狩れるのは前衛職じゃあ、ミュウとトビちゃんだけや」
「……私なんか、全然。背後からのクリティカル狙いの外道戦法。もっとおかしいのはミュウの方です。一人でブレードリザードと戦うんですから」
おい、ミュウ。ボスMOBに何一人で戦ってるんだよ。
「えー、寝る前には、一日の成果としてブレードリザードに挑むのは普通だよ。どうせ寝る間にデスペナ解除されるなら、死ぬ前提の戦闘で、経験を稼いでレベルアップしないと。行動でレベルが上がるんだから負けてもレベルは上がるし。
複雑な動き、激しい戦闘ほどレベル上げに最適な物はないんだからね」
「あんた、その考え自体がおかしいんや! ゲームでもVRには多少の痛みがある。それを承知での戦闘なんて正気の沙汰じゃあらへん。その癖、それで勝率一割ある方がおかしいやろ! リアルチートが!」
何だろうな。複数人で対峙するのが前提のボス相手に、何をハードなレベル上げしてるんだこの妹は。そして、短い間だが、コハクは良いツッコミ役の様だ。俺が楽させて貰っている。
「えっと、ミュウが色々と心に負担を掛けてすまん」
「まあ、とても頼りになりますよ」
俺達は、そんな和気あいあいと言った感じでブレードリザード手前まで来ていた。