Sense35
三百万。いや――3Mをいきなり手に入れてしまった俺は、当初はそれはもう混乱した。
「いやいや、こんな大金おかしいだろ! 待て待て、ちょっと待てぇ!」
俺の叫びに、クロードは、首を傾げ、マギさんとリーリーは苦笑い。
「見合った仕事をすれば対価が支払われる。当然だろ。そして、その金は俺達三人が出しても妥当だと事前に協議した額だ。不正はない」
三人ってことは、一人1M出しあったんですか!? いやいや、申し訳なさ過ぎる。
「こんなに貰えないんですけど……」
「安心しろ。そんな金、このゲームではすぐに使ってしまう。むしろ、俺達が店を持つために必要だった額の倍程度だ。更に設備拡張や別の町で店を持つなら更に倍以上は必要だろうな。だから、持ってろ。それとも、返すのか?」
クロードの最後の言葉に、俺は唸る。大金は魅力的だ。だが、持っているとかなり不安だ。不安過ぎる。まず、俺の装備だとPKに遭っても負ける。そして、大金をみすみす奪われるリスクなど犯したくない。俺的には、物品の方がありがたい。そうだ、早々に物に変えてしまえばいいのだ。
「うー。その……クロードとリーリー。1Mで装備。整えてくれ」
「良いよ。ユンっちの武器は弓だけど種類はどうする。長弓? それとも短弓? ボーナスは、ATKとDEXどっち? 大体40万で請け負うよ」
「じゃあ、俺は60万で内着と腰の装備を請け負うのか。ボスからのレアドロップは後からでも強化できる。ボーナスは前と同じDEXで、デザインは俺に任せてもらっていいな」
「えーっと、リーリー。弓は、長弓でATKボーナス。それと防具のボーナスは同じで。あと、デザインは、スカート絶対なし」
なんか、装備を頼んだら拍子抜けなくらい引き受けてくれた。あと、クロード。スカートが駄目って言ったら露骨に嫌そうな顔するなよ。
「貴様は、俺の見つけた理想のモデルの一人だ! 俺のセーラー服や巫女服、戦女神装束! 浴衣にチャイナドレス、水着など着せたいのだぞ! それを今は我慢しているのだ、せめてスカートだけは!」
「いや、そんなに力説されても困るんだけど。てか何故上から目線」
「一度着ろ! そして様々な角度からSSを撮らせろ! それなら割引もするし、俺も満足もする!」
「なお嫌だって! て言うか、俺は男だ!」
なに……男だと。ならば、ボーイスカウトか、軍服、海軍のコスチューム。いや、ここは、着流しの剣士風とか、いやいや、ここは体型を隠してきぐるみや動物パジャマシリーズを……
とか、なんか不穏な言葉が。
マギさんは、トリオン・リングを嵌め直して、拳の握りを確認していた。クロードもそれを見て冷や汗を流し始めた。
「頼むからスカートとか恥ずかしいのは辞めてくれよ」
「はぁ、分かった。依頼人の要望通りに叶えるのが職人だ。だが、お前にいつか俺のコスプレ衣装を着てもらうからな」
くくくくっ……て怖いよ。なんか、クールな雰囲気台無しな感じだぞ。
まあ、いいや。前払いとして二人に1Mを払う。
「本当に、残り2Mどうやって使えば良いのか分からん」
「ユンっち、今まで初期装備だから分からないだろうけど、装備の修理には意外と時間とお金が掛かるんだよ」
「ちなみに、ランクの高い装備品ほど修理に時間が掛かる。武器の修理で大体買った時の二割。防具なら一割と計算していい。」
つまり、今頼んだ武器なら8万、防具なら一か所3万の二か所。合計14万。
「まあ、程度によっても値段は左右されるね。すぐに使っちゃう額だから、計画的にね」
そうありがたいお言葉を貰いました。
と、そんな感じでその日はログアウトしたわけです。もちろん、ポーション納品しました。
ハイポーション一個が1000GとMPポーション一個1500Gでハイポが三十個、MPポーションが十五個の納品。で52500Gの儲け。
「あー、金策。やる必要なくなった。というよりも、二百飛んで五万Gとか持ち歩きたくねぇー」
マジで怖えぇじゃん。PKとか、これが宝くじで高額当選金を得た人の心理なのかもしれん。
「こういう時に頼れる廃人様に聞くか」
翌日、ログインした俺は、フレンドの欄からタクを選んでチャットを繋ぐ。
「おい、いるか? タク」
『どうした? 狩りの誘いなら無理だぞ。今は、第二の町周辺んで狩りしてるから』
「違うって、少し相談。時間は取らせない」
『分かった。みんなー、ちょっと休憩! 俺、話してくる』
なんか、狩り中断させちまったようで悪いことしたかな?
『それで? ユンが俺に相談なんて珍しいな』
「いや、お金が大分溜まったけど、持ち歩くのが怖いから。どこかに預けられないかな? ってゲーム内で銀行とかない?」
『あー、見た事無いな。でもホームとか持っていれば、ギルドやホームの機能でアイテムやお金を保管出来るぞ』
「俺。ホームないって」
『まあ、ギルドもまだ出来てないしな。もうじき立ち上げよう。って人もいるし』
そうか。ギルドね。まあ、ソロ狩りの俺には関係ないし。
『で、いくらくらい溜まったんだ?』
「いや、怖いから言わないぞ。それに、散財しないようにするために預けたいんだよ。すぐに使っちまうから」
『だよな。畑とか』
「あはははっ……畑って五つ目以降値段が十倍になるんだぜ。手数料も」
『まさか、また買ったとか言うなよ』
「いや、六つまで買った。今までで畑に十万G近く使った」
まあ、それ以上に稼げるんだけど、何故か、どこかに消えていくんだよ。材料とか、道具とかに。不思議だよな。
『お前、そのままそこに店構える気かよ』
「えっ、出来るの?」
『いや、知らんけど……出来るんじゃね? もしかしたら』
「……NPCに聞いてみる」
『お、おう、じゃあ、俺もう行くから』
なんとなくそんな会話をして別れた。いや、まさかな農地だぜ、南地区って。それが出来たらみんなこの周りの農場買うだろ。
そんなことないですよねNPCさん。
「うん? 南地区に店舗が欲しいのか? ある程度の土地を買って地主にならんと建てられんぞ」
って出来るんかい!?
「ちなみに、土地はどのくらい必要なんだ?」
「十個で地主認定されて、更に店舗用の土地は別だ。あと建てるとなると更に別になる」
「じゃあ、隣接する土地を四つほど」
「二十万Gだ。それにしても、そんなに土地買うってお前、正気か? なんだったら農家の娘でも雇ってみるか?」
NPCまで心配してくれます。いや、そうなんだけど 管理出来てないと思われてるな。心配されつつ、土地の権利書を貰う。
「お前、店舗欲しいんだって? 今は土地の空きが多いから選べるぞ」
「じゃあ、畑と表通りに隣接している場所で……」
「また好条件の立地を選ぶ。土地一つ二十万だぞ」
ええっ、さっき畑四つで二十万だけど、今度は一つ二十万かよ!
「まあ、一つだけだとあばら家だし、三つ、四つ買って広く作った方が良いだろうな」
「一つの広さってどのくらいだ?」
「畑と同じ広さだ」
あー、それだと四つ分は広いけど、三つ分はちょうど良いかも。
「じゃあ、三つお願いします」
「じゃあ、八十万だ」
「ちょっと待て! さっき、二十万って言っただろ!」
「それは最低価格だ。その条件で隣接する土地で八十万って安いぞ。これでもだいぶ譲歩してるんだ」
NPCが窘めるように言ってきた。ぐぬぬぬっ……
「分かった。それで良い。それで頼む」
「ほら、土地の権利書だ」
2Mがまさかこの短時間で半分の1Mになるとは思わなかった。だが、畑が十個200アイテムを生産できる。これは嬉しい。NPCでも雇って管理でもしようかな。
「じゃあ、これを渡しておく」
「これは?」
NPCから数枚の紙とペンを渡された。何も書いていないのに重要そうだな。
「これで店の間取りとか書いて、第二の町―ジュピーニ―の棟梁に見せれば良い。だいたいの見積もりを出してくれる。後は、俺の方に金を払ってくれれば店建てるぞ」
つまり、これはクエストアイテムか。この町は店を借用、若しくは購入であって建設ではない。これは建設のための専用クエストなのかもしれない。
事実、システム画面のクエストに、店舗の見積もり算出。というものが追加されている。
でもな……
「なあ、第二の町に行かなきゃいけないのか?」
「ああ、一度いけば、ポータルで移動できるだろ」
「その前に、一度ボスとやり合わなきゃいけないじゃん」
「そうだな」
NPCは、目をつむり、腕を組む。いや、同意されても。もう少し何かない? ねぇ。
「おお、そうだ。忘れていた」
何か新しい会話。俺に有利になる話か?
「農場の娘雇う場合は、一カ月で十万Gだぞ」
「今その話かよ!?」
「どうする?」
「……三か月契約で」
でも、まあ。雇用しましたよ。あー、クワで耕したり、肥料撒いてくれたり、区画を指定して種を渡しておけば、そこまでやってくれるらしい。
そして、実った作物は、収穫してくれるらしい。
NPCさん。重労働御苦労です。でも、一度耕せば、後は毎日収穫と種まきで一時間。俺がログアウトしている間にでもやってくれるらしい。
これで畑の問題は解消された。明日から第二の町に向けて攻略を始めなきゃ!
夢の店へ! そして残金は、七十五万!