Sense34
俺は、唐突な話に思考が停止してしまった。
それをどう解釈したのか分からないが、クロードは、神妙な表情のまま説明を始めた。
「俺達は、決してRMTを持ちかけているわけじゃない。ゲーム内通貨で払うつもりだ」
「い、いや。ちょっと待て。どうしてそういう話になる? そもそも製法を売ってくれ、だって? それに何の意味があるんだ」
「意味と言われてもな。製法を教えてもらうこと自体、意味なんてない。情報なんて一度ネット上に流れてしまえば、タダで手に入る。だが強いて言えば、俺達三人の基本理念だな」
基本理念。また訳が分からない。俺の表情が代弁したのか、マギさんがクロードの言葉を引き継ぐ。
「私たち三人の基本理念の中の一つに『適正価格の販売』があるの。それは安すぎても、高すぎてもダメ。私たちは、β版で偶然だけどトップって呼ばれる生産職だったの。で、私たちが作る装備は大体が言い値で売れる。つまり、私たちが価格を設定するのと同義なの。だから私たちはアイテムや情報に対して、適正に価格を定めたいの」
つまり、ゲーム内の市場が賑わうように価格の指標を自分たちが作っていく。と言う事なのか?
「例えば、ユンくんがもし、新たな製法でアクセサリーを作るとする。それが安くても、高くてもどっちでも構わない。不適切と思われる価格で売りだしたらどうなると思う?」
「それは……安く売れば、ポーションの時みたいに高値で転売される。高くしたら、俺が暴利を貪る」
「そう。更に言うと、入手が困難。プレミアが付く。なんてことになれば、RMTの温床になる可能性がある。そういう事態を私たちは望まない」
「だから、誰かがやりそうな方法や製法を事前に知っておくことで、そういう輩が出た時、同じ物を作って適正価格にする事が出来る。まあ、ゲームバランスを保つ偽善的な行為と笑えば良い。俺たちは、お前じゃなくて別のプレイヤーが同じように新たな製法を見つけても同じように交渉する。
ゲーム通貨なんて所詮ゲームの金。情報料で出しても惜しくない」
それってつまり、惜しみなく出せるだけ稼いでいる。ってことか。しかも適正価格で。
「じゃあ、俺が売らなければ良いってこと。じゃ、ないよな。もし俺以外の誰かがそこに辿り着いた場合。って話だし」
「うん。ユンっちのプレイを阻害する気はないし、自由にプレイして良いよ。それにこの話蹴っても良いし」
協力しても良いと思う。クロードやリーリーの第一印象は悪かったが、この外着は良い出来だし、マギさんは結構信頼している。
「分かりました。教えます。って言ってもあんまり特別な物じゃありませんよ」
「ああ、助かる」
俺が説明した事は、自分のセンス【付加術】のことだ。
付加で新たに追加された技能付加と物質付加の二つ。トリオン・リングの追加効果は、その内の物質付加を使ったもの。
「それで、何で呪加を込めているかっていうと、そうしないと壊れるんだ」
「壊れる?」
「ああ、これがそのアクセサリーのなれの果て」
俺は、インベントリから取り出した鉄くずをテーブルの上に置く。
「法則に沿わないと全部のアクセサリーがこうなる。法則は、付加は三つまで。隠しステータスで±1以上の付加。ただし、銅のアクセサリーには付加できなかったから、使う金属の種類によって、付加できる数やプラスの数が増減する可能性がある。そして、消耗品と食材アイテムへの付加は不可能。素材アイテムには可能だった。ってのが今分かっている所です」
「へぇ~、ユンっち。結構調べてるんだね。それで物質付加は大体分かったけど、技能付加ってどんなもの?」
「技能付加は、その。まだ検証してないから完全には分からないけど、たぶん手持ちのスキルをアイテムにくっつけるスキルだと思う」
「だから、半分しか分かっていない。という意味か。事前に聞いて良かった」
クロードが呟く。いや、これって全然使えるとは思わないんだけど。
「ユンくん、またとんでもないスキル覚えたね。自由に自分のスキルをアイテムに付加できる。正直チートだよ」
「いや、全然使える気がしないんだけど」
えっと、弓の≪アーツ≫の遠距離射撃と連射弓・二式、錬金センスの上位変換と下位変換、≪レシピ≫のアイテムたち、そして細工センスのスキルとか。
一度、画面を操作して確認したが、この技能付加は、センスに付随する能力は付加できない。例えば、鷹の目の遠視能力や暗視能力、ターゲット能力。それに、細工センスの鉱石の鑑定眼とか。
いわゆるスキルは、アクティブ・スキルと呼ばれるもので。自動発動のパッシブ・スキルと呼ばれるものは、全てセンスに内包されている。
だから、俺の持つ速度上昇のセンスの速度上昇や鷹の目の遠視能力をアイテムに付加することは、不可能だろう。
「幾つかの可能性を話すと、付加したアイテムはどうか。素材にも付加できるか。できないか。使用したアイテムはどうなるか。魔法スキルを付加した場合のMPはどこから貰うのか。この三つで大きく変わるね」
「検証が必要だね。じゃあ、ユンっち。この杖に付加してみて」
リーリーが取りだした一つの木材が光を放ち、無骨な杖に代わる。木工センスのスキル【杖作製】で作ったのだろう。俺のリングと似たような出来だ。ただ、その性能はレベルが高い分、高くなる。
「良いのか? でも、魔法センスってないぞ」
「付加術も魔法センスの部類だ。【付加】でもすれば良いんじゃないのか?」
「分かった。あっ、なんか、キーワードとか登録しなきゃいけないみたい。」
内包する技能を発動する言葉が必要みたいだ。そうだよな、製作者自身のスキルと重なることを避けるための措置なのかな? そうだな――じゃあ、アクティブで良いかな?
「設定して。じゃあ、【技能付加】――付加・アタック」
俺のMPを吸い取り、手の中の杖が赤い光を放ち、ステータスを変化させる。
杖【装備】
ATK+2 INT+8
追加効果:【付加】――アタック
「じゃあ、僕が使ってみるけど良い?」
杖をリーリーが持つ。
「キーワードは『アクティブ』だ」
「分かった。いくね、『アクティブ』!」
リーリーの声と共に、杖が赤い光を放ち、隣のクロードが赤い光を足元から立ち込める。そして、杖は――折れた。
「なるほどな。技能付加の強すぎる代償だな。技能付加したアイテムは、一度しか使えない使い捨て。それで、リーリー。MPは?」
「全く。MPの消費無しでエンチャントができる」
「おお、センス無しでも使えるし、MPも吸われないのか。でも使い捨てがな」
なんか、武器が壊れて勿体ないな。とちょっと場違いな事を思ってしまう。
「これはヤバイって、絶対に需要がある。ユンっち限定じゃなくて僕が使えるって事実が凄い大きい。誰でも使えるんだもん。これがアクセサリーじゃなくて、ただの素材に使えれば、安価で魔法の使えるアイテムになるよ」
その後、いくつものアイテムで実験してみたが、技術付加の制限は掛かっている。
付加するスキルは、一つまで。物質付加とは別で共存可能。この時点で凶悪と言えるそうだ。
そして、付加されたスキルは、製作者が事前に設定した『キーワード』を唱えないと使えない。つまり、俺の作ったものを奪われても誰も使えないし、本質も調べられない。唯のユニークアイテム扱いになるだろうとのこと。
スキルを使うと必ず壊れる。戦闘中に武器や防具が破損する事は致命的だ。
中には、付加できないスキルも存在した。それは、付加術の技能付加と物質付加。これだけは無理だったのは当然の処置と言える。
最後に、素材アイテムにも付加出来たことが大きい。そして技能付加したアイテムは、自由に命名出来た。
「ふーん。なるほどな。現状では、ユン一人の専売特許と言う事だな」
「そういう事だな。まあ、制限はこれが全部じゃないと思う。物質付加の時と同じで銅製のアクセサリーでは、壊れる、ってことはランクの高いスキルは相応の素材じゃなきゃ駄目なのかもしれない。詳しく分かったらまた連絡するよ」
マギさんたち三人には、えらく感謝された。別に、こっちは検証に付き合って貰ったので感謝するのはこちらなのだが。
そして三人は、付加のセンスを取得しないそうだ。
「今日はありがとうね。ユンくんがもしも付加術で作ったアイテムを売ったりする場合、値段を一度相談してくれると嬉しいな」
「はい。むしろ俺の方からお願いしたいほどですよ」
「それじゃ、ユン。これは情報料だ」
トレード画面を申請され、クロードと繋がる。そして、送られてきた額に俺は、目の錯覚を疑うのだった。
――300万。つまり、3M。
大金過ぎて、実感がわかない。
自分の豆腐メンタルが忌々しい。