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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第8部【攻城戦イベントと魔女城】
314/359

Sense314(改訂版)

12月31日、長らくお待たせしました。取り下げていた最新二話の修正が終わりました。これからもよろしくお願いします。

「タクとミカヅチは、何で俺に頼るんだよ! 無理だからな! 俺、弱いから真っ先に倒れるっての!」

「まぁ、落ち着け。この場所は狭いんだから他のプレイヤーが囲んで戦うなんてことが出来ないんだ。それなら、必然的に接するプレイヤーを強化する方面だろ」

「それに、ユンは、エンチャントの他にも、俺たちを巻き込まずに射撃ができる。頼んだぞ」


 ミカヅチは、楽しそうな笑みを浮かべて六角棍を叶えて、腰を深く落とす。

 タクもクリスタルソードとダマスカスソードを引き抜いて、二体のナイト・ゴーンドと対峙する。

 二人の構えに合わせるようにナイト・ゴーンドたちも構える。

 右手を前に突き出して貫手のように構えるナイト・ゴーンドの手は、長い爪と相まって黒い槍のようにも見える。


『では行くぞ。人間たちよ』

「へっ、一人たりとも倒させるつもりはないさ。私たちの力で邪魔させて貰う!」

『ならば、我らは、押し通らせて貰う。一人でも多くの人間を打ち倒すのが目的。貴様らだけが人間ではない』

「それも邪魔させて貰うぜ! 俺たち三人がな!」

「なぁ! さりげなく俺が逃げられないようにしてないか! なぁ!」


 ミカヅチとタクが二体のナイト・ゴーンドとの舌戦を繰り広げる中で、俺は地味に逃げ場が潰されるような言葉を聞きながらも弓矢を強く握りしめる。

 そして、遂に敵が動き出す。

 一体目のナイト・ゴーンドが蝙蝠の翼を羽ばたかせ、推進力を生み出して突撃してくる。

 鋭い爪を持つ右腕を突き出した体勢のまま地面を滑るように迫り、そのままの勢いでミカヅチとタク、そして俺たちを超えて他の城壁の上に居るプレイヤーを狙いにきたようだ。

 そんな一体目に対して、ミカヅチは突き出された右腕に合わせるように、六角棍の先端を合わせ、ナイト・ゴーンドの突きを受け止める。

 両者のぶつかり合う風圧が城壁上部を駆け抜け、堪らず、目を閉じてしまう。


「っ!? ミカヅチ!」

「ちっ、パワーは結構あるな。嬢ちゃん!」

「分かったよ! 《付加》――アタック、ディフェンス、スピード!」


 ミカヅチへの三重エンチャントを施し、拮抗していた力が徐々にミカヅチが押し込むようになる。


『ぬぅ、倒すには、我一人では、手間が掛かるな』

『だが、私らは、二人! その首を狩らせて貰うぞ!』


 二体目のナイト・ゴーンドが一体目の死角になるように、身を低くして接近し、一体目の背中を踏んで、ミカヅチの背後へと回り込む。

 一体目のナイト・ゴーンドと力で僅かに勝っているが、それでも手を離せない状況で、ミカヅチの首へと鋭い鉤爪が振るわれるが――


「こっちだって俺がいるんだ。そう簡単に落せると思うなよ!」

 タクがミカヅチの二体目のナイト・ゴーンドとの間に割り込むように体を滑りこませ、右の長剣で一撃を弾き上げ、カウンターとして左の長剣を振るう。

 跳ね上げるように振るわれた左の長剣が作り出した切り上げの後も浅く、そして、硬い皮膚に阻まれて大きなダメージは与えられなかった。


『今回は阻まれたが、次の機会を狙うとするか』

「そのまま自由にさせるかよ!」


 タクは、後ろへと滑るようにして交代するナイト・ゴーンドに追撃を掛ける。

 タクの振るう斬撃をナイト・ゴーンドは、手先の鉤爪で受け流し、体を捻るようにして躱すとその回転の勢いでカウンター気味に裏拳を放つ。

 一方的に責め立てようとしたタクは、慌てて二本の長剣を引き戻して、長剣の側面を交差させるようにして打撃を受け止める。

 裏拳の打撃を受けて、後ろへと押し込まれるが、タクは防御姿勢を保ったまま止まる。


「くくっ、ガンツみたいな格闘系なんだな。パワーだけじゃなくてテクニックもある。ちょっと敵MOBとしては新鮮かもな」

「こういうイベント用に用意された敵MOBってほんとAIが優秀だよな。私も楽しくて仕方がない」

「いや、しみじみと言っている場合か!」


 俺は、二人の攻防をただ見ているだけしかできなかった。

 俺には、ついていけないし、倒せるとも思えなかった。


『私は、一人でも多くの人間を血祭に上げなければならない』

『だが、私たちの邪魔をするのなら、貴様らから血祭にしてくれるわ!』


 より一層の圧力を圧力を増すナイト・ゴーンドたち。


「さぁ、ここからが本番だ! 嬢ちゃんも全力で支援しないと、生き残れないぞ!」

「分かってるよ! 《付加》――アタック、ディフェンス、スピード!」


 タクに三重のエンチャントを施した瞬間、城壁上部で両者が全力でぶつかり合い、その衝撃が広がる。

 城壁の上に配置されたプレイヤーは、圧倒的に後衛寄りのプレイヤーが多く配備されており、ナイト・ゴーンドと対峙して物理攻撃を持ち堪えられるプレイヤーは多くない。

 更に、城壁という広さが制限された場所では、タクとミカヅチが自由に動くだけのスペースは確保できず、ナイト・ゴーンドたちは蝙蝠の翼を持っている。


「はぁ――《六連旋打》!」


 ナイト・ゴーンドの正面に立つミカヅチが瞬く間に六角棍による連続突きを放つが、打撃を受けた後に翼を利用して大きく上空へと飛び上がり、追撃を避ける。


「ユン! 合わせろ!」

「《属性付加》――ウェポン!」


 ナイト・ゴーンドとの打ち合いで背後に回ることに成功したタクは、クリスタルソードを高く掲げる。

 俺は、長剣に対して火属性のエンチャントを放ち、刀身が赤い光を放つ。


「――《パワー・バスター》!」

 一刀の元に振り下ろされる斬撃が両翼の間、背中の真ん中を捉える。

 だが、ナイト・ゴーンドは、その斬撃に合わせて翼を動かし、赤く光る刀身を横から叩き攻撃を逸らす。

 軌道の逸れた斬撃がナイト・ゴーンドの腕を斬り付け、HPを減らすことはできても致命傷にはなっていない。

 反撃として放たれる裏拳でタクへと逆襲すると共に、号令が上がる。


「今だ! 手の空いている奴は、畳みかけろ!」

「っ!? ――《弓技・一矢縫い》!」


 ミカヅチの号令と共に、上空へと飛び上がった個体とこちらに背を向ける個体へとプレイヤーたちが攻撃を放つ。

 俺も慌てて、背を向けるナイト・ゴーンドへとアーツを放てば、タクが攻撃しようとした背中の真ん中に矢が突き刺さる。

 その他にもプレイヤーが放つ魔法や遠距離アーツのため絶え間ない攻撃が城壁上部の一部を崩し、攻撃エフェクトがナイト・ゴーンドの姿を覆い隠す。

「……これじゃあ、姿が見えないな」

 攻撃が自然と止み、その後に立ち込める煙の奥を見通そうと目を細める。

 パラリ、と城壁の端が崩れ落ちる音を聞きながら、煙が晴れるのを待ち――


「――はぁ?」

 

 俺の顔の横に何かが通り抜けた。

 殆ど、無意識的に発動していた【空の目】と【看破】が煙の中から投げられた城壁の石材を最小限の動きで避けていた。

 そして、避けた先では、投げられた石材を受けた魔法使いの一人が城壁の向こう側へと吹き飛ばされて落ちていく。


『中々に堪える。邪魔をする奴を倒してから皆殺しなど、悠長なことを言っている場合ではないな』

『こうなれば、目に付く者を片っ端から倒さねばならぬな』


 晴れた煙の中から再び姿を現したナイト・ゴーンドは、HPが減少しており、その姿はボロボロである。

 蝙蝠の翼は、皮膜が破れて穴が開き、手の鉤爪は途中で折れており、硬質な皮膚には、罅が走っていた。

 だが、その瞳には強い憎悪の火を宿し、先程までよりも邪悪さを増している。

 それとなく、危機感を感じて、メニューから【身代わり宝玉の指輪】を装備する。

 その直後、轟音を伴って投げられた石材が俺の体を捉える。

 投げられた石材が俺の肩に当たり、ダメージは【身代わり宝玉の指輪】の効果で無効化されるが、衝撃は消すことができずに弾き飛ばされるようにして転がる。


「っ、痛いっ……」

『くはははっ! 愉快だ! 弱き者を圧倒的な力で叩き潰す時の声は!』

「ゲスな台詞を私らの前で吐いてんじゃねぇぞ! クソ悪魔どもが!」


 ミカヅチは、一体のナイト・ゴーンドが投げる石材を六角棍で撃ち落としていくが、全てを撃ち落とし切れない。

 足場の制限された城壁の上では、真っ直ぐに投げられる石材の射線上に大体のプレイヤーが集まっており、盾を掲げたプレイヤーの影に隠れている。

 俺は、石材の投擲による衝撃から立ち直れずに、事態を見上げているだけだった。

「それ以上、好き勝手させるかよ! ――《パワー・バスター》!」


 タクは、ナイト・ゴーンドの投げる石材を避けて接近し、投擲攻撃を止めようとする。

 だが、二体目のナイト・ゴーンドがタクの斬撃を受け止める。それは、先程のタクの妨害と立場が逆になっている。


「なっ!?」

『先ほどから邪魔ばかりだな。吹き飛べ!』

 それだけ言うナイト・ゴーンドは、タクを引き寄せるようにして長剣を引っ張り、態勢の崩れたタクの腹部に向って、拳を放つ。


「――タク!」


 ナイト・ゴーンドは、城壁の通路ではなく、城壁へと落とす角度でタクを殴り飛ばす。

 俺は、衝撃で痛む体を起こして、駆け出す。

 城壁から落ちるコースを飛ぶタクの腕を途中で掴み、何とかギリギリで落下を防止する。

 だが、踏ん張りの利かない態勢でタクの右手を掴み、俺も巻き込まれないように城壁の端を掴んで引き摺られないように指先に力を入れる。


「タク、自力で上がって来い!」


 俺は、タクに呼びかけるが、タクの体からは力が抜けている。

タクの残りHPは、三割のために、一度にHPの半分を失うとなる可能性がある【気絶】の状態異常の可能性を思い浮かべる


「だ、誰か! 引き上げるのを手伝ってくれ!」


 俺が声を上げるが、タクを助けるために動こうとするプレイヤーたちは、一体目のナイト・ゴーンドに投擲のターゲットにされる。

 そのために、誰も石材の投擲の射線上となる壁役の後ろから現れるプレイヤーが居ない。


「くそっ、俺一人の力でやらなきゃいけないのかよ!」


 俺は、悪態を吐きながら、タクを引き上げる右手が少しずつ滑るのを感じる。


『そう、易々と排除した邪魔者を復活させるか』

「嬢ちゃん、避けろ!」


 タクを引き上げるために手立てを考える俺だが、一体目のナイト・ゴーンドはそれを妨害するために俺へと石材を投げてくる。

 再び襲う投擲のダメージは、【身代わり宝玉の指輪】で防ぐが、体に走る衝撃でタクを離しそうになるのを歯を食いしばって耐える。


『戦力が過剰になっている。私は、纏まったところを倒していくとしよう』


 タクと相対していた二体目のナイト・ゴーンドが蝙蝠の翼で俺たちの頭上を通り過ぎ、迂回するようにして城壁の上に居るプレイヤーを後ろから襲っていく。

 ナイト・ゴーンドに寄って殴り倒され、城壁から落とされるプレイヤーたちの声が響く。


『くくくっ、いい感じに絶望しているな』

「まだ、終わらねぇよ! ――《キネシス》!」


 使い勝手の悪い【念動】センスのスキルを利用して、タクの重さを少しだけ軽くする。

 イメージは、下から押し上げるようにして、タクを支えながら、一気に引き上げる。

 踏ん張りの利かない態勢から持ち上げたために、勢い余ってタクと一緒に城壁の上に倒れ込む。


「早くタクを処置しないと……」


 投擲攻撃の衝撃で体が痛むが、何とかタクのHPを回復するために、メガポーションを使用して、その後【気絶】の状態異常を状態異常回復薬で回復させる。


「う、ううっ、ユンか。ああ、油断した」

「俺は、いいからとっとと起きて、あの暴れているナイト・ゴーンドを止めてくれ」


 タクは、【気絶】と城壁からの落下しそうになったために、二本の長剣を取り落としている。

 そのために、新たに別の長剣をインベントリから取り出して、立ち上がる。


 それと共にミカヅチが相手にするナイト・ゴーンドが石材の投擲を止めて、黒い波動が発し始める。


『同胞が排除した邪魔者を助け出したのか。邪魔者の排除も弱者をいたぶるのも止めだ! 全力で片付けるぞ! 戻れ! 同胞!』


 一体目のナイト・ゴーンドが城壁上部の上のプレイヤーを襲うもう一体の方へと声を掛ける。


『心地のいい悲鳴を聞いていたのに、仕方がない』


それだけ呟く二体目のナイト・ゴーンドは、翼を広げて上空へと跳び上がる。


『だが、私の排除を邪魔して、悲鳴を聞くための皆殺しを邪魔にした存在は、私の手で消す!』


二体目のナイト・ゴーンドが俺に狙いを定める。


「ユン!」


タクには、この場に残って、一体目のナイト・ゴーンドをミカヅチと協力して仕留めて貰わないとこの場は全滅する。だから、一体目を確実に倒させるために、俺は、こいつを引き付けなきゃいけない。


『生きて帰れると思うなよ! 小娘がぁぁっ!』


真上へと飛んだナイト・ゴーンドは次に翼を折り畳み、空気抵抗を無くして真っ直ぐに城壁上部に向って、急降下してくる。

 そして、俺の体を捉えると共に、【身代わり宝玉の指輪】の効果が発動し、宝石が砕け散る。


「――タク、後は任せた! 全力で逃げる!」


 そのまま、ナイト・ゴーンドに弾き飛ばされるようにして城壁の外に向って下へと落ちていく。


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