Sense311
「……悔しいけど、七味もアクセントになって悪くないですね」
「バターもこってり感が増して、味にまろやかさが生まれるな」
「ふん。今回も引き分けですね」
「ちっ、しゃーねぇな」
一先ず、豚汁戦争は引き分けに終わったらしい。
「で、あんたら、だれだ?」
一先ずのいがみ合いを終えた後、黒いミリタリー風の男が肩に突撃槍を掲げて、俺とマギさんの存在に気が付いた。
「えっと、ここに来て攪乱に参加するように言われたユンです」
「それと、同じく戦場を引っ掻き回す予定のマギよ」
長身の男から真っ直ぐに見つめらせて、少しぎこちなく喋る俺と朗らかにウィンクしながら答えるマギさん。
「おー、あの【アトリエール】と【オープンセサミ】のとこの。俺は【幻想自衛隊】のダンブルだ。まぁ自由にやれば良いさ。機動力や突破力、耐久力のある奴らが集まっているから。ソロでの戦いにはもってこいだ」
「そんな考えで部隊運用が通じる訳ないだろ。より効率的に、集団での動きは綿密に作るべきだと私は提言する」
「そんなの素人の大人数がやるには無理だろ。方針だけ決めて多少自由に戦わせた方がいいだろ! そんな動きができるのはできる奴にやらせておけ」
また、いがみ合いを始めるダンブルと白の女騎士。
確かに双方の意見は最もだが、俺としては急に連携を取るのは、不安はある。かといってソロで大軍に突撃も厳しく感じているからマギさんと一緒である。
「それでそこの二人はどう考える?」
「いや、急に話を振られても困るんですけど」
「そうね。私としては、急な連携は無理だし、私たちは、基本生産職だからね。そういう専門的な話は他の人に投げているわ」
白の女騎士に話を振られて、そう答える。そこで女騎士が自分の自己紹介をしていないことに気が付く。
「む、私の自己紹介がまだだったな。私はギルド【ファンタズム・ナイト】の白部隊を預かるアリアである」
また独特な硬い口調の人だ。多分、生真面目なんだろう。
そして、自己紹介を受けた直後に、法螺貝の笛のような低く響く音が戦線の向こう側である魔女城の方から響き渡る。
直後に響く金属のぶつかり合う音。
「敵が動いたな。それじゃあ、俺は空に上がるぜ。――《召喚》!」
ダンブルは、黒の召喚石を取り出し、放り投げる。それは空中で形を変え、滞空上体で現れた。
「黒いドラゴン!」
「俺の相棒さ。さぁ、上がるぞ、アラド!」
驚きの声を上げる俺を尻目に、アラドと呼ばれるドラゴンは、どんどんと空へと登っていく。
「くっ、我々も行くぞ! 彼奴に後れを取るなよ!」
「うるせぇ、敵対意識燃やすな! ついでにオークにでも負けてろ!」
「なんだ、その余計な一言は! 覚えておけ!」
上空で声を振って来るダンブルの声に、アリアは、ハルバードを掲げて対抗する。
この二人の言い合いは、一言余計だ。と感じ、またそんな二人の知り合いたちは、苦笑いを浮かべている。
「それじゃあ、私たちも行くわよ。リクール――《成獣化》!」
「はい。リゥイ、ザクロ――《成獣化》!」
マギさんに合わせて、リゥイとザクロを本来の姿に戻す。
省エネルギー状態の《幼獣化》スキルとは逆に《成獣化》させ、リゥイに跨る。
リゥイの機動力を借りて、肩にザクロを載せて、三尾の自動防御に期待する。
マギさんは、水色の狼の背に直に跨り、戦斧を肩に掲げてバランスを取っている。
「私たちも行きましょうか。ナツ、ムツキ」
「さて、私も呼び出すわよ。――《召喚》!」
そう言って、空へと飛び立つミルバードとガネーシャの上げた前脚を使って器用に背中まで駆け上がるレティーア。
そして、エミリさんは、昨日に引き続きシルバーゴーレムを呼び出し、その肩に乗る。
俺たちの騎獣を羨ましそうに見ているアリアは、すぐに顔を変えてやる気を出す。
「騎獣型MOBに負けるな! 己の足腰を信じて突撃だ!」
そう言って、進撃してくる敵の隊列を崩すために、敵部隊の左側面へと迂回する。
俺とマギさん、レティーア、そしてエミリさんの四人で一時的にパーティーを組み、人数バランスを考えて自然と右へと迂回する。
機動力があり、なおかつ目立つ使役MOBの一団にプレイヤーたちは道を開けるので、スムーズに右側へと辿り着き、一度反転する。
「それじゃあ行くわよ! 突撃!」
突撃では一番に質量のあるエミリさんのシルバーゴーレムが駆け抜ける。その後に続くレティーアとムツキが、その重量で踏み潰していく。
戦斧を構えたマギさんとリクールは、俺と並走しながら残った残党を擦れ違い様に切り裂いていく。
俺は、【空の目】の広い視野で敵将のユニークMOBを探す。
「見つけた! ――《弓技・流星》!」
上空に放った矢が、青い尾を引いて、狙った上位個体のMOBとその周囲にダメージを与え、地面にクレーターを作り上げる。
アーツを受けて、動きを鈍らせる一団に向って連続で矢を放ち、次々と射抜いていく。
流石、部隊を纏めており、その周囲に配置されている取り巻き。通常の敵よりも防御が硬く感じるが、そこは、昨日の飛竜に比べれば弱く、更に体を守る鎧も関節部やウィークポイントとなる首や目などを積極的に狙い、数を減らす。
「ユンくん。後ろも気をつけて!」
リゥイに騎乗しての高速戦闘でも命中率はそれほど下がっていない。ただ、敵を蹴散らしながらの攻撃に狙っている敵以外には目が向いていない欠点がある。
それをマギさんとレティーアたちが周囲の敵を切り払い、俺を守りながら、駆け抜ける。
勿論、リゥイもただ騎乗しているだけではなく、前脚で敵を蹴りあげ、踏み潰して敵の反撃を受けないように走り続ける。
また、リゥイは水盾を、ザクロは三尾のオートガードを利用して、俺への攻撃を防いでくれるために、安全に敵を仕留めていける。
「そろそろ、右側の軍勢を抜けますよ。次はどうします?」
「それは勿論、反転して、再度食らいつく!」
先行するレティーアとエミリさんは、一度乱した軍勢に対して、反転して再度蹴散らしていく。
俺は、そうして作られた安全な道を駆け抜け、昨日は城壁からでは届かなかった敵将のユニークMOBに次々と一撃を入れていく。
時には、魔法使いの取り巻きに防がれ、時に、少しズレて脇の整列したMOBの集団を狙ってしまうが、それでも敵将MOBの周辺を混乱させることができた。
その結果、敵将のユニークMOBが保持する味方を強化するスキル効果を弱め、軍勢全体の統率力を少しでも削いでいく。
「それに、敵はもう丸裸だ」
アーツから始まり、集中的に狙った周囲は、複合毒を合成した弓矢を受けて、各種身体系状態異常を受けた敵が動きを止め、敵将MOBまでも少なくないダメージを受けている。
また《弓技・流星》でできたクレーターが丁度良い、ボスまでの目印となり、プレイヤーからは、目指す場所がよく分かる。
「プレイヤーが敵将のユニークMOB目掛けて突撃してきたわね!」
「それじゃあ、俺たちは、このまま右に戻って、脇を少しずつ削ればいいかな」
初動に大きな打撃を与えることが目的であり、最後までこの乱戦になりそうな場所にいるつもりはない。
さっさと敵を掻き乱したら、城壁内部に引き下がろう。と内心呟きながら、次々と同じような部隊長とその取り巻きのMOBにアーツと毒矢を放っていく。
そして、俺たちが突撃を終えて、右側へと辿り着いた時には、森の中に隠れ潜む少数部隊を見つけたが、同じように潜むプレイヤーの集団との交戦を確認して、そちらは任せることにする。
「ふぅ、突撃って疲れるね。ちょっと休憩しようか」
「私もお腹すきました」
「私も少し疲れたわ」
「なら、はい。三人ともお茶」
俺は、常備ストックしてある水筒から砂糖を多めに溶かしたアツアツの紅茶を取り出し、三人に振る舞う。
まぁ、しばし様子見といったところだろう。
これにてストック分は終了となります。
ストックがそれほど多くなくてすみません。
これからもWeb版と小説版、コミック、雑誌連載のオンリーセンス・オンラインをよろしくお願いします。
変更点
アグリア→アリア