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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第8部【攻城戦イベントと魔女城】
310/359

Sense310


朝食の準備も終わり、少しずつプレイヤーたちが活動を始める中で、朝食の配給が始まる。和食と洋食の基本メニューと自由メニューの組み合わせ方式だ。

大きなギルドでは、自前の料理プレイヤーがギルドメンバーの分を用意し、自身で料理を用意していないプレイヤーたちは、皆、朝食の席で親睦を深めている。

これから戦いで背中を預ける者同士が、同じ釜の飯を食う、いい光景だ。


「お、おはよう……少し、水をくれ」

「おはよう、ってかなり憔悴してるんだが大丈夫か? クロード?」


 そんな光景を見ながら、豚汁の配膳を手伝っていると、くたびれた姿のクロードがよろよろと近づいてくる。

 俺は、近くの人に配膳を代わって貰い、クロードに水を渡す。


「大丈夫か? って言うか、宴会した後の二日酔いみたいな表情だな」

「違う。昨日よりも効率的な陣形の構築や作戦やら何やらを考えていたのだがな。結局、無難な結果になった。それに、手に入ったドロップを弄っていたら仮眠程度になってしまってな」


 ふぅ、とコップの水を飲み干したクロードがそう告げる。マギさんとリーリーは、早い内に眠り、今のまだ眠っているらしいが、クロードのパートナーのクツシタだけでなく、マギさんのパートナーのリクールやリーリーのパートナーのネシアスまで引き連れてきていた。


「リクールに、クツシタ、ネシアスもおはよう」

「ナー」「ワォン」「チチッ」


 幼獣状態に戻っていた三匹は、鳴き声を上げると俺にすり寄って来る。

 いつも以上に熱心に顔を舐めてきたり、匂いを嗅いでくる。それに合わせて、ザクロも混ざり、リゥイは、少し離れた所で目を細めている。


「なんだ!? なんなんだ!?」

「ふむ。この匂いは――鰹節だな。旨そうな匂いが染みついたんだろう」

「はぁ? ああ、お腹空いてるんだな。待ってろ、すぐに朝食を用意するから」


 俺の顔を舐めて鰹節の匂いを味わおうとするリクールとクツシタを引き剥がし、クロードに預け、ネシアスはリゥイの背の頭の上にそっと移す。


「それじゃあ、朝食を用意しますか」


 クロードに和食セットを用意し、リゥイたちにも豚汁と塩結びを用意した。

 リゥイ以外は、豚汁にご飯を混ぜた猫まんまの食べ方でガツガツと食べているが、リゥイだけは、サイドメニューのサラダの方に意識を集中させている。


「クロード。今日の予定はどうなってる? また、城壁からの支援射撃か?」

「確かに支援射撃もして貰いたいが、今日は、戦場にでも出たらどうだ?」

「えー、やだな」

「折角、リゥイという騎獣が居るんだ。全力で走らせてみるのも必要じゃないのか?」


 クロードから受けた指摘で確かにリゥイを全力で走らせたことは余りなかったことを思い出す。


「それなら、やってみるのもいいかな」

「今日は、リーリーとネシアスが一日城壁上で回復。ユンとリゥイ。マギとリクールに今日は戦場の方で決定だな。あー、味噌の味がうまい」


 しみじみと呟くクロードは、豚汁を啜りながら、おにぎりを一口食べる。当たったのは、鰹節と醤油のおかかだった。


「それで、使役MOBを含めた戦い方ってのは?」

「そうだな。昨日見た感じだと、ユンは、城壁からの固定砲台もいいが、リゥイに乗った移動砲台も有効だと考えたんだ。だから、マギたちを護衛につけて、至る所に大技を打ち込んで敵の戦線を混乱させる。という戦い方じゃないのか?」

「了解。いつ頃動くんだ?」

「相手の出方次第だ。攻城戦に類似したイベントは、β時代の町防衛イベントだ。あの時は、平原に展開したMOBを相手に戦ったが、部隊を広げて四方の城門を攻めていたからな。今日あたりに、西を抜いた三方向を攻めてくるかもな」


 そう言って、指についたおにぎりの米粒を舐め取り、話を聞いている間に新しく淹れたお茶を啜っている。


「まぁ、混乱だけさせれば、後は後ろに下がって貰った方がいいだろう。午前中一杯は攪乱して、奇襲部隊が指示を出しているMOBを叩く。午後は、敗残兵の処理。ってところだな」

 下手に混戦した状態で使役MOBなんて引き連れていたら、味方同士での戦闘が怖い。と言って納得だ。


「なら、俺は、午後から夕飯の準備を手伝うかな」


 まぁ、昨日は、慌ただしく始まったイベントだったために短時間だけの集中戦力で後は、休憩を挟まないとまた倒れる。昨日は、あんなに大変だったのに嬉々として食事の後は武器を確認するプレイヤーたちのやる気には、絶対的に負けている。


「そう言えば、クロードは、どこのポジションに居る予定なんだ?」

「俺か。俺は……町中だ」

「はぁ?」

「魔法も闇属性単体で特に強力な訳ではない。使役MOBのクツシタも戦闘に特化している訳ではないからな。町中で大人しく防具の修理でもしてろ。と言われた。と言うか、押し付けられた」


 凄く、不服そうな苦虫を噛み潰したような表情のクロード。そんなに攻城戦イベントが楽しみだったのか。


「ま、まぁ、代わりに頑張って来るよ」

「折角目の前の敵を倒して、未知の素材やアイテムの可能性があるのに! それを指を咥えて見ているしかできない事実! 確かに全体での勝利も重要だが、アイテムも欲しい!」

「あー、うん。それじゃあ、昨日、撃ち落とした敵MOBのドロップ分けるから落ち着け」


 そう言って、昨日、無心で打ち下ろしてったMOBのドロップからクロードが使えそうな裁縫系の素材を少し取り出す。

 一部、自分用に残しておくが、使わないものは渡しておけばいいだろう。


「これは……今の修理待ちの防具を補修。いや、強化できるぞ! うおおっ! やる気になって来た!」

「あー、頑張れよ」

「また、なにか素材があれば持ってこい! 新しい装備を作ってやるぞ!」

「覚えてたらなー」


 さっきまでゲッソリしていたクロードが復活する。元気がないよりある方がいいが、あり過ぎるのも鬱陶しい。


「クロード、煩い」

「ぐあっ!?」


 そうこうしている内に、朝食の場に現れたマギさんに背中から蹴り倒されて強制的に黙らされるクロード。

 俺は、いつもの事と軽く流す。


「おはようございます。朝食はどうします?」

「それとユンくんおはよう。私はパンを貰えるかな?」

「ボクもマギっちと同じのお願い」


そうこうしている内に、朝食の場に顔を出したマギさんとリーリーの朝食を取りに行き、二人の前にお茶を用意する。


「一晩経って、気力が戻ったようで安心したよ。食べたらすぐに東の城門に行くけど行ける?」

「はい。いつでも準備万端です」


 イベントに備えて、消費アイテムだけは、個人で使いきれない程用意した。最悪は、途中で倒した敵MOBから入手できるアイテムで物資を補給しながら戦う必要があるが、昨日と同じペースで戦ってもアイテムは尽きない。その代り気力が尽きたが……


「そう、よかった。なら、簡単に攪乱に参加するプレイヤーたちと顔合わせしましょう」

「マギっちもユンっちも頑張ってね。僕は上から応援してるから。何かあれば、上に居るタクっちやミカヅっちから連絡が行くと思うよ」


 リーリーから応援を受けて、今日一日、軽くやる気を出す。

 食事も終わり、微かに慌ただしくなり始めた。どうやら、未だに東の空に不気味な次元の亀裂を生み出した魔女城で動きがあったらしい。

 マギさんは、慌てて、食事を掻き込んで俺と互いのパートナーの使役MOBを引き連れて、東の城門へと向かう。

 魔女城の桟橋が降りて、城からぞろぞろと現れ、隊列を組み始める敵MOBたち。それに対応するように、集まるプレイヤーたち、戦闘開始までの猶予時間はありそうだが、それでも着実に戦いの時間が迫って来る。

 探せば、ミュウたちやフレインたち強い相手と戦いたいPKがパーティー単位で動く斬り込み部隊やケイの防衛部隊、セイ姉ぇやマミさんの魔法部隊やミニッツの回復部隊など、知人プレイヤーを探すことができる。


 その中で撹乱で一番目立っていたレティーアの使役MOB・ガネーシャのムツキを目指して、行くと、そこで見たものは――


「あん!? なんだよ、なんか文句あるのか!」

「文句はあります。なんですか、その選択は!」


 眠たげな目をしたレティーアが木の器と寸胴鍋一杯の豚汁を啜りながら、ムツキと肩に載せたミルバードのナツと共に食事を続けている目の前で二人の男女が言い争っている。

 そんなレティーアの横では、呆れた様子でやれやれと首を振っている仮面姿のエミリさん。

 一人は、突撃槍を背負った重鈍そうな黒いミリタリー風の防具の男。

 もう一人は、白い軽鎧と女性の背よりも長いハルバードを握り締める金髪の女騎士。


 二人は互いに一歩も引かず、またその背後に控えている同系色の装備のプレイヤーたちは、またか、と溜息を吐いている


「な、なにごと?」

「あー、【ファンタズム・ナイト】の女性プレイヤーのみで構築された白部隊長と【幻想自衛隊】のギルドマスターね」


 それぞれがギルドのイメージカラーで統一された装備であるために、はっきりと分かりやすい白黒の対立。

 マギさんは、噂に聞いていたけど、この組み合わせはほんとに喧嘩しやすいのね。と溜息を吐く。


「【ファンタズム・ナイト】のギルマスと【幻想自衛隊】のギルマス同士は仲がいいんだけど、白部隊長の子とは、喧嘩が多いらしいのよ」

「それってどっちが悪いんですか?」

「さぁ、今回の場合だと――」


「豚汁に七味入れて味を変えただけだろうが!」

「だからって貰って来た鍋に直接入れるのが非常識です! なので味を整えるためにバターを入れて中和します!」

「確かに、直接は悪かったが、お前も鍋に直接入れようとしてるじゃねぇか!」

「七味のプラスをバターでゼロにするだけです! あなたと一緒にしないで貰いたいです!」


 豚汁戦争勃発だった。それと、よくよくレティーアの鍋の豚汁を見ると既に七味とバターの溶けた油が浮いていた。


「し、心底どうでもいい」

「だよね。けど、後で七味とバター味は試したくなるよね」


 そう言えば、味噌バターって食べ方があるよな、後で魚の味噌バターのホイル焼きでも作ろうかな。と考えてしまう。


「なら、新しい豚汁貰って来て、食べ比べして七味とバターのどっちが旨いか優劣を着けるぞ!」

「望むところよ! 待ってなさい! 今すぐ貰いにいくから!」


 そう言って走り出す金髪の女騎士。いや、戦闘の準備しようよ。と内心でツッコむ。


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