Sense31
昨日の反省を生かして、今日は町の外に出ないと決めました。いや、引き籠りじゃなく、今度は弓矢を買うためのお金稼ぎです。
ブルポでの一定収入はあるが、それ以外が全くなく、今手持ちのアクセサリーを売ろうと考えた。
気持ち的に、売れれば良いかな。という程度だ。
宝石の研磨は、DEXボーナスで失敗も無くなり、安定的に加工できるようになったために俺は次の段階に進もうと思った。
それは、上質な鉄鉱石の加工だ。
「携帯炉の限界を試したい。そして、オレだけのワンオフ装備を作ってみたい」
と言う事で、錬金で用意した上質な鉄鉱石を炉に入れて、インゴット化する。
自身にエンチャントを施して、ガンガンと槌を振るう。そして、一個目が出来上がる。DEXが高ければ、生産の成功率は上がる。実際に比較するとよくわかる。楽なんだもの。
あの鉄すら今では、鼻歌交じりで作る事が出来る。そして、どんどんと量産する上質な鉄インゴット。
ここまで手間を掛けるのは、もちろんレベル上げ。やっぱり修羅の道こそ強者の道らしく。低ランクの生産ならスキルで一発で良いが、高ランクは、自分の手でやった方が経験値的な物の入りが良いらしい。そして、成功率も高いとのこと。
そして俺は、一個自分専用のリングを作り上げる。
それのデザインや名前を変更、色も俺の服の黒と合わせてブラックメタルな感じで、三重の輪が交差する。その中央の台座にペリドットを置く。
宝石の素材効果は、ただ単に、防御が上昇するだけだ。微小で1、小で2。つまり、中サイズで3。
出来上がったリングは、今までのリングと比較できないほど良い物が出来た。
トリオン・リング【装備品】
DEF+9
上質な鉄鉱石の上限が6だから、十分にレベルの高いアクセサリーだろう。
センスのレベルも良い感じで上がったし。と思って眺めていたら、付加のレベルが30を超えていた。
『【付加】Lv30以上で取得可能――消費SP3【付加術】』
うーん。なんか、はじめてみる取得センス。SPの合計取得数もまだ20を超えてないし、これが派生なのだろう。
説明は……付加の種類増加、所持属性の付加の種類増加……
前者は、三種類にさらに種類が増えるんだな。これでINTのエンチャントがあれば、後衛強化出来て俺の存在意義が増すな。そして後者は、駄目だな。俺は魔法属性のセンスを取得していないから関係ないな。それに、なんか説明が続いているし。
……アイテムへの付加。
「……マジかよ。事前に強化施せば、戦闘が楽になるな。装備品以外に出来るかな」
わくわくしながら取得。さっそくスキル欄を見る。
弓になんか【連射弓・二式】って物が追加されている。けど後で検証。今は、付加のカテゴリーは……おおっ!? 一気に増えている。魔法攻撃力上昇のインテリジェンスと魔法防御力上昇のマインドが増えている。他にも、なんか敵のステータスを下げる【呪加】ってのがあったり。
一番下に、新たに追加された種類の者が二つ【技能付加】と【物質付加】があった。
「技能付加は、なになに……プレイヤーの持つスキルをアイテムに施します。って俺への恩恵ねぇし! これって、普通に、装備品に他人のスキルくっつけるだけだろ!」
もうひとつの方は、ちゃんと俺への恩恵があった。
「物質付加は、プレイヤーの持つエンチャントを付与する。これは、アイテムに施して売れば、いける!」
さっそく、適当なアクセサリーに物質付加を施す。
リング【装備品】
DEF+5 追加効果:ATK付加
やったぞ。と調子に乗って二つ目のエンチャントを施したら、割れた。壊れた。
「あっ……ふぅー、そうだよな。無制限にアイテムにエンチャントが出来れば、ノーリスクで二重、三重のエンチャントが出来るってことだよな」
どうせ売るつもりだったアクセサリーや使わないアイテムを取り出し、実験を繰り返す。
「付加の他にも、呪加って施せるかな? まあ、実験実験。【物質付加】――カースド・ディフェンス」
黒色の発光と共に、リングのステータスが変化した。
名前の後ろに(-1)と着いた装備品になった。
「うわっ、呪いのアイテムじゃん。そう考えると――【物質付加】――カースド・アタック」
やっぱり壊れた。
今度は、付加、呪加、付加の順番で施した。
俺の作ったトリオン・リング。マジで。この性能ってあり得ないだろ。
トリオン・リング【装備品】
DEF+9 追加効果:ATK付加、SPEED付加、MIND呪加
「これって、魔法職なら、攻撃捨てて、魔法攻撃と防御に割り当てる事が出来るな」
つまり、現状のアイテムの素材だったら、+補正は、一つまで。それ以上つけるには、素材のグレードを引き上げるか、呪加の-補正を掛けるしかない。と言う事。そして一つのアイテムには、三つまでしかエンチャントできない。-の補正も強すぎるとアイテムが鉄くずになってしまう。
さらに、このエンチャント。同種の+と-を互いに掛ければ、打ち消しあう。つまり、俺ならこの法則のもとで自由に装備品を変えられるのだ。
ちなみに、消耗品や食材アイテムには無理。一発で壊れるか、ゴミになる。
手持ちのインゴットや石に攻撃付加が掛かった時はどう使えば良いのかと悩んだ。投げると攻撃力が上がるとか?
「可能性が広がるな。まあ、今のところ実証はこんなところか。それに今わかっている条件以外で壊れないってことは、これは魔法の部類だな。生産の部類じゃない」
あれ? そういえば、エンチャントをここまで育てた人って俺くらいじゃないか? マギさんにチャットを繋ぐ。
「マギさん、今良いですか?」
『なんだい? ユンくん。ポーションの納品にもう来るのかい?』
「はい、行きます。それといくつか話したいこともありますから」
『わかったよ。待ってる』
走って向かった俺。適当なアクセサリーに速度上昇のエンチャントを装備して走ったが、アイテムエンチャントと自身のエンチャントは区別される。というところだろう。
体感速度がぐん、と上がった。それに伴い、何度か町中でぶつかりそうになったので、途中から早歩きになったが、それでも十分早い。そしてアイテムのエンチャントの場合、エンチャントの光が発生しないのが利点だ。
「マギさん。こんにちは」
「おー、来たね、じゃあポーション納品しちゃう?」
「そうしますか」
いつも通り、ブルポ売って、お金にする。DEXボーナスでポーション作製に失敗が減ったから、畑増やして、解毒ポーションと解痺ポーションも追加で作ろうか。と考えている。
「ユンくん、塩梅はどうだい?」
「まあ、ぼちぼち。あとは弓の命中補正ってDEXが関係していました」
「おー、やっとそこに行きついたか。流石、我が弟子」
いや、師弟関係じゃありませんし、そもそも命中率の関係を知っていたような口ぶりだよ。
「知ってたんですか?」
「私を誰だと思っているの? 生産職のマギさんだよ。βの頃は、クロードとリーリーと一緒に色々なセンスの特性調べて、戦闘職に最適な補正を探してたりしたんだから」
「知ってたなら教えて下さいよ」
俺の泣きごとに、にししっと笑う。俺はそれをジトッと睨んでいると、すぐに、ごめんね。と片手でゴメンというポーズで謝ってきた。
「別に私は意地悪しているわけじゃないよ。考えてもみなよ。ゲームを一から十まで教わってどうだい? 攻略本を見てやるのと変わらないじゃないか」
「まぁ、確かにそうですね」
「それに、私はおんぶに抱っこは嫌いでね。自分で探してこその誇りだと思ってるんだよ。来る人にはアドバイスはするし、交渉だってする。キミみたいな面白い子は大歓迎さ。私が嫌いなのは、有象無象さ。教えてほしけりゃ、俺ツエェェェの人や攻略サイトでも巡ってろって話さ。Only Oneのコンセプトぶち壊すなら勝手にぶち壊せ。って話」
「結構、辛辣な言葉ですね」
「まあ、情報だって、交換はありだと思うよ。私は、前線のアイテムや敵の情報を買って、彼らに見合った最適な武器、防具。ってね」
トップを張る生産職からのありがたい言葉だな。全く、自分で道開かないと。
「今の高尚な演説の授業料が要求されそうですね」
「あはははっ、私もそこまで鬼じゃないよ。ユンくんがこれからも同じ生産職で仲間ならそれで良いし」
「じゃあ、俺がここまで成長しました。ってことでこのリングをプレゼントします。今日はやっと上質な鉄鉱石から作ったんです」
「おおっ!? ついにそこまで行ったか。私は今、鋼を扱っているよ。後は、今銀装備を製作中」
「まだまだ先は長いですね。それじゃあ、これどうぞ。俺も頑張ってきます」
指からトリオン・リングを外して渡す。まだまだ自信の持てる生産職にはなれないな。
「じゃあ、俺。これからもっと金策巡らせますんで」
「うん。じゃあね。お姉さん、このプレゼント大切にするから」
俺が店から出て走りだしたところで、マギさんが慌てて店から飛び出してきた。だが走り出した俺はそれに気がつかない。
「全く、なんてものを置いていくかな? ここまで型破りなアクセサリーは見たことがないよ」
マギさんが、誰も聞こえない声で呟いた。ちなみに、俺は何か重要な話をしようと思っていたのを忘れていた。