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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第8部【攻城戦イベントと魔女城】
307/359

Sense307

 今回もイベントを楽しみにしているプレイヤーが開始直前まで忙しなく動いている中で、それに連動して俺たち生産職もプレイヤーに合わせて、慌ただしく動いていた。


「マギさん。追加注文のハイポーションとMPポーション。それから少量だけど、蘇生薬、メガポーションとMPポットができましたよ」

「ありがとう。ユンくん! あんたたち、追加で入荷したわよ!」

「「「うぉぉぉっ――!」」」


 多数のプレイヤーたちが雄叫びを上げて、販売員のNPCにカウンター越しに詰め寄る。

 場所は、【生産ギルド】のギルドホール。各ギルドを代表するプレイヤーが集まり、戦略物資であるポーションなどの回復アイテムの確保のためにこの場に留まる。

 OSO内のアイテムマーケットの一つである【生産ギルド】では、朝からイベント開始直前の今までの時間にアイテムを買い求めるプレイヤーが多数出現。

 それに合わせて、俺も急遽、本来の予定にないポーションをマギさんに頼まれて生産して、たった今納品したばかりだ。

【アトリエール】で売れた在庫と委託販売を合わせると、かなりの額になる。


「ごめんね。余分に在庫を確保していたつもりでも全然確保できていなかった」

「いえ、いいんですけど……この調子で攻城戦イベント大丈夫なんですか?」

「どうなんだろうね」

 こんな醜いポーション争いをしている時点で共に戦えるのか、という疑問がある。

 今回の攻城戦イベントは、ギルドから個人単位での事前登録による参加で、俺は個人参加。マギさんは、【生産ギルド】の一員として参加する予定だ。


「それにしても凄い売れようだよね。まさに飛ぶように売れる」

「ユンくんのポーションは、中々手に入りにくい上位ポーションや回復量の高いハイポだからね。他の通常品質でも在庫が殆どないよ」


 目の前で納品したばかりのポーションは、飛ぶように売れて行き、マギさんと共に攻城戦イベントの開始時刻を待つ。

 俺の後にも数人の生産職が消耗品を納品すれば、そのどれもが綺麗に完売だ。中には、必要の無さそうなアイテムも混じっているのにそれを競うように買うのだから、冷静になれ。と言いたくなる。

 そして、イベント開始の午後三時――


『――これより公式イベント【攻城戦】を始めます。事前登録されているプレイヤーは、このアナウンスが終了後に特別サーバーに転移します。イベントの詳しい説明は、転移後に行います。繰り返します――』


 イベント開始のアナウンスが流れる。俺もマギさんも緊張した面持ちでイベントのカウントダウンを待つ。


『10、9、8……』


 アナウンスによって、生産ギルドに集まっていたプレイヤーも黙り、裏方に籠っていたクロードとリーリーもこちらに顔を出す。

 そして、イベント恒例の転移の衝撃に備える。


『――2、1、0』


 歪む視界と軽い眩暈に似た症状。軽い浮遊感が一瞬のうちに体験したが、何度も慣れたために、何とか堪える。

 そして、辺りを見回せば、自分がいる場所は、先ほどと変わらない生産ギルドのギルドホール内部だ。

 それも他のプレイヤーたちも同じ場所にいる。

 まさか、イベント開始の不具合が……と脳裏に過った瞬間、ズン、と真下から突き上げるような揺れを感じる。


「きゃっ!?」

「うわっ!?」


 俺とマギさんは、近くの手摺りに掴まり、転移とは違う衝撃を耐える。

 クロードは転びそうなリーリーを支えて、四肢を踏ん張って耐えている。


「な、なんだ!?」

「とにかく、外に出てみよう!」


 マギさんの提案に俺たちは、他のプレイヤーと共にギルドホールの外に出る。

 第一の町には、一切のNPCたちが消え去り、代わりに東の空に亀裂が走る。

 空間を押し広げるようにして広がる極彩色の亜空間。その空の切れ目が縦に大きく広がっており、城壁で遮られても見える高い城が亜空間の中に存在した。


「空が、割れている?」


 まるで世界でも崩壊するようにして亀裂が押し広げられる世界。亀裂の拡張と共に突き上げるような衝撃を受け、しばらくして空間の拡張が終わる。

 そして、恒例のイベント説明だ。


『参加してくれたプレイヤー諸君、久しぶりだね。改めて自己紹介だ。私は【OSO】開発部部長の吉野和人だ』


 三度目の開発部部長の登場に、今回も登場する安心感が場に広がる。もはや、大型イベントでこの人の姿を見るのは定番と化している気がする。

 そして、今回もイベントの主旨を彼が説明する。


『今回のイベントは、事前告知の通り攻城戦イベントだ。ソロでは達成が困難であり、パーティーやギルドなどの多人数が一つの大きな目標を達成して貰いたい』


 そう言って、一度言葉を区切る。


『今回の攻城戦は、東に出現した異次元の魔女城の攻略になる。数多の軍勢を保有し、防衛施設として強力な城に入り込み、ボスである【魔女】を倒すことが大目標となる!』


 なるほど、全プレイヤー対MOBの軍勢との戦いという分かりやすい構図だ。


『期間は、前回同様に一週間。今回のフィールドは、第一の町のミラーサーバーを使用し、時間の流れが通常のサーバーの約八十倍に引き延ばされている。リアル換算で約二時間程度だ。また、今回は、敵の軍勢の進行と言うことで上手く対処しなければ、第一の町にも被害が発生する。

 その被害は、イベント終了時に通常の街にもフィードバックされ、被害範囲に応じて、一定期間のNPCのサービスに様々な支障を及ぼすだろう。

 他にも敵の軍勢の中には、強力なアイテムを保持するユニークMOBなども配置されている。町の平和を守りつつ、異次元の侵略者を撃退してほしい!』


 おい! 町への被害がイベント終了時に現れるのかよ。と聞き、町中に店舗やギルドホームを持つプレイヤーたちは、かなり真剣に捉えていた。

 NPCのお店にダメージを受ければ、一定期間の取引の停止や値段の高騰。またプレイヤーの施設へのダメージは、被害に応じた再建クエストがプレイヤーに発生する。


『それからデスペナルティー関連の仕様が一部イベント仕様になっている。デスペナルティーの時間はレベルによって算出され、デスペナルティー中にもう一度倒されるとイベントからリタイアだ。それでは――イベント開始を宣言する!』


 その一言に、雄叫びを上げて、東門へと殺到するプレイヤーたち。そんな中で俺たち生産職は、冷静に事前に示し合わせた行動を再確認する。


「さて、マギ、リーリー、ユン。最初に行うことは?」

「「「――ご飯!」」」


 俺たちの重なった言葉の通り、この大規模な協力体制では、必要になるのは軍勢を支える兵站。つまり、食事だ。

 β時代の町の防衛イベントとは違う点はあるが、バックアップ体制を早くに整えるために俺たちは、動き出す。

 クロードと俺は、生産ギルドの中でも料理系ギルドが中心となり、食事を用意し始める。

 マギさんとリーリーは、各ギルドにいきなり戦闘を始める前に、長期戦に応じた必要な処置である食事、寝床、見張りシフトなどを相談して回る。


「各ギルドは、事前にどれだけの食事を用意した!」

「戦場で簡単に食べられるように、おにぎりやパンなどの食事は、七千食! その他、肉料理や野菜料理などは、五千食分を作りました!」

「その量だと全プレイヤーが三食食べたら二日も持たない! 今より作り始める! ここは戦場になるぞ!」


 壇上に上がり、杖で床を強く叩き声を張り上げるクロード。そして、各ギルドは、大鍋を用意して多人数が対応できる料理を作り始める。

 事前にかなりの人数が動員されているために、俺も料理の手伝いには参加しないが、代わりにテーブルや食器などの食事をする場所の確保に走る。

 自分の食事は事前に用意したが、少しでも【料理ギルド】の負担を減らすために、早速満腹度の減っているプレイヤーの出現に率先して対応する。

 事前に用意した軽食をプレイヤーに提供する一方で、野外の簡易テーブルに山のように積まれた食材。そして、各料理ギルド員たちが鬼気迫る勢いで包丁を動かす。

 遠くでは、戦端が開かれたのか、響く剣戟と魔法の爆音を聞きながら、手を止めることをしない。

 そして、俺たちの心は、一瞬だけ通じ合う。


(――あれ? これって攻城戦イベントだっだよな)


 生産職には、生産職の戦いがある。という無常な現実を感じ取った。

 だが、それでも戦いを継続するために、食べ物を求めて戻って来るプレイヤーを暖かく出迎え、また送り出す。その全体のための歯車となる事を全員が決めていた。


イベント終了時の町の被害の説明分追加

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