Sense306
本当は、もう少し書き溜めてから連日投稿したかったけど、流石に二か月更新してないのは問題だと思い、ストック分を放出します。
それでは、第八部【攻城戦イベントと魔女城】をお楽しみに
「お兄ちゃん! ごはん! 早くログインしようよ!」
「全く、始まるのは三時からだろ。まだ、十一時なのに」
美羽に急かされ、文句を言いつつもお昼ご飯を早めに用意する俺。今日は、告知されていたOSOのイベントである【攻城戦】イベントの日である。
元々、サポート、支援が中心である俺だが、知人のプレイヤーたちに多少声を掛けて、上手く連携を取れるように相談をした。
サポート中心ということで、戦場には極力出ずに、後方支援である食事や消耗品の生産補充。戦場支援の遠距離射撃やエンチャントによるバッフが求められた。
特に難しいことはなく、気楽にしているが、俺は、美羽と共に早めのお昼を食べて、イベントに向けての話し合いをする。
「美羽たちは、どんな風に動く予定なんだ?」
「私たち? いつも通り、六人一緒に敵を蹴散らす!」
ぐっ、とスプーンを持って、女の子らしいぷにっとした小さな力こぶを見せつめる美羽。行儀が悪いのでやめなさい。と言う。
「相変わらずだな」
「そういうお兄ちゃんは、イベント中は何するつもりなの?」
「俺か? 後衛支援の生産と戦場支援がメインかな? まぁ俺程度に支援ができるのは精々、十数人程度だけどな」
そう言って苦笑を浮かべるが、美羽は釈然としないような顔で、もぐもぐとスプーンを動かす。
「十数人を一度に支援できる。ってそれ、十分だよ」
「戦場なんて、何百。もしくはそれ以上のプレイヤーがいるし、俺以外にも同じようなことができるプレイヤーも集まっているらしいから」
既にOSOがオープンして半年以上が経過した現在、俺のような隠れていた物好きプレイヤーが少しずつ現れ始めた。
こっそりと【付加】のセンスをレベル上げしていたプレイヤーも居るが、エリアなどの範囲支援の【演奏】という限られた状況の支援職など様々な隠れた支援職が発見された。
俺のような【付加術】と【空の目】の組み合わせの人は居ないようだが、それでもある程度のプレイヤーの能力底上げはできる状況だ。
「ふぅーん。そうなんだ。じゃあ、私を見つけたら、率先してエンチャントしてね」
「だーめ。依怙贔屓はしない。それに、美羽たちは中々倒れないだろ」
「それって信用って受け取っていい?」
「どうぞ、ご自由に」
俺は、口許に小さな笑みを浮かべて、答えると、美羽は、ならその信用に応えないと、とやる気を見せる。
「それじゃあ! じゃあ、私がボスクラスのMOBを倒したら、一品好きな料理作ってよ!」
「全く、仕方がないな」
「やった! それじゃあ、肉料理でよろしく」
そう言って、食べたばかりですぐにリクエストしていく。食ったばかりでまだ食欲あるのか、と思えば、最近魚料理が多くて肉料理が少なかったかな。と思い直す。
そして、まぁ、それくらいならいいか。と軽く頷けば、小さく、やった。と可愛らしく呟き、自室へと駆け込んでいく。
やる気になっているな。と思いながら、俺も食器を片付けて自室へと向かい、VRギアをセットして、ベッドに横になる。
「さて、ゲームスタートだ」
いつものように起動して、深く深くに意識を落としていく。そして、降りたった【アトリエール】の工房部。
何時もよりも店舗のほうがうるさいな、と思いながら、お店の方へと向かうと――
「――頼む! ありったけのアイテムを売ってくれ!」
「ひゃっ!? な、なんだこれ!?」
いきなりの誰かの声に悲鳴を上げて、一歩後退る。NPCのキョウコさんは、淡々と次から次へと訪れるプレイヤーへとアイテムを売っているが、それでもプレイヤーの列は消えない。
「ど、どうなっているんだ。いや、とにかく何とかしないと。すみません、次の人は、こっちで受け持ちます」
一応は並んでいる人たちは、きちんと俺の指示に従って、ポーションを買ってくれる。だが、イベント直前で大挙してポーションを買いに来る列は、しばらく続く。
【アトリエール】の購入制限で多くは買えないために文句を言っているプレイヤーは、後ろでイライラしながら待っている人たちに物理的に追い出され、スムーズにアイテムを売っていく。
そして――
「ふぅ、終わったぁ~」
一時間掛けて、在庫のポーションを売り尽くした。【アトリエール】が始まって以来の快挙に喜ぶよりも短時間の慌ただしさにイベントが始まる前に疲れ果てて、その場に座り込んでしまう。
そして、急にメニューからフレンド通信が入り、慌てて、フレンド通信を開く。
「はい! ユンです」
『ユンくん! できれば! できればだけど、すぐに【生産ギルド】の方にポーション納品して~!』
マギさんの悲鳴のような声に、自分と同じような状況なのだと思い、一度お店を閉めながら、話を聞く。
「こっちも沢山来たんですよ。何があったんですか?」
『イベント前の駆け込み需要だよ! ギリギリまでレベリングして、最後には集めた資金でポーションを買い集める! 予測以上に集まって、足りないの!』
「こっちも全部、売れちゃったんですぐに作ります」
『ありがとう!』
イベント直前なのに、精神的にかなり疲れたが、俺は、アイテムボックスからポーション用の素材を集める。
「時間がない。まぁやるか」
何本かの自分用のMPポーションを取り出し、準備する。
「いくぞ。――《調合》」
過去に成功したレシピから素材とMPを消費して短時間でポーションを作り出すスキルによる生産。あまり好きではないが、緊急事態ということで、MPポーションも使いながら生産する。
複数生産する時、自分が失敗をしない最大数を一度にスキルで生み出し、次のスキルの待機時間までポーションを片付けて、MPポーションで回復、再びスキル。
これを何度も繰り返して、ポーションを生み出す。
ハイポーション、MPポーション。そしてその上位のメガポーションに、MPポット、蘇生薬だ。その他、状態異常回復薬は、他のプレイヤーでも作れるために、作る人が少なく、需要が高いものだけを選んで沢山作る。
これだけで溜め込んだ素材を大量に消費して、後は自分用のポーションがインベントリにあるだけだ。
「うへぇ、さっきの駆け込み購入で過去最大の売り上げだよ。全く、金だけじゃ食えないのに」
俺は、溜息を吐きながら、金だけあっても生産できないのに。と思いながら、ポーションをそれなりの数揃えることに成功する。
「よし。マギさんのところに行こう! 《付加》――スピード」
NPCのキョウコさんにお店を任せて、町の中央にある【生産ギルド】のギルド会館へと走る。
走る速度を上げるために、エンチャントを施す。
以前よりもやや強い色を発するエンチャント。
センスがレベル50に達し【付加術】から【付加術士】のセンスへと成長させた。
所持SP3
【魔弓Lv15】【魔道Lv26】【大地属性才能Lv10】【看破Lv38】【空の目Lv25】【付加術士Lv1】【物理攻撃上昇Lv10】【俊足Lv35】【調薬師Lv18】【料理人Lv17】【生産者の心得Lv17】
控え
【弓Lv53】【長弓Lv40】【合成術Lv3】【彫金Lv30】【錬金術Lv3】【調教Lv35】【言語学Lv24】【泳ぎLv18】【登山Lv21】【呪い耐性Lv30】【魅了耐性Lv16】【混乱耐性Lv13】【怒り耐性Lv12】【身体耐性Lv1】【念動Lv7】
SP3消費の【付加術士】のセンスは、これまでセンス単体では短い範囲のエンチャントも広域エンチャントができるようになったが、【空の目】との組み合わせに劣り、単独での範囲エンチャントという優位性は、完全に無意味な物になっている。
そして、新たな新規エンチャント取得の情報が一部メニューから出来るようになったが、そのスキルの内容もよく分からない。
――《付加》系スキルを一定回数行う。
――【付加術士】のセンスを取得する。
――【魔法】系センスを一定レベルまで高める。
と言った感じで、はっきり言えば、よく分からないが、今までに比べて大きな変化はない。
ただ、センスの成長でレベルが1になりステータスが大幅に下がったが、それを補うエンチャントのステータス上昇率と継続時間が上がったので、トントンといったところだ。
そして、今は走っている町の雰囲気に当てられたのか、少し楽しい。
イベントが始まるんだな。と実感してワクワクし始めた。