Sense305
五月二十日より小説OSO五巻、コミック一巻、雑誌ドラゴンマガジン7月号より小説連載が始まります。
詳しいことは、活動報告、アロハ座長のツイッター、富士見書房サイトにて、ご確認ください。
「よっしゃぁっ! 俺がトドメを刺したぜ!」
ガンツは、崩れ落ちた金貨の山の頂上で大きく体を仰け反らせて、ガッツポーズを取っている。その一方で、金貨の拘束から解かれた俺は、壁に背中を預ける形で休んでいる。
「ユンちゃん、大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
俺を心配して声を掛けてくれるミニッツ。
落下の衝撃を【念動】スキルで弱めたために、落下ダメージ等は発生していないが、身体が高いところに持ち上げられた。という事実は、精神的に結構くる。
「ユン、腰抜けたか? 立てるか?」
「タク。……言われて気が付いたけど、確かに抜けてる。立てない」
言われて気が付いた事実に、助けてくれ、とタクを見上げれば、仕方がないな。と苦笑いを浮かべて、手を差し伸べてくれる。
その手を取り、引っ張って貰うことで何とか立ち上がる。
「ふふん、それにしても、タクは、どうしてあそこで金貨の腕を切り捨てたの?」
「はぁ? そりゃ、本体から一番多く切り離すことができるからだろ」
ニマニマと意味深な笑みを浮かべるミニッツ。そこに別の理由があるような言い方だが、タクの場合、無いんだろうな。と思う。有っても困る。
「そりゃ、囚われの姫を助けるための行動だったわよね」
「おい、ミニッツ。誰が囚われの姫だ。俺は――」
俺は、男だ。と言おうとした時、耳を突くような大きな声に掻き消される。
何事かを振り返った先では、金貨の山にガンツが、両手足を地面に着き、落胆のポーズを取っている。
「ああ、金貨が! 金貨の山が変色していく」
ガンツの言う通り、金貨は、少しずつ黒っぽく変色を始め、黄金の輝きが失われつつある。
俺は、近くに落ちている金貨を拾い上げて眺めてみると、今更に気が付いた。
「これ、メッキでできてる。中身は鉛だ……」
手の中で重さを比べた金貨だが金貨の比重がかなり軽い。
それにしても盗賊の地縛霊が固執していた金貨が全部メッキ加工の偽物とか、何とも皮肉だな、と思ってしまう。
「なるほどな。だから俺の盾でも防げた訳か。本当の金貨だったらもっと衝撃があっただろうからな」
後ろからやって来るケイとマミさんは、そう言って、構えていた盾をコツンと叩く。
「うぉぉぉっ! お宝ぁぁっ!」
「ガンツ。うっさいなぁ、ほら、鉛の中に宝箱があるでしょ」
ミニッツが指差す先には、鉛の硬貨の中に豪華な宝箱があった。
「罠もなさそうだから開けるぞ!」
こんな隠しボスのお宝。俺も駆け寄り、中身を確認する。
「これは……微妙だな」
誰かの呟き。俺には、そのアイテムの価値が分からないが取り出した物は、【格闘】センスの入門アクセサリーと一本のキラキラした目に痛い剣、本物のお金に、複合毒のポーション。その他にも細かなステータス補助のアクセサリーが数点だ。
「ボスって言っても全部がレアって訳じゃないしな。当たりは、この剣か?」
個人的に悪趣味だと、思う金キラキンの長剣を持つタク。
武器のステータスは――
課金剣・ゴールドラッシュ【長剣】
ATK+75 追加効果:課金攻撃
「課金って、お金だろ? リアルマネー?」
「いや、この課金ってゲーム内通貨、Gのことだ」
タクは、手に取ったユニーク武器を精査して、こちらに情報を伝える。
課金剣の能力は、一撃毎に所持金から1万Gを強制的に消費する効果と、攻撃前にGを《チャージ》することで次の一撃を消費したG分上昇させる。
そして、お金が払えなくなれば、能力が制限を受けてしまう。使いどころが極端な武器だ。
「絶対に、俺は持ちたくない。なんか、金を全部吸い取られそうで、嫌だな」
俺は、ゲーム開始時の金欠生活を思い出して、身を震わす。金欠には逆戻りしたくない。
「じゃあ、ケイは?」
「俺が持っても使わんだろ。タクが持てばいいだろ」
他にも色々な長剣系のユニーク武器を集めているだろ。と言うケイ。他のアイテム配分は、お金は均等配分で、ポーションは、ミニッツとマミさんが持つ。必要ないアイテムは、後日売るなりして再配分などが決まる。
そして、最後に残ったのは――
「また入門道具出たけど、誰が居る?」
「さっきの【料理】の入門道具に比べれば、需要は高いけどな。これが、【剣】とか【槍】の道具だったら、まだ値段も需要も大きく違うと思うんだけどな……。ガンツはどうだ?」
「俺が持っても意味ないだろ。初期レベル5分の補正って言っても、ここで出たアクセサリーの補助の方が効果高いって」
タクが音頭を取るが、既に格闘を持つガンツやケイは、必要なさそうだ。
そして、後衛のミニッツとマミさんと必要ないと首を振る。そのままだと、売りに出されて、お金に変えられそうなので、俺が手を上げる。
「良ければ、だけど、俺が貰っていいか? 俺の分のお金を減らしてもいい」
「俺は、問題ないぞ。みんなも問題ないな」
全員から了承を貰い、その場で格闘の入門道具であるリングを受け取る。
「【料理】センスは分かるけど、なんでこんなのなんだ?」
タクが純粋に疑問を俺に投げかけてくる。それに対しては、特に深い理由はない。
「いや、アクセサリーのデザインとか、装飾のレリーフが綺麗だから【彫金】センスの参考資料に。あと、放置してある大量の鉛も貰っていいかな? 何かに使えそうだから」
「……お前はそう言う奴だった」
呆れたように言うタクと苦笑いする回りからの生暖かい視線を感じる。
そして、クエストの達成条件を満たしているために長居するのも問題があるために、ガンツを先頭に山賊砦からの脱出が決まる。
帰りは、特にトラップなどに引っかかることなく、出口まで辿り着いた。
「ガハハハハッ、俺様は、この山賊団の首領だ! お前たちが先々代の首領が隠したお宝を見つけたのは分かっている」
砦を出た先には、坂の下に数十人の山賊とポールアックスを担いだ厳ついスキンヘッドの男がいた。
新手のボスで山賊砦のボスがここまで出て来たようだ。
「はぁ、めんどい」
既に帰る気満々だったために、そこに水を差されて、テンションが下がる。帰るまでが遠足とは、よく言ったものだ。
「なぁ、タク――」
横に居るタクの顔を見ると、何時もよりも好戦的な笑みを浮かべていた。
その表情に、ゾクッとして、出掛った声が引っ込む。
「やっぱり、武器の縛りってフラストレーションが溜まるよな。それに、クエスト条件も達成してるんだ。ならいいよな」
そう言って、現在している縛り装備からダマスカスソードとクリスタルソードへと切り替えるタク。
それに合わせて、ガンツたちもそれぞれのメインウェポンに切り替える。
「ちょっと、ストレス発散の相手になってくれよ!」
タクが一気に坂を駆け下り、山賊たちの先頭集団とぶつかり、吹き飛ばしていく。
タクだけでなく、ガンツも殴り飛ばし、ケイも盾で弾き返す。
ミニッツとマミさんは、魔法による援護で坂の上からの一方的に攻撃していく。
「凄いなぁ。やっぱり戦闘は、高い方を取った方が有利なんだな」
こういう集団戦では特に。とか、どこかズレたことを考えてしまう。
目の前では、タクたちが多人数相手に、圧倒しており、これって何時から無双ゲームになったっけ? と思ってしまう。
「はぁ、俺も付き合うとするか。早く帰りたいし」
そう言って、俺は、黒乙女の長弓に変えて、矢を番える。
高所を位置取り、広い視野で狙えるために、一撃で一人を確実に仕留めて行く。
坂を駆け上がり、こちらへと向かってくる山賊も平地に比べて、足取りが遅く、容易に狙える。
近い敵から優先的に倒しながら、これが攻城戦に役立つのだろうか。と思いながら、高い位置の敵は倒すのが大変。と言う事を心に刻む。
そして、数分後には、全ての山賊を打ち倒し、残った首領をタク、ガンツ、ケイの三人が囲んで反撃を許さずに勝利していた。
攻城戦イベントに向けての訓練のはずだが、これが役にたったのかは分からないが、楽しかった。とは言っておこう。
ステータス――
NAME:ユン
武器:黒乙女の長弓、ヴォルフ司令官の長弓
副武器:マギさんの包丁、肉断ち包丁・重黒、解体包丁・蒼舞
防具:CS№6オーカー・クリエイター
副防具:
アクセサリー装備限界容量 2/10
・無骨な鉄のリング(1)
・身代わり宝玉の指輪(1)
所持SP6
【魔弓Lv15】【長弓Lv40】【魔道Lv26】【大地属性才能Lv10】【看破Lv38】【空の目Lv25】【付加術Lv51】【物理攻撃上昇Lv10】【俊足Lv35】【料理人Lv17】【念動Lv7】
控え
【弓Lv53】【調薬師Lv18】【合成術Lv3】【彫金Lv30】【錬金術Lv3】【生産者の心得Lv17】【調教Lv35】【言語学Lv24】【泳ぎLv18】【登山Lv21】【呪い耐性Lv30】【魅了耐性Lv16】【混乱耐性Lv13】【怒り耐性Lv12】【身体耐性Lv1】
New
・複合毒のレシピを手に入れた。
・【料理】と【格闘】の入門道具を手に入れた。
・【付加術】のセンスがレベル50を超え、成長先が発生しました。
・攻城戦イベントが間近に迫っております。
これにて、第七部は終了。第八部の攻城戦イベントにご期待ください。
※鉛の硬貨の回収の描写を忘れていたので追加しました。