Sense304
Sense302から304までの一部を分かりやすいように変更しました。
金貨の集合体では、イメージが付きにくいとのことで、金貨のタコになりました。
金貨のタコより放たれる八本の腕が、次々と俺の後を追って、襲ってくる。
地面にぶつかり、撥ねるようにして、後を追ってくる腕から全力で逃げつつ、弓を構える。
「だぁっ! やっぱり、本体の地縛霊は、あの中か!」
「そうだろうな。っと、あー、斬れないで弾かれる」
「こっちも、サンドバック殴ってみるみたいで、普通に殴ると駄目だな」
俺は、横走りで腕に捕まらないように逃げながら、矢を放つ。俺の放つ矢は、金貨に遮られて、内部に取り込まれて見えなくなる。
タクとガンツは、追われる腕に攻撃して金貨を散らすが、地面に落ちた金貨の多くは本体に回収され、再び腕を伸ばして襲ってくる。
「やっぱり、ユンやガンツのような点での攻撃や俺の斬撃よりもケイとマミさんの攻撃がこの場合一番有効だよな」
そう言って、盾を構えるケイとその後ろに隠れて回復魔法で後方より支援するミニッツと目を閉じ集中しているマミさんを見る。
「ケイ! あんたが頼りなんだから頑張りなさい!」
「分かっているさ!」
盾を正面に構えて、正面より襲い掛かる金貨の突きに対して、衝撃のタイミングを合わせる。
「はぁぁっ――《グレートウォール》!」
構えた盾の正面に、何倍もの大きな空気の盾が生まれる。それは壁と評する程に大きく、逆に突撃してきた金貨の腕を弾き返して、周囲に散らす。
「今です。――《トリプル・サイクロン》!」
今の今までじっと魔法の力を蓄えていたマミさん。
時間を掛けて、威力を高めた魔法が、杖の先から解き放たれる。
「いっけぇぇぇっ!」
押し寄せる金貨の腕を真正面から削る螺旋の渦を描く、三本の螺旋の風。
ドリルのような尖端に触れて、腕から金貨を削ぎ落とすように、推し進め、旋風が金貨を巻き込んで、周囲にバラバラと金貨を降らせる。
そのまま、防御のように本体への道を遮る金貨の腕を削り取り、本体の頭部を深く抉る。
「見えました!」
手足を広げて金貨のタコを操る地縛霊の本体。高所で操っているためにすぐに攻撃が届かず、俺やタクが弓による遠距離攻撃や遠距離アーツを放つが、すぐに残った金貨を操作して、防御に回す。
「かぁっ! 次の準備だ!」
「なぁ、これって延々に続くんじゃないのか?」
また仕切り直しの状況。地面に落ちた金貨も本体に引き寄せられるようにして集まっていく様子を見ていると、終わりがないように思え、辟易とする。そんな中、後方より回復役のミニッツが声を上げる。
「ねぇ、気が付いたこと一つ言ってもいいかしら?」
「なんだ! 弱点でも見つけたか?」
「どうなんだろう。弱点というか、特徴? 直接の攻撃を受けた金貨は、本体には戻ってないのよ、ケイの《グレートウォール》で弾かれた金貨やマミの魔法で飛び散った金貨は」
ミニッツの言葉に、は、と周囲の足元の落ちている金貨を見る。確かに、ケイやミニッツの周囲に多くの金貨が落ちており、タクやガンツの周囲にも金貨が落ちている。
それを考えると、金貨は直接攻撃を受けると剥離して戻らない。点攻撃から面や範囲攻撃に切り替えた方が有効ってことになる。
「ありがとう! ミニッツ!」
「どういたしまして」
俺はすぐさま、攻撃方法を切り替える。
襲ってくる金貨の腕を避けて、金貨の腕に狙いを定める。
「――《弓技・疾風一陣》!」
新緑のヴェールが新円状に広がり、金貨の腕に突き刺さる。
矢単体だけではなく、広がるエフェクトにまで弱いながらも攻撃判定のあるアーツ。だが、中央に近い場所の剥離が行われるだけで、外側に近い箇所は、金貨が剥がれ落ちない。
「と、なると一定以上のダメージが必要にもなるのか」
放った矢が金貨の中に取り込まれるのを見る。
俺の矢は、プラス補正の自動帰還機能を持たせてあるので、その内、戻って来る。だが、取り込まれる様子を見て、一つの方法を思いつく。
それには下準備が必要だ。
「タク! 俺は、しばらく逃げ続けるから頑張れよ」
「なるほど、そいつで仕掛けるのか! なら、任された!」
俺が取り出したアイテムを見て、俺がやろうとすることを理解するタク。
弓は背中に背負い、両手には、マジックジェムを握り締めて、金貨のタコが取り込むように投擲していく。
俺は、一人黙々と内部にマジックジェムを送り込む。
その一方で、何時までも緊張状態の保てないガンツたちが軽口を言いながらも地道に金貨を削いでいく。
「なぁ、なんでユンちゃん、元気になってるんだ? お化けとか苦手って言ってただろ」
ガンツが金貨の腕を走りながら避けて、タクに尋ねている。
「あー、アレな。ユンの中で明確な基準があるみたいなんだよ」
「お化けの明確な基準って、ジャパニーズ・ホラーは怖いけど、アメリカのホラーは可愛いみたいな」
いわゆる雰囲気か、ビジュアルか。などの基準など、怖いのは人それぞれだ。
だが、俺も漠然としか嫌いの基準がないお化けに対してタクは明確な基準を見つけていた。
「あいつは、人型が駄目なんだよ。例えば、顔と手足があるお化けや壁に目や手が飛び出して驚かすタイプは駄目だけど、火の玉とか提灯、後は塗り壁とかは、暗い雰囲気じゃなければ、可愛いとか言うタイプだからな」
まさか、自分にそんな明確な基準が……確かに、スケルトンとかは人型だから苦手だけど、ウィスプとかの火の玉は可愛く思う。塗り壁もコミカルだから好きかも。どっちかと言うとキモ可愛い系も最初は苦手だけど、慣れると案外……と言う。
あとは、ゾンビとか幽霊も一応は人型だけど、人型じゃない奴は……まぁ昼間だと可愛いと思える。
「それじゃあ、ユンちゃん。今のアイツって何に見える?」
ガンツが指差す先は、俺がせっせとマジックジェムを投げ込む金貨の集合体だ。何に見えるか、と言われれば……
「ゴーレムの亜種のような物質系のMOB。あとは、軟体動物」
だって、毒や麻痺などの状態異常薬が効かないのだ。
それに、幽霊やお化け的な、ぬめりや冷気などはなく、無機物特有の物質的な要素がある。
その答えに対して、ああ、とどこか生暖かい視線を貰う。何だろう。非常に、居心地の悪い生暖かい視線が集まる。
「まぁ、ユンの場合、慣れで超えられるものもあるからな」
「なるよね。ホラーゲームとか慣れるとどのタイミングに脅かしポイントがあるのか分かるようになるよな」
なんか、ミニッツに納得された。けど、ホラーゲームとか、脅かしポイントが分かってても、肩が自然と跳ね上がるんだよな。と少し遠い目をしながらマジックジェムを投げ込む。
十分な量のマジックジェムを投げ込み、下準備が終わる。
「そろそろ仕掛けるぞ!」
「よし、頼んだ!」
俺は、タクたちのタイミングを確認しながら、投げ込んだアイテムを起動するキーワードを唱える。
「行くぞ――【ボム】!」
一斉に起動するボムのマジックジェム。金貨の中に取り込まれたマジックジェムは、内側から爆ぜ、大きく金貨で構成する体が内側で爆ぜて、大漁の金貨が落ちて行く。
「やった! これで多く削れた」
どこに取り込まれたかも分からないマジックジェムは、近くにあれば、連鎖ボーナスで威力を高め、単体でもそれなりの範囲のダメージを与える。
余すことなく衝撃を受けた金貨は、所々に抉れたような形で金貨の腕を維持しつつ、徐々に本体を小さくして、抉れを小さくしていく。
『グオオオオッ、我ノ体ガ崩レルダト!?』
例えば、手のひらで爆竹を爆発させた場合は、その威力は、手のひらの一部に当たるだけだ。だが、硬く握りしめた爆竹が爆発した場合の爆発力は、逃げることなく手全体にダメージを当たる。現に、金貨の腕の表面付近で爆発したマジックジェムは、威力の大半を外に逃がしてしまっている。
『ウヲヲヲヲ――金貨ガ、我ノ黄金ガァァァァッ!』
どうやら金貨の流れに運ばれたマジックジェムが運良く地縛霊の本体付近で爆発したようだ。
タコ頭部の右半分の金貨が崩れて行き、地縛霊の右半分の顔が露出して、能面のような顔でこちらを睨みつけてくる。
「ユン! 避けろ!」
「へっ?」
『ユユ、許サンゾォォォッ!』
能面のような顔を憤怒の表情に変えた地縛霊が、残った金貨の体が寄り集まり、蠕動するように震え、金貨の腕が寄り集まってできた巨大な腕が、一気に俺の方へ伸びてくる。
「なっ!? 《付加》――ディフェンス!」
咄嗟に、防御エンチャントを発動させるが、腹部を殴り付けるような金貨の波に飲まれて、壁に背中を叩きつけられて、金貨同士の結合が体の動きを阻害する。
「かはっ!」
叩きつけられ、肺から息が漏れる。身動きも出来ず、拘束されてしまった。咄嗟に使った防御エンチャントでダメージをHPの八割に抑え、【気絶】の状態異常もない。
ただ、体を拘束されて、ポーションなどが使えない。高い位置で金貨に張り付けられたために足が地に付かずに宙吊り状態。
ピンチなのだが、目の前の光景を見れば、ピンチの時のような焦燥感は生まれない。
「今だ! ――《デス・ブリンガー》!」
「行きます! ――《トリプル・サイクロン》!」
タクとマミさんが俺のマジックジェムの爆破に合わせて溜めた大技が、巨大な金貨の腕を切り裂き、削っていく。
『ヌオオオオッ、金金金カネェェ!』
俺を拘束する金貨が一気に結合力を失い、金貨と一緒に落ちる。俺は、それに合わせて、《キネシス》で落下の速度を緩め、膝を限界まで曲げて落下の衝撃を吸収する。
「ユンちゃん、大丈夫? ――《ハイヒール》!」
「ありがとう。ミニッツ」
解放された俺に回復魔法を使うミニッツと共に、ボスの地縛霊を見上げる。
失った金貨を戻すために地縛霊を覆う金貨までも金貨の腕として周囲に展開する。
そのチャンスをものにするために、ガンツがケイに向って走り出し、ケイの組んだ手を足場にする。
「いっけぇぇっ!」
「な、投げた!?」
組んだ手を一気に持ち上げて、上空高く投げられたガンツは、そのまま金貨の集合体へと突撃していく。
腕へと着地して、腕を駆け上がり、地縛霊の前まで辿り着く。
「これを受けろ。――《鬼狩り蹴り》《爆振掌》《裂空刀》!」
ガンツがボスの地縛霊に向って、格闘系アーツを連続したコンボ攻撃を決めて行く。
蹴り、掌底、手刀、打撃と、格闘ゲームのキャラ張りに決めるコンボラッシュ。短い間隔で決められる攻撃の連鎖にダメージボーナスを蓄え、最後の一撃を迎える。
「これでフィニッシュだ! ――《地割撃》!」
力を溜めた拳が地縛霊の腹部に突き刺さり、そのまま地面へと叩きつけるようにして振り抜かれる。
体を支える金貨の塊を突き抜けて、床へと一気に急降下して叩きつけられる地縛霊。
『金ガ全テ……』
その数瞬後に、溶けるようにして消える地縛霊は、最後まで金に執着していた。
あとは、七章は、ラノベで言うところの終章を残すのみとなりました。
そして、予告として八章は、攻城戦イベント。
今回は、超大型やビックリギミックのあるボスでは無く、オーソドックスに二段階系のボスでした。
あと、ガンツがフィニッシュを決めたのは、きっと自分の中でスマブラかリリカルなのはVividが影響されているのかもしれません。無手格闘かっこいいです