Sense303
俺は、ケイを盾にして、その後ろから地縛霊の動きをじっと観察していた。
手に持たずに振り回す六本の宝剣、浮遊する盾や鎧、念力で弾くお金の弾丸。
これらはある意味で【念動】センスを持つプレイヤーの理想の戦い方の一つのような気がする。
「浮遊させられる質量は、レベルを上げれば距離が伸びる。そもそもこれは、【念動】センスなのか?」
もしも【念動】系のスキルによって作られた状況なら、武器には慣性が働かない。
試しに、こちらに飛来する金貨の弾丸を一つターゲットに取り、念動スキルを発動させる。
「――《キネシス》」
金貨の弾丸は、徐々に俺の念動力の干渉を受けて、空中で静止する。そして、即座に金貨のコントロールを解除すれば、地面に落ちる。
当たれば十分にダメージになる威力で【念動】センスが使われるということは、俺のレベルよりも遥かに高いか、上位のセンスに成長している可能性もある。
「ステータス自体はそんなに強くない。っていうと一芸特化のボスなんだろうな」
「何にせよ! こっちの攻撃は一応通って、相手の攻撃は簡単に回復できるんだ」
タクとガンツのコンビネーションに押される地縛霊。その後ろで回復するミニッツ、攻撃魔法を放つマミさん、支援する俺という状況ができ上がっている。
装備を弱体化させすぎたために、《キネシス》による干渉しかやることがない。そして、相手は何十枚の金貨と剣と盾を複数同時に操るのに対して、俺がコントロールを奪えるのは、精々金貨一枚程度か、剣と盾の動きを一瞬遅らせる程度だ。
「ちっ、ヤバい」
タクが距離を詰めて、二本の長剣を連続で繰り出し、ダメージを与える一方で地縛霊は、両腕に金貨を少しずつ集めていた。
集めた金貨でタクの長剣を受け止め、そのまま金貨の塊の中に長剣が埋もれ、動きが止まる。その瞬間に、タクの腹部に沿えるように向けられたもう片方の金貨の塊が飛び散り、散弾のようにタクを襲う。
「《付加》――ディフェンス!」
「――《ハイヒール》!」
回避不可能な至近距離からの弾幕に対して、絡め取られた長剣をあっさりと手放し、両手をクロスするようにしてガードするタク。
その後ろでは、俺とミニッツが散弾が放たれるより前にエンチャントと回復を始めており、ダメージの現象を抑える。
「はっ! 武器を奪うのかよ。にしても、剣一本ってのは久々だな」
タクの奪われた剣は、地面に散乱している金貨が吸い寄せられ、刀身が金貨で覆い尽くされている。
その金貨をくっつける様子に、小学校のころにやった磁石で砂鉄を集める実験に似ているな。と関係のないことを思ってしまう。
「ガンツ! そのままそいつを押してくれ!」
「はいよ!」
タクは、残った長剣を両手持ちに直し、地縛霊に跳びかかるタイミングを見計らっている。
ガンツは、攻撃のタイミングを作りるためにラッシュを仕掛け、打撃を与えていく。多くの打撃は、集めた金貨を盾に衝撃を吸収され、操った剣で迎撃されるが、その防御をぶち抜く打撃を何発か与えて、動きを止める。
「行くぞ。《セブンス――」
「タク、上空に逃げられるぞ!」
ガンツが、タクの攻撃に巻き込まれないように退避するその瞬間に、真上に向って跳ぼうとする地縛霊。
俺は、地縛霊に向ってターゲットを指定し、念動スキルを発動する。
「――《キネシス》!」
「――ブレイバー」!」
地縛霊の足を念動力で干渉し、一瞬だけ、動きを止める。その瞬間にタクのアーツが放たれる。一瞬で地縛霊の反対側へと駆け抜けたタク。その直後に、剣戟の痕が空中に残る。そして、遅れて現れる斬撃のエフェクトが地縛霊の体に現れる。
一撃ごとに斬撃の痕が体に現れて、地縛霊がタクへと振り向き、七つ目の傷跡が刻まれた瞬間に、七回分の斬撃ダメージが一度に精算される。
強力なアーツの一撃でHPの全てを失い、地面に沈むように倒れて消える山賊の地縛霊。
「ふっ、またつまらない物を斬ってしまった。ってところか」
「お前は、斬鉄剣の使い手か」
俺は、そうツッコミを入れるが、ダメージの通りがさっきよりも良かった気がする。
強力なアーツを放った所為だろうか、と首を捻るが、どうやら違うようだ。
「タク。武器奪われて、呪いによる弱体化が弱まったのか?」
「正解。って言っても縛りプレイを意識した戦いだから、あんまり使いたくはなかったけどな」
武器を奪われちゃ仕方がない。と肩を竦めるタク。
ケイの影に隠れていた俺とミニッツ、マミさんも辺りの様子を伺う。
山賊の地縛霊も倒し、周囲に散らばる金貨や財宝。
「やっぱり二本分の縛りがないとこのレベルだと強すぎるな」
「いやいやいや、一種類でも十分に強力な呪いなんだけど!」
俺なんて、自分の装備に各種カースドを込めているが、一種類でも実感できるほどの能力が制限される。
それを二重の弱体化で丁度良く感じるなんて、タクとの差をはっきりと感じる。
「さて、この中から長剣を探さないとな」
そう言って、地面に落ちた金貨の中から奪われた長剣を探し始めるタク。
こういうことは時間が掛るから分担して早く終えようと、ケイの後ろから一歩踏み出す。
『グゴゴゴッ……ワレハ消エヌ! 我ハ山賊ノ頭! 我ハ山賊ノ王! 山賊王・シャーボット! 宝ハ、我ノ物! 我ノ我ノ我ノ我ノ我ノ我ノ我ノ我――宝!』
「っ!?」
消えたはずの地縛霊の声に全員が身構える。
そして、変化が起こり始める。
金貨の山が盛り上がるようにして屹立し、周囲の財宝を引き寄せて十メートルサイズの塊を作る。
金貨同士が擦れて、ぶつかるジャラジャラとした耳障りな音を全身から発する金貨の集合体。それは、金貨同士の結合力で腕を伸ばし、その先には宝剣などの武具を接続させている。
地縛霊の山賊。その第二形態は、金貨で構成された巨大なタコだ。タコの頭に相当する場所に隠れ、八本の金貨の腕を自在に操る。
第一段階では、精々金貨を散弾のように飛ばし、両腕に纏う程度だったのに比べて威圧感がある。
「ちっ、武器がまだ取り込まれたままだな」
「見た目、サンドマンとか、そんな感じだな」
第三の町に向かう途中に出現する雑魚MOBのサンドマン。あれは体の構成要素が砂でできているのと違い、今回は金貨。粒子の粒の大きさや質量で差があるように感じる。
「みんな、来るぞ!」
タクの掛け声に、金貨のタコの動きに警戒する。
金貨タコから伸びる金貨の腕とその先端の宝剣がそれぞれをターゲットに指定して、一気に伸びてくる。
「《付加》――インテリジェンス。――《ボム》!」
自身にINTのエンチャントを施し、直後にボムの魔法を俺に向ってくる金貨の腕に発動する。
ボムの衝撃で表面の金貨が飛び散り、地面に落ちる中、腕の動きは、真っ直ぐに俺を狙う。
慌てて横に跳ぶように避ければ、さっきまで立っていた場所を勢いの着いた剣が通り過ぎる。
「タクたちは!」
振り返る先には、俺と同じように横に避け、通り際に金貨の腕に攻撃を加えるタクとガンツ。
ケイは、ミニッツとマミさんを守るために盾で金貨の腕を弾き、衝突の拍子に周囲に金貨が散らばっている。
「くそっ――《弓技・一矢縫い》!」
威力を高めた矢の一撃が金貨の頭部へと迫るが、その一撃は、金貨の分厚い壁に阻まれて、途中で止まる。
点での攻撃は、何枚かの金貨を落とす程度で矢が金貨の中に飲み込まれていく。
「なら、これならどうです。――《エアロカノン》」
ケイの後ろで魔法を溜めていたマミさんが高威力の魔法を放つ。不可視の風の砲弾は、途中の金貨の腕を大きく引き千切り、集合体へと迫る。
その駆け抜けた後を金貨が盛大に飛び散り、集合体の体に螺旋状の痕を残して、消える。
「これでもダメージが通りません」
「この金貨全部が鎧で、本体はどこかに居る地縛霊だ! 何とかして攻撃を通すぞ!」
とは言っても、膨大な数の金貨の守りを持ち、なおかつカースドの縛り状態だ。
これは、長期戦を覚悟しないといけない気がしてきた。
念願の一億PVまであと少し。いや、予約投稿だから、既に達成しているかもしれない。という状況。
これからもよろしくお願いします。
変更点
・その第二形態は、金貨の集合体と自由自在に操る金貨の腕だ。→その第二形態は、金貨で構成された巨大なタコだ。タコの頭に相当する場所に隠れ、八本の金貨の腕を自在に操る。
・金貨の集合体→金貨のタコ、もしくは、金貨タコ