Sense302
「怪しいよな。ゲーマーとしての勘がビンビン反応する」
「そうなのか?」
腕を組み、行き止まりの罠がある空間を見つめるタク。俺は、ただ単に、追い詰められて、ボッシュートというパターンの罠ではないか。と思っているが、スニーキングの必要な山賊砦では、行き止まり自体が罠みたいなもので意味はないように感じる。
「ユンとガンツは、この罠解除できるか?」
「無理だって、俺は、罠の解除技術ないって」
「逆に俺は、罠発見のパッシブ能力ないから無理。ただ罠の場所は居る人が軽いと反応しないから、石で誘発するのは無理だぞ」
俺は、スライムの合成MOBや石でも投げこもうと考えたが駄目なようだ。
俺とガンツが順番に無理と言えば、次にタクの視線がケイへと向く。
「男鑑定。もとい、罠解除よろしくな!」
「ちょっと待て! 何故、俺に目を向ける!」
「いや、一番耐久が高いだろ。万が一何かあったら、ユンとミニッツが回復してくれるはずだ」
罠を意図的に発動させて、罠を解除しようとする方法にケイは、難色を示すが、俺たちの視線を受けて、諦めたように溜息を吐き出す。
「分かった。行ってくるよ」
「おう、屍は拾ってやるぞ」
「ガンツ、それは違うから」
盾と全身鎧を装備し直し、いざ罠解除。という場面でガンツの言葉にミニッツのメイスで頭を叩かれる。
「安全のために、エンチャントしておくな。《付加》――ディフェンス、マインド」
「ありがとう。それじゃあ、行くぞ」
罠の方へと一歩、一歩と踏み出すケイは、ある地点に差し掛かり、地面がバッと開き、そのまま落下していく。
「はわわわっ!? ケイ、大丈夫!」
慌てて落とし穴の淵へと駆け寄り、中を覗き込むマミさん。その後に続き中を確認すると、槍衾が上を向いて設置されており、ケイはその何本かをへし折る形で仰向けに倒れている。
「……なんとか、無事だ」
「いや、見た目無事じゃないんだけど」
今のトラップでHPの半分を消失したケイ。これが、防御力の低い斥候やシーフなどだったら、即死級トラップになっていたかもしれない。
「今回復するわね。――《ラージ・ヒール》」
「すまない。それと動けない」
「分かった。助けに行く」
ケイは、槍衾の隙間にすっぽり嵌った形で身動きが取れない。タクは、ロープを用意して、順次落とし穴の中に入る準備を進める。その中で、一悶着発生する。
「絶対に! 絶対に先に降りさせて貰うからね!」
「はぁ? なんでヒーラーのミニッツが先陣切って罠の中に入るんだよ」
「それは! スカートの中見られないためよ!」
力強く言い切るミニッツ。マミさんも力強く頷いているが、ガンツがそれを鼻で笑うために、ミニッツのメイスで殴られることになる。
ポカポカとかじゃなくて、重い打撃音が響く。
「ギャー、ちょ、待て! 待てって!」
「あー、ガンツは無視して、ユンが先に降りてくれ。それと罠の発見も頼む」
「分かった」
茶番だな。と思いながら、俺はロープで槍衾の間に入り込み、槍の根元を確認して、抜いていく。
何本か抜けば、そこにはスペースが生まれて、他のメンバーが降りる空間が生まれる。
「マミさん、大丈夫?」
「大丈夫です!」
ロープを使い、降りるマミさんだが、慣れないことに足をバタバタさせながら降りて、俺と一緒に穴の中の槍を回収して、ケイの救出に努める。
「助かった。マミ、ユン」
「いえいえ、気にしないでください」
バタバタと手を振って否定して仄かな笑みを作るマミさん。俺は、ケイの落下した箇所で折れた槍も確認していく。
「こっちの折れた槍は使えないか。まぁ穂先だけ分解して、インゴットに変えればいいか」
「お前は商魂たくましいな」
どこか呆れるような溜息を吐き出すケイを無視して、回収に勤しむ。途中で降りる順番が決まったタクたちも降りて、槍衾の中の罠を全部回収した。
「槍が五十七本。折れた槍が十三本か。どうするんだ? タク?」
「そうだな。次の攻城戦イベントで遠距離攻撃の手段が欲しいから、何本か貰っていいか? 投げ槍として使えそうだ」
確か【投げ】センスを持っていたタクは、そう発言すれば、誰も異論はないようだ。あとで、アイテムの分配を擦る時は、このアイテムはタクに優先することになる。
そして、折れた槍は俺が責任を持って、インゴットに作り変えることになった。
最後に――
「罠の中に隠し扉とか、何と言うかベタ過ぎて逆に、見つからないんだな」
落とし穴の槍を引き抜き中を調べれば、岩で塞ぐような雑な隠し扉を見つけた。
発見するためには必要レベルがそれほど高くなさそうな場所でよく今まで見つからなかったと思うが、タクが独自考察を聞かされて納得する。
「罠を調べる奴って基本、防御が低い奴だろ? だから、罠の解除で前に出たら罠に落ちて、倒れるか、罠に落ちなくても上から見下ろして死角になる位置に扉があったからそのまま詳しく調べずに帰ったとか」
「なるほど……って、それって考え方によっては、ケイくらいのDEFがなきゃ死に戻りしてた。ってことだろ。無茶するな」
無茶する、という言葉に苦笑いを浮かべるタクと微妙な表情のケイ。まぁ、冒険で無茶している自覚はあるのかもしれない。
そんな感じで、隠し扉の奥へと進むが、巡回する山賊NPCも見つからなければ、罠も設置されていない。
そんな暗い通路は奥に進むと微かに明かりが見える。
「奥に部屋があるな」
急な光に【空の目】が過剰に反応してしまい、一瞬目が眩む。そして、俺の目が慣れるより前にタクたちが反応を示し始める。
「こいつは、財宝部屋だ」
「うひゃっ!? お宝だぁ!」
「ううっ、金キラキンで目が痛いです」
タク、ガンツ、マミさんは、感嘆の声を上げ、ケイとミニッツは、その光景に口を開けてみている。
遅れてその部屋を見た俺の感想は――
「悪趣味だな」
金一色の財宝部屋。金貨が無造作に山積みになっており、宝剣や例祭用の鎧、アクセサリーなどの煌びやかな装備が放置されている。
また、何時から灯っているのか分からない松明の光がギラギラと目の奥に刺さる。
「まぁ、宝の回収してさっさと帰るか。これだけのお金で食材買って、武器はインゴットに作り変えるなり売るなりすればいいか」
そして、落ちているお金を一枚拾い上げる。
タクは、宝剣や武器の類を拾い上げては、じっくりと調べ始め、ガンツは金貨の上に子供のように跳びこみ、腹を打ってのた打ち回る。ミニッツは、ティアラや指輪などのアクセサリーに興味を示し、ケイとマミさんは、ケイに似合いそうな鎧を選んでは、地べたに置き直す。
『我ノ宝物ヲ荒ラス者、誰ヤ』
「うん? なんか言ったか?」
耳に届いたノイズの入ったような声に動きを止めると俺が拾い上げたお金を摘まんでいると、そのお金が空中に浮かび上がる。タクやガンツ、ミニッツ、ケイ、マミさんたちが持っていたお宝が部屋の上空へと集まり、触れた装備を着込んだ能面のような顔の幽霊が浮かんでいた。
「お、お化け!?」
「おー、おー、ここのボスMOBで山賊の元親玉ってところか? 財宝溜め込んで執念で留まり続けている地縛霊ってところか」
『我ハ、山賊ノ頭。我ガ宝物ハ我ノ、何人モ渡サヌ』
「渡さぬとか居ながら、なんか、お金が飛んできたぁっ!」
俺は悲鳴を上げながら、広い空間を逃げ回る。
ボスMOBの名前は、【地縛霊・シャーボット】と言うらしい。彼の念力で集められた金貨は、最後には掌に反発するように周囲に飛び散り、俺たちを襲う。
「ひゃぁ!? うひゃぁ!」
「ユンさん! こっちです」
手招きするマミさんの方へとお金の散弾を避けながら、近づき盾を構えるケイの後ろに隠れて、ガクブルしている。
「お化け怖い、心霊現象嫌い、ノイズ音嫌だ」
「こりゃ、しばらく使い物にならんかもな」
溜息を吐いているタクとガンツは、楽しそうにお金の弾丸降り注ぐ空間を避け続けて、チャンスを伺う。
ミニッツも合わせて、ケイという安全地帯の後ろに隠れて様子を伺っている。
「が、がんばれー、負けるなー」
「お前も手伝え」
「ううっ、《付加》――インテリジェンス!」
マミさんのINTを強化し、ケイの影から放たれるカマイタチの魔法が、ボスの地縛霊を襲う。
「駄目です。やっぱり、縛り装備だと攻撃の通りが悪いです」
「けど、攻撃力自体は大したことはないな。互いに決定打不足って感じだ」
マミさんの攻撃を受けて、頭上からお金の散弾を振らせていた地縛霊が降りてきて、タクとガンツを相手にしている。
浮遊させた宝剣を振り回して、タクと刃を合わせ、ガンツの攻撃を浮かせた鎧を盾にする。
全員が決定力不足のまま戦闘は続行される。
変更点
・のっぺらぼうのような存在→能面のような顔の幽霊