Sense30
ビッグボアとゴブリン、スライムの出現する地域の中間には、ミルバードとグレイラットの二種類のMOBが出現する。レベルで言えば、採石場のストーンアルマジロとロッククラブに相当し、こちらは、速度は早いが、防御力が低い。
空中を旋回しているミルバードは、こちらが一定距離近づくと、大きな鳴き声を上げてから突撃してくる。ミュウはそんな相手に、タイミングを合わせて切り落とす方法を取っていた。
突撃と言っても、事前に大声を上げるので、こちらとしても察知しやすい。
グレイラットは、でっかいネズミだ。可愛らしい物じゃない。小型犬ほどもあるネズミで近づかなければ襲ってこない。
今日のターゲットは、鳥だ。
上空のミルバードを遠距離射撃で狙う。こちらの攻撃は、攻撃力自体は高くないが相手もHP自体高くない。一撃入れて、気付かれ、近づく間に、三本の矢を放ち、地面に落とす。
俺の弓は、元々他者よりも命中率が高いみたいだが、今の感覚だとさらに精度が違う。
楽々狙える。そう、特定部位を狙い撃てるほどに。
事実、飛んでくる鳥の翼を狙って撃ち、墜落させて地面にたたきつける。殆どが落下ダメージで絶命し、消えていく。
防具を変えただけでこれだけの違いが出てくる事が分かった。
そして、鳥の特定部位を攻撃することで、ダメージ量に差があることも分かった。
特に、小さい頭に当たれば、ほぼ確実にクリティカル。両方の翼に当たれば、ダウン。
「なるほど。場所によるダメージ判定。そして弓と器用さのDEXは関係があるようだな」
弓と器用さの関係。
防具によるDEXボーナスで、命中率が上がった。つまり弓使いの場合、DEXで命中の補正が掛かる。
今まで多くの弓使いが挫折した原因。射程と命中率とコスパ。
射程は、ATKに依存する傾向にある。
命中率は、DEXに依存する傾向にある。
コスパは、プレイヤー個人の資金力に関わる。
純粋な弓の人は、誰一人として、DEXが関わるとは知らず、ただ、ATKを伸ばすことで解消しようとしていた。確かに、このゲームは、プレイヤー個人の技能も必要となるが、決してアシストが無いわけじゃない。魔法使いの魔法追尾や剣士のアーツ動作補助なんかがその例だ。
つまり、ちゃんと弓にもアシストがあるのは当然だが、射程にばかり気を取られ、命中補正を十分検証されなかったようだ。
「つまり、脳筋って事か。そして俺は、生産職をした結果、DEXが高い。なんていう皮肉だよ。ゴミセンスもステータスをひも解けば、こうなっているのか」
初期は、どれも低レベルで成長しなかったが、全部を鍛えるうちに、DEXが高くなり、命中に補正も掛かった。という仮説だ。
つまり、俺の今持つセンスを外して、弓矢を使って駄目ならば。それは、正しい。と証明されるわけだ。
俺は、弓以外のセンスの全てを外して試す。
鷹の目なしで上空の鳥を打ち落とせるとは思わない。今は、弓のレベルを信じて打つ。
飛んだ矢は、数十メートル。センスフル装備の半分にも満たない。鳥には遠く及ばず、放物線を描き、落下。地面でちょろちょろ動いていたネズミに当たった。
「あっ……」
背中に矢が突き刺した状態で怒り心頭と言った感じで突撃してくる。
俺は慌てて矢を番え、迎え撃つが、全然当たらない。センスを装備し直そうと手間取り、間合いまで詰められた。速度上昇や付加まで外しており、走って逃げたとしても追いつかれてしまう。
俺は接近戦に持ち込まれ、ネズミ一匹にぼこぼこにされ、死に戻りになった。
「痛たっ……なんか、死ぬのって意外と痛いんだな。なんかダメージ受けたの久しぶりかも」
ゲーム初日以来だ。今までは生産や、遠距離射撃でなんとかやっていたが、実験的な意味でやりすぎたかもしれない。
戻された場所は、第一の町の中央広場。
「実証された。かもな。草食獣の速度も初期にしては早いから、弓矢のDEXが低いと敵に回避されるとかもあるのかもしれんな」
一度立ち上がり、センスを装備しなおす。この事は、やっぱり伝えた方が良いと思ったが、マギさんはログアウト中だ。
デス・ペナルティーの一時間、暇を持て余してしまった。ヤバイな。時間が余った。
「買い出しのためにログアウトでもするか。今日の夕飯は中華でもするかな?」
今日の生産活動は諦めて、大人しく過ごした。