Sense295
なんか、ぼんやり毎日を過ごしてたら数日が過ぎてた。すみません
「こんにちはー。マギさん、来ましたよー」
「あー、はいはい。今行くよ!」
第一の町の中央近くにある金属武器・防具店【オープン・セサミ】。今日は、マギさんとの共同研究のためにやって来た。
「ごめんね。ユンくんが来る前に軽く予習しちゃってたから」
「ああ、大丈夫ですよ。」
マギさんの手招きで工房へと招かれた俺は、そこに並べられた瓶たちを見て、驚きの表情を浮かべる。
試験管タイプのものから、フラスコ、小瓶、ボトルなど複数のタイプのガラス製品がつくられており、それだけで俺が作った試作品を軽く超えている。
「……凄いですよ。俺だって、小さな保存瓶とかのダサい奴しか作れないのに」
マギさんが作った小瓶タイプのものを持ち上げて観察してみるが、ガラスの表面に彫刻が刻まれており、薔薇のレリーフが見える。どうやって作ったのか? 機械によるオートメーションじゃないために想像が付かない。
「簡単だよ。ガラス細工の口を開いて、内側から細い鉄の棒で押して模様を付けただけだから」
柔らかい内に外と中の両方から凹凸による彫り込みを作ると言っていたが、俺としてはその細やかな技術力の高さにトップ生産職の実力を感じる。
「やっぱりマギさんは凄いですよね」
「そんなことないよ。形であって重要な配合に関しては、ユンくんが握っているんだから。お願いね」
そう言って、軽く肩を叩いてくるマギさんに応えるようにやる気を出す。
作業としては、役割分担で行うことにする。
俺が【砂結晶】と他の素材を混ぜて、ガラスのベースを作る。それをマギさんに渡して、いくつかの瓶を作って貰うことになる。
今回用意したのは、骨系、虫系、鬼系、不定系、鉱石系、悪魔系、アンデット系、精霊系、植物系など様々なMOBや素材だ。
俺は、その調合比率を僅かに変えながら、ノートにメモを取りながら、結果と効果を記録する。
「さて、まぁ剣とか槍の数打ちと同じだから頑張りましょう!」
「はい。こっちもポーション作りと同じですからね」
俺たちは、明るく話しながら作業を始める。
作業開始ですぐに何種類かの素材は、相性自体が最悪であり、生産の失敗が発生するためにすぐに調合とガラス加工を始める。
調合が終われば、後はマギさんと共に二手に分かれて、ガラスのポーション瓶や保存瓶を作成する。
その結果、混ぜる割合は、砂結晶が8の他の素材が2の組み合わせが最適であり、また色付き方も個別で変わることが分かった。
「うーん。骨と鬼系は明色系。虫と悪魔系が暗色系、鉱石系と精霊系、宝石とかの素材がほぼ透明に近い色付き、あとは……相性が悪くて駄目と」
「これは、分かりやすい色分けですよね」
明色系の保存容器は、プレイヤーにとってプラス効果を増加させる色であり、暗色系がその逆であるマイナス効果を増加させる。
例えば、白い瓶に、ステータス強化の強化丸薬を入れておけば、ATK+5のアイテムが更に保存容器の補正でATK+2の合計7の補正が入る。また、状態異常も回復する強度が上がる。
補正値を数値で表すなら、ステータスのプラス補正が3までが状態異常だと一段階効果を高め、4以上だと二段階高める。手持ちの素材だとこれ以上は判明しなかったために、保留となる。
そして、色付く透明な瓶は汎用効果として満腹度とHP回復に数%のプラス補正を付ける。また、今までの瓶が使い捨てに対して、こちらは使い回しが可能という点も特徴だ。
「うーん。ユンくん。今できる状態異常回復薬って最大でどれくらい?」
「先日、やっと【毒5】に到達しました」
「それって【毒5】の二段階上昇はありえないよね。あるとしたら上位の【猛毒】くらいしか」
「実際、【毒5】のままです。何らかの別法則があるかもしれません」
マギさんが少し引き攣ったような表情を作る。
事実、黒く禍々しいデザインに作り変えられた小瓶は、二段階の状態異常強化の効果を持つ。状態異常は、1から5の五段階となっており、更に一段上がるとより強力な状態異常になる。だが、今回は引き上げられていないために別条件が必要か。何か足りないのか、それとも【毒5】と表示されているが内部データでは別の数値が強化されているか。検証が必要な内容だ。
「猛毒とか、作れればいいんだけど」
「ユンくん、さらりと怖いこと言わないで」
ぶるりと身を震わせるマギさん。現在の上位の状態異常は、【猛毒】や【昏睡】、【暴走】などが確認されており、様々な面で強化がされている。
また、余談であるが、状態異常耐性系センスは、身体異常と精神異常系を30まで鍛え上げると身体と精神耐性で統合されるが、統合せずに個別でレベル50まで上げれば、各状態異常の耐性の上位耐性センスに成長する。
「でも、これだけ種類があると一人じゃ作れませんね。精々一種類くらいしか」
「そうね。武器や防具みたいな実用性の高いものじゃないからなおさらだよね」
「あの……一ついいですか?」
俺は、インベントリに入れて持ち込んだポーションや薬、丸薬などを効果と種類、使いやすい形状の瓶に詰め替えながらマギさんに提案する。
「これの作り方は、積極的に広めた方がいいと思うんですよ」
「確かにそれがいいかもね。私たちが作っても他の生産作業の効率が落ちるだけだし」
「それに、これの二つを見てください。どう思います?」
一つは、俺の作った無骨な保存瓶だ。四角く分厚いガラスを持つ瓶には、ドライトマトのオリーブ漬けを詰替えたために、透明なガラスが黄色く色付くように見える。
またもう一方はマギさんの作った花のレリーフの入った小瓶だ。こちらには、軽い色付きの液体が入っており、花のレリーフが中の液体によってほんのりと薄赤く色付く。
「一つは、展示とか実用性重視の瓶。もう一つは、お洒落なアイテムとしての小瓶。この二つは、多分広がると思うんですよ」
自信を持って言う俺は、きっと力強い笑みを浮かべているだろう。
マギさんが興味深そうに自分で作った小瓶の蓋を開けて中の香りを嗅げば、ほんのりと漂う鼻に抜けるような匂いがする。
「ユンくん、香水でも売るつもり?」
「似たようなアイテムはありますけど、あれは俺の好みの匂いじゃないんです。だから普通に薬草で同じように香りを抽出した香水です。効果は特にありませんけど」
ネタアイテムの一つとしての香水だ。
蒸留器によるアルコールの蒸留は、琥珀色の蒸留酒ができたために、触媒のエタノール抽出のために、水蒸気の冷却方式を採用した触媒の抽出でできた透明なエタノールを使用した。
また花などから精油を抽出するのも同じ水蒸気の冷却蒸留器で生成できるので、使用素材を蒸すか、蒸発させるかして、抽出する。
花だけなら精油や少量と蒸留水が確保でき、精油と香りのついた蒸留水、エタノールを一定数混ぜれば、簡単に香水ができあがる。
レシピに興すなら、精油+蒸留水+エタノールと言ったところか。
「アロマオイルなんかもありかもしれませんね」
「確かに、それだったらアロマ用の自分の瓶とか注文する女性プレイヤーは居そう。それに気分ごとに瓶を変えることも」
俺としては、回復用の瓶などは、余りはやらないと考えている。逆に、食料保存とネタアイテムとしての面で流行り、広まる可能性がある。そしてそうした小物専門の生産職から買って使うなり、プレイヤーが持ち込んだものに大鍋で詰め替えるなどの売り方が今後の主流になるかもしれない。と考えている。
「なら、その二種類に限定して作り方と一緒に広める。ってところかな? 広がれば後は自助努力で色々と発見するだろうし」
全部を公開してプレイヤーが開発する楽しみを奪わないように思いやりだ。その時の自分での発見や改良に喜ぶ生産職の姿が目に浮かぶようだ。
「なら、早速揃えるかな。ユンくんは、保存瓶のほうを。私は細かい小瓶の方を作るから。個数はそれぞれ50個を露店で売り出しましょう」
「はい。分かりました! 売り出す中身は、こっちで決めちゃいますね」
「うん、お願い。面白くなってきた!」
マギさんが腕を回して、上位の炉に向き合う。
俺も併設された別の炉を使わせて貰い、共に多くのガラス製の容器を生み出していくことになる。