Sense291
艦これ、E-5甲は、諦めると言ったな。あれは嘘だ。というか、クリア終了。これより、E-6、朝霜ほりとレベリングを始める
あと、風邪引きました
「スルメの足は、うめぇんだよな。味付けはされてないけど、イカ本来の味で噛めば噛むほど味が出るから」
「オッサン臭いぞ」
ジト目で干しイカの足を千切り、噛み締めるミカヅチ。その片手には、清酒を構えての飲兵衛スタイルだ。
俺は、リゥイとザクロを近くに寄せるようにして、コップに注がれたジュースをちびちびと飲んでいる。
宴会のど真ん中に居ては、居心地が悪く、逃げ出したいが逃げ出せない。仕方がないので、ジュースを飲むこと自体に集中するが、やっぱり駄目だ
「……ちょっと、このイカで料理作って――「逃がさねぇよ!」くっ……」
立ち上がろうとした俺の肩に力を入れて強制的に座らせるミカヅチ。肩にぎりぎりと掛かる万力のような圧力に、これは警告だ。次はない。というメッセージが込められているように感じる。
「はぁ、苦手なんだよな。こういう目立つ場所にいるの。話す話題もないし、面白い話ができるわけでもない」
「そんなこと気にする必要もないさ。酒は飲めなくても、馬鹿にはなれる。嬢ちゃんは、ノリが良ければそれでいいんだ」
そのノリも何をすればいいか、分からない。こうなれば、他人を観察するしか……と思ったが、いい観察対象がいない。
「ユンちゃんは、ただ場の雰囲気を楽しめばいいんよ。ほーら、ミュウちゃんみたいにお姉ちゃんに抱き付いてもいいんだよ」
「えっ、嫌だよ。もう、そんな歳じゃないだろ」
両手を広げて抱き付いてもいいのよー、とポーズを取っても飛び込まないから。
「もう、ユンちゃんは頭硬いんだから。でもそこが良い所だよね」
「セイ姉ぇ? お酒飲んでないのに酔ってるの!? それと何で髪を撫でるの? ねぇ」
俺の黒髪を梳くように丁寧に撫でるセイ姉ぇ。撫でられると手の温かさが伝わり、気持ちがいいなと思い、目を閉じる。
別に嫌じゃないから、満足するまでしばらく黙って受け入れる。
「…………」
「…………」
「セイ姉ぇ。満足した?」
「ええ、久しぶりにユンちゃんとスキンシップ取れてよかったわ」
そっと閉じていた目を開けると、微笑みを浮かべるセイ姉ぇが目の前に見える。
ただ、少し静かになった周囲に目を向けるとニヤニヤというか、ニタニタといった笑みを浮かべるプレイヤーたち。
「ほんと、珍しい姿を見た気分だよ」
「……何だよ。悪いかよ」
ミカヅチの呟きにキッと睨むが、おお怖っ、と全く怖がる様子を見せない。
「セイ。面白い話のお題で『嬢ちゃんの自慢』ってのはどうだ?」
「ユンちゃんの自慢? そうね。ユンちゃんは、昔は甘えてくれて、それはそれは可愛かったんだから。お姉ちゃんの真似をしたがって……」
「いつの話だよ。そんなの幼児とか小学校低学年とかだろ」
その頃と言えば、我が家の三兄弟は、近所で有名の『美少女三姉妹』なんて呼ばれ方されてたな。いや、俺は男だけど、セイ姉ぇの物が欲しがったり、真似したり。それで女の子と勘違いされたこともあったな。
「あとね。ユンちゃんは、家事全般が得意で料理が美味しいのよ。それと、コツコツしたことが得意で、凝り性な所かしら。後は、ちょっと抜けていて、妙な所で頑固なところが姉としては可愛くて」
頬に手を当てて俺を褒めているつもりなんだろうが、後半の部分は褒めているのか貶しているのか分からない。
「なぁ、それ褒めてないよね」
「後は、そうね。嫌々やるけど、最終的にはやるからには全力でやるところとかな?」
「「「あー、なるほど」」
なんか、生暖かい視線が俺に注がれるのが、居心地が悪くて視線を逸らす。
そんなの、俺じゃなくても居るだろ。そういう奴。
とセイ姉ぇから視線を逸らして、不機嫌さを隠さずに頬を軽く膨らませると指で突かれる。
「むぅ……。なんだよ。俺ばっかの話で! それぞれ、自分の恥ずかしいことでも話せよ!」
「おっ!? 嬢ちゃんからのお題は『自分の恥ずかしいこと』だな。話したい奴だけ話せよ!」
強要せずに、ミカヅチが勝手にテーマを振れば、何人かのノリのいいギルドメンバーが一斉に手を上げる。
「やかましいわ! それじゃあ、端からだ!」
「俺は――」
それぞれが恥ずかしい話を面白おかしく暴露する姿をジュース片手に聞いている。
時折、ジュースで喉を潤すタイミングに話を始めるために、噴き出しそうになる。また、一部の奴らが、互いに笑わせて噴出させるためにタイミングをズラすなどしている微妙な駆け引きがシュールな笑いを誘う。
「それじゃあ、最後に定番のテーマを出した本人の話を聞くとするか」
「はぁ? なんだよ。それ、初めて聞いたぞ」
「自分だけ言わずに逃げるなんて許されないからな。それに気持ち良く飲んで騒ぐのに、共通の秘密とかがあれば、心が開きやすい。ほら、嬢ちゃんも最初より笑顔になっているぞ」
「えっ?」
自分の顔に触れてみると顔の表情筋が釣り上がって笑っていた。自然な笑みを浮かべていたことに気がつくと同時に、それを作り上げたギルドメンバーたちの自信満々なドヤ顔に少しむっとなる。
だが、聞くだけ聞いて、自分だけ逃げるのは、フェアではないのは確かだ。息を整えて、『自分の恥ずかしいこと』を選び出す。
「その、俺は、お化けが苦手なんだっ――「「「いや、それは知ってる」」」――えっ?」
重なる声が俺の一世一代の告白に対して、返される。えっ、知ってたの?
「じゃ、じゃあ――実は可愛いものも好き、とか、甘いお菓子が好きとかは……」
「なぁ、嬢ちゃん。それ、気付かれてないと思ったか?」
「ユンちゃん、たまに抜けてるから」
クロードのお店である【コムネスティー喫茶洋服店】であれだけケーキを食べていれば、自然と甘党だってわかるわ。とミカヅチからツッコミが入る。
「えっ、そ、それじゃあ、他に恥ずかしいこと、恥ずかしいこと――」
どうしよう、どうしようとあたふたして自分の過去を振り返っている。
「このまま放置しているとどんどんと黒歴史放出しそうだから、止めた方がいい気がするんだが。既にこのボケの時点で『恥ずかしいこと』は達成できてるんじゃないかな?」
「まぁ待て。嬢ちゃんの泣き顔が見れるかもしれないじゃないか」
「ミカヅチは、人が悪いわね」
セイ姉ぇとミカヅチがなにか話しているが、それを聞き逃し、探し出した話のネタを声に出す。
「えっと、その――タクに乗せられてアニソンを振り付けつきで歌わされた!」
「「「…………」」」
一気に、声が遠くなる。何か、おかしいこと言ったか? と恐る恐る目を開けると周囲の視線が俺に集中している。
「……セイ。その曲って知ってるか?」
「大丈夫よ。今からネットでダウンロードするから」
「と、いうことで嬢ちゃん。よろしく」
よろしくってなんだよ。と思って、ほいっ、とマイクに見立てた棒を渡された。
そして、セイ姉ぇは、メニューを操作してダウンロード購入できる音楽をネット経由でOSOのメニューに呼び起こして、盛大に流し始めた。
リアルでタクが俺にアニメキャラの声真似をさせた一環として、担当声優の人の歌をカラオケやリズムゲーに合わせて、延々と歌わされた。
ミュウとセイ姉ぇもリズムゲーやダンスゲーを使って大盛り上がりだった。あの時も、悪乗りの付き合いで歌って声真似が上達したのを覚えている
「これは……」
「ほら、嬢ちゃん。立って」
ミカヅチが膝からザクロを抱えて俺に立ち上がることを進める。
イントロが流れた時点で、リズムゲーで何度も口ずさんだ曲であるために、歌詞を思い出すまでもない。
「――――っ!?」
すとん、と自分の中で何かのスイッチが押されるように自然と歌声が出る。
自然とマイクの代わりの棒を握ったまま、歌を歌い出す。最近、篭りっ放しで一人くぐもった独り言が多かったから思いっきり声を出すと気持ちがいい。
縮こまった体を伸ばすように右に、左に手を振り、ステップを刻み、空間に響くほどの歌声を響かせる。
五分もない歌を全力で歌い切り、久しぶりの爽快感を味わう。
歌い終わった後の余韻に浸っているが、一人で夢中になって歌っていたために、周りが静かだったことに改めて気が付く。
「あっ、えっと……お耳汚しですみません」
急に気恥ずかしくなって、小さく頭を下げると周囲から拍手や指笛が吹かれる。
「いや、驚いた。もっと萌え萌えしい曲かと思ったら実力派の方だったとは」
「声真似のためにタクくんが歌わせたのに、ユンちゃん本人が妙に嵌って、カラオケで安定して高得点取れるまでになったんだから」
「セイ姉ぇ、やめてくれ。恥ずかしい」
更に恥ずかしさで縮まっていると余計に褒められて、恥ずかしさを増す。
「堂々としてればいいんだよ」
「個人的に楽しんだことで、人前でやるのは別だ」
それに、カラオケが趣味と言う訳では無い。ただ、そんなお遊びをして出来た使わない特技の一つだ。
「その声優の恥ずかしい台詞とか、きっとクロードが言わせたがるだろうな」
「それに嬉々として、衣装も作りそうで嫌だ」
その事実にげんなりとする俺は、リゥイの座る位置まで戻り、ミカヅチが取り上げたザクロを受け取る。
人見知りのザクロが大人しくしているのが、珍しいと思いつつ、抱き上げるがどこか様子がおかしい。
「ザクロ? どうした?」
抱き上げて正面を向き合う形で見るがどこか、心ここにあらずと言った様子で鳴き声も弱弱しい。
そして、けふっと小さな咳をすると同時に、小さな狐火と鼻に突く酒の匂いを感じ取る。
「ザクロ、酒を飲んじゃったのか? リゥイ、すまんが水を出してくれ」
俺は、近くにあるそこの浅いお皿に水魔法の水を注いでもらい、ザクロに少しずつ飲ませる。
きゅぅ~、とほろ酔いで気持ち良さそうにしているザクロが水をちろちろと舐めはじめるのを見て、元凶を睨む。
「ミカヅチ。何、酒を飲ませてるんだよ」
「いや、私も嬢ちゃんの素晴らしい歌唱力に魅入られている隙に、誰かが放置した酒を舐めたみたいでな。ほら」
ほらっ、と言って突き出されたものを受け取り、匂いを嗅いで確かめる。カップの中身は、チューハイかカクテルのような甘い匂いのするお酒だ。これをジュースと間違えたのだろう。
「全く、これは何の酒なんだよ? 酒や酔いに効く薬はないんだぞ」
「時間を掛ければ落ち着くさ、それまで介抱しなきゃな」
「そのつもりだよ……うん?」
俺は、オレンジ色に濁ったカップの中の酒に目を凝らす。
ただ、混ざり切っていないために所々に鮮やかな黄色や赤が見え、また濁った物は結晶化して沈んでいる。
「ミカヅチ。この酒は何を混ぜて作ったんだ?」
「はぁ? 私は、今こっちの痺れ酒を飲んでるから知らないぞ」
ミカヅチが見せるのは、茶色い一升瓶だ。だが、瓶の中には、酒に漬け込まれた麻痺攻撃を使う毒蛇のMOBのドロップが漬け込まれており、酒は澄んだ琥珀色をしている。
どちらも見知った色であり、最近は見過ぎて脳裏にこびりついた色だ。
黒歴史に関する記述は、富士見ファンタジア文庫より出版されているOSO一巻に少し記述があるよ……というダイレクト・マーケティング。