Sense284
現在の俺の状況を整理する。
PVPは、一対四人。後衛の俺は数と接近戦で押し切られる。なら、遠距離からのダメージの蓄積という所だろう。
現在は、リゥイとザクロの召喚状態だが、林とアスレチックエリアの外側に待機させて今回のPVPから外している。
二匹の使役MOBを常時召喚しているという実戦に近いレベルの負担を強いているのは、俺自身がどれだけ戦えるかを調べる意味もある。
「使えるMPは、全体の3割ほどか」
成長した使役MOBのコストでMPの最大値を消費しているために、使えるMPも少なく、使役MOBの使うスキルのMPもプレイヤーが賄っている。
「積極的に攻撃はするつもりはないんだけど、ハンデを背負った状態で逃げ切るかな。まぁ、逃げ切りますか」
五分間で林全体の構造は理解し、各所で戦い方を決め、終わらせた。
ちょうど五分。林の影に入り込み、防具の【認識阻害】の効果により隠れて、ライナたちを待つ。
ライナたちは、隊列を組み、遮られた林の中を慎重に歩いてくる姿が見えた。
俺を探している様子だが、こちらの発見には至っていない。俺はそっとインベントリより取り出した石を握り締めて様子を伺う。
林の影から遠くの茂みに向って石を投げ込む。
「そこだぁ!(ですわ!」
「ライちゃん、フランちゃん。そこには何もないよ」
「あ、あはははっ……」
かさかさと動いた茂みに短槍とレイピアを突き立てるライナとフランだが、何もない場所を刺した姿勢のまま小首を傾げている。
「あー、ちゃんと動きはできてるよ。モーションも無駄が少なくなったな。威力も乗ってそう」
ライナとフランの突きを冷静に分析して、正面から戦うのはなしだと判断した。
その中で、こっそりと観察している俺を先に見つけたのは、後衛のユカリだ。手に持つ機械弓をこちらの影にしている木に狙いを定めて射ち、また数秒後に二本目の矢が飛んでくる。
「あー、ユカリの方も武器の改良がされてるんだ。前より連射速度が上がってる」
機械弓の能力は、武器依存であるために、常にグレードアップを続けなきゃいけない代物だから当然だが、その成長に目を細める。
「そこですね。――《フレイム・シュート》!」
「アルも魔法使いとしてレベルアップしてるんだな。ってこれはヤバいな」
アルは、ユカリの放った矢を目印に俺へと大きめの炎の塊をぶつけてくる。
これには流石に当たるとダメージが有るので、走って逃げる。
「いたわよ! フラン、追い掛けるわよ!」
「おーっほほほっ、私から逃げられるとお思いで――って早い、ユンさん早い!?」
俺は、全力疾走でライナたちから逃げる。
開始五分前に下準備をした地点を目指して走る。
短槍を振り回して、逃げるなー、と追い掛けるライナをどんどんと引き離す。時折、ジグザグに走り、アルとユカリからの遠距離攻撃を躱す。
「はぁはぁ……なんて逃げ足よ! まともに戦いなさい!」
森や林、様々なエリアでアイテムを手に入れるために磨き上げられた逃げ足の早さを武器に、指定のポイントまでライナたちを誘導する。
「簡単に捕まって堪るか。ソロで敵に囲まれるのは負けと同義だ」
ぼそっと呟いて、今までの出来事を思い出す。いくら弓で戦闘の先手を取れると言ってもそれは絶対ではないし、油断もする。
場所が開けた草原以外にも、林や森、洞窟などのエリアでの採取・採掘がある。特に採掘は、鉱石採取に時間が掛るためにギリギリまで採掘して、一気に最速で撤収などはよく繰り返したとしみじみと思い出す。
「さて、今度はこっちから行くか。――《クレイシールド》」
ライナとフラン、アルとユカリの前衛と後衛の間の座標を視認し、その空間に防御魔法の土壁を生み出す。
「な、何ですの!?」
「くっ、ユンさんのターゲット能力、どこから」
周囲で俺を探しているようだが、これで前衛と後衛は分断。
次に、ユカリを対象に選択して、魔法を使う。
「《呪加》――スピード」
「ええっ!? 何これ!?」
カースドの効果を受けたユカリが驚き混乱している。自己満足だが、魔法だったら一回喰らっている事になる。
弓矢を使えば、矢の軌道で居場所がバレてしまう。だが、今回は、それを逆手に取る。
「どこに――きゃっ!?」
ライナの真横をほぼ縦に掠めるように飛来する矢。地面に突き刺さる矢羽の角度から俺の射撃地点を予測したのか、そちらの方へと駆けて行くライナとフラン。
「見つけたわ! 喰らえっ! ――《バースト・ランス》!」
「行きますわよ。――《ピアーズ・ラッシュ》!」
隠れるのに適した茂みを吹き飛ばす爆裂を生み出すアーツを突き立てるライナとレイピアによる連続突きのアーツが、それに合わせて、俺は一つのキーワードを唱える。――【ボム】と。
直後、ライナとフランを巻き込む、単体魔法のボムが発動し、自身のアーツの爆発と区別がつかなくなり、混乱している。
「ライナさん! ユンさんはそこには居ませんわ」
「また逃がした! どうしてよ。あそこに居たでしょ!」
確かに二人の言う通り、弓矢の弾道から位置を予測できていたが、俺が山形射撃をしていた点は考慮すべきだった。
上空への山形射撃により到達時間を稼いでいる間に移動。そして、俺の射撃スポットにボムのマジックジェムを一個置いた。後は、先ほどのライナたちの結果だ。
「さて、次は、ユカリとアルだな」
土壁一枚挟んだアルとユカリは、俺からの攻撃に備えて、土壁を背に、防御魔法を張れるように準備している。
座標爆撃をしても魔法使いのレベルはアルの方が上だ。後の先で防がれる可能性がある。
まぁそれも林を平面で考えた場合だ。
「――《マッド・プール》」
「へっ!? 沈んでる!? 沈んでるよ!」
「これは、ユンさんの泥沼だ!」
土壁で背中を守っているつもりだろうが、固まっているために嵌めやすい。二人纏めて泥沼に足が嵌り、移動力が低下している。カースドでSPEED低下のユカリは、かなり足掻いているが、バランスを崩してアルのローブに捕まるように倒れ、それに引っ張られるようにアルも倒れて泥に塗れる。
「こっちも無力化か」
じりじりと互いに俺を探している中で、中央を区切る土壁が効力を失い、徐々に地面に同化していく。
分断されていた二つのグループは互いの姿を確認する。
ボムの魔法を至近距離で受けてボロボロのライナとフラン。
泥沼に嵌って動けずに見上げるアルとユカリ。
「アル。そっちも言いようにやられたみたいね」
「ライちゃんだって、ボロボロだよ」
「でも……」
「うん……」
二人は、頷き合って隠れている俺を探して視線を彷徨わせている。
「「なんで本気で攻めてこないの(んです)!」」
ライナとアルの声が林に木霊す。するりするりと逃げて、手加減した攻撃で攻めているのが堪えたのか、雰囲気に不満げな様子が混じる。
「はぁ、分かったよ。悪かった。って姿見せた瞬間に襲い掛かるな!」
「掛かったわね! 泣き脅しでも何でもいいわ。姿を見せた瞬間が最後よ!」
どこの悪役だ、と言いたくなる理論を展開して、両手に握り締めた短槍を持って突撃してくるライナ。
風切り音を上げる鋭い横降りに対して、身を低くして避け、自然と身に付いた動きでライナを迎撃してしまう。
取り出したポーション瓶の液体がライナの額に掛り、勢いで駆け抜ける。
ライナは、振り向き様に一撃入れるつもりだったんだろうが、体から力が抜け、膝がガクンとなり、ゆっくりと倒れている。
「ああ、ライちゃんが、人に見せられない顔に!」
「いや、眠り薬で【眠り3】の状態異常に掛かっているだけだから」
瞼を閉じてにやけ顔をしているライナに駆け寄り揺すり起こすアル。
泥沼から復帰したユカリやこちらにレイピアを向けるフラン。
なんというか、グダグダしそうだ。と感じながらも、戦意喪失するまで避け続けるのだった。