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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第7部【山賊砦と財宝回収】
280/359

Sense280

「全員、戦闘準備に入れ!」


 敵MOBの出現する海域まで進んだ船は、突如として海から飛び出る魚型MOBを目にする。


「太刀魚にヤリイカ?」


 空中を飛び回る魚介類の姿は、其れである。ソードフィッシュにランス・スキッドというMOBだ。

 海面から船を飛び越えるようにして飛んでくる魚群をギルドメンバーが次々とカウンターで討ち取っていく一方、戦闘に参加しない俺たちは、ミュウ、コハク、リレイの三人が張る防御魔法の内側からそれらを観戦していた。


「はははっ! 大漁大漁! おい、海の中に飛び込んで、水中の様子確かめて来い!」

「「「分かりました!」」」


 銛を振るい、空中で次々と魚やイカを串刺しにして仕留めて行くシチフクたち漁業組合の面々。その中でもシチフクが一番の活躍を見せるのは、流石ギルドマスターとしての実力か。


「きゅっきゅ!」

「ザクロ。暴れるなよ、全く」


 目の前を右から左へと通り抜ける魚やイカの群れだが、安全な場所から見ているザクロは、終始興奮しっ放しで機嫌よく三本の尻尾がゆらゆらと揺れている。

 きっと、食べきれないほどの食べ物にみえるのだろう。なんでこんなに食い意地張ってしまったのか、と考えれば、俺の所為だと言われそうだ。


「なぁ、強化とか回復って必要か?」

「これだけの攻撃だ。どんどんかけてくれ!」


 俺がシチフクに声を掛ければ、そうした要望が帰って来る。俺は、ミュウとアイコンタクトをして、戦闘中のメンバーにエンチャントを施す。


「《空間付加》――アタック!」

「――《ラウンド・ヒール》!」


 攻撃のエンチャントと範囲回復魔法が使用され、更に敵と戦うやる気を漲らせえるメンバーたち。海へと飛び込んだプレイヤーたちは、効果の範囲に入らず、回復とエンチャントができなかったが、危なくなる前に船に戻って回復しては、また交代で飛び込んでいく。


「シチフク! 俺も混ぜろよ!」

「タク? 漁業の道は険しいぞ」

「そうじゃねぇよ。船上での戦闘をさせろ。って言ってるんだよ!」


 自身の二本の長剣を引き抜き、防御魔法の外へと躍り出るタク。

 シチフクと交代するように、飛び込んでくる魚を空中で切り裂き、的確に突きさしていく。

 交代の頃合いが、MOBの出現の減少のタイミングであり、じきにこの襲撃も収まりそうだ。


「さて、俺は、一本釣りでもするか」

「僕も付き合うよー!」

「いや、お前ら、まだ魚が飛び込んできているぞ」

「その内落ち着くだろ」


 ジト目で見つめる俺を尻目にシチフクとリーリーは、立て掛けられた釣竿を手に取って、釣針を海へと投げ込む。

耐えの時間なのか、動かず、騒がず、船の上で武器を振り回して、MOBを叩き落としている奴らの声をバックに、海に投げ込んだ浮きをじっと見つめていた。


「来たっ!? って、ああっ、なんだ海藻の塊だ」

「リーリー、取っておけよ。後で海藻サラダにしてもいい、抽出して寒天もどきにしてもいい、乾燥させてダシにも使える万能海藻集合体だからな」

「ユンっち、お願い!」


 投げ渡された海藻の集合体を受け取り、ぬるっとした感触や水を含んだ湿気に顔を顰めながらも、種類ごとに分別していく。

 流石にミュウたちも見た目、緑だか黒の塊を触るのが嫌で遠巻きに見ている。

 そして、今度は、シチフクの方にも反応があった。


「おっしゃぁぁっ! 大物だぞ!」


 一際強い反応に釣竿をしならせ、引き上げる。丁度、魚の襲撃も収まり、甲板上が開けているために引き上げ、大きく飛び込んでくるそれは、船の上に降り立つ。

 水気を多分に含んだ重量の物質が船に落ちて大きく揺れる。

 俺やミュウたちは、近くの手摺りに捕まり倒れないように踏ん張る。


「あー、喰えねぇ奴引き上げちまった」

「いやいやいや! そういう問題じゃなくて、どう見てもボスMOBだろ! あれ!」


 シチフクが釣り上げたのは、半透明な体を持ち無数の触手を甲板上に広げて、近くのプレイヤーの方へとその手足を伸ばしている。

 名前は――クリアジェリーフィッシュ。超巨大クラゲだ。


「クラゲかぁ。ゼラチン質だけど食用じゃないから戦う気力湧かねぇな」

「そんなこと言ってる場合か! そんな所までリアル思考持ってくるな! ゲームの敵だろ!」

「仕方ねぇ。クラゲが居ると、釣り上げた魚が触手の毒で痛んじまうから仕留めるか」


 そういう問題じゃねぇよ! と内心ツッコむが、その前にボスの方へと駆け出す。

 触手を切り裂き、ゼリー状の本体を銛で突き刺す。だが、軟体生物の体はダメージを尽く吸収して有効なダメージを与えていない。

 タクも混ざり、他のメンバーも一人、二人と攻撃に加わり、十人が攻撃するところで誰一人として共闘ペナルティーが発生していない。


「全員でやるぞ! コイツは、物理の効きが悪いぞ!」

「それなら私たちの出番だね! ――《ソル・レイ》!」

「リレイ。いくで――《リトル・トルネード》!」

「わかっているわよ。――《フレイム・サークル》!」


 ミュウ、コハク、リレイの魔法が巨大クラゲに当たり、その表面を沸騰させていく。HPの減少に伴い、身体の体積が縮小されていき、触手の動きが激しさを増す。

 ルカートたちも防具を水着のまま武器だけ取り出して遠距離アーツを主軸に戦っている。


「触手の尖端は、麻痺の状態異常攻撃だからそれには気を付けろ!」

「全く、全員しっかりしろ。《属性付加》――ウェポン!」


 インベントリから取り出した火属性の属性石を握りしめ、前衛で戦うタクに火属性のエンチャントを施す。

 タクの武器は、敵に合わせて属性ボーナスのある長剣に変えていたようだが、更に火のダメージボーナスが加わり、攻撃に勢いを増す。

 魔法を武器と同時に使える前衛は、併用して戦い、使えない者たちは、俺が武器に属性をエンチャントして、応戦していく。


「もう一押しだ! 魚を傷つける巨大クラゲを倒すぞ!」


 無数の触手は断ち切られ、残る攻撃手段は、数本の触手を残すのみ。だが、残り少なくなった体と触手を震わせ、何かをする、と身構えた瞬間――


「また触手が出てきたよ!」

「ミュウちゃんたちは下がれ。防具が水着のままだろ!」


 襲い来る無数の触手は、寄り集まって強烈な打撃が振るわれ、皆が必死に避ける。HPの減少と共に、激しさを増す触手は、数が少なかったために対処できたが、最大数まで回復した状態では、対処が難しい。

 ルカートやトウトビが遠距離アーツで触手を断ち切っているが、それでも再生の勢いが強く。ミュウたちの魔法も触手が寄り集まった壁によって防がれる。


「くそっ! 一斉攻勢で蹴りを付ける! シチフク!」

「タイミングは任せた! 全員、タクに――」


 一瞬、最後の一撃を入れるためにクラゲに接近していた者たちが、一瞬引く。そして、タクがアーツの光を発しながら、甲板上を走るのだが、それよりももっと確実な方法を選択する。


「早く終えたいよ、全く――《エクスプロージョン》」


 俺は、小さな呟きと共に、ボムの強化版である地属性の攻撃魔法を選択する。

 俺の《空の目》と魔法スキルを組み合わせた視認範囲の座標爆破。巨大クラゲの頭上を起点として発動される大爆発が止めとなり、最後のHPを完全に刈り取る。


「…………」

「お疲れー。まだ狩りでもするか? ってどうした?」


 なんか納得いかない、という不満げな表情をこちらに向けるタクとミュウ。その他の面々は、不意打ちに驚いたり、苦笑を浮かべている。


「な、なんだよ」

「いや、相変わらずユンは斜め上のことするよな」


 華々しく留めを決めたいミュウや折角、引けっと指示を出して攻勢の間を作ったのに、全部を不意にした一撃に微妙に納得していない感じだ。


「勝てたからいいじゃん。それよりもう戻るのか?」

「そうだな。ボスまで倒したから初航海にしては上出来だろ」

「なら、帰りは、船の上で食べられるものをするな」


 あくまでマイペースな俺とシチフクの二人。さて、船上で作れる簡単なものを思い出しながら作るか。

 俺は、倒れたクラゲに背を向けていたために、気が付くのが遅れた。

 本来は、倒された敵MOBは光の粒子となって消える。だが、萎んだクラゲは、消えずに残り、急速に膨れ上がる。


「っ!? ユン避けろ!」


 タクが声を張り上げて、警告を発するが遅かった。膨張して破裂したクラゲが中身の水分を飛ばし、見事に俺の頭上から降らせて、びしょ濡れにしていく。


「…………」


 ただ濡れたままで呆然と突っ立っている俺は、何が起こったか分からずに困惑し、周りも同じような雰囲気が広がる。

 水を噴出したクラゲは、役目が終わったとばかりに光の粒子に戻り、後には、しっかりと水分を吸ってしまった俺とザクロ。

ザクロは、身体をぶるっと振るい、水気を飛ばしている。


「なんなんだよ。ホント」

「ラストアタックだな。命と引き換えに必殺技を放つとか、倒れる時の置き土産としての攻撃だ。まぁ、今回は、留めを刺したプレイヤー限定のダメージのない嫌がらせだな。暗に、今後、こういう攻撃があるって警告だろうな」


 冷静に分析するタクから話を聞くが、泳げないタクが喰らっていたらどうなるのだろうか? また水着のままのミュウたちが受けていたら?

 水流で押し流されたか、息ができなくて多少のダメージを受ける。水着が濡れるなどの心配が尽きない。だから、身代わりという考え方ではないが、これはこれで良かったんじゃないかと思う。


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