Sense278
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「あー、ユンっちにミュウっちたちだー」
船の上からひょこっと顔を覗かせるのは、木工師のリーリーだ。
何やっている、と言ってもその手に木工のための様々な道具を握っているので、生産途中なのだろうと予想できるが、この船の製造者は、リーリーなのか。
また、リーリー以外にも人がいるらしく、奥からこちらへと人が集まって来る。
「よっ、ちゃんと来たな! 時間とか場所は特に言わなかったけど、ちゃんと見つけられて良かったぜ」
「シチフク、お前! ユンとミュウちゃんたちを呼んだのかよ!」
「おう、お前の幼馴染のお姉さんの方は、無理だったけどな」
船の上で南国風のシャツを着流しした日焼けの男がタクに胸倉掴まれるようにして、カラカラと笑っていた。
アトリエールにも度々買い物に来る男は、顔見知りという程度では知り合いだ。
「ギルド【OSO漁業組合】ギルマス・シチフク。ってことは、前に言っていた船上戦闘の訓練なのか?」
「そうそう、タクの幼馴染とか知り合いを呼んでの、漁船・タカラブネの初航海としゃれこもうと思ったんよ。こいつに色々と邪魔されて伝えられんかったからな」
気のいい兄ちゃんといった感じのシチフクに対して、タクはあまり見かけないほどに不機嫌さを隠さずに腕を組んでいる。
「別に今日じゃなくてもいいだろ!」
「って言うんだ。妹ちゃんにこそっと伝えたんだよ」
「あー、それで特に理由とか教えてくれなかったんですね」
ミュウがいきなり、この日にバーベキューで海に行こうと連れ出された理由がやっと分かった。そう言えば、この前、メガポーションを買いに来たときに歯切れが悪かったのは、【OSO漁業組合】で行われる船上戦闘について聞かれたくなかったからだろうか。
「ユンちゃんは、【アトリエール】に行ってもタイミングが合わなかったから誘えないかな~、と思ってたけど、ミュウちゃんが上手く誘ってくれて良かった。後で、獲れたお魚とか上げるから料理お願いできる?」
「あっ、はい。それくらいなら。こっちもバーベキューの用意してましたから」
助かるわーと軽い感じで言っているシチフクと全身で喜びを表現するリーリー。
まだ、不機嫌なままのタク。
「それじゃあ、反対側の梯子を登って来てくれ。もうじき、出航だから」
「分かりました! 私、一番乗り!」
「そんなに慌てるなよ」
走り出すミュウに溜息を吐きながらも俺は、後からのんびりと登るつもりだ。ただ、ザクロは俺にくっ付いて登ればいいのだが、リゥイは船に乗る気がなく、逆に拒否の姿勢であるために、召喚石に戻して、乗り込む。
「へぇ、しっかりとした作りなんだな」
木造船なんて滅多に乗る機会はないが、確かに船の上で戦闘をしても問題ないくらいの広さと船自体の強度は保たれていそうだ。
「どうかな! どうかな! 木工師総出で作った初の大型木造船だよ! 風を受けるセイルはクロっちが準備したんだよ!」
自慢げに作り上げた船の説明を始めるリーリーに手を引かれ、船の先へと案内される。
ミュウたちも自由に色々なものを見て、関心したように声を上げる。
釣り具の入れられた道具箱や船のサブ原動力となる人力のオールなど、細かなところまで作られた船の感想を呟けば、奥の方にいた木工師やシチフクのギルドメンバーがどこか照れ臭そうに、鼻の下を擦っている。
「ユンっち、ここからの眺めが良いんだよ! ほら!」
「うわっ、高いな。それに角度で海が反射して綺麗だな」
船首からの沖の眺めは、見事の一言に尽きる。水平線まで続く大海原。波打ち際で光を反射してキラキラと輝く海。空色と海色の風景に目を細め、海風を頬で感じる。
「ここ、気持ちがいいな」
「海に出れば、船の勢いで更に風が強くなる。こんな穏やかな風じゃないが、それでも気持ちのいい風ではある」
いつの間にか、リーリーの後ろに立っていたシチフクが俺の呟きにそう言葉を返す。
「全員、配置に付け! 今日は、ゲストのいる初航海だ! 近海の素潜り漁じゃねぇぞ! 第一に、救助訓練! 次に、漁業訓練! 最後に、戦闘訓練、そして帰還だ! それまでは気を抜くなよ!」
「「「はい、船長!」」」
「全員、出航だ!」
何人かが、船の後ろから押して、砂浜から沖へと押し出していく。
自走可能な状態になったら、素早く縄梯子を登って上がって来るギルドメンバーの手際のよさ、そして、沖に出るまで開かない帆の代わりのオール捌きは、単純なセンスのレベルやステータスの差以外のものを感じる。
「「「オー、エス、オーエス」」」
「すげぇ! どんどん進んでるよ!」
人力だが、推進力を得て走る船。ミュウたちもはしゃいで、落ちそうになって居るのをルカートが支える。そして、沖と浜辺の境界まで進み、シチフクが停止の合図をする。
「それじゃあ、これから救助訓練だ! と、いうことで一番最初の見本として、タク」
「だから、嫌だって言ってるだろ!」
「見本? ってどういうこと?」
「ああ、前にボスをコイツに情報教えただろ? 皇帝愚足蟲ってやつ。その情報の対価で救助訓練手伝わせるんだけど……さっさと行け!」
酷く抵抗するタクを軽々と持ち上げて、海に放り投げた!
「ちょっと! タクは【泳ぎ】センス持ってないぞ!」
それに、普段の軽鎧の装備のまま海に落ちた。
俺は、そのまま船の縁に足を掛けて海へと飛び込む。
沈み始めているタク目掛けて泳ぎ、捕まえる。
「ぷはっ! 大丈夫か? タク?」
「俺を救助人形にするつもりなんだよ。だから、見られたくなかったんだよ」
後ろから抱き抱えるようにして水面に引き上げたタクは、不機嫌そうに呟く。そんなことかよ。と溜息を吐き出したくなるが、すぐに俺たちの所に引き上げ用の網が投げ込まれる。
「お姉ちゃん! タクさん! 大丈夫!?」
「俺は、大丈夫だけど」
タクにちらりと目を向けると、のろのろと言った感じで網に捕まり、引き上げられる。俺もそれに捕まり船の甲板の上に戻れば――
「それ! もう一回だ!」
「こらっ! 止めろ! うっぱ!」
「ほらほら、救助しろよ!」
再び海に投げ込まれるタクと俺とすれ違うように海に飛び込む海の男たち。
全員が全員、【泳ぎ】のセンスを持ち、足の着かない深い海で自由に動き、タクを救助する。
救助しては落とし。また救助。俺の時は、完全に俺に体を預けて引き上げられていたが、他人に触られまいと、手足を動かして暴れるが、二度三度と落とされて引き上げられるを繰り返されて、グロッキー状態になっている。
「なんというか、絵面がキツイなぁ」
「これは……」
コハクとリレイが微妙な表情でタクを見ている。
俺も海水を吸って重たくなった髪の毛を絞るようにして水気を切りながら、タクの姿を観察するが、次々と体格のいい男たちに抱き付かれて、引き上げられている。
「……こりゃ、タクが嫌がるわけだ」
「まぁ、ガス抜きと思ってくれねぇか?」
ガス抜きとは、何を表すのか? と俺はシチフクの言葉に首を傾げる。
「幼馴染の姉妹に始まって、こんな綺麗どころの女の子と知り合いってだけで嫉妬の対象だろ? だから、ちょっとしたってギルドメンバーのおふざけだ。安全には気を付けた。俺としては、救助訓練は、ギルドメンバーによる持ち回りで海に飛び込むつもりだったんだが、それだとリアルさがないだろ?」
船上での戦闘からの脱落者回収を想定とするなら、暴れてパニックになる可能性もある。それを考慮してのリアルさを追求したいが、女性に頼んで代わる代わる触れば、それはセクハラだ。だから、タクには犠牲になってもらうしかない。
「けど、救助訓練を先に聞かされている内のメンバーより先に海に飛び込んで助けるってんだから、タクは、愛されてるよな」
「はぁ? なんだよ。その顔は」
にやにやと言った感じの顔に苛立ちを感じる。見れば、グロッキーで甲板に両手を着いているタク以外は、こちらに笑顔を向けている。
なんか、ムカつくので、黙って視線を逸らす。
「なんか、タクさんの飛び込み見てたら、私も飛び込みしたくなってきた」
「はぁ!? ミュウ、危ないから!」
「大丈夫だよ。すぐに【泳ぎ】のセンスを取って、飛び込むから」
「そうですね。こういう機会は少ないですから飛び込みしますか? 折角、水着もあるんですし」
「ルカート!?」
ストッパー役のルカートまで乗り気になって、船からの飛び込みの準備を始める。
「はぁ、ユンさんの透けるか透けないかの焦らし加減。少女たちが、濡れて滴る。最高だわ」
「少し頭冷やそうか。なぁ、リレイ」
はぁはぁと息を荒げるリレイを突き飛ばすコハクは、後に続くように海へと飛び込んでいく。一人最後まで腰が引けていたトウトビもついには、海へのダイブを始め全員が自力で網まで戻り上へと戻っては、海へと飛び込むを繰り返す。
俺は、ミュウたちが沈まないかハラハラ過ごすと同時に、色気のない船に水着の少女たちが元気よくしているだけで鼻の下を伸ばす男たちに睨みを利かせるのだった。
何時まで毎日更新できるか分かりませんが、頑張っていこうと思います。なお、毎日更新の影響で4000~5000文字程度の分量が、2500文字~3500文字程度になってしまうのはご了承ください