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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第7部【山賊砦と財宝回収】
273/359

Sense273

今回から書籍に準じた書き方にしております。ご了承お願いします。

 鼻歌交じりで歌いながら、俺は【アトリエール】の工房部に立っている。

 生産するには素材が必要であり、素材が畑から安定した量を入手できたためにメガ・ポーションとMPポットを作り出している。

 MPポットの素材の魂魄草は、海に通じる湖周辺で取れ、栽培を進めていたが、その後、メガ・ポーションの素材の薬秘草は、桃藤花の樹とは別ルート。ワイバーンの出現する山岳エリアでタクが採取してきた。


「やっと数が出来た所だからな。色々と作り方を変えないと」


 店に出す前に、作り方を色々と研究したり、派生や応用レシピがこのメガポやMPポットで代用することができるか、など色々と試す必要がある。


「それに……」


 今使っている【魔力付与台】は、やっぱり使い辛いので、エミリさんに手伝って貰って【錬金】センスのクエストやその他、新規クエストを幾つか巡る予定が立っている。


「さて、ポーションが冷えたら、瓶と漏斗で注げばいいな。他には……準備は完了っと」


 ふぅ、と溜息を漏らして、生産作業の余韻に浸る。

 いつもならここでリゥイとザクロを撫でてスキンシップを取るか、本を読むかするのだが、新しい日課としてまだ慣れない【念動】センスの練習が始まった。


「さて――《キネシス》」


 初期の【念動】スキルである《キネシス》を発動させる。

 練習用に取り出したエンチャント・ストーンの素材の石に意識を集中させ、動け! と念じる。

 そこから少し石が浮き上がり、俺の目の前で静止する。


「このスキルが攻撃に転用できたらいいんだけど、流石、不遇センス」


 指先でつんつんと触れる石は、僅かに空中で揺れて、元の位置に戻ろうと揺れながら静止する。今度は強めに弾くと、より大きな揺れを治めようと時間を掛けて止まる。


「はぁ、レベルの低さと慣れない扱いだとこれが限界か」


 ある一点に制御するのは、できるようになったが、最初は苦労したと遠い目になり、溜息を吐く。

 今では適度に肩の力を抜いて、動かせているが、欠点が多すぎる。というか、痒いところに手が届かないもどかしさがある。


「ポーション詰めて行かないと」


 今日は、マギさん、エミリさん、レティーアという珍しい組み合わせによるクエスト周回の予定だ。互いに同じクエストの報酬を複数を手に入れるのが目的だ。

 マギさんは、採掘時のアイテム入手率上昇のアクセサリー

 俺とエミリは、採掘・採取時のアイテム入手率上昇のアクセサリーの両方。

 レティーアは、食材系アイテムのドロップ率上昇のアクセサリー。

 それぞれ、小さな効果のアクセサリーが手に入るクエストのために、周回目的で組む予定だ。

 俺は、詰め終わったメガ・ポーションをインベントリに収め、【アトリエール】を出る。

 待ち合わせ場所には、既にマギさんたちが集まっており、俺が最後となる。


「ユンくん、来たね。それじゃあ、早速行こうか!」


 マギさんの明るい声に頷き、俺たちは、クエスト発注のNPCの元に向かう。

 クエストNPCのところに辿り着くまで互いに近状を話し合う。


「そう言えば、ユンくんは、タクくんやミュウちゃんたちと一緒に【センス拡張クエスト】をクリアしたんだよね。どうだった?」

「はい。ミュウやタク、セイ姉ぇに必死でついて行きました。もう二度とあんな忙しいクエストは受けたくないです」


 俺は、はぁ、と疲れた溜息を吐き出せば、お疲れ様。と労いの言葉を掛けてくれる。また、マギさんのパートナーのリクールもこちらを見上げて、くぅ~ん、と慰めるような声で鳴いているので、頭を撫でる。


「私たちも先日、クリアして十一番目のセンスの装備枠を解放したわ。これで今まで装備できなかったセンスが装備できる。色々楽しみなんだよね」

「私やレティーアはクエスト攻略のメンバーのタイミングが合わなくて進まないからまだなのよ」


 楽しそうに笑うマギさんにレティーアとエミリさんは、センス拡張クエストをクリアしていないために、羨ましそうに呟く。


「マギさんは、何のセンスを取ったんですか?」

「私? 私は、新しいセンスは取らずに、控えのセンスを選んで装備しているよ。ユンくんは?」

「俺は――【攻撃力上昇】と【念動】です」


 俺の言葉に、微妙な表情を作るマギさんとエミリさん。レティーアだけが、首を傾げているのは、俺と同じように不遇センスやゴミセンスなどに疎いのだろう。


「何と言うか……うん、ユンくんらしいチョイスだね」

「マギさん。私たちは、実際に持っていないのだから、きっと何かメリットがあるはずよ。たぶん、きっと……」


 声が尻すぼみに小さくなるエミリさんだが、実際に使って見て分かったところがある。

 俺は、それを自虐ネタとして逆に開き直って、口にする。


「実際に、色々と【念動】センスを使って不遇の理由が分かったよ」


 まず、物を浮かせるスキル《キネシス》には、数多くの制限が掛っている。

 制限その一、物を浮遊させる難易度が高すぎる。

 俺はターゲティング能力を持つ【空の目】や器用さや生産、精密な動作に関わるDEXのステータスが他のプレイヤーよりも高めであるために、低レベルでもある程度制御できる。

 それでも、エンチャント・ストーン用の石を一つ浮かせる程度だ。

 これが【DEXボーナス】の追加効果が付いたオーカー・クリエイターを外した場合やDEX補正の高いセンスやターゲット能力のある【空の目】を外した場合は、別の物が動いたり、物が浮かない。に始まり、俺が強く念じ過ぎて、あらぬ方向にすっ飛ぶというポルターガイスト現象になってしまう。


「それならまだ、レベルを上げたり、センス構成でなんとかなるんじゃないんですか? 物を浮かせて、ぶつけるくらい」

「レティーア。他にも制限があるんだよ」


 制限その二、効果範囲。

 センスのレベルアップで《キネシス》の効果範囲は広がるが常時MP消費系のスキルであるために負担が大きい。また、効果範囲外へと飛ばそうとすれば、距離が離れるほどに、MPの消費量が加速度的に増す。


「なら、範囲内で動かして、運動量を高めて、スキルを切れば――」

「それはね。無理なのよ」


 レティーアの疑問に対して、マギさんが先に無理と口にする。これは実演すればいいだろう。

 周囲に何もないことを確認して、エンチャント・ストーン用の石を取り出し、《キネシス》を発動させる。

 浮遊する石が俺の周囲を回り始め、徐々に移動速度を増していく。

 そして、前方へと投げるために、スキルの発動を切ると……


「……落ちた?」

「落ちましたね。真っ直ぐ」


 エミリさんとレティーアが目の前で起こった不思議な現象に首を傾げている。エミリさん自身、【念動】センスが不遇だと知っているらしいが、この光景には驚いているようだ。

 なんせ、それなりの勢いのあった石が真っ直ぐに落ちたのだ。まるで見えない壁に阻まれたように。


「どんなに運動量を溜めこんでも、【念動】スキルで増やした運動量は、センスを切れば、全て失う。やるなら、相手にぶつけるまで持続させないと」


 まさに、ファンタジーの光景だ。


「ここで一つ。物を投げるなら【念動】センスより【投げ】センスって評価が確立しているわ」


 マギさんの補足がかなり染み渡る。


「後は、今まで色んなことを考えたプレイヤーが居たわ。武器を無手で振り回す。念動使いとか、自分自身を【念動】センスで持ち上げて空を飛ぶとか考えた人が……」

「それは初耳ですね」

「だって、構想だけで途中で挫折した形よ。理由はそれぞれだけど。まず、武器を振り回すにも、持ち上げるための【念動】センスのレベル、MPの大量保持、コントロール能力が必要なのが一つ」


 β時代から存在した構想なだけに、プレイヤーには早すぎたという結果で様々な課題から頓挫した。

 もしかしたら、現段階で【念動】センスを取得したプレイヤーが夢を実現する可能性はあるが、それは難しいだろう。


「次に、浮遊だけど……自分も持ち上げられずに、スカートだけが捲れ上がるという事例が発生したわ。まぁ、ギリギリ見えない位置までしか上がらないけど、女性には不評よ」


 それを聞いて、エミリさんが自分の装備のスカート部分を抑えるが、俺はそんな使い方をするつもりはない。

 マギさんは、余談だが、男性はマントを浮かせて、謎の演出は一時期人気だったとのこと。

 色々とマギさんたちから話を聞いていく内に、【念動】センスってやっぱり使えねぇ、という事実を突き付けられて気分が凹む。


「今までユンくんが築き上げたセンスがあるんだから弱体化したわけじゃないでしょ?」

「エミリさん。そうは言うけど……」

「まぁまぁ、ユンさん。ナッツでも食べて元気出してください」


 レティーアにまで心配される始末。マギさんには苦笑いを浮かべられつつも、俺たちは、クエストNPCから年越しアップデートで追加されたクエストを受注する。


 納品クエスト【芸術家の求める色】

 ――素材の納品(キョウセイチェリー0/5、ラピスラズリの原石0/5、染め虫0/5)


俺たちが受けたクエストの事前の下調べは終わっており、向かう場所は決まっていた。


「それじゃあ、ポータルで移動しようか」

「「「――はい!」」」


 マギさんを中心に、ポータルから移動した先は――【迷宮街】のポータル。だが、目的のエリアはここではない。


「今なら、検証も進んだ。だから、行ける!」


 【迷宮街】の周囲に広がる荒野。

 以前は、高難易度エリアとして有名であった。

 強力なMOB、プレイヤーを瞬殺するエリア、採取困難な岩石の点在するエリア。

 だが、それは種さえ分かれば、戦えるということだ。

 マギさんとエミリさんを前衛。俺とレティーアを後衛に。また、多数の斥候役のMOBをエミリさんとレティーアが放てば、荒野の荒れた地面から様々なものが飛び出すのが分かる。


「針ね」

「ええ、それも強力な状態異常付きですね」


 毒を始めとする多様な状態異常の天然トラップが地面から飛び出し、それを受けて動きの止まったスライム系の合成MOBを襲うモグラ型のMOB。


 毒のスリップダメージや麻痺や眠りのダメージで動きを止めて倒すシンプルなエリアだが、かなりの高レベルの発見系センスが必要なために長らくエリアの攻略が進まなかった。

 そして、そんな俺たちは、現れたモグラ型MOB・ハリワナモグラが頭を出したところで仕留めて行く。

 不意打ち特化のMOBだと分かれば、後は釣り出しで安全なエリアを調べながら、荒野を四人で進んでいく。また、上空からは、大きな鳥MOBであるソニック・コンドルが上空からの不意打ちなどをしてくる上下から危険なエリアだ。


「これは、結構精神的に辛いものがあるわね」

「そうですね。また来ます」


 俺がそう言うと、上空で旋回しているソニック・コンドルを見つけ、弓矢で狙いを定める。

「《付加》――アタック。――《弓技・一矢縫い》!」


 エンチャントによって、自身の物理攻撃を引き上げ、ソニック・コンドルの動きを予測して、矢を射る。

 上空へと上昇していく矢が、点となるほどの距離。俺は、太陽の眩しさに目を細め、太陽と重なるように旋廻していたソニック・コンドルを一瞬見失う。だが――


「当たった。そっちはどう?」

「凄いね。こっちは、エミリさんがモグラを持ち上げて、私が斧で叩き潰したから大丈夫よ」


 そう言って振り返る二人は、三匹目のモグラを倒し、レティーアは、少し離れた場所に出現した別個体を一体仕留めている。

 その直後、人間サイズの鳥であるソニック・コンドルが地面に墜落して消滅する。


「ユンくん。今の……矢が刺さってなかったんだけど」

「あはははっ……威力が強くて貫通しちゃったみたいです」


 以前にもあった、弓系センスの三重装備。それで襲撃者NPCを貫通させたことがあったが、現在は、レベルの上昇やエンチャントと【攻撃力上昇】のセンス、弓系アーツと複数の要素が相乗効果によって破壊力が増した。

 その結果が、ソニック・コンドルの一撃撃破だ。普通なら、加速して勢い着いたところをカウンターなので、風の物理防御とでも言うべき突風があるためにダメージを与えづらいのだが……


「上からの攻撃に対処ができるだけでも随分楽だよね」

「厄介なのは分かるけど、何故ここになってエリアの開拓が進んだんでしょうね」


 小首を傾げるレティーアの疑問はもっともだが、実は、手が届くが段階的に状態異常系のエリアが近くに用意されていた。

 南部の湿地帯で【発見】センスなどの重要性を学び、次に【迷宮街】の状態異常多数のノーマルダンジョンで【耐性】系センスを鍛えるか、対処方法を知り、次にこの荒野のエリアで複数の要素を複合した結果となっている。

 とは言っても、ソニック・コンドルの一撃離脱の面倒さ、地面からのハリワナモグラの不意打ちなど、ダンジョンにはない三次元的な攻撃などもあり、厄介な難易度は増しているが、敵の密度はダンジョンより下だ。


 そんな総評を受ける荒野エリアをマギさんたち味方のサポートをしながら、岩場の採掘ポイントから様々なアイテムを手に入れて行く。


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