Sense272
「やったぁ! やったよ!」
ミュウは、一番近くのセイ姉ぇに抱き付き、セイ姉ぇも嬉しそうに抱き返す。俺とタクは、未だに周囲に拡散し続けるマンティコアだった粒子の中を歩いて、互いにハイタッチを交わす。
「これでクエストクリアだな! まさか、部位破壊のできるMOBだとは思わなかったな」
尻尾がなければ、封印の間のギミックも使えない。これは攻略方法が確立されるな。と苦笑いを浮かべるタク。俺としては、もう二度と相手をすることはないと思うが、部位破壊可能なMOBがいることだけ覚えておこう。
「そうだな。ほら、それにセイ姉ぇが大学に戻るまえにクリアできてよかったよ。ミュウとセイ姉ぇもクエストが進むぞ」
既にクエストの条件は達成されたが、最後の最後まで堪能しないと締りがない。
今までマンティコアの棘に貫かれていた三つの壁画が明滅しながらも言葉を紡ぎ始める。
『勇敢なる者よ』『力を蓄えし者よ』『一つの限界に挑みし物よ』
『汝らの挑戦を祝福する』『汝らの英知を賞賛する』『汝らの困難を欲する』
『更なる喜びが待つだろう』『更なる出会いが待つだろう』『更なる苦労が待つだろう』
『『『――汝らの助けとなる一つの祝福を』』』
重なる言葉と共に、俺たちは、クエスト報酬である【センスの拡張】を手に入れた。
と、行ってもアイテムではない。
自身のセンスステータスを確認する。
所持SP11
【弓Lv53】【長弓Lv40】【魔弓Lv13】【魔道Lv25】【看破Lv36】【空の目Lv23】【付加術Lv50】【俊足Lv34】【大地属性才能Lv8】【調薬師Lv15】【空きセンス】
控え
【調教Lv33】【言語学Lv24】【料理人Lv16】【泳ぎLv17】【登山Lv21】【合成Lv50】【彫金Lv29】【錬金Lv50】【生産者の心得Lv14】【呪い耐性Lv30】【魅了耐性Lv16】【混乱耐性Lv13】【怒り耐性Lv12】【身体耐性Lv1】
New:【合成】センスがレベル50を超えました。
New:【錬金】センスがレベル50を超えました。
New:第11センスが解放されました。
New:新規センス枠解放につき、SP1ポイントが追加されます。
センスステータスとインフォメーションを確認しながら、俺は、整理を後回しにする。
「ミュウたちは、拡張センス。第11番目のセンスは何を入れるんだ?」
「うーん。私は、今まで出来ない組み合わせのセンスでも入れようかな? よりパラディンに近づくために!」
「そうね。私は、今育てているセンスの育成枠にしようかしら。広く浅く育てたいからね」
ミュウは、新規センスとの組み合わせ。セイ姉ぇは育成枠。タクは、と視線を向ければ……
「俺は、そうだな。スキルやセンスのパッシブ能力よりもステータスを総合的に上げる系統を選ぶな」
同じ系統の武器センスを重ねて装備させるのも、アリだな。と笑うタク。
三人は、それぞれ違う取り方をするのか、まぁ、駄目でも新規にセンスを取得すれば色々と可能なことは広がる。
俺は、これを機に今まで余り増やしていないセンスを増やして見ようという気になる。
新規とステータス上昇系。育成枠でも組み合わせの研究でも――
「よし! 決めた! 俺はこの二つを取得する!」
俺が取得したのは、【物理攻撃上昇】のセンスと新規センスの【念動】だ。
その二つを所持したことを見たミュウとセイ姉ぇの空気は凍り付き、タクは、軽く額に手を当てて天井を仰ぐ。
「ユン、お姉ちゃんの、馬鹿っ!」
あっ、なんかとても懐かしいような言葉が続く気がする。
「【物理攻撃上昇】のセンスは、物理武器と相性のいいからいいとして、なんでまたゴミセンスの【念動】なんてものを選ぶの!」
「や、やっぱり……」
ミュウの反応は予測していたが、涙目でセイ姉ぇを見れば、困ったように補足してくれる。
「えっと、【念動】センスは、超能力っぽいけど、魔法センスじゃないから。別に便利な移動スキルや跳躍スキルじゃないんだけど……」
申し訳なさそうに一度言葉を区切るセイ姉ぇは、言葉に口にする。
「その、物を浮かせる重さや範囲も決まっているし、転移系スキルは取得レベルが高いから無理。あと、ステータスを分け与えるスキルもあるけど」
「えっと……つまり?」
「つまり、【念動】のスキルは使わずに、普通に殴る方が効率はいいってことだ」
タクの分かりやすい纏めに、がくっ、と膝を付く。
ま、まぁ、余り使い道が少ないだけで色々なセンスと組み合わせれば大丈夫。多分……と目が泳ぐセイ姉ぇ。
「育てるなら【物理攻撃上昇】だけにしなよね。そっちの方がまだ使い勝手いいんだから」
ミュウは、俺にジト目を向けて、呆れていらっしゃる。
「いいもん。育てばきっとエンチャントみたいに強くなるはずだよ。極めれば、みんなのサポートになるはずだ。最初からサポート役に徹してやる」
「まぁ、攻撃に使えるものが少ないだけだから……」
センスの有効な使い方を考える場となっているが、殆ど有用な使い方を見出すことができずに、俺を生暖かい目で見ることになる。
「まぁ、攻撃性はないけど、能力委譲の【トランスファー】なんかは、HPやMPポーションが足りない時の第二の回復要員と言うことで……」
そもそも、【念動】センスでHPやMPを譲り渡してもパーティー内のHP総量は変わらないなど、色々な問題が有りそうだ。
「もう、この話は終わり! これから何か食べない? 四人で拡張クエストクリア記念とお姉ちゃんと過ごす残り少ない時間だからさ!」
ミュウが努めて明るく振る舞う。
俺も取得してしまったゴミクズセンスのことを今は忘れてミュウたちと共にこの地下の封印の間から出て、ログアウトする。
その後はまた大変だ。
美羽の要望を聞いて、静姉ぇと一緒に買い物して、食事を作って、巧を家に呼んで、新年会の様相に変わる。クリスマスパーティーをしたばかりなのに濃密な気がする。
その後は、ゲーム大会と称して、ノンストップで色々なゲームをやり続けるなど、俺一人は、負けの独占状態でやる気は始まる前から底が見えている状態だ。
そして、騒いで、遊んで。一日休んで、静姉ぇと両親含めて、家でまったりと過ごしたり。そうした正月が終わる。
「それじゃあ、峻ちゃん、美羽ちゃん。行ってくるね!」
「ああ、行ってらっしゃい。向こうでも体に気を付けてな。ほら、美羽も」
お見送りの言葉に美羽は、不機嫌そうにして俺の後ろに居る。
「やっぱり、行っちゃ嫌だぁ!」
「全く、我儘を言うな」
「大丈夫よ。また、OSOで会えばいいじゃない。リアルでは会えなくても違いはないよ」
「でも、こうやってリアルで静お姉ちゃんに抱き付けない」
いや、ゲームでも抱き付いているだろ。と思いながら、俺は、呆れたように美羽を引き剥がし、静姉ぇを送り出す。
「向こうに着いたら連絡してくれよ」
「分かったわ。そしたら、またOSOで会いましょう」
「それじゃあ、あんまり遠方に送り出すって感じはしないけど、まぁいいか」
「静さん! うちのお袋が駅まで車出してくれるぞ!」
家の前では、巧とおばさんが車を回して、待っている。余り待たせるのも行けないので俺は、名残惜しいが待たせないように送り出す。
「改めて、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「いってらっしゃい。それとまた帰って来てね」
美羽ちゃんは、甘えん坊ね。と言った感じで一度頭を撫でて、巧の小母さんの車に乗り込む。
巧に静姉ぇを頼んで俺たちは、寒い玄関から見えなくなるまで見送る。
「まぁ、すぐに会えるよ」
「うん。時間が合うタイミングが少なくなるだけだもんね」
まだ少し不機嫌そうな顔を作る美羽に、今日は甘い物でも作るか。と白い息を吐きながら、家の中に入る。
年越しから始まるOSOのアップデート。だが、まだまだ俺たちの知らない新規クエストなどがある。美羽は、甘い物を食べて、気持ちを切り替えて、ルカートたちと冒険に出る予定らしい。
俺も俺で色々と探してみよう。
―ステータス―
NAME:ユン
武器:黒乙女の長弓、ヴォルフ司令官の長弓
副武器:マギさんの包丁、肉断ち包丁・重黒、解体包丁・蒼舞
防具:CS№6オーカー・クリエイター
副防具:
アクセサリー装備限界容量 2/10
・無骨な鉄のリング(1)
・身代わり宝玉の指輪(1)
所持SP11
【弓Lv53】【長弓Lv40】【魔弓Lv13】【魔道Lv25】【看破Lv36】【空の目Lv23】【付加術Lv50】【俊足Lv34】【大地属性才能Lv8】【調薬師Lv15】【物理攻撃上昇Lv1】
控え
【調教Lv33】【言語学Lv24】【料理人Lv16】【泳ぎLv17】【登山Lv21】【合成Lv50】【彫金Lv29】【錬金Lv50】【生産者の心得Lv14】【呪い耐性Lv30】【魅了耐性Lv16】【混乱耐性Lv13】【怒り耐性Lv12】【身体耐性Lv1】【念動Lv1】
これにて、第六部完結。かな?
文字数は、約11万文字。今までの章の分量より少ないですが、文庫一冊分程度の分量となっております。
次の第七章は、どうしましょう? 色々と考えておりますが、まずは書籍化の方に目を向ける予定です。
ユンの新しい不遇センス【念動】は、どのように活用されるのか、こうご期待です