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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第6部【試練と拡張才能】
270/359

Sense270

日刊ランキングに消え、アクセス数が減少していることに危機感を覚えたアロハ座長は、書籍執筆の合間にこの一本を書いた。ぶっちゃけ、今日は、書籍執筆が進められなかった。予定では、四日遅れだ。

「装備の準備は?」

「オッケー!」

「ポーション等の消耗品は?」

「完備。蘇生薬も多数用意しているから大丈夫だ」


 最後の試練である『封印の間』の前でタクが確認をして、ミュウと俺が順番に答える。既に、昨日から何度も行われたやり取りに苦笑するセイ姉ぇ。


「ここから先は、情報なしだ。他にクリアしたプレイヤーも居るかもしれないが、セイさんの帰省の関係があるからここで決めるぞ」


 時間を掛けて、情報と対策を練って挑めば、簡単かもしれないが、セイ姉ぇの実家帰省のタイムリミットが近づいている。

 だから、情報のないままクエストに挑む。この情報なしのクエストに不安があるが、情報不足のまま挑む戦いに少し新鮮味がある。

 俺たちは、喰い岩の退いた地下への階段を降りていく。その途中でミュウがこんな疑問を口にする――


「この『封印の間』って何が封印されているのかな?」

「そりゃ、あれだろ。この世の全ての悪。とか、魔物化した重犯罪者のNPC、魔王を超える裏ボスとかじゃないか?」

「もしくは、巨大なダンジョンが町の地下に広がっているとか、かしら」

「そんな物騒なものがなんで教会の地下にあるんだよ……。けど、封印ってのが気になるよな」


タクとセイ姉ぇの答えに、そうツッコミを入れるが、確かに封印の文字が意味深だ。

 そんな緊張感のない会話をしていると階段が終わる。大きな青い両開きの扉があり、それをタクは突入の確認をして、押して開く。

 床を擦る音を上げながら開かれる扉の奥には、明かりのついた円形の間が広がっており、その中央には一体のMOBが鎮座していた。

 赤毛の混じる黄色い体毛に蝙蝠の翼を持つ獅子。天井から伸びる三本の鎖が手や足、首に繋がれ、捩じれた角と赤い鬣を持つ生物だった。

 尻尾には、赤黒い針がびっしりと花のように集まり開いている。


「ボスは、【封印の間のマンティコア】ってそのまんまかい!」


 マンティコアが立ち上がり、その猫科の鋭い目でこちらを睨みつけてくる。

 鎖の繋がれた先の壁には、壁画があり、薄く赤、青、緑と光を放っている。

 そして、後ろを歩く俺とセイ姉ぇが『封印の間』に入った瞬間、マンティコアは、咆哮を上げ、背後の青い扉が勢いよく締まる。


「いくぞ!」

「はい!」


 ミュウとタクが左右からマンティコアを挟撃し、俺とセイ姉ぇが弓と魔法で攻撃する。

 エンチャントでミュウとタクを強化し、マンティコアにカースドを施したが、MINDのステータスの高さによって抵抗レジストされてしまう。

 マンティコアの攻撃は、前足による攻撃や、牙に寄る噛みつき、モーニングスターのような針の塊である尻尾の叩き付け。蝙蝠の翼による一瞬のジャンプからの落下衝撃など多彩な攻撃を見せるが、その殆どが接近攻撃であるために、後衛から安全に攻撃を続ける。

 一撃ごとに隙が大きく、その隙を避けて、ミュウとタクが責め立てる。

俺とセイ姉ぇは、後ろの引いた位置から状況をミュウとタクに伝える。


「また、跳ぶぞ!」

「はいよ! っと!」


 足に力を籠め、蝙蝠の翼を羽ばたくマンティコアは、風を起こし、近くに居るタクを振り払おうとする。その風を受けて、逆らわずに、その勢いの逆に利用してマンティコアから距離を取るタク。

 跳び上がることで撓む鎖がジャラジャラと煩くなる中で、落下の衝撃が後ろに居る俺の所まで響き、膝を曲げて耐える。

 ボスの一撃を一度受けたミュウは、軽く数メートル後ろに吹き飛ばされ、HPの六割を削られたことはあった。それは自己回復によって問題なく終わったが、冷や汗を掻いた。

一連の動作からマンティコアは、一撃ごとの隙が大きく、重い。だが、安全マージンを取りながら戦えばそれほど脅威には思えなかった。

そして、HPを一割削った所でマンティコアに変化が現れる。

 前足を上げて、後ろ足だけで立ち上がり、咆哮を上げる。

 ミュウとタクは、ここぞとばかりに接近し、後ろ足に集中的に斬撃を繰り出している。ってせめて、シチュエーションくらいさせてやれよ! なんか、色々と台無しだろ。

 そして、当のマンティコアは、自身の首や手足の鎖を力強き引き千切り、それが勢いそのままに俺とセイ姉ぇの所まで振り回される。


「お姉ちゃん!」

「大丈夫よ! ――【ウォーター・ラウンド】!」

「――【クレイシールド】!」


 ミュウとタクは、マンティコアに接近することで、鎖の攻撃の範囲外に逃れ、こちらに声を上げる。俺とセイ姉ぇは、協力して、防御魔法を発動し、二重の守りを生み出す。

 内側には土壁が、外側には水の丸盾を――

 振り回された鎖は、遠心力を伴って、水の丸盾にぶつかり、貫き、防御を壊すが、水が緩衝材となり、土壁が鎖の一撃を塞ぐ。


「また、攻撃が来るよ!」


 土壁の背後に隠れていたためにマンティコアの姿が見えない。だが、もう一度、強烈な攻撃を受けて土壁が耐えられないと判断した俺たちは、左右に跳び出す。

 直後、土壁から飛び出した俺たちは、身を低くして、びっしりと針の生える尻尾を土壁に向けるマンティコアを見て、その針が発射されるのが見えた。


「なっ!? ……外した」


 極太の針が土壁……の上方を抜けて、背後の壁に深々と突き刺さる。

弾けた鎖が繋がっていた場所は、緑に光っており、針が突き刺さった事で明滅を繰り返す。


「外したんだから、今の内に! ――【ナインソード・スラッシュ】!」


 ミュウが剣を振りかぶり、最初の一撃を放つ。だが、その後に続く、アーツの連撃と発光がなく、動きを止める。

 その隙をマンティコアが捉え、大振りの前足の攻撃がミュウを襲う。


「きゃっ――!」

「ミュウちゃん! ――【ハイヒール】!」


 セイ姉ぇが回復魔法を使うが、こちらも発動しない。


「嘘っ……アーツやスキルが使えない」

「ミュウちゃん! ポーション使え! スキル封じだ!」


 タクの声に立ち上がったミュウは、ハイポーションを使い、HPを回復させ、再びマンティコアに向かっていく。


 ――スキル封じ。と聞いて、思い当たることは一つある。

 巨狼のガルムファントムのレイドクエスト報酬である冥狼の守護鎧には、【技能封じ】の追加効果があった。それは、装備者のアーツを使用することができなくなる効果だが、今この現在、それに類似した効果が発生している。

 この『封印の間』は、マンティコアを封印する場所じゃない。プレイヤーの技能を封印する場所だったことに今、この段階で気がつく。


 俺も、弓系アーツや【付加術】のエンチャントやカースド、地属性の魔法を使用してみたが、一切使えなかった。そのため、セイ姉ぇは、攻撃に参加できず、俺は、通常の矢による攻撃から状態異常の矢に切り替えて、攻撃を続ける。

 無防備なセイ姉ぇを守るように俺が自然とミュウとタクの前衛と後衛のセイ姉ぇの中間に立つようになる。


「ユンちゃん! 鎖の攻撃」

「了解! 【クレイシールド】!」


 スキルは、封じられているが、アイテムは使えた。だから、俺は、鷲掴みにした【クレイシールド】のマジックジェムを前方に投げ、生み出される三枚の土壁で鎖の一撃を防ぐ。

 二枚を破壊し、三枚目で止まる鎖に、カモモ以上の耐久力とカモモ以下の攻撃力と判断する。

 耐久は、中型のボスMOBの中でも高めだが、攻撃パターンが決まっており、それほど苦労する敵ではない。そう判断を下した。

 隠れた土壁の頭上を飛翔する針が、今度は青い壁画に突き刺さる。

 先の緑色の壁画から針が抜け落ちている。


「今度は、何だ?」


 俺がそう声を出す。確か、スキル封じは、針が壁に突き刺さったから発生したはずだ。つまり、スキル封じは、解けている可能性があった。

 だが、何が封じる対象化分からないために、攻撃を続行しようとして、矢を手にした瞬間――手から矢が溶けるように消えた。


「なんで……」


 消えた弓矢を探すが、そこにもなく、茫然としてしまう。


「ユンちゃん! 攻撃が!」


 離れた場所には、セイ姉ぇが俺に警告を発する。呆けている場合ではないと立ち上がるが、直後、最後の土壁を破壊して、鎖が襲ってくる。

 脇腹を捉えた鎖に巻かれ、そのままの勢いで左の壁に叩きつけられる。

 打撃と突撃の二重のダメージに意識が遠のく。一瞬でHPの半分のダメージを受けたために【気絶】のバッドステータスが発生し、動けない。


「ユンお姉ちゃん!」

「ちっ、ユン。起きろ!」

「ここからだと回復の範囲外。私が行く」


 遠くでミュウたちの声が聞こえる。結構、『封印の間』は、広い様子だけど、セイ姉ぇの回復魔法の範囲外まで吹き飛ばされたんだな。と思いながら、視認できる範囲に魔法を飛ばせる【空の目】のセンスの使い勝手の良さをこのタイミングで思い出す。

 そして、右側から迫る強い光を瞼の裏から感じる。何の光だ?


「ちょっと! このタイミングでそんな攻撃!?」

「ユン! 逃げろ!」

「くっ、これじゃあ、ユンちゃんの所に行けない」


 迫る光の直前に、【気絶】の状態が解除され、目にしたのは、迫りくる光線だ。

 左右を薙ぎ払うように放たれるそれをセイ姉ぇは、水盾で耐えており、ミュウとタクも動きながら回避している。

 だが、俺は、防御魔法も回避も出来ない段階にまで迫っていた。

 あっ、これは駄目だな。


 この段階になって、まだ余裕があった。蘇生薬を使って回復すればいい。と。だが――


「ユン!」


 思い出した、弓矢の分類は、消耗品だ。

 そして、視界の中に移る文字で理解させられる。

 蘇生薬使用を確認するメッセージ。そして、本来、白く色づくYESの項目が、灰色に染まっている。


 青い壁画が対応する封印。それは――アイテム封じだった。


『封印の間』は、プレイヤーの技能封じ。何時までも蘇生薬が万能だと思うなよ、プレイヤー諸君。という感じ。

ほら、横スクロールとかでありますよね。奈落の底に堕ちるとHP関係なく即死。これからは、このシステムは、適度な緊張感がありますよね。

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