Sense27
俺は、タクとのパーティー狩りを鑑みて、やっぱり武器や防具は充実させた方が良い。と実感した。
ここ数日は、畑仕事とアクセサリーや研磨で鍛冶のレベル上げをしたり。ポーションでお金を溜めて4万G。
マギさんからお金をもらってちょうど溜まったお金でほくほく顔。これで俺に弓を売ってくれる人が居れば良いが、と思って町を歩いていると……
俺――ストーキングされとる!
いや、待て。何かの間違いだ。二十歳くらいの長身モデル体型の男とロリショタ系の男の子の二人組が後を着いてくる。おいおい、待てよ。ナンパじゃなくてストーキングなんて。街中を走り抜けても、追いついてくるし。結構、ハイレベルなプレイヤーじゃないのか?
振り返ると、隠れた位置から長身の男の頭とマントの端が見えて、ばればれ。だが、ばれているのが分かっているはずなのに、何故か尾行を辞めない。
「誰かにSOS出すか? でも……いや、もしPKなら人を呼ぶより、逃げた方が早いし」
足には自信があるし、第三の町までは、彼らも着いてこれないだろう。そうと決まれば、全力で西へ逃げる。
「【付加】――スピード」
エンチャントを施し、走り抜ける。今までは、道中採取をしていたが、採取で森の地理は全て把握している。一気に最短距離で採石場まで抜ける。だが、後方の二人との距離は付かず離れずのままでいる。
やっぱり、トッププレイヤーだ! でも何で俺なんかを狙う。
思い当たる節は……地精霊の石だ。
もしかして誰かから俺が持ってるのがバレている。でも、ヤバイヤバイ。装備品の強化に使えるってことと使っていない、売っていないってことは俺がまだ持ってるってことだ!
そうじゃなくても、PKされると俺の血と汗と涙の結晶である4万Gの半分が相手に動く。
初期装備でトッププレイヤー二人なんて相手出来るわけないだろ!
男なのに、男にストーキングされて、あまつさえ、命の危機。ゲームだけど。
これはもう、第三の町まで逃げてポータルで戻って、誰かの助けを求めないと。
採石場では、アルマジロやクラブを避けて、サンドマンやゴーレムをガン無視。後ろの二人は、サンドマンに阻まれて、来れない。やった、これで撒いた。と町の入り口で一息。
「はぁはぁ、やっと撒いた。何なんだよ、あいつら。あー、怖かった」
やって来ないよな。と背後を振り返る。どうやら居ないようで安心したが、ポータルで第一の町に戻って弓を作ってくれる人探さなくちゃ。それと防具。布製の防具。あーそういえば、あの長身の男の人の服って何気にカッコ良かったな。どこで売ってるんだろう。
と思いながら、ポータルで転移。
「やっと、会えたぞ。貴様」
ポータル先で何故かさっきの人たちが居ました。あの距離をどうやって戻ったんだ。とも思わなくもない。
「全く、初心者装備で侮った。第三の町まで行けるなんて思わなかったぞ。俺達は死に戻ったお陰で体が痛い」
……俺の馬鹿ぁぁぁぁっ!
死に戻りだし。俺はまだあの町に殆ど用がないし、戻るためにポータル使う事を想定すれば、ここ見張れば良いだけじゃん!
「さあ、話をって、おい待て!」
また逃げる。今度はあの人たちが来ない場所に。いや、SOSで人を呼ぶまでどこかに匿って貰おう。そう、マギさんのお店が良い。そう思うと走り出す。
背後をちらりと、見ると。二人は全力で走ってきているが、さっきより遅い。おお、そうかデス・ペナルティーによるステータス低下か。
今のうちに、マギさんのお店に走りこみ、前のめりで入る。
「あー、ユンくん……「マギさん、匿って」へっ?」
そのまま、カウンターを飛び越えて、カウンターの裏側に体操座りで身を縮める。
なるべく息を顰め、背後の気配を探るように目を動かす。なんか、心拍数がどんどん上がり、嫌な汗が流れる。
店の中に人が入ってきた。
「マギ。少し良いか?」
あの男たちが来た。足音は二人分。さらに心拍数が跳ね上がり、見えないのに、しきりに瞳を動かし、どこにいるのか確かめる。いくら、町中でPKが出来ないからと言っても、そういう輩と一緒にいたいわけじゃない。
「何? どうしたの? この前の速度のボーナス補正のアクセサリーはどんな感じ?」
マギさんが大分砕けたような口調で居る。二人はこのマギさんのお店【オープン・セサミ】の客の様だ。
「ああ、かなりの速度だな。五つ装備して補正を掛けて、スピードタイプのプレイヤーと比肩できるだろう」
「速かったね。余っているSPで速度関係のセンスを取れば、最速だって狙えるね」
俺とのデッドチェイスの事を淡々と語る二人。
「やはり、装備が充実すれば性能差を覆せると言う事が分かっただけでも十分だ。で、マギ。お前、隠しているな」
カウンターの内側からマギさんを見上げる。ふるふると首を振るのを見て、マギさんが笑顔のまま、指でOKサインをくれた。
「何のこと? 最近では、私の所に色んな鍛冶師が教えを請いに来るけど、私らのルールは、技術の秘匿と適正価格の販売でしょ?」
「技術や適正価格についてじゃない。お前のセンス構成など大体は知っている」
「僕らが知りたいのは、謎のブルポ売りの話。マギっちが委託販売してるそれの効果は僕らの耳に届いているんだから」
ブルポって、俺のブルーポーションか!? でも何であんなもん誰でも作れるだろ。
「ははぁーん。つまり、そのブルポ売りの効果の高いポーションの作り方を無理やり聞き出して、囲い込んでる調合や合成持ちに教えようと思ってるわけ? クロード」
マギさんの声のトーンが一段下がる。その声に、クロードと呼ばれた男がたじろぐのが分かる。
「マ、マギっち。それは違うよ。クロっちは、ただの興味だし。囲い込みじゃなくて知り合い。それに、マギっちが最近懇意に取引している初心者装備のプレイヤーって気になるじゃない。裁縫師のクロっちは、他にも大きな毛皮とか皮膜の出所を知りたがっていたし」
「あのね、リーリー。あんたらが何やったかは知らないけど、その娘が私に助けを求めてきたって事実だけで私は十分なんだけど」
「うっ……」
今度は、ロリショタが黙る。マギさん、マジでありがとう。俺以上に頼りになります。
「で、何やった」
「話を聞こうと思ってな」
「で?」
下から見上げるマギさん。なんか顔が怖いというか、笑顔のまま相手を追いつめております。
「最初は、声を掛けようと思ったが……その、リアルで女子に声を掛けた事無いから。お前の店から出たところから話すタイミングを見計らっていたんだが……その逃げられてな。ポータルから出てきたところでテンパって、でもやっと声を掛けたら、血相変えてここに逃げ込まれたんだが、もう裏口から逃げたか?」
……ってこの人、ただのヘタレですか!?
貴様って言われた時、なんかメッチャ怒ってないか。と思ったんですが。
「全く、トップの裁縫師が、何を阿呆なことやってるわけ? それに付き合うリーリーもだよ。二人の男に追いかけられる女の子の気持ちを考えなさいよ。いくらゲームって言っても表情とかはリアルに伝わるし、ゲームだから普通の倫理観とは違うものが働いているから勘繰られても仕方がないよ」
マギさん。言いたい事を全部言ってくれた。でも俺男なんです。普通と違う倫理観。つまり、殺人(PK)が罪じゃないって事とかです。
「クロードは、仏頂面で怖いんだから。普通に逃げるよね」
最後にきっちり止めを刺した。
「分かってるさ。悪かった。その、フォローを頼めないか? 詫びの品も用意する」
「僕からもお願い。マギっち」
マギさんが、盛大な溜息を吐きだす。
「で、どうする? 許すの? ユンくん」
そうカウンターの内側に声を掛けられる。確かに、さっきの話を聞いた限り、俺に敵意があるって感じじゃないし、まあ、顔を見せれば良いか。ちょっと威圧感あるんだよな。身長も高いし。
「その、マギさん。ありがとうございます」
「……居たのか」
クロードさんがなんか、恥ずかしそうな、居心地の悪そうな表情をしている。
「それで、ユンくんは許してあげるの?」
「許す、許さないは、マギさんが言いたいこと全部言ってくれたからもう良いですよ」
「そっかそっか。ユンくん。優しい娘だね。お姉さんは嬉しいぞ」
「だから、娘って。俺は男ですよ」
「こんな可愛い子が男の子な訳がない!」
突然の声を上げるクロード。
あー、なんとなくクロードって人間が分かったわ。あれだ。ガンツと同じベクトルの人間だわ。俺の冷ややかな視線を受けて、咳払いするクロードと苦笑いするリーリー。
「居たんだね。それで紹介してもらえる?」
「うーん。謎のブルポ売りの弓使いさんだね」
「俺は、ユンです」
「うーん。じゃあ、ユンっちだね。よろしく。僕は、リーリー。木工師やってるから弓の依頼来てよ。杖ばっかりの依頼が多いから」
「俺は、クロードだ。革と布を主に扱う裁縫師だ。主に布の防具やローブ、皮鎧を作っている」
あー、二人とも生産職なんだ。なんか、武器っぽいもの無いと思ったらそうだったか。魔法使いって見方もあったから驚きだ。
「で、聞きたいんだが、謎のブルポって何だ?」
うーん。みんな微妙な表情を浮かべている。当人だけが知らず、みたいな雰囲気から聞いてみたが、なんか場違い感が否めない。