Sense269
お久しぶりです。最近、書籍化作業に集中していて10日から二週間更新になっている気がしますが、なるべく頑張って行きたいと思います。
ガツガツと用意する料理や作り置きしたお菓子を食べていくレティーアとそのパートナーの使役MOB。とリゥイとザクロ。お前ら、喰い過ぎだろ。
「全く、他にも食堂とかあるだろ」
「と、言いつつ作るユンさんでした」
「はぁ~、自分の甘さがつくづく憎い」
作業の合間に作っていたワイバーンの和風ハンバーグとシャーベットを先ほど作った銀皿とガラス容器に丁寧に盛り付けて、インベントリに仕舞っておく。
自身の準備が終わり、次はレティーアへの見返りの食事だ。必死にフライパンを動かし、飯盒で炊いた白飯が蒸れるのに合わせて、白身魚の餡かけを大皿に盛り付ける。
「それじゃあ、いつもの茶碗でいいか? 無限増殖の……」
ポーション瓶と同じく数には限りがあるが、無限に出せる食器や以前リーリーが作った木製の食器を併用して料理を並べていくが、ここでレティーアから待ったが掛る。
「今日は、これをお願いします。この茶碗で」
「これは……どんぶり、だな」
「茶碗です」
釉薬の塗られた乳白色のどんぶり。もとい大きな茶碗。これを自慢げに差し出すが、小柄なエルフ少女が使うには二回りほど大きい。
それを受け取り、確かめてみるとどこか量産品にない独特の味がある。
「これは……プレイヤーメイドか?」
「はい。なんと、その効果は【満腹度+6%】という驚異のアイテムです」
アイテムを説明するレティーアのドヤとした微笑に、少しイラッとしたが、このどんぶりは、俺の先ほど作った銀皿やガラス容器を超える満腹度補正。
「更に、食器を洗えば何度でも使えて経済的。何よりご飯が美味しく感じます」
「何度も使えるのか」
「ええ、食器などの消耗品も耐久度があり、壊れる時は壊れますが、これは長持ちするように作られていますよ」
そう説明するレティーアは、白米をください。と手を差し出して来るので、山盛りにして返す。
そして、外部でも俺が作る食器よりも効果の高い食器を作ることに一つ気がつく。
「まさか、俺が食器を作る必要ない! 誰かの作った奴を買って来て、盛り付ければ、それで!?」
「何を一人で戦慄してるんですか? おかわりお願いします」
一人、そのあり得る可能性に膝を付いている目の前に、どんぶりを差し出されて、少し低いテンションのまま再びぺたぺたとごはんの山を作る。
「そうです。ユンさんに耳寄りな情報をお持ちしたんです」
「情報は嬉しいけど、そんな頬袋みたいに膨らまして喋るな」
この残念エルフが。もごもごと顔に二つのコブを作って、それを飲み込む。ごくりと嚥下するタイミングがアトリエールの店内にいる小型MOBと重なる。
そのシンクロ具合に、飼い主に似るペットの話を思い出す。
「どうしました? 満たされましたので、食後のお茶とお菓子。それからお土産があれば」
「はいはい」
俺は、茶器を用意しながら、レティーアの持ち込んだ情報に耳を傾ける。
「どうやら先日の年越しアップデートで新規クエストが追加されたのはご存知ですよね」
「ああ、今は、教会……というか、大聖堂のクエストをやっている」
「ああ、三つの試練ですか。私はまだです。今回はそれとは別の周回向けのお遣いクエストです」
レティーアは、お遣いをするタイプか? と思ったが、情報元は、ライナとアルたちのパーティーらしく納得した。
「なんでも戦闘外で役立つタイプの微レアアクセサリーが手に入るらしいです」
「戦闘外って言うとどういうアイテムなんだ?」
「主に、ダジャレの利いたアイテムらしいですよ。クエストの場所と概要を教えます?」
「ああ、今メモするものを出す」
レティーアの語る内容は、どうやら町中の小さな鍛冶師と魔法使いの双子が作るアクセサリーが報酬のようだ。指定されたエリアの素材を集める素材の収集系クエストで、ソロでも可能な内容だ。
そして、手に入るアクセサリーの効果が――
「手に入るのは、ドロップ、採取、採掘の三つのボーナスらしいですよ。あと、配下やプレイヤーの関連NPCにも効果が波及するようです」
「なに、その俺の求めている最高装備は」
今すぐ欲しい。よし取りに行こう。
「それじゃあ、これで十分だな。俺は早速クエストに向か――「えると思うの? ユンちゃん?」……セイ姉ぇ、何時から?」
「ユンちゃんは仕事が早いから。もう出来てると思ったの。出来ていなかったら待つつもりだったんだけどね」
「あはははっ、そうなんだ」
「それで、出来たならクエストを受けに行きましょう。正月の数日しか時間が合わせられない。って覚えてないのかな?」
「……はい」
俺は、レティーアから聞いたクエストの事を今回は諦め、セイ姉ぇに首根っこ掴まれるように引き摺られていく。
それを見送るレティーア。片手には、お土産のサンドイッチの詰め合わせを食べながら、気分は市場に売られていく仔牛だ。
「なぁ、セイ姉ぇ。何時までこの状態なんだ?」
「大聖堂内部の『喰い岩』までかしら?」
「勘弁してくれ」
そう言うと、冗談よ。とぱっと手を離す。
「ユンちゃん、準備は大丈夫?」
「万全とは言い難いな。情報で出揃ってから戦いたし、何より回復アイテムを充実させたい」
先日手に入れたフィナ豆を使ったリジェネ・ポットや魂魄草を使ったメガポーションやMPポットを揃えたいが、まだ畑を使った栽培による確保が安定していない。
だから、少しでも畑からの栽培量や質を上げるために採取ボーナスのアクセサリーが欲しいのだが……
「そんな時間ないのに……ゲームなんて、いつも万全の状態で戦えるわけじゃないんだから、今回は準備は諦めてね。ユンちゃん」
「まぁ、分かってるよ。けど、出来るだけしたいんだよ」
俺は、不機嫌そうに呟くと、まぁ、分かるけどね。とセイ姉ぇに苦笑いを浮かべられてしまう。
「仕方ない。今回は、ハイポとMPポーションで我慢するか」
「けど、ユンちゃんのポーション。効果高いんだから、今一段階高いポーション使ってもオーバーヒールになるからそれはそれで問題かもしれないわよ」
そんなもんだろうか。と首を傾げる。大は小を兼ねるというからいいように思うが、一段階ポーションが上がれば、値段も跳ね上がる。それを思い出して、ボス討伐のコストが高くなる。と理解する。
「それじゃあ、タクくんとミュウちゃんが来る前に、『喰い岩』の試練を終えちゃおう」
「えっ!? 待たなくていいの?」
「どうせ、自分たちがその場に居ても意味はないからアイテムとか買いに行ってるよ」
「分かった。まぁ、あれにツッコミを入れるのメンドクサイもんな」
本日二度目の対面である喰い岩。ぽっかりと空いた虚ろな目と口を持つ円形の巨大岩の場所まで進み和風ハンバーグとシャーベットを取り出す。
「ヨー、今日二度目のチャレンジか! 前回は量と味は合格だ! 今度は見た目も中々! この時点で合格をくれてやるが、最後に味で手を抜いてたらやり直しだからな!」
喋る『喰い岩』の口にいぶし銀の銀皿を乗せ、一歩引く。そして、動く口元がハンバーグごと皿を粉砕し、噛み砕く。
ああ、折角の銀皿が、銀のインゴットを使ったのに……
「おっほぉ! まさか陶器と思いきや銀皿ってのは中々味な真似すんじゃねーか! コンチキショ! 毒と銀の中和の組み合わせで前より味は評価だ! 次をプリーズ!」
「なんか、鬱陶しくなってきた」
そう思いながら、ガラス容器のシャーベットを口に乗せ、噛み砕くと一瞬、眉間に皺を寄せるように目の位置が寄る。
「カァァッー! 頭キーンしやがった! ごうかぁぁぁく!」
心なしか緊張してたのか、『喰い岩』から試練の達成を告げられて、安堵の吐息が漏れる。そして、セイ姉ぇが俺の両肩に手を添えて、頑張った。と褒めてくれた。
「第二の試練は、これで終わりだ。後は最後の『封印の間』の試練だ。こいつは全員が共通の試練だ。まぁ頑張れよ」
そう言って、ごろごろと左に避けるように回転して隠していた入り口が現れる。その奥には、松明が灯る薄暗い階段が伸びており、それ以降『喰い岩』が喋る気配は無かった。
「クエスト最後の試練、頑張りましょう」
こうして開けた最後の試練の道。だが、今日の時間が来てしまい、明日の攻略に持ち越しとなる。