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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第6部【試練と拡張才能】
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Sense265


 皇帝愚足蟲の倒し方は、壁役並べて、後ろから魔法でダメージを蓄積させる方法が王道だろう。だが、情報提供元のシチフクは、水中に潜り、足や腹の下を攻撃して、正面に立たないようにしている。

 そして、俺たちも壁役が居ないために必然的にそうなる。


「ミュウちゃん右! 俺は左だ!」

「タクさん、了解! お姉ちゃん、サポート」

「【空間付加】――アタック、スピード!」


 俺を含むミュウとタクの三人を対象にエンチャントを施す。

 また、俺よりも後ろに離れて、サポートに徹するセイ姉ぇが大きく杖を振る。


「――【アイス・エイジ】」


 セイ姉ぇの足元より噴き出す白い靄は、波のように広がり、湖に到達すると湖面を凍らせていく。また、氷の地面からは、足場となる氷の坂が競り上がる。

 その光景は、以前戦ったキャンプイベントでの巨大ボス【幻獣大喰らい】との戦いに酷似している。しかし、その時とは違い、足場となる氷の道が何本も斜めに生み出されており、今回の敵は手強い攻撃手段は持っていない。

 何より――


「いくぜ! ――【ファング・スラッシュ】!」

「私も――【ナインソード・スラッシュ】!」

「離れた位置から安全に――【弓技・流星】」


 タクを皮切りに、それぞれが持つアーツで一気呵成に責め立てる。

 鋭い二本の長剣から放たれる斬撃のタクと九連続で剣を叩き込むミュウ。上空から落ちてくる弓矢。俺たち三人の攻撃が分厚甲殻に弾かれ、火花が散る。


「くぅっ、手が痺れる。やっぱり硬いよ。次は打撃系の攻撃をやってみるかな?」

「ユン! こいつの防御を下げてくれ!」


 アーツを放ち、その反動で再び、氷の足場に飛び移るミュウとタク。二人の言葉に従い、俺は、カースドを選択する。


「【呪加】――ディフェンス!」


 しかし、放ったカースドはステータスの高さで抵抗レジストされて掛からない。別の防御を下げる方法としては、弓系アーツの【弓技・鎧通し(よろいとおし)】がある。だが、それも接近しないといけない。


「――【ウォーター・ラウンド】【サモン・アクアサーペント】!」


 水盾と水蛇の下僕を生み出すセイ姉ぇ。その殆どが、口から噴出される高圧水流の盾か、ミュウとタクを守る壁になっている。召喚数に制限があるアクアサーペントでも、十体以上を常時召喚し続け、補充するセイ姉ぇの魔法使いとしての能力には、畏敬の念を覚える。だが、今回それを攻撃に使えないことが戦いにとって痛手だ。

 場を自分なりに分析しつつ、サポートのエンチャントや弓矢を放っているが、ダメージが通っている手応えが感じられない。


「確かにHPは減ってるのに……このままずっと続けても倒せるのかよ」


 攻撃の手を変え、品を変えて、毒矢を始めとする状態異常の矢も放つが、バッドステータスやカースドなどの弱体化が一向に掛からない。

 まだ試していないのは、シチフクが突き刺した腹の下などの柔らかい部位。または、顔などの口や手が伸びる場所らしい。

 なら、試してみるか。


「地属性の魔法で地面を必要としない魔法。それでいて、威力の高い……」


 数少ない魔法を選んでいる間にも、ミュウとタクが反撃の受け辛い側面から斬り付け続けている。そして、俺が結論を呟く前にミュウの声が上がる。


「――【パワーウェーブ】! よし、これなら攻撃が通る!」

「打撃貫通かノックバックの攻撃は有効か? なら、アーツでゴリ押す! ――【ハード・スマッシュ】!」


 切り裂く剣から叩きつける切り方に変え、ダメージを通していく二人。

 初めて通ったダメージに手応えを感じたようだが、ボスの巨体が反応を占める。


 ギジギジと格子状の口で金属質な音を打ち合わせていたボスが、その音を早め、体を守っていた甲殻が反り返り、その下に白っぽい体を見せる。


「これは――っ!?」


 思わず、耳を塞ぎしゃがみ込む。皇帝愚足蟲の打ち合わす口を音源に、体内で反響させ、それを開いた甲殻から放出する。所謂、音響爆弾がこの場に広がる。

 俺だけでなく、ミュウたタク。離れた場所に居るセイ姉ぇまでも動きを止める。

 待機させていた水盾やアクアサーペントは全て、弾けて水に戻り、氷の足場は、表面に亀裂を走らせる。それが数秒間続き、のろのろと立ち上がる。


「……っ!? ミュウ足場!」


 先ほどの音響爆弾の所為で今にも崩れそうな足場に立つミュウは、俺が声を掛ける前に、その場から跳び、別の足場へと向かう。だが、音響爆弾で足を止めたボスは、次の攻撃に移る。

 今まで水中に隠れていた別の足が、セイ姉ぇの張った氷を突き破りミュウへと迫る。

 いくら、立体的な行動が出来るミュウでも空中での制動はできない。このまま、一撃

を受ける未来を予想し――


「お姉ちゃん、爆破!」

「――【ボム】!」


 ミュウの声に、一瞬で反応し、最速でボムの魔法を発動させる。

 センス【空の目】の対象指定により、ミュウと振り上げられる足の中間……ではなく、ミュウの背後から僅かに離した場所で爆発が起こる。

 爆発の余波を背中全体で受けることで、それを推進力として、軌道を変える。

 以前、俺がやったボムを使った余波による大ジャンプの小技だ。ダメージを受けない範囲で魔法を使い、爆風で勢いよくジャンプする。今回は、軌道修正のためであるが、振り上げられる足を回避し、低い位置の氷の足場に見事に着地する。まるで猫のような柔軟性だ。


「ナイス! ユンお姉ちゃん!」

「全く、いきなり言われて気がつくかよ」

「でも、そこで気がつくと思ってた!」


 そう言って、笑顔を向けてくるミュウに、もう一度、全く。と溜息を吐き出す。

 阿吽の呼吸の真似事など、そんなに出来る訳では無いのだ。正直、勘弁してほしいと思いながらも、悲鳴のようなボスの声に、溜息で伏せた目を上げる。


「よし、今の一連の攻撃で結構削ったな」


 ミュウの反対側に居たタクは、あの音響爆弾の後、すぐさまボスの背に飛び乗り、開いた甲殻の隙間。柔らかく白い体を二本の長剣で滅多切りにした後だった。

 また、甲殻を閉じる際の反撃では、音響爆弾の攻撃から立ち直ったセイ姉ぇが氷の道を作り、フォローに回っていた。

 俺は、自分の攻撃のチャンスを逃したと思い、再び溜息を吐き出す。


「で、残りHP七割ほど……もう一回誘発するのか?」

「どうするかな? シチフクの戦い方聞いたけど、初見の攻撃ばっかりだからな。もう一回やってくれるかは分からねぇな」


 音響攻撃で各所が脆くなった氷をセイ姉ぇが張り直す間、俺たちは、ボスから距離を取って作戦を練る。

 カモモや他のボスのように戦闘が始まったら、最後まで戦い通しの場面とは違い、積極的に攻めてくる感じじゃないからこうして休みながら戦えるが、その分硬く、多くの耐性を持っている。

 ミュウとタクに掛けたエンチャントを掛け直し、態勢を立て直す。

 俺がエンチャントを掛けた時、何か言いたそうにしていた二人だが、微妙な表情をしただけで、すぐにボスへと向かう。


「よし、このまま削っていくか」

「また、フォローよろしくね」


 戦闘が止まり、ボスが再び湖底に戻らない内にミュウとタクがMPを回復させて、突撃していく。重鈍な敵ほど、魔法やアーツのゴリ押しが有効なために今回の二人は、MPポーションを使って、どんどんと打撃貫通系のアーツを放っていく。


 セイ姉ぇは水盾を再び生み出して、防御に回っており、俺だけがただ無意味に矢を放っている。


「ねぇ、ユンちゃん。前に出てもいいよ」

「えっ? セイ姉ぇ?」

「確かに、ユンちゃんは、後衛だけど、出来ることがあるなら前に出てもいいよ」

「けど、俺は……」

 

 一度、逃げ出そうとした。最初、セイ姉ぇの魔法が効かないと分かり、駄目だと思ったのに、今になって勝てると分かって勢いづくなんて、なんか情けなく感じる。


「ユンちゃん。一つ言うけど、楽しいゲームには、勝てない敵はいないの。居たら、それはクソゲーかハイエンドプレイヤー向け」


 諭すように言われた言葉を噛み締めて、セイ姉ぇが微笑みかけてくる。

 その言葉を聞いた時、タクとミュウが何かを言いたそうにしていたのはこの事じゃないのだろうか。とふと思った。

 一度逃げ出そうとした俺を矢面に立たせるのを躊躇ったのか、普段は問答無用で押し付けてくるのに、こういう時だけ気を使いやがって。


「どんな敵にも弱点や欠点は必ずある。だから、楽しんできて。今回は私が攻撃に参加でき無い分」

「……分かった。行ってくる」


 少し気を引き締めてセイ姉ぇを見返せば、いい顔になった、と言われた。再び、皇帝愚足蟲と対峙し、弓をだらりと下ろす。そのまま体を前に倒すように身を低くして走る。

 接近する俺に狙いを定めたボスが正面から高圧水流を放つが、それとタイミングを合わせて、エンチャントを唱える。


「【付加】――スピード」


 跳ね上がる速度でボスの放つ予測地点の先を走り抜け、セイ姉ぇが後方で新しく作り上げた氷の道を駆け上がる。


「ユン! 来たか!」

「ああ、色々と悪かった。効率の悪い戦い方をしていたな」


 俺よりもゲーム廃人のミュウとタクが俺のセンスのことを知らない訳がない。それも含めて、俺は戦える。


「ここまで近づかないとこれは使えないからな。――【弓技・鎧通し】」


 弓系センスの中でピーキーなアーツの一つを選び、放つ。

 氷の道に膝を突き、かなり接近した状態でなければならないアーツの効果は、防御無視の貫通攻撃と防御力ダウン。こうした防御の高い敵には、反撃の受けにくい側面から攻撃が有効なようだ。もっと早くに決断すればよかった。

 そして、戦いは、終盤へと近づいていく。


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