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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第6部【試練と拡張才能】
260/359

Sense260

 俺たちは今、カモモを視界に捉えて、対峙している。とは言っても、件の強MOBであるカモモは、呑気に木陰でしゃがみ込み、鼻提灯を膨らませて寝ている。


「なぁ、ほんとにあれと戦うのか?」

「なんだ、ユン。怖気づいたのか?」

「あれのどこを見て怖気づく。というよりも、何か攻撃し辛い」


 外見がファンシーなために攻撃を躊躇ってしまう。カモの着ぐるみのような外見ではなく、可愛くないデフォルメのカモだったら何の躊躇いも無く攻撃したのに……。


「いい加減諦めろ。もう、素材は集めたんだ。こいつと戦って勝てば、今日の目的は終わりだ。全力で戦うぞ」

「……わかつた」


 まだ納得できていないが、俺は、装備を整える。万が一に備えて、【身代わり宝玉の指輪】を着け、弓を構える。

 相手は、ノンアクティブであり、眠ってその場を動かない。そこに最大威力のスキルを発動させる。


「――【弓技・流星】!」


 弓系アーツの中で威力と発動までの時間のバランスが取れている【弓技・流星】を選ぶ。

 上空へと放った矢は、カモモの頭上へと落ちる軌道で光を放ちながら、加速する。

 この一撃では倒せないが、ダメージは与えられる――そう確信したが。


「なっ!?」


 カモモは、迫る矢の触れる寸前で目を覚まし、体を半回転させて、その短い翼で矢の真ん中を打つ。光を放つアーツの矢を中ほどから叩き折った。

 完璧な状況での先制攻撃。それもアーツで強化された矢を破壊と言う形で無効化された。


「ユン、呆けるな! 次の矢を放て!」


 タクの声にはっとなり、すぐさま矢を取り出し、弓に番えるが、その前にカモモがこちらへと移動を始めた。


「は、早い!」

『カモモォォッ!』


 こちらへと迫る姿が早すぎて、弓では狙いが定まらない。反復横跳びのように素早く左右に跳び、迫って来るカモモ。ノンアクティブの時のつぶらな瞳ではなく、漫画チックな怒りの表情を作っているが、間抜けな雰囲気に似合わない勢いで迫って来る。


「私とタクさんが出る!」

「ミュウちゃんは、側面。俺は正面に立つ!」


 ミュウとタクが前に出て、カモモの進撃を止める。タクは、長剣を巧みに操り、カモモの短い翼での打撃を受け流していく。丸っこい胴体が高速回転するように翼が振られ、それを苦しそうに耐えるタク。


「【付加】――アタック、ディフェンス、スピード!」

「サンキュー! ユン!」


 タクに、三重のエンチャントを施す。余りに激しい接戦を繰り広げるタクとカモモの戦いに、割り込むタイミングを見いだせずに、サポートに回るだけだった。だが、ミュウは、そんな激しい応酬の中に飛び込む。


「はぁっ――【フィフス・ブレイカー】!」


 出の早い五連撃の剣のアーツを使い、割り込むが、最初の一撃目をカモモの翼で防御され、防御を抜けて僅かなHPを削るだけ。二撃目は、紙一重で躱されて、三撃目の時は、後ろに飛び退く形で逃げられた。

 ミュウは、即座にアーツをキャンセルし、追撃を掛ける。

 カモモが地上を走るのに対し、ミュウは、木の幹を足場に立体的な動きで高い位置からカモモを補足する。


「逃がすかぁぁぁっ!」


 カモモの頭上に追いつき、全力で長剣を振り下ろすミュウ。全力の一撃を逸らすのではなく、両手の短い翼を頭の上で交差させることで受け止めるが、防ぎきれないダメージがカモモのHPを削る。


「俺が居る事を忘れるなよ。――【ファング・スラッシュ】!」


 なるべく、出が早く威力のあるアーツを選んだのだろう。赤い刃がカモモのがら空きの胴体に喰らい付き、目立ったダメージを与える。

 そして、二人は、そこで深追いせずに、跳び退く。


「さぁ、行くわよ。――【スチーム・ピラー】!」

『カ、カモォォッ!?』


 セイ姉ぇが杖を地面に突き立て、水魔法を使う。地面より生まれた高温の水蒸気が、カモモを飲み込む。数秒間、カモモの声が聞こえたが、声の質が変わった。


『カモカモカモッ!』


 そして、水蒸気の柱の中で翼を振り回し、水蒸気を切り裂いて、無差別に真空波を飛ばす。


「厄介だな! 見えづらい風魔法を使うなんて!」

「気を付けて! 突撃が来るよ!」


 全体を見渡せるセイ姉ぇからの警告に俺も身構える。カモモは、水蒸気を散らした中心で体毛を逆立てて、お尻を高く掲げて、左右にふりふりと振っている。そのどこか気の抜けた姿に警戒を解いてしまった。


『カモモォォッ――!』

「馬鹿、避けろ!」


 タクが声を上げるが、一度気の緩んだ体は、反射的に動かない。

 ミュウとタクの前衛二人の隙間を縫うように俺へと迫るカモモ。体に風を纏い、風を撫でるように静電気が走っている。


『――カモッ!』

「っ!?」


 迫る勢いから丸い胴体を回転させて、裏拳のように拳を叩き付けてくる。まず、一発が俺の右脇に入り、パリンと硝子の割れるような音が一つ響く。

 身代わり宝玉の指輪で攻撃を無効化した瞬間だ。宝石は、三回まで防げる中サイズを選び、あと二回防げる。だが、カモモの連撃は止まらない。


『カモカモッ!』


 風を纏い、静電気の走る短い翼が連続で突きを放つ。少しでも逃げようと、後ろに跳ぶがそれすらも追い付き、連撃を叩き込む。再び響く破砕音に嫌な汗を背中に感じる。

 そして――


「【付加】――ディフェンス!」

『カモモォォッ――!』


 咄嗟に、防御のエンチャントを自身に施し、腕を盾にして受け止める構えを取る。もう身代わり宝玉の指輪の効果は切れた。体を深く沈めたカモモが一瞬にして迫り、盾にした左腕に体当たりを決める。

体当たりの勢いを衰えさせずに爆走し、弾き飛ばされた俺は、防御エンチャントで底上げした防御力を抜いてHPを一瞬で刈り取る。

 衝撃が強すぎて、そのまま吹き飛ばされ、樹に背中をぶつける事で動きが止まる。


「ユン! ちぃ、ミュウちゃん、全力で押し込むぞ!」

「早く起き上がってよ! お姉ちゃん!」


 突撃の勢いのまま近くの樹に正面からぶつかったカモモは、頭をふらふらさせて覚束ない足取りでいる。樹との衝突にも少なくないダメージを受けて、纏っていた風を解除したカモモ。その隙を見逃さずに追撃を掛けるミュウたち三人を倒れた地面から見上げる。


(少しは心配してくれよ)


内心ではそう思いながらも、声が出せない事実。防御エンチャントすらぶち抜き、一撃で俺を倒したカモモ。この攻撃力と連撃じゃあ、身代わり宝玉の指輪も意味はなかった。

 意識上に表示されるメニューは、蘇生薬の使用に関するメニューだ。やや貧乏性な気がある俺だが、この時は、蘇生薬の使用を惜しむつもりはない。迷わず、YESを選択する。


「全く、たった一撃でHPを完全に刈り取るなんて、聞いていた以上に強すぎだろ。良くあれだけの攻撃を捌き切れるよ。あの二人は……」


 蘇生と同時に立ち上がり、蹴られた拍子に落とした弓を拾い上げ、カモモを睨む。

 外見で油断していたが、もう油断も慢心もしない。全力で相手をする。


「さて、何から手を付けるべきか――」


 俺の防御力を抜いてくるカモモに対して、HPを回復させても、一撃で全てを持っていくのだ。HPがフルだろうが、1だろうが同じだ。回復を後回しにして、俺は、魔法を使う。


「【呪加】――アタック、ディフェンス、スピード!」

『カモッ!?』


 三重のカースドをカモモに掛ける。一瞬驚いたように目を見開く。上手く決まったのは、攻撃と速度のカースドで防御のカースドは抵抗レジストされた。


「動きが遅いよ! はぁ!」

「良し、これで捉えられる!」


 タクとミュウがここぞと攻め込み、弱体化されたカモモが防戦に回る。だが、カースドの短い待機時間が経ち、再び魔法を使う。


「【呪加】――ディフェンス、インテリジェンス、マインド!」


 既に掛かっているカースドに更に、呪いを重ねる。今度は、魔法攻撃のカースドが抵抗されたが、今は合計四種類のカースドで弱体化された状態だ。

 更に、差を広げる為に、エンチャントを広げる。


「【空間付加】――スピード!」


 タク、ミュウ、セイ姉ぇの速度を引き上げ、果敢に攻める。攻撃が通じないなら完全に攻撃を捨て、サポートに回る。

 カモモとの速さの差が縮まり、手数とコンビネーションが勝るミュウたち三人がじりじりとHPを削っていく。


『カモモ!』


 ミュウとタクと打ち合いを繰り広げるカモモだが、そう鳴き声を上げて、大きく後ろに飛び退く。再び突撃の構えを取るのか、と思い身構えるが、事前に聞かされたある行動を取った。


「ああ、折角ユンお姉ちゃんが掛けた状態異常が……」

「けど、通用する! ユンちゃん、もう一度!」


 頭に生える一個だけの桃を風魔法で切り落とし、黄色い嘴でパクリと飲み込む。その瞬間、今まで与えたHPのダメージとカースドによる弱体化が全てリセットされた。


「これでもう桃による回復は無くなった! 後は、もう一度同じ状況を作り出すだけだ」

「それが出来れば、良いんだがな」


 タクは、これをチャンスと見ているが、俺は嫌な予感をひしひしと感じる。


『カモォォォッ!』

「なんか、俺に対して、めっちゃ怒ってないか?」

「あれだけ鬱陶しい弱体化と俺たちへの強化でヘイト値が溜まったか?」

「そんな呑気なこと言ってんな。おれじゃあ、相手に出来ないぞ!」

「まぁ、一度倒れれば、ターゲットは外れるだろ」


 それは、また吹き飛ばされと言うのか。そうこうしている間にも再び風を纏い、突撃姿勢に入るカモモ。選べるスキルは少ない。


「出来れば、生き残れ!」

「嬉しくない激励だな!」


 俺とカモモを結ぶ直線状からタクたちは避ける。俺も避ければいいが、下手に避けて被害を大きくしたくない。また、エンチャントによる強化と弱体化は間に合わない。それなら――


「――【クレイシールド!】」


 カモモの目の前に土壁を生み出し、進路を阻む。そんな薄い防壁を頭突き一つで軽く突破してくるが、その後ろには、マジックジェムで作り出した壁が四枚並ぶ。

 生み出した土壁を次々に突進で粉砕していくカモモ。

 飛び散る土塊を反射的に横に避け、次の瞬間に最後の土壁も破壊して、転がるように避ける。

 今回は、運が良かった。土塊を避ける為に早めの回避行動を取ったから無事だった。

 体勢を立て直して、振り向けば、太い樹へとぶつかり目を回すカモモ。


「ユン! 捨身戦法でよくやった!」

「褒められても嬉しくねぇよ!」


  土壁五枚分の衝突ダメージと合わせて、少なくない自爆ダメージを負わせ、タクにそれを褒められたが、全く嬉しくない。俺にそんな称賛を送ったタクは、カモモが復帰する前に少しでもダメージを与えようとミュウと共にアーツで連撃を叩き込んでいる。


「タクくん、ミュウちゃん。引いて! ダウンから復帰するよ!」


 セイ姉ぇの声を受け、バックステップを刻みつつ、下がる二人。起き上がったカモモは体の表面をスパークさせて、空気中に細かな電気を散らし、タクとミュウにダメージを与える。


「あー、もう少し攻撃したかったのに……」

「ここでミュウがやられたらタク一人で押さえられるのか?」

「じゃあ、お姉ちゃんがその状況作ってよ。さっきのまた見たいよ! 闘牛みたいな捨身戦法!」

「俺は、意図してやっていないから。そんなギリギリの状況にスリルは覚えないタイプなんだけど……」

「大丈夫! 残機はあるから!」

「人の蘇生を残機扱い!?」


 全く、打たれ弱い俺が戦うのに必要だから、と言っても蘇生薬だって安くはないのだ。そう軽々しく使いたくはない。それに――


「全く、捨身戦法でダメージ与えてもアイテムが尽きたら終わりなんだけどな」

「ユンちゃん、大丈夫?」

「大丈夫だよ、セイ姉ぇ。それより――」


 HPはまだ七割は残っており、回復手段の頭上の桃は消費している。後は、先ほどのように弱体化と強化でスペック差を縮めて、長期戦を考えるなのだが――


「まだ俺にターゲットが残ってるよ!」


 俺に視線を向けたまま、鋭い打撃をタクとミュウと互角に打ち合いをしている。

 可愛い顔を可能な限り怒らせても、ゆるキャラの怒った顔は可愛いのだが、その視線が俺一人に集中しているのが居心地が悪い。


「ユン、そっちに抜けたぞ!」


 タクとミュウが抑えきれずに、カモモがこちらに迫る。今度は突進ではなくジグザグに地面を蹴っての移動だ。腰を落として何時でも反応できるように待ち、カモモの鋭い初撃を避ける。


『カモ!?』

「ひぃ、怖ぇぇ」


 目の前で風圧を伴う翼の突きを避ける。更に続けて放たれる裏拳、蹴り、打撃などを情けない悲鳴を上げながら避け続ける。

 回避に専念する俺に対して、ミュウたちは、離れた位置からカモモの背中にスキルやアーツを放っていくが一向にターゲットが移らない。そればかりか、攻撃の激しさは増していくばかり。


「なんで俺なんだよぉ!」

『カモ、カモ、カモモッ!』


 ミュウに鍛えられた回避技術は、短い間だがしっかり身についている様だ。当たらない攻撃にカモモは怒りではなく、苛立ちの表情へと変えていた。


「いいぞ! 頑張れ!」

「そんな悠長な声援じゃなくて、助け――うわっ!?」


 また避ける。遂に痺れを切らしたカモモが俺の至近距離で風を纏い、静電気を俺へと飛ばす。

 咄嗟に避けるが、それを追うように迫る静電気を掌で受け、痛みと共にダメージを感じる。地味に痛い攻撃と尻尾を高く突き出した突撃姿勢。


「時間を稼がないと!――【クレイシールド】!」


 マジックジェムを三つ投げ、三枚の土壁を生み出す。

 その壁裏に隠れて、更に別の魔法を使う。

 そして、突撃が始まったのを一枚目の土壁の破壊音を聞いて、横に転がるように逃げる。

 二枚目の土壁が壊され、三枚目も壊した先には――泥沼が待っていた。

 地面を強く踏みしめて走るカモモは、大きくその泥の中に足を沈め、今まで溜め込んだ運動エネルギーをそのまま泥の中に突っ込む力に変える。


 びたん! と表現するのが一番だろうか。そんな倒れ方で泥の中から顔面ダイブしたカモモ。その後の僅かな沈黙が妙に痛い。


「い、今がチャンスだぁ! や、やるぞ!」

「う、うん! わ、分かった!」


 タクの掛け声にミュウも攻撃に移るが、その肩が小刻みに震えて笑いを堪えていた。そして、セイ姉ぇは、一人しゃがみ込んで小さく押し殺した笑い声が聞こえる。


「……【付加】――アタック、ディフェンス! 攻撃は――【弓技・一矢縫い】」


 俺も倒れたカモモの体に次々と矢を放つ。ミュウもタクも泥沼に足を取られないように少し離れた位置からのアーツや魔法による攻撃を選ぶ。暫くして、セイ姉ぇも攻撃に加わりダメージを与える速度が格段に上がる。


「これで、ラスト! ――【コンセンサス・レイ】!」


 ミュウの光魔法である光線の【ソル・レイ】の魔法よりも上位の三本の光線を集光させて、一本の極太レーザーにして打ち出す光系統の魔法にカモモは飲み込まれて消えた。

 その冗談みたいな強さとギャグみたいなコミカルな動きのカモモは、非常に強敵だった。だが、最後の最後までそのコミカルな動きとキャラクターが印象から離れない相手だった。


今回は、難産だった。

ホントは、もっとユンを倒されては起き上がるゾンビアタックを考えたが、それじゃあ芸がないので泥沼ダイブに変更。

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