Sense26
夕食の席、互いに近状報告的な会話で盛り上がった。
「おお、お兄ちゃん。第三の町に行ったんだ」
「ああ、巧に誘われて、ヒーラーとしてな」
「あー、まあ。巧さんも考えてるんだね。生産職の人は、早めに第三の町に行きたがるし」
何やら納得した感じの美羽。実際、巧もそういう考えがあったのかもしれない。そう考えると騙されてばっかじゃない気もする。
「そうだ。お兄ちゃん。今日ね、防御上昇が30になって、新しく物理上昇のセンス取得したんだよ。空きの所に、行動制限解除のセンスも入れたし」
「おっ、物理上昇と言えば、センスツリーがどうとか、こうとか。って聞いたけど何?」
「センス・ツリーってのは、いわばセンスの樹形図だよ。剣の派生で片手剣、両手剣って枝分かれするんだけど、それ自体がそっくりそのまま、別の樹に変わっちゃうんだよ」
「それって何かあるのか?」
「例えば、AとBってセンスを鍛えると別のツリーのCってセンスが取得出来たりするの。それでCを取得するとAとBのセンスが未取得状態になるんだ」
「つまり、また取りなおせるんだな」
「でも、レベル1からやり直しはちょっと辛いから極度のパワーファイターじゃないと取らないかも。敢えて、そういう別のツリーに乗り換えないで、そのままそのセンスを鍛える人もいるよ」
「ふーん。それじゃあ、【行動制限解除】って何だ? 俺が取得可能なセンスを見たが無かったぞ」
「お兄ちゃん、ちょっとは情報知ろうよ」
効率も良いが、縁側で茶を飲む心持ちが欲しいよ、兄は。
「合計取得SPが20を超えると、獲得できる一次センスが増えていくんだよ。βの時は、40でも増えたからたぶん60でも増えたりすると思う。だから、20になったら、自分のイメージに合わせて総入れ替えとかも居るんだから」
「それで、20で出たセンスの方が強いのか?」
「ううん。全然。性能的にいえば、大差ないね。ただ、出てくる敵の弱点を突いたり、状態異常耐性のセンスとかが目立つかな? 後は、育てば化けそうな眼力系のセンスとか」
「鷹の目も目だぞ」
「例えば、蛇の目は、発動させた相手に麻痺効果を与えるものでこれは20から取得できる奴だよ。鷹の目よりもよっぽど戦闘向けだね」
ごめん、鷹の目。でも、俺はお前を見捨てないよ。
「鷹の目だって育てれば、いつかきっと最強に」
「確かに、鷹の目の派生はだれも知らないからね。βでも取っていた人は、25くらいで諦めたらしいし」
「よし、全部のセンスを30まで育ててみるか」
「その意気込みだよ、お兄ちゃん!」
「でも、そう考えると、SPを多く取得するために、多くのセンスを取る奴がいそうだな」
「実際、片っぱしから取って、レベル10程度になったら、新しく手に入れていた人も居たよ。でも考えなしでやると辛いのにね。上位センス取るのに、SPの消費は2、多くて5だよ。そんなことやってたら、上位センスの取得するためにレベル50とか60まで上げないといけないんだから。平均的に上げるのも大変だし」
さすが上級者。最短コースを見極めている。
「私は、βのレベルまでまだ時間がかかりそうかな? お兄ちゃんは何してるの?」
「何しているって?」
「そのままの意味だよ。何してレベル上げしてるの?」
「あー。俺は、ポーションとか、アクセサリー作ってるわ。素材アイテムを消費して金にしたいし。良いレベル上げになるぞ。生産だけだけど」
「相変わらずの金欠だね」
美羽が鈴の鳴るような声でころころ笑う。別に良いだろ。これでも今のレベルでは戦闘でそこそこ役立つんだから。本当だぞ。
「まあ、妹は、お兄ちゃんを見守りますよ」
「おう、見守ってくれ」
「うんうん。女の子のお兄ちゃんに悪い虫がつかないようにするのが私の役目です」
「良い加減そのネタで弄るの止めてくれるか。俺だってたまに思い出して悶絶したくなるんだから」
「分かったよ。じゃあ、私はお姉ちゃんと一狩り行ってくるよ」
「はいはい、静姉ぇによろしく。って伝えてくれ」
「お兄ちゃん、一緒に狩りしないの?」
「今日はパス。疲れた」
色々やったし、ボスMOBは緊張した。VRって臨場感半端ないが、戦闘の時の緊張感とかヤバかった。あそこまで精神すり減らすとは思わなかった。その内、ドラゴンと戦うかもな。と思うと、ぶるりと身震いする。
ああ、考えるのやめだ、やめ。
「じゃあ、お兄ちゃんは第二陣に追い越されないように頑張ってね」
そう言って、部屋に入っていく。第二陣って何だ?
またもや疑問だけが俺の中に残る。