Sense255
「悪い悪い。ちょっとした茶目っ気なんだから」
「……はぁ、全く。やることが子どもか」
麻痺で痺れた足に軽く指を押し込まれ、悶える俺を笑った後、笑い涙を目尻に貯めて、謝るミカヅチの姿にすぐに許してしまった。
それから、状態異常に対処できるように、リゥイを呼び出し、側に控えて、レベリングの手伝いをして貰っている。
リゥイの【浄化】のスキルは、万能であるために麻痺や毒に苦しむことなく順調にレベルを上げて行き、次の状態異常へと移行している。
「そろそろ各耐性センスのレベルが当初の予定通りじゃないのか?」
「そうだな。予定のSPは超えたな」
着ぐるみ、パジャマときて、現在は、呪い耐性の装備である青ジャージを借りている。なぜ、訓練用の装備がこんなチョイスばっかなのか。制作者を小一時間問い詰めたい。寝間着に何らかの強い執念でもあるのか?
まぁ、今は状態異常を受けるだけで別に戦闘をするわけでもないために、暇を持て余している俺は、ミカヅチにお酌を頼まれた。
「まぁ、それくらいなら……」
「いいねぇ、寝顔を見たり、いい声聞けたり、可愛い女の子にお酌もしてもらえる。新年早々に酷い二日酔いもないほろ酔い気分を味わえる。それに、サイズの合わないジャージとかマニアックな光景が私一人独占ってのがいいなぁ」
「独占って……」
ジト目で召喚したリゥイと共に見つめるが、気持ちのいい笑いを浮かべて軽く流されてしまい、俺のこの感情をどこへやっていいのか分からずに微妙な表情のまま、空になったカップにお酒を注ぐ。
「それで毒、麻痺、眠り、気絶は、レベル30を超えたけど、他はどうだ?」
「魅了と怒りと混乱はレベル10台。今レベルを上げている呪いは、30だよ。一応は、目標達成かな?」
五種類がレベル30に、そして、後回しにした三種類も眠りと気絶中に少しずつ状態異常を与えていたためにレベル10台であるために、合計SPは18。
最初に持っていたSP39と合わせてSP57になっている。これでの目標であり新規クエストの条件であるSP50を超えることが出来た。
「そりゃ、重畳」
「悪いな。レベリングを頼っちゃって」
「気にするな。それよりまだやるか? なんだったら、後回しにしている残りも戦闘込みでやるか?」
「やらない。流石に、この辺で休憩入れてからセイ姉ぇやミュウと合流かな?」
成獣として大きくなったリゥイに背中を預けて、ミカヅチに答える。絹のような滑らかな白い毛を無意識に撫でながら、だ。
時刻も朝の八時だ。切り上げるにはちょうど良い時間だ。
それを確認する時に、メニューの中にインフォメーションが来ていた。
「さっきのレベリングで新しい成長先が出来たのか」
「それは、状態異常系に関連する奴だな……確か――」
取得可能なセンスに新たな成長先が発生していた。ミカヅチが言っていた【身体耐性】のセンスが習得可能だった。効果は、毒、麻痺、眠り、気絶の四種類の耐性系センスを統合したようなセンスだ。レベルが1に戻ってしまうが、統合すれば、扱いやすいと思う。
早速、SPを3ポイント消費して、変化させる。
「――嬢ちゃん、一つ言い忘れた。絶対に、【身体耐性】の使い勝手が悪い。死にセンスとは言わないが後回しで良いぞ」
「……はい?」
もう、取得した後でミカヅチがそんなことを言って来た。
「だって、四つの耐性センスを統合してるよな」
「効果だけに騙されるな。確かに、統合されるから装備枠は圧迫しないが、レベルが低いと弱い状態異常しか無効化出来ない。それにレベルの上がる速度がかなり遅いんだよ。ざっと、元のレベルに戻すのに必要時間が八倍だ。まぁ、四種類の状態異常どれでもレベルが上がるから一番楽な方法でのレベリングで出来るが……」
それに、他の耐性センスと重複も出来る。と付け加えるが、既に俺の耳には届いていない。
既に取得した【身体耐性Lv1】の文字をじっと眺めて黙っている。必要時間が八倍と言うことは、【眠りLv30】に上げるのに、さっきまでのハイスピードレベリングをしていると三時間かかるのが、元の水準に戻すのにほぼ一日かかる計算だ。それを早いとみるべきか、遅いとみるべきか。いや、あれは、眠りのリングを五つ装備しての効果だ。
俺一人でやる場合は、俺はリングを一つしかないので更に五倍。五日だ……120時間だ。
「なんだ。黙り込んで……まさか、もうやっちまったとか、は無いよな」
「あはははっ……そのまさか」
「……まぁ、効果も重複するし、一度各種の耐性センスをもう一度取り直してもいいんじゃないか?」
「なぁ、何で目を逸らすんだ」
「まぁ、各種の耐性センスがレベル50になれば、上位のセンスに成長するから。今度はそっちを目指そうか。一人で」
「さり気なく、見限られた!」
まぁ、レベリング方法を提示して貰えたんだ。一人でいる時に、効率的な方法を模索するしかないようだ。それに、無駄にSPを使うと今度は、何時必要になるか分からないので、耐性センスの取得を保留しておく。
所持SP54
【長弓Lv34】【魔弓Lv8】【魔道Lv21】【調薬師Lv11】【調教Lv32】【呪い耐性Lv30】【魅了耐性Lv16】【混乱耐性Lv13】【怒り耐性Lv12】【身体耐性Lv1】
控え
【弓Lv50】【空の目Lv19】【付加術Lv44】【俊足Lv31】【看破Lv31】【大地属性才能Lv3】【泳ぎLv17】【言語学Lv24】【料理人Lv13】【登山Lv21】【合成Lv48】【彫金Lv25】【錬金Lv47】【生産者の心得Lv10】
また、耐性センスを取得し直さなきゃいけないことを考えて、少し気が重たくなるが、考えることを後回しにして、ログアウトする。
朝食の席では、美羽と静姉ぇが先に待っており、お雑煮とお節料理を食べながら、作戦会議を始める。
「それじゃあ、ちゃんとレベルは上がったんだね」
「ああ、一応必要条件のSP50までは集まった。それで、巧の方は話がついたか?」
「ええ、巧くんの方は、問題ないようね。それから今出揃っている情報だと、クエストは三段階あって、それぞれ第一の試練、第二の試練っていう風に呼ばれているの。それで、受けるパーティー毎に内容が違うらしいわ」
「それは、対策の立てようがないな」
「けど、ある程度の傾向があるらしいわ。種類は、指定されたアイテムの納品か、指定されたボスの討伐、。もしくは、指定されたアイテムの作成らしいわ」
「それって、採取、討伐、生産とまぁ、どのタイプのプレイヤーでも出来るようになってるな。ランダムじゃないな。それ」
「結局、出来ない奴が出ないんだから、当たって砕けろ精神だよ」
「美羽。砕けちゃ駄目だろ」
お餅をみょーんと伸ばしながら食べる美羽に静かにツッコめば、静姉ぇが苦笑いを浮かべる。
その後、軽い仮眠を取ってから、巧と合流することで話は終了した。
今回は、すこし短めですみません。