Sense250
今回より、外見の設定を書籍版に準拠。
具体的には、Web版では、ユンの髪がショートの描写が多々ありますが、書籍版に合わせてロングの描写に切り替えます。また、過去のショート描写は、変更しません。ご了承ください。
本来は、書籍版発売と共に、告知すべきですが、ここまで外見描写に関するものが無かったので、告知しませんでした。申し訳ありません。
オープンテラスのお店は、ただいま特別な飾りつけがなされている。洋風のカフェの前に吊るされた小さな鐘と木槌。叩けば、ゴーンと言う低く味のある音が響きそうな釣鐘には、一人一回の立て看板。また、入り口には、朱に塗られた鳥居が建てられており、洋風に和風をぶち込んだ無理矢理感が半端ない。それでも西洋ファンタジーの中で日本を感じさせる和があるために、人は集まる。
「なんだ、これは」
「本日のコムネスティーでは、喫茶店ではなく、特別販売を行っております! お守り、破魔矢、限定お菓子の販売! また、正月の甘酒サービスを行っております!」
「本日限定ですので、無くなり次第終了となります!」
長い列に並び、お客さんを誘導するは、ラテムさんとカリアンさんだ。普段クロードの用意した店の制服姿だが、今日のラテムさんは、紫の袴を。カリアンさんは、緋色の袴の神職の服装だ。
「あっ!? ユンさん! 来てください!」
「はぁ!? ちょ、どうし……」
「クロードさん! 臨時ヘルプ見つけました! 交渉お願いします!」
俺が手を引かれ、店の奥へと拉致もとい連れて行かれ、ミュウたちも、面白そう。と後を着いてくる。いや、その前に止めて。
「クロードさん! ユンさん発見!」
「なに!? 良くやった! マギに続いて来たか! 僥倖だ!」
クロードも紫の袴姿で現れ、俺の後ろに居るミュウとセイ姉ぇへと視線を向け、一度顎に手を当てて考える。
「よし! 臨時で雇おう!」
「いやいやいや、なんか話が見えないんだけど!」
「ユン! この惨状の解決にために手伝ってくれ!」
「これって……」
と目を向けると、今も売られている限定商品の数々。
「おおっ!? これって【結晶柱】で作ったアクセサリー!? 素材だけは、随分前からあるのに加工出来なかった奴だ!」
「あら、珍しい。硬くて脆いからうちのギルドでも加工に難儀しているのに」
「ふふふっ、マギが売り出した試作クリスタル・ソードの余りで作ったアイテムだが、お守りとしては、話題性があるようだな」
透き通る透明な結晶が使われたネックレスは、結晶のお守りとして売られている。結晶は、透き通るような透明度の高さだ。そして、アクセサリーの分類は、アミュレット。魔法防御の上昇する種類のお守りアクセサリーだ。
「値段も10万Gかぁ、リーズナブルな価格。いや、むしろ安い! 欲しいなぁ」
「ふふふっ、新年の赤字覚悟の値段だからな。だが、人気商品だ。今から並んでもきっと売り切れてしまうだろうな」
そう言って、ちらっとこちらを見るクロード。それは……バイト代の代わりと言うことか?
「ちなみ、その素材は、どこで手に入るんだ?」
「火山地帯の奥の【無機の洞窟トンネル】のボス【水晶傀儡人形】のドロップだ。一つの素材を小さく砕いて、沢山のアクセサリーの素材にするも良し! 一本丸々加工して武器にしても良い。だが――必要レベルは【鍛鉄】か【彫金】のレベル40が最低だぞ」
「うげっ、どっちにしても俺は無理か」
場所的に、いけないことは無い。だが、俺の【彫金】センスは、現在25レベル。ミュウが欲しいと言ってプレゼントするにしてもレベル15以上上げないと。それに、硬くて脆いとなると加工のコツを掴むためにかなり失敗を繰り返す可能性もある。
どっちみち、ミュウに今回は諦めて次回プレゼントする。なんて言い訳は通用しない。何時になるかわからないのだから。
「さて、本題だ。ユンとオマケの二人には手伝いを頼もう。その報酬で、お守りを三つ。どうだ?」
「そうね。それと終わった後、甘酒と限定お菓子も用意してくれる?」
「なるほど、そちらも用意しよう」
「いや、セイ姉ぇ! 何を勝手に交渉してるの!」
「えぇー、私も結晶のお守りが欲しいから」
ミュウと一緒に、ねぇー、って首を傾げて、言い合っている。畜生、身内贔屓抜きでも可愛いだろ。
「全く……前にも手伝ったけど、それっぽくすれば良いのか?」
「ふむ。今日は、やけに素直だな」
「なんか、最近逃げられなくなっている気がするんだよな」
遠い目をする俺。何時もは俺に対しての報酬も提示されるが、今回はミュウとセイ姉ぇの報酬も提示されている。ここは二人のために大人しく身を犠牲にしよう。これも姉弟関係を円滑に保つ処世術だ。先に折れる、機嫌を取る、その後で要望を通すだ。
「それじゃあ、三人の装備は、こっちに変えてくれ。それとユンは、リゥイとザクロを呼んでくれ。その後は俺がやる」
「はぁ? まぁ、良いけど。リゥイ、ザクロ――【召喚】!」
ミュウとセイ姉ぇと一緒に出掛けるために、呼ばなかった俺のパートナーをこの店に呼び出す。
幼獣だったリゥイは、立派なユニコーンになったが、狭い店内で呼ぶのは難しいために、成獣になると共に手に入れたEXスキル【幼獣化】を使い、幼獣サイズで呼び出した。
「さて、ザクロには、これを着けてもらって、あちらに鎮座して貰おうか! そして、リゥイも居るだけで良い」
「これに何の意味があるんだよ。そもそも、人見知りの激しいうちの子たちを呼び出すんだよ」
「これもご神体のためだ」
ご神体? と首を傾げれば、クロードの手によって付けられた赤い菱形の前掛けだ。それを首に巻いたザクロは、紫色の座布団に乗せられて、店の奥へと運ばれる。その先には、黒い体に白い手足の子猫のクツシタと水色の狼の幼獣であるリクールも同じように鎮座している。
「猫神、狛犬、お稲荷さん。それに、絵馬と神社に縁のある動物が揃うとは中々だな。ふふふふふっ……」
店内で新しい可愛らしい幼獣が現れた事で一部の可愛いもの好きのテンションがみるみる上がっている。今回は、正月仕様のリクールが注連縄風リボン、クツシタが鈴と小判を持った招き猫スタイルだ。
リクールとクツシタは、既にこの雰囲気に慣れたのか、リラックスした状態だが、ザクロは、人の多い所でやや困惑気味だ。
「いきなり人の多い所に出すのは不味いって、多少改善されつつあるけど、初対面だと混乱するぞ」
「一応御さわり禁止で見るだけだが、まぁ、注意を油揚げに向けて貰うとしよう」
小さなお皿に乗せられた三角形の油揚げをお供えするクロード。ザクロは、すぐにそれに飛びつき、前足で押さえて食べ始める。前掛けが汚れようと気にせず食べ始める。
一枚の油揚げを食べて、手足を舐め取ってから二本の尻尾を抱き抱えるように座布団の上で丸くなる。それに合わせて、リクールとクツシタも伏せたり、お腹を見せたりしてゴロゴロしている。
「ふっ、これで来年の女性客へのアピールは完璧だ」
「あれでいいのか? まぁ、リゥイ。一応、ザクロたちを見守ってくれ。俺はちょっと手伝うから」
小さく頷き、三匹の前に陣取り、周囲を警戒するリゥイ。まぁ、成獣になれるリゥイが要れば安全かな。と思い、振り返る。一緒に居たミュウとセイ姉ぇが居ない。と思ったが、奥から戻って来た。装備を切り替えて。
「ユンちゃん、話は終わった?」
「ああ、セイ姉ぇ……巫女服なんだよな。やっぱり」
「ほらほら、ミュウちゃんも来た!」
ミュウもセイ姉ぇも緋色の袴をした巫女服だ。
「ユンお姉ちゃんも早く着替えてきてよ!」
「はいはい。分かってるよ」
店の奥へと出向き、誰も居ないことを確認して、クロードから渡された服へと切り替わる。そして、俺の体格にぴったりと合う和装。上半身は、純白で袴の色は……緋色。
「おい、クロード! なんで俺の色が緋色なんだよ! 男なら紫だろ!」
それに、男性と女性では、袴の高さが違う。女性の方が高く、男性の方が低い。これは、どう見ても女性用じゃないか。
「何を言ってるんだ。当たり前だろ」
「ユンお姉ちゃん、変な事言うね」
いや、ミュウも便乗するなよ。俺のリアルが男だって知ってるだろ。と言いたくなるが、クロードとミュウが顔を合わせて、首を僅かに傾ける、意味が分からない、的な感じがイラッとさせる。
「分かってたさ! 俺の扱いが!」
「それはいいとして、これで髪を纏めろ」
「それはいいって何だ! 処遇の改善を……って、革紐と和紙?」
クロードに抗議の声を上げるが、差し出されたものに首を傾げる。
「ああ、ちょっとユンちゃん、後ろ向いて」
そう言って、俺の肩を掴んで、くるっと半回転させるセイ姉ぇ。為されるがまま、髪の毛を革紐で結び、結んだ革紐を隠すように和紙を巻いていく。ポニーテイルのように頭の高い位置で止めるのではなく、首の後ろ当たりで広がらないように革紐で纏めてある。
「やっぱり、正統派巫女はこれだな。ファンタジー世界だとどうしても髪の毛や肌の色から、違和感があるが……うむ。これで満足だ」
ミュウとセイ姉ぇも非常に楽しそうな表情で俺を見てくるが、俺の内心はげっそりだ。
「クロードさん! 早く手伝ってください!」
「ああ、分かった! さぁ、バイト頼んだぞ! 目標は完売だ!」
全く、もう。後で改善要求を絶対に通してやる。という思いを抱き、コムネスティーの臨時バイトを受けることになる。
三姉妹が振袖姿だと思った? 残念、巫女さんだよ……はい、すみません。