Sense25
まだ、第三の町に辿り着いているプレイヤーは殆ど居ないようで、ちょっと閑散とした感じがあった。散歩ついでに俺は、町のNPCに話を聞いて、アイテム売り場を探していた。
「いらっしゃい。何見る?」
何ともやる気のなさ気な男だ。肌も白いし、この町の雰囲気と余り合わない男だったが、あんまりその辺は気にしないでおく。
アイテムリストを眺める。俺の目的は素材アイテムだ。つらつら、とリストを下げた下の方に目新しいアイテムがあった。
薬霊草――どう見ても薬草の上位互換。
そして、もうひとつ。
魔霊草――なんか、魔力関係の薬草があった。もしや、これで念願のMPポーションが作れるかもしれない。だが高い。
二つとも500G。の合計1000Gです。ここ数日の蓄え2830Gが消し飛びます。でも俺は沢山買うわけではない。ひとつ買えば、時間の許す限り増やせるのだから。
と言う事で購入。
ほくほく。でも最近ほくほくすると何かに躓いたりする事が多い気がする。まあ、良いけどさ。
あと、NPCに色々に何か無いか聞いて回っていたら、それだったら、と一か所勧められた。
それが町の中心部の酒場だ。
どうせ町中だし危険はないと思って行ってみたが、結構ごろつきっぽい恰好の人はいるし。筋肉隆々の人がいるし、場違い感が否めない。
「おうおう、嬢ちゃん。ここは子供の来るところじゃないぞ」
「俺を嬢ちゃんって呼ぶな。それから男だ」
話しかけてきた半袖に短髪の男を見上げるように睨み返す。これはイベント用のNPCだろうか。まあ、適当に話を合わせておく。
「うん? その指に付けてるのは何だ?」
「指輪だろ」
なんか、酔っ払い共が急に静かになって不気味だ。目の前の男の目元も険しくなる。
「その指輪はお前が作ったのか?」
「ああ、細工で作った」
「そんな細腕で金属を扱えると思うな!」
なんか怒鳴られた!?
「そんなの! 出来ているだろ! ほら!」
「そんな鉄くず同然の装備や装飾品で満足して程度が知れてるぞ」
カッチーン。なんかムカつくなこいつ。NPCだって分かっていてもムカつく。俺だってもっと凝ったアクセサリー作りたいっての。時間が無いだけだ。
「なんだ? その細腕でやるのか? なら殴って見ろ。俺を一歩でも動かせたら、お前の事認めてやる」
「男に二言はないな」
「もちろんだ」
俺は、腰を落として、力を溜める。そして奴の腹に渾身の一撃を叩きこむ。だがこの男びくともしない。割れた腹筋が鉄のように堅い。殴った俺の手が痛くなるほどに。まるでタクの鎧を殴ったようなそんな感覚だ。
「おい、嘘だろ」
「女の細腕なんてそんなもんだろ。出直せ」
「ちょっと待て!」
男を呼びとめようとしたが、店主らしいダンディーな髭おじさんに店から摘み出された。何なんだよ。
俺が店を出た途端、酒場の男たちの声が漏れ出て聞こえる。なんか、俺が雰囲気を悪くしたみたいで気分が悪い。
あー、もう、一度戻ってマギさんに愚痴聞いてもらおう。
速度上昇のセンスは、まだ低いし、ポータル使うより走って行こう。どうせ、採石場の敵遅いから。
そうと決まったら、速度上昇とエンチャントで一気に駆け抜ける。非アクティブになったゴーレムやサンドマンを尻目に、アイテムを採取しながら、最初の町へ戻ってきた。
採石場での採取で手持ちの鉄鉱石が物凄く豊富になった。
「マギさん、聞いてくれ」
「おお、ユンくん。今日はMOBの攻略だったんでしょ? 失敗した?」
マギさんの店舗に辿り着いた俺は、カウンター越しにマギさんと話をする。
近くの椅子を引っ張り出し、愚痴を零していく。
「ゴーレム討伐は成功して第三の町に行ったんだよ」
「あー、あそこね。仲間内でそろそろレベルの高い金属が欲しいからって。近いうちに私らも行く予定だよ」
「マギさん、生産職でしょ? 戦えるの?」
「ムリムリ。だから、六パーティー。総勢三十六名の大集団で突破する予定だよ。って言ってもその半数は、生産職。町に行くのが目的だから共闘ペナルティーなんて私らには関係ないんだよ。そもそもレベル上げの畑が違うからね」
「はぁー。戦闘と生産の違いか」
「要は物量差での押しきりだよ。で、話はゴーレム討伐じゃないんでしょ?」
そう言われて、やっと本題に入れた。
「さっき、第三の町を見回って酒場に入ったんですよ。そしたらNPCに喧嘩吹っかけられて、相手になりませんでした」
簡単に纏めすぎたが、マギさんは、何か分かったような雰囲気でいる。
「あー。あの中央近くの酒場でしょ。いやー懐かしいね」
「あれって何ですか?」
「金属扱う生産職が誰でも通る道だよ。ユンくん。細工のレベルいくつよ」
「えっと、13かな?」
「じゃあ、無理だ。最低でも25は無いとあのイベント進まないから」
「どういう事です?」
「うちら金属扱う鍛冶や細工って、実際金属しか扱わないわけじゃないんだよ」
「まあ、そうですね。って今使えるの金属と宝石だけですよ」
「そうそう。だからそこ。あれって、レベル25にして殴ったら。今度は腕力だけが鍛冶師の真髄じゃない! とか言われてお使いイベントやらされた挙句に、単身鉱山に放り込まれるからね」
それのイベントの意味って何? プレイヤーを怒らせたいわけ?
「まあ、それで得られる特殊技能。まあ、一般にEXスキルとか呼ばれるイベント取得スキルが得られるんだけどね」
「へぇー。これの場合、どんな?」
「金属以外のアイテム使って見栄えが変わる」
「それで性能は?」
「変わらないけど。結構、そうやって作ったアイテムってユニークアイテム扱いで一部の人に好まれたんだよ」
例えば、カチューシャに動物の毛皮を使って、イヌミミ、ネコミミとか、獣のしっぽとか作ったり。一部のマニアの間で取引されたとのこと。
「まあ、最初に始めたの私だけどね」
「マギさんですか」
「今は、お堅い金属武器や鎧を作ってるけど、注文があれば作るよ。ちなみに、β版ではそれで荒稼ぎしたしね」
「面白いことするな。でも、イメージキャラを作るために注文とかありそうだけど」
「あったあった。友達の木工師なんか、ネクロマンサーイメージにするために杖を悪趣味な骨や髑髏にしてくれ。ってのがあったり、布師の場合は、ローブを吸血鬼のマントみたいにしたいから、布の表面をコウモリの合成皮膜で覆ったり、結構自由度あるよ。結局、どっちも喜んで作っていたね。その二人は、布や木を扱うけど、第二の町には対になるイベントがあるし。今は団体組んで行ってるんじゃないかな?」
そうなんだ。それにしても面白い話を聞けた。うーん。キャラのイメージで装飾品か。自由度あるな。
「まあ、そんなところ。あと、ポーション余ってたら売ってくれる?」
「あっ、はい。分かりました。じゃあ、新しく作った奴で良いですか?」
「ほいほい、確認するよ」
虎の子のブルーポーションと余りのポーションだ。さすがにゴーレムに挑むのに五十個は作りすぎた。半分くらいしか使わなかったし。
「あー、ブルポ。しかも回復量が高い高い。これって劣化ハイポ並みだね」
「効果高いですか?」
「うんうん。ブルポが十個に、ポーションが二十三か。うーん、ブルポはNPCに売ると安いけど、この回復量の高さはハイポ並みだし、ハイポの五割だから……500Gで合計5805Gってところかな?」
「おおっ、ブルーゼリーなんて、安い素材が高くなった」
「どうやって作ったかは知らないけど、これはこっちにとっても嬉しいね。これからの納品よろしく」
愚痴も言えたし、結構ブルーポーションが美味しい稼ぎになった。
俺の中でブルーゼリーの評価が鰻登り。NPCのお店から買ったんだが塵も積もれば、一個7Gだけど百個買うと700Gと少し厳しい。
残り、6000G程度。ここは装備整えるよりはと、また畑を買って金欠になった。
畑も細工も明日から頑張ろう。
改稿・完了