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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第1部【初心者の町と弓使い】
24/359

Sense24

 ボスMOB――ゴーレム討伐の日である。

 タクたちとゴーレム討伐に向うのだが、流石に回復アイテムのストックが心許無いのでマギさんの所には、納品できないと伝えたら。


『良いよ良いよ。ユンくんも狩りに出るようになったんだね。暇なときで良いから持ってきてくれればいいよ。今は、ポーションも安定しているからね』


 との、ありがたい言葉。

 よし、気合い入れてポーション用意したが、五十個は用意しすぎた気がする。まあ、スキルで一度に作れるし、ちゃんと時間を用意して作った効果割増しのポーションもある。

 そして、久々の調合の研究。

 スライムから手に入れたブルーゼリーを鉄製の容器で煮込んでみた。

 青いドロドロとした物が水分と固形物に分離して沈殿。固形物の水分を飛ばすと青い粉末に変わった。名前も『青い粉末』ってそのままだし。

 それにまた水に加えると、ブルーゼリー。何なんだろうな、これ。

 そして、ブルーゼリーと薬草を混ぜてみる。出来上がったのは、ブルーポーション。効果が、普通のポーションと同じ程度。いや、普通に初心者ポーション二つで作る合成ポーションと同じくらいってどうよ?

 そう思わないかい? でも、違うんだよ。

 これは一度青い粉末にして、乾燥した薬草とごりごり混ぜて、コーヒーのように抽出すると、効果が増大した。

 上質な薬草でもさらに効果が上がる。

 今、一ランク上のポーションがどれだけかは知らないが、回復量が高い事は嬉しい。

 混ぜて、抽出。

 生産数は少ないが、実験的な意味合いで合成もしてみた。


 ――なぜ、こうなった。合成では、ブルーゼラチン。


 しかも、説明が食材アイテム。


「納得いくかぁぁぁっ!」


 素材から回復薬にして、最後に食材で落とすって、どんだけなコントだよ! 上げて落とすかよ!

 肩で息しながら、呼吸を整える。


「うん。もう大丈夫だ。これはインベントリに入れておこう」


 仕舞って再びブルーゼリーを取り出す。

 粉末にして、混ぜて抽出。混ぜる時、意外と腕力を使うので安定のエンチャント。最近、エンチャントが無いとこのゲームで生きていけない気がしている。


 午前中は、そんな感じでポーションの準備をして、午後は昨日と同じように西へと進む。避けられる戦闘は極力避け、ゴーレムに挑戦する。

 みんな、最初は軽口を叩いていたが、だんだんと口数も減ってくる。やっぱりボスMOBとの戦闘って緊張するようだ。

 そして、その時はやってきた。


「みんな、準備は良いな」


 タクの掛け声と共に、全員が頷く。その眼前には、ゴーレム。脆そうな岩の体に三メートルを超す巨体。遅い動きだが、その巨躯からはかなりの膂力が想像できる。


「じゃあ、手始めに【付加】――アタック!」


 前衛三人にエンチャント、更にそのあと、タクとケイには防御のエンチャント。ガンツには、速度エンチャントの二重エンチャント。

 これがサンドマン狩りの一番効率的な方法だった。タクとケイが壁、ガンツが関節技を決めて、動きが止まったところで、後衛の魔法が火を噴く。まあ、光と風属性の魔法だけど。


 今日もその手順だ。


「よし、こっち来い!」

「俺達が相手だ!」


 片手剣のタクと両手剣のケイが正面から大声を上げて、迎え撃つ。

 剣で、受け止め、弾き、ゴーレムのバランスを崩したところで、ガンツが腕を取り、そのまま合気道のように流して倒す。

 そして、十字固め。流れるような素晴らしい動作。おっと、ゴーレム選手が苦しそうだ、ってプロレスかよ!

 格闘家と豪語するだけあって、全身凶器だな。拳や蹴りの他にも、投げを今日初めて見たが、すさまじいな。あんな巨体を軽々と投げ飛ばせるのはゲームだけかもしれないが、少なくともリアルでなんらかの武道でもやっているのかもしれない。おっ、ゴーレムが完全にダウンした。


「魔法組! 今だ!」


 タクの掛け声で魔法が連続で放たれ、ゴーレムを襲う。ガンツが即座に退避し、後衛の位置、全体がよく見える場所まで戻ってくる。


「ユンちゃん、回復プリーズ」

「はいよ、ついでにエンチャントを掛け直しておくぞ」


 格闘家タイプのプレイヤーの戦闘スタイルは、近接格闘。近接格闘の特徴は、自分の体を武器にするので、攻撃すると微量のダメージを受けるようだ。拳保護にグラブ、ガントレットとか、足保護に、ブーツサンダルとか。色々と工夫しているようだが、それでも零にはならない。こうして俺は、ちまちまと回復役に回る。


「ガンツ、いっきまーす」


 ネタが豊富な奴だ。とその後ろ姿を見て思う。

 攻撃と速度上昇の赤と黄色の光の帯を残して走るガンツ。

 起き上ったゴーレムは、ちょろちょろと動くガンツを標的に据えるが、タクとケイに阻まれ、標的変更。そして体勢が崩されたら、魔法でドカン。

 魔法を受けるたびに、がくん、がくんとHPが減って見える。

 このままいけるんじゃないか? と思ったが相手はボス。そうは問屋が卸さないようだ。


「こっちMP切れ! 前衛耐えて!」


 後衛の魔法職は、ゴーレムの残りHPが四割程度の所でMPが切れた。俺の二重エンチャントよりも魔法の連続攻撃の方が早くMPが切れ。

 ここからは、俺達男が、魔法職のMP回復まで戦線を支えることが仕事だ。

 とは言っても俺もMPの残りが心許無い、最低限の維持に努める。

 前衛三人のエンチャントを防御エンチャントに切り替えて施す。

 先ほどの攻撃重視とは違い、前線維持が目的だ。

 これでクリティカルを貰っても前衛職なら僅かに残るとのことだ。

 それに、ポーションの大量投入で戦線を何とか維持しようとする。


「おらっ! またコケろ!」

「止せ、ガンツ。さっきとは違うぞ!」


 ケイの声が響く中、果敢にゴーレムの前に飛び出すガンツ。

 腕を取り、流し、関節を決める。ダウンを取ろうとして今度は、失敗した。

 エンチャントは最低限しか維持しておらず、速度のエンチャントが付加されている時なら、すぐさま離脱出来たが、いまは防御エンチャントだけ。回避速度が足りない。

 逃げ遅れたガンツの腹にゴーレムの拳がめり込む。

 突き上げ、振るわれる剛腕に放物線状に飛ぶガンツ。クリティカルは免れたようでHPにはまだ若干の余裕がある。だが――


「避けて!」


 全体を見渡せる魔法職の誰かからの声。立ち上がったゴーレムが、空中で受け身を取ろうとするガンツの足を掴み、縦に振り下ろす。 


 硬い地面に叩きつけられたガンツのHPは、レッドゾーンに突入した。


 タクとケイが慌てて間に入って対象を変える。


「早く後ろに行って回復してもらえ!」

「おい、動けって、気絶かよ! タイミング悪いな!」

 

 ガンツが動かない。HPがレッドゾーン。

 危険域なのに動かない、いや動けない。バッドステータス【気絶】が原因だ。

 気絶とは、一定時間内に、一度にHPを削られると、一割確率で動けなくなることで起こるバッドステータス。

 また現在、気絶のバッドステータス攻撃は発見されていない。居るだろうと噂されていたが、まさかこのタイミングで。

 戦線の二人は、ガンツのフォローまで出来そうにないし、魔法職の二人は、そもそも前に出るべきじゃない。今動けるのは、俺だ。

 回復役の俺は、インベントリから今最大の回復量を持つ、ブルーポーションを取り出して、駆け出す。

 速度エンチャントで加速して、一足飛びで近づく。

 ポーションをガンツに叩きつけ、頬をひっぱたく。


「痛いんですけど」

「さっさと起きろ! ほら、もう一本」


 ブルーポーションをもう一本を割って、振り掛ける。二本も使えば、全回復だ。


「なんだ、この回復量は、って痛たっ、後から痛みが来る」

「良いから後ろ。二人の邪魔になってるぞ」


 首根っこ掴むように引っ張る。


「MPがほぼ回復した! また打てるよ!」

「じゃあ、もうダウンとかのタイミングは良いから打ってくれ!」

「了解!」


 俺達が離脱すると同時に、光と風が通り過ぎる。

 ゴリゴリと、岩を削る音と爆音が響く。強い光で目が開いていられない。

 二人が、魔法のインターバルで停止する中、濛々と立ち込める砂煙の中を割いてゴーレムが現れた。


「まだかっ! 糞っ!」

「いや、もう終わりだ」


 俺が悪態を吐く中で、タクがそう呟く。

 ゴーレムが重厚な咆哮を上げて、崩れ始めたのだ。

 ごろごろと上から順に崩れ落ちるゴーレムは、第三の町の門番の様な雰囲気があり、守り切れなかった哀愁の様な物を感じさせる。

 全てが崩れ落ち、動く物の居なくなったところで、俺はやっと息を吐き出すことができた。


「はぁ~。やっと終わった。マジでひやひやしたぜ」

「助かったわ。ユンちゃん、ありがとな」


 もう、ぴんぴんだ、と軽くジャンプして見せるガンツ。


「全く、すぐに魔法職が攻撃出来るなら助けなければよかったか?」

「そんな殺生な。たとえボス倒しても、俺だけ死に戻りだと、俺は討伐した事にはならないんだよ。ぼっちは寂しいよ」

「それに、ユンちゃんがガンツ引っ張ってくれなきゃ、私がそのまま魔法で巻き込むつもりだったし」

「酷っ!」


 あー。うん、大のために小を捨てる、か。ミニッツ心得ているな。でもそうか、今は蘇生アイテムとか無いし、倒れたら死に戻りだもんな。


「冗談冗談。ガンツは頑張ったよ」

「みんな、お疲れ。これで第三の町にいけるよ、ユンもお疲れ」

「おう、お疲れ。じゃ、行くか?」

「その前に恒例のインベントリチェック。誰かがボスのレアドロップ持ってるかもしれないんだし」


 ああ、そういうことね。まあ、レアドロップは兎も角、確か、上質な鉄鉱石を落としてくれたはずだよな。持ってる鉄鉱石を錬金すれば、それなりに上質な鉄鉱石の数を揃えられるから、レベル上げのためにインゴット作るかな?


 そういう思いでインベントリを開いても、上質な鉄鉱石はありません。石がありました。特別そうな石です。


「なんか、地精霊の石って出た」


 俺が何気なくポツリと呟いた。


「「「レアドロップ、キタァァァァ!!」」」


 一部の大音響で俺は、びくっと体を震わせる。いきなり大声出して怖いって。


「悪い悪い。ボスのドロップってノーマルとレアの二種類だけど、いきなり出すなんて、ユンは運良いかもな」

「地精霊の石は、武器や防具に混ぜると、レアな追加効果が発生するアイテムだから稀少だぞ。ガンツの鎧もブレードリザードの剣鱗石けんりんせきで強化したから。打撃攻撃を受けると反射ダメージが発生するって追加効果だ」


 ふーん。これってどうなんだ?



 地精霊の石【素材】


 大地の精の力を持った石。



 説明ってこれだけ? 何の追加効果があるか分からないし、まあ、良いか。


「うーん。あんまり有難味が分からんな。今度誰かに聞いてみるか」

「辞めとけ、PKの対象にされるぞ。【OSO】のゲームの鉄則、センスの構成はなるべく披露しない、レアアイテムの所持を匂わせないだ。前者はPvPの対策が取られて、PKのカモにされる。後者は横取りされないためだ」


 ほぉー。そういう事があるのか。でもミュウやマギさんは信用してるし、その辺に聞けば良いかな? でも防具は初期だし、お金ないから。たぶんそういう使い道はないな。


「まあ、今はインベントリの肥やしだ」

「勿体ない」

「まあ、マイペースがユンちゃんらしい。大分回復したし、町に行こう」


 みんなで揃って町に行く。辿り着いたのは、鉱山の町。

 建物は、木造二階でちょっと緑の少ない感じ。NPCは、肌が浅黒く、ちょっと汚れたつなぎや首にタオル。いかにも炭鉱夫って感じの人たち。


「来たんだな。別の町に」


 俺が感動でちょっと震えている間、みんなは。


「お疲れー。それじゃあ、また今度」

「今回は、ユンちゃんが手伝ってくれて助かったよ」

「またな。次は弓のレベルを上げられる敵でも探して狩りに行こう」

「じゃあ、さようなら」

「じゃあ、ユン。また今度な」


 どんどんとなんか青白い球に触れて、消えていく。

 ぽつんと一人俺。

 みんな意外と淡泊。てか、最後に残すなよ。

改稿・完了

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