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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第5部【冬のクエストと問題を抱えた町】
232/359

Sense232

「うーん。なんか、雰囲気が変わった気がする」


 何が、とは言わないが町の雰囲気が少し明るい気がする。最初に町へと降り立ったイベント初日とほぼ丸一日、町の外や薬屋の工房に籠っていたためにそこまではっきりとした違いは無くても微妙に良い方向に変化している。

 イベントの主旨が、問題を抱えたこの町でクエストという悩みを解決してより良い方向に持っていく。イベントの半分が過ぎた現在もプレイヤーの手で町のどこかが良くなっているのかもしれない。


 そう思いながら、金稼ぎのクエストを探してクエストボードの前まで来た俺は、新たに追加された紙に目を凝らす。

 文字は、【言語学】のセンスが無くても読める日本語で書かれていた。つまり、センスの有無関係なく全てのプレイヤーに伝える情報だ。

 そして、目の前の紙に書かれた内容の一部が俺の目の前で変化した。



『現在のクエスト消化率――56%

 五日目より特殊MOBの解放。特殊MOBの能力は、クエスト消化率によって左右されます。

 特殊MOBの討伐によってイベント終了時にクエストチップとは異なり更なる報酬が参加プレイヤーに与えられます。

 詳細は、後日この紙の下部に追加される予定です。

                                    OSO開発部より』



 という簡素な内容の紙。クエストの消化率の数字が一瞬崩れて、一つ数字が増える。



「進んでるのか、進んでないのか分からないな。それにしても……二極化してるな」


 クエストボードの未攻略クエストの用紙を見ると、極端に報酬が高い高難易度クエストか、極端に報酬が安い低難易度クエストが目立っている。残っているクエストは、全体の二割。

 クエスト消化率と比べるとクエストボードの内容が全てではないにしろ、美味しくないクエストは避ける傾向にあるようだ。

 それに、孤児院の寄付金や薬屋での納品依頼など、ある条件下で連鎖チェーンして発生するクエストなんかもあれば、全体のクエスト数はどれ程になるのか。


「よくもまぁ、これだけの数のクエストを用意した物だ」


 そう呟き、俺はその中の一枚を手に取る。まだ誰も手を付けていない低報酬のクエストだ。チップは一枚、賃金は1万Gと安い。


「クエスト【商品整理】。内容は、とある商会の納品されたものを倉庫に種類ごとに運ぶ、か」


 場所は近そうだし、種類ごとに整理する単純作業を選ぶ。


「すみません。【商品整理】のクエスト受けに来ました」


 広めのホールへと入り込むと一人の太めの中年のNPCが近づいてきた。両手を揉んで、腰の低そうな感じで話しかけてくる。


「ようこそ。緊急で募集したお手伝いの人ですな。裏手の方に案内しますので、店指定のエプロンを着て、ついて来てください。それと動物などは商売上良くないので……」


 そう言って、藍色の前掛けを渡されると同時に、リゥイとザクロが消え失せた。一時的な強制送還を確認し、裏手へと案内について行く。すれ違う店員NPCは服装はバラバラだが同じ前掛けをしている。

 商人NPCに案内されたのは、荷台に乗せられた大量の木箱とそこからはみ出る様に見える武器や防具の数々。


「武器と防具の殆どは、倉庫前の店員に渡して貰えれば、良いよ。手前のその箱は、表の商品の棚に並べて貰えるかな? あとは、細々とした雑貨品も棚に補充してくれると助かるよ」

「……この量を一人で」

「いや、一時間の内に出来るだけで良いんですよ。まぁ出来が良ければその分報酬は弾みますよ」


 にこやかに言われた内容で少しだけやる気を出して商品を運ぶ。とは言っても武器や防具などの重量のあるものを軽々と持ち上げるほど俺のステータスは高くなく、攻撃力のエンチャント込みでも剣の束の詰まった箱が限界だった。

 それを三十分掛けて十分。残りの時間は、疲れて小物の入った箱を手に取り、店内の方で棚に並べる作業に切り替えた。

 スカスカだった商品棚が俺の手によって少しずつ埋まっていく。ちょっとした充実感に頬が緩む。


「すみません」

「いらっしゃいませ。すぐ退きま……す?」


 棚にポーションを並べている時、後ろからの声に振り返りながら反応する。自分も相手も双方硬直し、驚きに目を見開く。


「……やっぱり、ユンくんだ。なにやってるの?」

「マ、マギさん。それにクロード……」


 はははっ、と乾いた笑いが零れる。


「ユンくん、何処に居ても噂が聞こえると思ったけど、全然ユンくんの話を聞かないから少し心配してたんだよ」

「それは、すみません」

「街中をフラフラ歩いているとか新たな保母さんネタを生み出したり、面倒に巻き込まれた。って断片的な話だけでイベントに余り関係なさそうな話題しか聞かないからな。逆にやきもきしていた所だ」

「なんだよ。その話」

「知り合いが集まって色々話を聞くんだが、ふらっと会って、またふらっと消えるとかユンの足取りが殆ど謎って噂されてるぞ。ミカヅチ経由の話だと町の外を色々巡った後、また丸一日ほど足取りが掴めてないからな」


 ああ、それは薬屋に籠ってたからだ。と言うよりソロで動く俺の情報ってそんなに簡単に得られるものなのか。


「まぁ、そんな事良いだろ。それより何でこんな所に来たんだ?」

「丁度、俺たちは、自分の生産分野の納品クエストを終えて消費アイテムの補充にな。時間は有限だからMPポーションを補充するために来たんだ。ちょうど、誰かが消耗品の納品クエストを終えたようでな」

「ん? なんでポーションの補充に納品クエストの話が出るんだ?」

「ユンくん、知らないの? 各生産分野の工房で納品クエストをクリアすると今まで高騰していたNPC店舗の商品が通常価格まで戻るんだよ。私も、数打ちの納品クエストをやったら、その分の町の鍛冶師NPCの手が空いたからNPCの各種サービスが解放されたり、値下がりしたんだよ」

「俺も同じだ。一般的な服を多く作れば、その分の町の生産力がプレイヤーのサポートに向いた。同じ様に誰かが【調合】の納品クエストを受けたんだろう。特殊MOB出現の告知と同じタイミングだから有難い」


 そうなのか。そんな変化があったとは……。そんな俺向けのクエストがあるなんて知らなかった。残り日数が少ないから早い内に受けて見たいものだ。だが、どこかで聞いた様な……。

 そう首を傾げながら、残った小物を棚に納めると店のカウンターに居る一人のNPC店員が声を掛けて来た。


「そこの臨時店員。そろそろ時間だ。エプロンを返却して依頼は終えてくれ」

「はーい、分かりました」


 声の掛かった店員NPCに返事をしつつ、俺はマギさん達を伺うと待っているといった。


「私たちは、少しアイテムを補充するから気にしなくていいよ」

「それよりこの後時間あるか? 色々と情報交換でもしないか?」

「分かった。ちょっと待ってくれ」


 俺は、残りの片づけをしてNPC店員に藍色の前掛けを返す。そして、報酬を受け取るが、上乗せなどは無くクエスト通りの報酬に少し肩を落としつつ、マギさんたちの所に戻る。


「お待たせしました」

「いいよ。全然待ってないから」

「丁度、【料理】センス持ちが納品系クエストを終えて店のメニューが増えた様だ。皆が集まる場所で軽く摘まみながら話でもするか」


 クロードの提案を受けて、一つの店に入る。多くのプレイヤーが行き来する広い食堂に感嘆の声を漏らすが、クロードは、店員NPCに何かを話しかけ、奥の方へと進んでいく。


「マギさん、クロードのあれは何ですか?」

「ああ、ギルドやレイドパーティーとかが使い易い様に大部屋の所を聞き出してたところじゃない。ユンくんの知り合いも多い所だし」

「そうなんですか……けど、どう考えても店の規模に合わないスペースなんですけど……」


 先行するクロードが居る場所は、どう考えても四畳半もない個室スペース。これでは六人パーティーでは結構手狭だ。そして、開かれた先に広がるのは、外観からは予想も出来ない広いスペース。

 その中には、セイ姉ぇやミカヅチ、ミュウにタクと言った面々が盛大に祝いの料理を食べていた。


「町に点在する食堂に扉は、すべてここに繋がっている。何処からでも入れるが出る場合は、入った場所になる。また、同じ扉でも内部に無数の同じ部屋があるから同時に幾つの集団が宴会をやっても問題ない。ゲームならではの空間の捻じ曲げだな。これも料理系の生産クエストで解放されたサービスの一つだ」

「ささっ、そんな事よりまずはメニューを注文してから待ち時間に情報交換しよう」


 マギさんに押されるように案内され、新規で追加されたメニューは、クリスマスカラーの強い物が多数だ。そう言えば、クリスマス直前のイベントだったと思い出し、ケーキ一つと紅茶を注文し、待ち時間にマギさんたちと話したり、俺の所に近づいては離れる知人たちに代わる代わる挨拶をした。


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