Sense23
「だーかーら。違うって言っただろ」
「ごめんなさい。早とちりです」
「良かったわ。こんな可愛い子に男がついていたら。発狂して、首をこう、ポキッと絞めてしまいそうだったよ」
一番騒いでいたガンツとミニッツを西門。往来の真中で正座させ、俺は、目の前で腕を組み仁王立ち。
指に嵌めた指輪は、もう勘違いされない様に、右手に装備しなおす。
「全く。前にも俺は言ったよな。俺は生産職って。これは俺が作った指輪だよ」
「誠に申し訳ありません」
「あらあら、残念」
なんか、ミニッツは平伏しているし、マミさんは頬に手を当てて楽しそうに言ってるし。
「おいおい、時間どんどん経っちまうぞ。先ずは、ポーションの再分配。次に、ポジション確認だ」
俺がさっき作ったポーションをタクがみんなに分配する。前衛に多め。というか、今回のサンドマンとの戦いは、ビッグボアほど苛烈ではないが、油断の出来ない物らしい。
サンドマンの特徴は、速度が遅く、攻撃力もビッグボアほど秀でてない。その反面と言うのが物理防御の高さ。確実に持久戦に持ち込まれる。俺の弓だと絶対に攻撃が弾かれてしまうため、今回俺は引き付け役にはならないようだ。
「と言う事で、作戦は簡単。男が抑えて、女が魔法で射撃。ユンは、俺達に攻撃のエンチャントを掛けてくれ」
「防御じゃなくて良いのか?」
「HPの残量五割前後が安全圏だ。ビッグボアみたいに、戦線崩さなければ、後衛まで攻撃されないから今回は、攻撃力強化の短期決戦だ」
そういうタク。うーん。タクがそういうのならそうだろう。だがやっぱり魔法攻撃力を強化が出来ないと殲滅力に欠けるな。とタクは言う。
「まあ、行ってみるしかないか?」
「そうそう、気楽にだよ」
「ミニッツ余り気を抜くな。それに回復役に今まで徹していて魔法が育ってないだろ」
「それでも光レベルは、14あるから問題ないよ」
とのケイとミニッツの会話。その間俺は何をやっていたかって? もちろん、速度エンチャントを掛けて走りまわっていました。森の中のアイテムがいっぱいだ。宝石の原石や鉄鉱石が沢山。それに薬草や木の枝。畑に必要だから森の土も採取。そして、石っころ。もう矢も鉄にグレードアップしてあるためにいらないが、一応拾っておく、何に使うか分からないから。
そうして今まで行った場所よりも奥。西の林を抜けた採石場のような開けた何もない場所に出た。
そこには、なんか、座るのにちょうど良さそうな石が沢山あった。
これもMOBだ。ストーンアルマジロとロッククラブという敵。防御が高く、動きが遅い。戦士職にはあまり好かれないが、魔法職には、美味しい獲物らしい。
ミニッツとマミさんがバンバンと魔法を打ちながら進む。前衛の男どもは、ちゃんと壁役をやってくれているようだ。俺は、攻撃エンチャントを施していく。
俺のエンチャント範囲は、成長の結果約25メートルくらいまで届く。その範囲で落ちてるアイテムを拾ったり、何気に美味しい時間だった。発見と相まって鉄鉱石がいっぱい。一か所に五個ぐらい固まっている。
さくさく進行し中間点の休憩所。それまでも何組かパーティーを見つけたが、ここまで来て、引き返して行った。
「じゃあ、ここでインベントリの整理ついでに休憩。そのあと、奥のサンドマン狩って終わりにしよう」
との声かけ。確かに、最近、新しい調合の組み合わせ探しをしてないからインベントリの中身を整理してなかったと思い出し、中を見る。
知らないアイテムがあった。
小鬼の肉、ブルーゼリー、毒蟲の甲殻、酸液、石鱗、石蟹の肉……
順番に考えると、ゴブリン、スライム、ムカデに大ムカデ。そして今日倒したストーンアルマジロとロッククラブのドロップだろう。
そして鉄鉱石が百五十を超えていた。早くインゴット化したいな。
やっぱり肉系って用途不明だ。料理にでも使うのか? 石蟹ならまだしも、小鬼とか。その内、ゾンビ肉とか出るぞ。これ。
「なあ、タク。肉系のアイテムってどうやって使うんだ?」
「はぁ? お前調合持ってるのに知らないのか?」
「あ、ああ」
「使い道は、料理と調合。ただ、素材自体がまずい肉とかあるから。そういう場合、調合なんだけど……」
「何だ?」
「まずい肉は、調合だとマイナス効果しか生まないんだ。で、美味い肉ってプラス効果。そして美味い肉は稀少なドロップだし、そもそもそれが出来るのは、調合の上位センス調薬なんだよ。現状、それほど重視されてないから」
つまり、簡単に手に入る犬の肉、小鬼の肉、石蟹の肉がまずいのか。石蟹の肉ってうまそうなんだが。蟹しゃぶとかしたくなる感じなのに。見た目からして詐欺なんだな。
そして猪の肉。ビッグボアって美味いんだ。食べてみたいな。
「で、料理はクズセンスだし、レベル低いと殆ど味しないから肉の利用価値は売る一択だ」
「勿体ないな。なら、俺が料理でも試して……」
「「やめろ!」」
俺達の会話にガンツとケイも参加する。
「あれは料理じゃない。殺人兵器だ」
「ああ、ゲームで味覚崩壊を起こす所だったんだぞ」
何やら思う話があるようだ。思い出したように、ガンツが膝を抱えて震わし、ケイが遠くを見ている。
「えっと、あのβ版の伝説で白銀の女性キャラが料理を町にいるプレイヤーに披露したところ、すさまじい味と毒、麻痺、呪いのバッドステータスで一躍料理センスが不遇になったって話だ。
そのあと、料理センスを持っている人に対して『お前は毒殺する気か!』と出会い頭に言うのが流行って、誰も取らなくなったって話だ」
それは、不遇センスじゃなくて、いやがらせが原因だろ。
「その伝説も、【白い恋人の手料理伝説】だ!」
「いや、なんか、おかしいから」
「まあ、他にも、青い道案内伝説とかもあるけどな」
「訳分からんぞ」
なんか【OSO】の認識を考え直さなければいけない気がしてきた。
「まあ、大分休憩できたし、進むか。手はず通りに狩るぞ」
休憩所を抜けた場所は、さらに広い採石場。左右の岩場が切り立っていて、遠くには、プリン状の体に目鼻のくぼみと砂で絶えず流動する手。
数は多くないが、避けて通るには、一気に駆け抜けるしかないらしい。そして奥にはボス。下手に駆け抜けると、ボスで足止めされ、後ろから大量のサンドマンが追ってくるらしい。
近づいて、ミニッツとマミさんが魔法を打ち出す。前衛三人が囲み、剣や拳で攻撃を加える。俺は、三人に攻撃エンチャントを掛ける。
見ている限り、サンドマンに物理攻撃、特に斬撃や打撃は、余り効果が無い様だ。だがサンドマンの砂の指をガンツが逆方向に捻じ曲げた時は、明らかに苦悶の表情を浮かべていた。って、砂なのに、指の関節を逆に曲げるって……
物理攻撃のエンチャントでも大したダメージは見られず、後衛頼みの戦い方。
ミニッツが攻撃魔法で畳みかけるが、途中MP切れで攻撃が止まったりと、実際、課題が多かった。
「やっぱりMP切れがネックだな。ビッグボアやブレードリザードは短期決戦向けに対して、こっちは長期向け。魔法職が攻撃しないと、魔力が最低でも25レベルは欲しいな。長期戦覚悟でミニッツのポジションをヒーラーに戻すか?」
「それが良さそうだな。まあ、地道にレベル上げ。ゴーレムが無理そうならまた挑戦すれば良い」
「なあ、タク? お前、ダメそうなら追加で人呼ぶって話だろ? それは呼ばないのか?」
あー、あの話。と一人間延びした声。周りのみんなの視線が鋭い。何故?
「パーティー人数は六人が限界で、それ以上のメンバーで一体のMOBを狩るとペナルティーを受けるんだよ」
曰く、死亡時のデス・ペナルティーとは違い、戦うので共闘ペナルティーと呼び分けているらしい。そしてペナルティーは、参加人数が多いほど、センスのレベル上昇率低下、アイテムドロップ率低下、ステータス低下、敵MOBのステータス上昇、ランダムバッドステータス……という順番で発生。無茶苦茶厳しい。
MOBをリンクさせて、他人に当てるMPKとかは、PKした本人はペナルティーを受けるが、巻き込まれた方は受けないなどという微妙な匙加減。最近のAIは凄いな。
「だから、呼べるの一人までだけど。みんな嫌だよな」
「そうだろ普通。俺達だってやればサンドマンは倒せるんだから。信頼されてないみたいだろ。てか、そういう大事なことはちゃんと言えよ! 家まで行った時!」
「だって、お前、普段ソロだからその辺知らなそうだから、そう言っておけば引き受けてくれると思ったんだよ!」
「だからって、言うべきことは言えよ! 全く、それで、謝罪の言葉は?」
「ごめんなさい」
「次、俺を引っ張りだすために騙すような事したら、ただじゃ済まさないからな」
こういうところはしっかりしろよ。と思う。そして背中に受ける視線。
家まで……とか、幼馴染、ツンデレキタァァーとか。なんか聞こえるが敢えて突っ込まない。
「さあ、サンドマン狩りつくすぞ! 俺は攻撃出来ないんだから、ガンガンエンチャントするからな!」
慌てた俺の姿に、さらに一度盛りあがったようだが、そこはプレイヤーたち。戦闘に入ると、かちりとスイッチが入ったように集中する。
俺は、エンチャントを工夫したりして戦闘に貢献してみた。
大体、みんなのレベルも上がったことと効率的なサンドマン狩りのエンチャントを見つけたために、MP切れする前に倒せるまでに成長した。
明日はいよいよ、ゴーレム戦。初めてのボスMOBと第三の町へと向かうんだ。(俺の場合、二番目の町だけど)
改稿・完了