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Only Sense Online  作者: アロハ座長
第5部【冬のクエストと問題を抱えた町】
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Sense229

 変わりゆく変化の中に置き去りにされた俺は、完全にどうするべきか分からなくなっていた。

 戦うべきか、逃げるべきか。

 ここまで混戦を極めたプレイヤー同士の戦いでどちらに味方するかも判断が出来ない。だからと言って見極める為に、この場に留まる気もなく、一直線に近くの坑道へと入り込む。


「待て!」

「おいおい、俺の前で余所見とは良い度胸だな」

「くそっ! 逃げられた。こうなりゃ、構うか!」


 最後に坑道へと跳びこむ瞬間、俺を誘導したプレイヤーが何らかのアイテムを使用した。

 黄色い光へと変化した光が広い空間の光届かぬ上へと上昇し――


「ははっ! 自滅覚悟でクエストボスを召喚しやがったか! いいなぁ! プレイヤーとクエストボス。二つも美味しい餌が跳びこんでくるんだからな! 野郎ども! 目の前の奴らを喰らって、見下ろす目障りな蜥蜴もどきを引き摺り下ろすぞ!」


 クエストボスと聞いて、見上げた先には、蝙蝠のような鉤爪と爬虫類的な胴体を持つ生物がその爪で壁に張り付き、こちらを見下ろしていた。


「――ワイバーン。こりゃ、逃げなきゃな」


 その生物を表すのに最も妥当な言葉を呟き、坑道の通路に逃げ込む。そして、何となく、ここに誘導したかが今分かった。

 同意できないなら同意する状況。一人、俺をこの空間に誘導してクエストボスを呼び出す。

 負ければ、俺だけが一方的に損。こちらが手伝う事を同意したなら、助ける。そんな所だ。

 ただ、このワイバーンが本命か、それともただ同意させる状況に適したクエストボスがこれだけで別に目的のクエストがあるのか。


「そんなのはどうでも良い。早く逃げ――のわぁぁっ!」


 入り込んだ坑道を一直線に進み、途中ですれ違う敵MOBを引き連れるが、更にその背後からワイバーンの炎のブレスが坑道を埋め尽くすように迫って来る。


「ヤバい、ヤバい! リゥイ! 脇道!」


 目の前の脇道へと跳びこむ様に入り、俺たちが入り込んだ瞬間、リゥイが簡易的な壁としての水盾を作り出す。

 瞬時に作られた水盾に阻まれるMOBは、通路の背後から迫るブレスに一瞬で飲み込まれ、すぐにその輪郭を消す。

 運良く水盾を潜り抜けて、通路へと入り込んだMOBは、ザクロの黒炎を受けて通路を埋め尽くす炎の中に戻される。

 俺が隠れている水盾は、炎の火力で長時間維持が出来ずに、消えそうになる。


「――【クレイシールド】!」


 慌てて、【クレイシールド】のマジックジェムで土壁を生み出し、通路を一時的に封鎖する。僅かに空く隙間から炎が小さく噴き出し、壁が軋むのを見て、冷や汗を掻く。

更に奥へと作り出した土壁に背を向けた瞬間、壁が突き破られ、衝撃が俺の背中を押す。

 見事に衝撃に乗って着地したリゥイとリゥイにしがみ付くザクロは無事だが、俺は、無様に倒れる。

 数秒か数十秒か空洞に炎が駆け抜ける轟音が響き、静寂が訪れる。


「……終わった」


 改めて跳びこんだ空洞は、行き止まりだった。敵MOBも居ない安全地帯で、その奥に【看破】のセンスが反応する。いや、俺の倒れ込んだ場所に強い反応を示す。

 いや、倒れ込み、手を突き出した場所を飲み込もうと地面からしみ出す赤色のネバネバした物体に肌に鳥肌が立つ。


「――ひっ!? 気持ち悪っ!」


 俯せからひっくり返る様に後退りする俺は、しみ出した赤いネバネバしたものを凝視する。染み出るネバネバに気持ち悪さを感じつつ、読み取れるメニューの情報から探していた【紅粘菌】だと分かる。

 触りたくないが、手に入れる為にもう一度触らないといけない。薄い粘液のような赤い物体は、地面に染み込む様に引っ込むのを見て、意を決して人差し指で触れ、インベントリに納める。

 イベントリに入れると何故か瓶詰状態で【紅粘菌】を入手していた。久しぶりに、瓶詰の瓶と分離の手間はどうした、ファンタジー。とツッコミを入れたくなる。



 だが、非常事態だったのに、なんでこのタイミングに見つかるんだよ。と溜息を吐きながら、無事だったリゥイとザクロの側までのろのろと戻りその場に座り込む。


「どうすんだよ。この状況」


 こんな分からない場所まで来るなんて想定外だ。

 坑道ダンジョンのマップも知らない。そもそも今の居場所も分からない。目的のアイテムを手に入れたが、色々と疲れてしまった。


「でも、諦める訳にはいかないよな。負けてたまるか」


 一度、自分の頬を強めに叩き、塞いでいるクレイシールドの消滅を確認して、リゥイとザクロと共に炎の駆け抜けた後の通路を覗きこむ。

 また、敵の居ない通路。俺たちは、出口を探して、広場と反対側の方向へと進む。僅かに、遠方で剣戟の音が反響して聞こえるのを避ける様に進む。

 勘で進むのではなく、確実に出口に辿り着くために左の壁沿いに進んでいく。


「……敵だ。やられる前にやる」


 弓を構えて、矢を番える。ぎりぎりと弦を引き、狙いを定める。

 見つかって敵が集まったり、反撃や無駄に時間は掛けたくない。一撃で倒す。


「【付加】――アタック。【食材の心得】」


 エンチャントの自己強化。そして弱点発見の【食材の心得】で頭部に狙いを定める。


「――【遠距離射撃】」


 射撃距離を延ばす【遠距離射撃】のアーツ。そして、構成センスは、弓系センスの三重装備。

 特化状態から放たれる矢は、坑道内部を一瞬で駆け抜け、敵の頭部に深く突き刺さり、勢いのまま敵の頭部が吹き飛び、体が宙を浮き上がり、地面に落ちる前に肉体が消滅する。


「進まないと」


 敵の撃破に喜んではいられない。一歩でも前に進み、見つけた敵を一撃で葬っていく。

 時に、更に強い敵が出現する場所の境界に辿り着き、引き返す。

 行き止まりで引き返した時、近くに敵が居たことがある。

 一度に複数の敵を発見し、スキルやアーツの待機時間ディレイタイムが回復しないと感じ、脇道で通り過ぎるのをやり過ごし、MPを自然回復に任せた時もあった。

 時間だけが過ぎ、ただ機械的に進んでいく。

 そして――


「……出口だ」


 坑道の入り口で四角に切り取られた外の光を見つけ、リゥイたちと共に駆け出す。

 そして、辿り着いた出口は、最初に入った入り口よりも一段上の入り口だった。

 少し小高い場所にあるそこから見下ろす景色と今までの閉鎖的な坑道内部からの解放感に、ただ呆然としてしまった。


「俺、やっと出れたんだ」


 小さく呟く。今まで隣にいたリゥイが首を俺の手の下に持ってくるので、無意識に撫でる。そして、その腕を駆けあがる様に登って来るザクロが俺の頬を舐めてくる。


「な。なんだよ。ザクロ。やめろよ、やめろって」


 俺の頬を舐め上げるザクロを止める為に抱き上げると、大人しく俺の右手に抱かれる。なに? とコテンと首を傾げる姿に、可愛いな。と思った瞬間、視界が一気に下がる。


「アレ? 俺なんで座ってんだ? なに、脱力してんだよ。俺」


 左手で自分の顔に触れて、再度大きなため息を吐くが、どうしても足に力が入らない。

 安心したのか、緊張が抜けて、すぐに動き出せない。所謂、腰が抜けた状態だ。


「おう、ちゃんと抜け出したみてぇだな」


 真上から声を掛けられて、反射的に首で振り返る。その先には、坑道入口の上からこちらを見下ろすフレインが立っていた。

 あまりに唐突な登場。普段なら逃げる相手なのに、こんな状態で出会う自分の不幸を呪いたくなる。


「一人で逃げ出すから死に戻りかもしれねぇ、と思ったけど随分としぶといな」

「……フレイン」

「まぁ、美味しい獲物をたんまり狩れたし、俺は満足だけどな」

「それより、なんであの場所に居たんだ。絶対に偶然じゃないだろ」


 睨みつける俺とリゥイに楽しそうに喉を鳴らして笑うフレイン。やっぱり、確信犯だったか。


「やっぱり、何処でもアイテムは不足するもんだよな。特に、実力に見合わない背伸びをする奴は、すぐに消費アイテムが足りなくなる」

「……何の話だ?」


 訝しげな表情を作るフレインは、楽しそうにネタバレを始める。


「お前らを誘導した奴らのことだよ。って言っても完全にあいつらは、坑道に入り込んだ奴を誘い込むだけの待ち伏せだが、な。本来なら細々としたアイテムを要求するような小物だけど、欲が出たのかもな。お前を取り込みに来た。って所だ」

「はぁ? じゃあ、今朝から感じた気配って……」

「お前に坑道内ですぐに見つかる程度のヘボと俺たちPKを一緒にすんな。PKのスニーキングを舐めすぎだ」

「お前ら……それはちょっと問題行動だろ。一応助けて貰った身だけど……」

「俺たちは、正義の味方でも自治組織でもねぇ! ただプレイヤーとリスクのある駆け引きがしたいPKだ。ただ円滑にPK稼業を続ける為に獲物を選んでるだけ、その過程で必要なら幾らでもグレーゾーンな事をする。邪魔な奴は、逃げられない事情やタイミングに丁寧にお願いして襲うだけだ」

「清々しいまでにPK思考だな」

「要は、大多数に問題だと思われなきゃいいんだよ。逆に少数が恨み持って襲ってくるなら、そいつらは餌だ。逆に喰らってやる」


 素敵な笑顔のフレイン。ただし、言っていることは、共感出来ないが。

 あの広場で朗々と立派な台詞を言っているが、本質は以前と全く変わらない狂犬だ。ただ自分の首に首輪をつけて安全とアピールしつつ、繋がれている鎖が異常に長い。以前より規模は縮小したが、それでも十分にPKやっているらしい。

 小規模以上、中規模未満のギルドでも個々の能力は侮れない。しかもイベント中に俺をギルドメンバーで監視とかできるのか。

 その考えに至り、一度肩を落としてから見上げると――


「生き餌の役割。ご苦労さん、それから見事に子どものNPC相手に保母さんやってたな」

「なっ!? それも見てたのかよ!」

「俺は直接見てねぇけど、酒の肴にミカヅチやクロードあたりにでも情報をリークするかな」

「ふざけんなよ。絶対やめろよ!」


 俺の抗議の声にどうするかな、とニヤニヤと鼠をいたぶる猫のようなフレインは、上から飛び降りてくる。


「な、なんだよ! 言っておくけど、俺は無一文だからな! 旨味は少ないぞ」

「一度白黒はっきりしてぇが、俺が正面からPKを挑んでも逃げるだろ。そんな相手わざわざ追うつもりもねぇよ。じゃあな。俺は帰る」

「おいおい、どこ行くんだよ」

「次の獲物を探しにだ。それから、これからも歩き回って色んな奴、引っかけて来い! 俺たちが全部、貰うから」

「俺は、歩くトラブルメーカーじゃねぇ!」

「はっ! 同じだろ!」


 鼻で笑い、ゆっくりと山頂の方へと歩いていくフレインを俺は座り込んだまま見送る。


 坑道ダンジョンからの脱出に余計ない時間を消費してしまい、もう日が傾き始めている。

 坑道の閉鎖的な圧迫感から解放されたが、休む暇なく山を下りていく。

 俺とリゥイたちは、急いで東の湿地地帯へと向かった。



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